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聖王伝  作者: 竜人
第二十二章 魔物との決戦
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第707話

ドワーフの戦士達は、夜を徹して避難民を先導する

それはゆっくりしていれば、魔物に追い付かれると思っていたからだ

ユミル王が足止めをしたので、魔物は暫くこちらには来れない

しかし彼等は、その事をまだ知らなかった

夜を徹して移動して、避難民達はシャーロット砦に逃げ込む

そこには事前に連絡があり、ドワーフの戦士達が集まっていた

必要な物資は、粗方馬車に積み込まれている

そして一部の馬車は、先行して何ヶ所かに分かれて待機させていた


「よし

 次の者」

「はい

 魔族領のチャールストンから来ました」

「君は戦士では無いのかね?」

「魔法は使えますが、実戦経験が無くて…」

「そうか

 得意な魔法は?」

「はい

 一応炎の魔法と雷撃を少々です」

「そうか

 いざとなったら戦えるかね?」

「ええ

 少しでも生き残る為には、戦うしか無いんでしょう?」

「そうだな…」


シャーロット砦では、戦えるかどうか確認をされていた。

これからアレクサンドリアまで逃げるのだが、無事に逃げ切れる保証は無い。

いざとなれば、戦える者が時間稼ぎをするしか無いのだ。

だからこの場で、戦える者とそうで無い者を選別していた。


シャーロット砦は、ドワーフの戦士達が魔族を牽制する為に作った砦だ。

だから北と西の城門に、大きな城塞を作っている。

しかし魔物が向かって来る南側は、簡素な城壁しか無かった。

こちら側から攻められては、如何なドワーフの城壁でも長くはもたない。


「土嚢を積んでおけ」

「そこにバリスタを置いても無駄だぞ」

「バリスタって何だ?」

「弩弓の事だよ」

「ああ

 しかし防御面に…」

「このままではどの道長くもたん

 早目に移動した方がマシだ」

「ここを棄てるのか?」

「ああ

 命あっての物種だ」


ドワーフにとっては、国という物はさして重要ではない。

城壁や街も、家族が安全に暮らす為の道具だ。

大きな街や堅牢な城壁も、単なる大事な家族(仲間)を守る道具でしか無い。

そして道具である以上、家族に比べれば大した物では無かった。


今魔物に備えているのも、あくまで防衛の為だった。

ここに籠り続ければ、遠からず陥落するだろう。

防衛の準備は、あくまでも追い付かれた時の為だ。

このまま逃げ切れそうなら、彼等はここを棄てて出て行くつもりだった。


「急げよ

 食料は馬車に積み込んでいる」

「物資はどうする?」

「必要最低限にしてくれ

 馬車の数が多くなる」

「土竜の数にも限度があるからな」


荷物を運ぶのは、小型の土竜が行っている。

これは馬ぐらいの大きさの、蜥蜴の様な生き物だ。

少ない食事と水で、時速20㎞ぐらいの速さで移動出来る。

速度はそれほど早く無いが、そのタフさから荷役に利用されている。


ドワーフの都市では、この土竜が飼育されている。

そして馬の代わりに、この土竜で馬車は運行されていた。


「おい!

 そんな物は置いて行け!」

「しかしワシの道具じゃぞ!」

「また作れるだろう!」

「それは載せるな

 家具は持ち運べんぞ」

「ワシの作った武器が…」

「諦めろ

 使える武器は運びたいが、持ち運びに限度がある」


あちこちでドワーフが、載せられない荷物に不満を漏らす。

しかし大慌てで逃げる準備をしているのだ。

最低限しか載せられないのは仕方が無い事だろう。


ある程度準備が出来たところで、順番に北側の城門から出て行く。

早く離れないと、魔物が追い着いてしまう。

馬車と一緒に、人々を乗せた馬車も出発する。

魔族や人間に関しては、最低限の荷物だけ持って馬車に乗り込んだ。


彼等は元々、他の場所から避難していた。

元々住んでいた者以外は、大した荷物を持っていなかったのだ。

だから身軽に、最低限の荷物だけで馬車に乗り込んでいた。


「急げ!

 既に魔物は、ハイキャッスルに侵入したらしいぞ」

「ハイキャッスルに?

 それなら魔物も…」

「馬鹿言うな!

 規模が違うんだ」

「ドワーフ王も諦めて、住民の避難に切り替えたんだ」

「それじゃあハイキャッスルは…」

「ああ

 ある程度魔物を倒して、足止めをしたらしいが…」

「そんな…」


兵士達の言葉に、多くのドワーフ達がショックを受ける。

彼等にとっては、ハイキャッスルは不落の城と思われていた。

最新の技術と、練度の高い兵士が集まっていたのだ。

それが足止め程度しか、出来なかったと言うのだ。


「数万の魔物が向かっているのだ

 仕方が無いだろう?」

「数万?

 それではハイキャッスルの住民の…」

「ああ

 数倍の魔物が攻め込んでいたんだ」


ハイキャッスルには、1万の兵士と1万越えの住民が住んでいた。

それに加えて、避難民も二千名ほど逃げ込んでいた。

早くに逃げ込んでいた人間や魔族を加えると、避難民は五千名は越えていただろう。

その総勢三万名超える者達が、この城塞に向かって避難して来ている。

そして城塞の三千名ほどの兵士を加えて、さらに北東に向かって進み始めていた。


「これ程の規模か…」

「避難民だけで、ここと合わせて二万名規模か」

「ああ

 それに加えて、兵士が一万名以上だ

 混乱するなと言うのが無理だろう」


数千名の兵士でも、余程訓練をしていないと混乱を来たすだろう

それが魔物から逃げて来て、この城塞に集まっていた。

それだけでも、城塞の兵士は浮き足立っていた。

そこに魔物から避難せよという命令も加わる。

兵士は何とか平静を保とうと、こうして話しながら支度をしていた。

そうでもしなければ、落ち着いて準備も出来なかったからだ。


「さあ

 ワシ等も出発するぞ

 魔物に追い付かれたらマズいからな」

「ああ」

「しかし良いのか?

 多くの武器が残されたままだぞ」

「仕方が無いさ

 持ち運ぶ余裕が無い」


ドワーフの城塞だけに、色々な物が作られていた。

それには当然、多くの武器も含まれている。

しかし多くの避難民を移送する為、ほとんどの武器は放置されていた。

武器に関しては、当初は持って行くか議論もされた。

しかし運べない以上は仕方が無い。


「それなら破壊すれば…」

「その時間が無い」

「代わりに食料と一緒に、残りは焼き払うつもりだ」

「勿体ないのう…」


ドワーフ達はそう言いながら、次々と馬車に乗り込んだ。

ドワーフは普段から、馬に乗る訓練を行っていない。

それは彼等が、馬に乗って戦う体型ではないからだ。

背丈は低く、ガッシリとした体型をしている。

馬に乗って移動するには、足が短過ぎるのだ。


代わりに彼等は、大きな馬車を多数作った。

それに多くの者が乗り込み、一度に移動するつもりだ。

1台に大体、20名が乗り込める様になっている。

それに避難民用の馬車は、50名まで乗れる様にしてあった。


「さあ

 魔物に見付からない様に、索敵しながら進むぞ」

「おう!」


武器を持って乗り込み、身構えて周囲を見回す。

兵士が乗り込む馬車は、そこから攻撃出来る様に工夫してある。

正面と周囲に、小型の弩弓(バリスタ)まで設置されている。

これで近付く魔物がいれば、一気に蜂の巣に出来る仕様だ。


ガラガラと音を立てて、馬車はシャーロット砦を出て行く。

途中の道中で、一部の兵士が各町に避難を呼び掛ける。

そして一団となり、そのまま東のアレキサンドリアに向かう予定だ。

アレキサンドリアまで逃げれば、そこから魔物に逆襲する予定だ。


尤もアレキサンドリアも、魔物と戦う為の街では無い。

元々は獣憑きの魔族が、他の魔族から逃げ延びて作った街だった。

そこにドワーフ達が呼ばれて、立派な城塞も作っている。

そこに合流して、魔物に備えているのだ。


先に精霊王が、精霊を介して砦に警告を出している。

それから今に至るまで、ドワーフ達が突貫で工事を行っているらしい。

彼等が合流する頃には、城壁もさらに大きくなっている予定だ。

そこで避難民と、当面暮らして行ける様に家も増やす予定だ。


「アレキサンドリアって、ワシは行った事が無いんじゃ」

「ワシもじゃ」

「何でも城壁だけは、有事に備えて作ってあったそうじゃ」

「城壁だけねえ…」

「ああ

 しかしワシ等ドワーフの職人じゃぞ?

 そんな半端な物では無かろう」

「そう願いたいね」


城壁に関しては、既にある物でも高さ4mほどのしっかりした物らしい。

その外側に、さらに城塞と城壁を造っているという。

それは大型の魔物に備えて、10m近い頑丈な城壁を建てているらしい。

そこに大型の魔物用に、大きな弩弓(バリスタ)投石器(カタパルト)も配置しているらしい。

それで近付く魔物を、狙い撃ちにするのだ。


「カタパルトにバリスタねえ…」

「他にも罠も仕掛けるらしい」

「そうなると、ピットや突き出しも作るのか?」

「そうじゃな

 他にも色々設置するじゃろう」

「もし手伝うのなら、ワシの腕もなりそうじゃ」

「そうじゃのう

 がはははは」


ドワーフ達は、どこまで行っても物作り好きなのだ。

戦う事よりも、戦う為の施設や武器を作る事の方が好きだった。

だから立派な城塞を作っても、それを簡単に放棄するのだ。

あれを死守せよと言われても、喜んで従う者は居ないだろう。


一方で、獣憑きの魔族は違っていた。

彼等も元々は、戦う事は好きでは無い。

しかし長年迫害されていて、戦う術は身に付けている。

そしてアレクサンドリアやボルチモアは、新たな故郷となっていた。

そこを守る為に、彼等は今も訓練を続けている。


「向こうには、獣憑きの魔族が多く住んでおる

 彼等の為にも負けられんな」

「そうじゃのう」

「何なら、ワシが武器を作っても良いかな?」

「トム爺の武器か…

 しかし癖があるからのう」

「なあに、彼等の要望に合わせるさ」

「それよりも先ずは…

 そっちの左舷に回ったぞ!」

「狼か?」

「ああ

 魔物では無さそうじゃな」


ドワーフ達はクロスボウを構えると、狼に向けて放つ。

彼等は弓は得意では無いが、それでもクロスボウなので扱いは容易だった。

数発も撃てば、狼の群れは逃げて行った。


「どうする?」

「狼なんぞ要らん

 それよりも、周囲の警戒を怠るな」

「ああ」


数匹の狼が、クロスボウで殺されていた。

しかし彼等は、その素材の回収はしなかった。

既に結構な荷物が積んであるし、時間を無駄にしたく無かったのだ。

そのまま馬車は、狼の死骸を避けて先に進む。


ここで時間を無駄にすれば、魔物に追い付かれる可能性もある。

だから毛皮になりそうな狼の死骸も、そのまま放置するしか無いのだ。


「勿体ないが…」

「なあに、アレクサンドリアにも狼は居るじゃろう?」

「いや、居ないんじゃ無いか?

 海に近いって話じゃし」

「海?

 海ってでっかい湖みたいな…」

「ああ

 その近くらしいぞ」

「それじゃあ魚とか珍しい生き物も…」

「そうじゃなあ

 ここでは見掛けない生き物も居るじゃろう」

「それは楽しみじゃ」


別のドワーフが、その話を聞いて興味を持ち始める。

しかし彼が興味があるのは、あくまでもその生き物から取れる素材だ。

それが魔物でも、彼の探求心は衰えないだろう。

物作りが好きな、ドワーフらしい興味の持ち方だった。


「アレキサンドリアに着く前に、そこらの熊や狼に食われるなよ」

「そうじゃぞ

 アトキンスはすぐに突っ走るからな」

「ワシはそこまで間抜けじゃあ…」

「先日の飼い葉桶に突っ込んだ件は?」

「あれは違うぞ!

 ジョーダンがワシの足を引っ掛けおってな!」

「ワシがしたんじゃなくて、お前が余所見をして引っ掛かっただけじゃ

 他人のせいにするな」

「何じゃと!」

「何だよ!」

「止めろよ!

 ただでさえ狭いんだから」


二人が取っ組み合いを始めて、他のドワーフがそれを引き剥がす。

それを放置して、他の者は真剣に周囲の索敵をする。

彼等にとって、この程度の殴り合いは普通の光景だった。


「ほらほら

 外の警戒も忘れるな!」

「お前が余計な事を言うから…」

「ああ、もう!

 いい加減にせんと、晩飯に葡萄酒を着けんぞ!」

「それは止めてくれ!」

「勘弁してくれ!」


酒を抜くと言われて、二人は慌てて頭を擦り付けて懇願する。

酒は彼等にとっては、生きる為に欠かさぬ存在なのだ。

仕事の合間にも、水代わりに飲む者も居るぐらいなのだ。

それだけドワーフは、酒が重要だった。


「真面目に仕事をしないと、抜くからな!」

「分かったから」

「晩飯の一杯は抜かないでくれ」

「それならしっかりと索敵しろ

 マイクやアレックスはしてるぞ」

「分かったよ…」


二人も座って、馬車の周囲を見張り始める。

そうしてそのまま、馬車は無事に進んで行った。

そして日が沈み始めたところで、一行は野営の仕度を始める。

これだけの大所帯なので、各馬車ごとに野営をする事となっていた。


野営の仕度を始める中、馬車の一団から一台が東に向かって行った。

この先の平原に、小さな集落があるのだ。

彼等はその集落に、魔物の接近を警告に向かう。

それから逃げるかどうかは、その集落の者達の判断に任せる。

彼等は砦やドワーフの国の兵士で、集落の者達と面識が無いからだ。


この先も、こうして周囲に警告を出しながら進んで行く。

ユミル王では、この辺りに住む者達に命令は出せない。

そして精霊王も、各集落を回って警告を出す程暇では無いのだ。

だからドワーフの兵士達が、移動の合間に立ち寄って警告を出す。

避難するかまでは、責任は負えないからだ。


「逃げてくれるかのう?」

「分からん」

「そもそもこの辺の者達は、魔族か逃げ出した人間じゃ」

「ワシ等にどうこう口出す資格は無い」

「そうじゃのう」


野営の準備をしながら、彼等は仲間の無事を祈るのであった。

まだまだ続きます。

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