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聖王伝  作者: 竜人
第二十二章 魔物との決戦
706/800

第706話

飛行型の魔物が空を飛び、城門に向けて岩を落とす

しかし城門は頑丈で、なかなか壊す事が出来なかった

その間にも、バリスタが起動して魔物を狙う

城門に近付く魔物は、その攻撃でいくらか倒されていた

バリスタの数が多ければ、まだ抑止力になっただろう

あるいは狙う者が居て、正確に狙えれば飛行型の魔物も倒せた

しかし遠くから遠隔で操作するので、動く魔物は狙い難かった

結局自動式のバリスタは、近付くコボルトやオークしか狙えなかった


「くそ!

 ちょこまかと…」

「諦めろ

 ワシ等じゃあれは狙えん」

「しかし城門を攻撃しておる」

「仕方がないじゃろう?

 ここはあっちの魔物を削るべきじゃ」

「くっ…」


これがエルフや、狐人族の者なら違ったかも知れない。

しかし遠隔操作で、バリスタから矢を放っている。

大雑把な狙いしか付けられ無いので、決定打を与える事は出来ない。

少しでも成果を上げる為に、ドワーフは本体に矢を放っていた。


「あ!

 くそっ!」

「遂に門が壊れたか…」

「もった方じゃ」

「そうじゃな

 あれだけ岩を投げ付けられてはな」


飛行型の魔物は、人ぐらいの大きさの岩を抱えて飛んでいた。

そのまま向かって来れば、まだバリスタで狙えただろう。

しかし数発撃ったところで、魔物はバリスタを警戒して上空を飛び始める。

そこから岩を落として、大雑把な門の破壊に切り替えたのだ。


それで城門に当たる岩も、精度が低くなっていた。

しかしそれも、何発も投下されれば事情は違う。

やがて城門の前には、大きな岩が積み重なる。

そこに当たった岩が、城門に向かって落ちて来るのだ。

それではさすがに、城門で防ぎ切る事は出来なかった。


何度も岩が当たり、しまいには重なった岩が重しになる。

そうして城門は、その重さで軋み始めた。

そして何度目かの旋回を繰り返して、遂に城門は岩に圧し潰された。

しかしそれは、逆にドワーフに有利に働く。


「む?

 そうか、岩が邪魔で…」

「入って来れないか」

「これで少し、時間稼ぎが出来たのう」


重なった岩が、城門前を塞いでいた。

それをどかすまでは、魔物は中に入って来れない。

ここでオーガが出て来て、岩をどかし始める。

しかしオーガに向けて、残りのバリスタの矢が放たれる。


「よく狙え」

「あれだけ大きい的じゃ

 外す方が難しい」

バシュッバシュッ!

ガアアア


バリスタの矢が当たって、数体のオーガが倒れる。

しかし後続から、再びオーガが向かって来た。


「まだ居るのか?」

「しかし何故じゃ?

 最初からオーガを使っておれば…」

「それではバリスタに狙われるじゃろう?

 敵もそこは考えておる」

「しかしこれでは…」

「そこは計算外じゃったのじゃろう

 慌てて片付けておる」


最初からオーガを出せば、岩を片付ける必要は無かっただろう。

しかしオーガは、そこまで機敏には動けなかった。

だから的になると考えて、魔物達は上空からの攻撃をしていたのだ。

岩で道を塞がれたのは、魔物達がそこまで考えが無かったからだろう。

もう少し知恵が回るなら、他の手段で城門を破壊されていただろう。


「くそっ!

 弾切れじゃ」

「こっちもじゃ」

「後はここで迎え撃つしかない」

「そうじゃな

 狐人族の者達は用意は良いか?」

「はい」

「魔族の者達は補助に回ってくれ」

「はい」


城門が壊されたので、後は隙間が空いたら飛行型の魔物が突っ込んで来るだろう。

それを見越して、ユミル王は狐人族の矢で撃退する事にした。

これで飛行型の魔物を倒せば、後の魔族の進みは遅くなる。

そうすればこの城から、避難民が逃げ出す時間を稼げる。


「抜け始めたぞ」

「やはり罠は躱すか…」

「くそっ

 天井にも罠を作っておけば…」

「悔やんでも遅い

 それよりもここで…」

「はい」

「必ず殲滅します」

「うむ

 頼んだぞ」


飛行型の魔物は、そのまま洞窟の中を進む。

しかし迷路になっているので、そう簡単には抜けられない。

暫く迷ってから、最初の4体が洞窟を抜ける。

そしてそのまま、魔物は塔と城に分かれて攻撃を始めた。


「くくく…

 罠に掛かったな」

「塔にはもう、難民は居ません」

「うむ

 ここで分散させたのは大きいな」

ギャオオオ


魔物は鳴き声を上げて、塔に向かって突っ込む。

しかしそこには、魔族が攻撃呪文を唱えて待機していた。

そして数の減った魔物を、攻撃魔法で撃ち落とし始める。

数が少ないのなら、魔族の魔法でも何とかなった。

そして落ちて来たところを、待ち構えるドワーフが止めを刺す。


「食らえ!

 サンダー・レイン」

「マジック・ボルト」

ドシャン!

シュバババ!

ギエヤアアア

ギャアアア


攻撃魔法を食らい、最初に侵入した魔物は落とされた。

しかし2体は、そのまま城の中に入って来た。

そして謁見の間の前で、待ち構えて居た狐人族に矢を放たれる。

狙いは正確で、魔物は目や首を射抜かれる。


「よし

 先ずは2体じゃな」

「ええ

 このぐらいなら…」

「問題は次じゃな」

「ええ

 どんどん抜けて来ています」

ギャアアア

ギエエエエ


続けとばかりに、鳥型の魔物が侵入して来る。

その身体は人間より大きく、鋭い爪はナイフの様だった。

そんな飛行型の魔物が、次々と洞窟を抜けて入って来る。

そして待ち構えて居た、魔族や狐人族が攻撃を開始する。


「無理に狙おうとするな

 落とせばワシ等が倒す」

「分かった

 こいつも頼むぞ」

「おう」

シュバババ!

ギャアアア


狐人族は、口に数本の矢を咥えていた。

そして次々と、その矢を番えては狙い撃つ。

討ち終わると交代して、次の者が前に出る。

そうして交代する事で、速射を次々と放っていた。


「食らえ!

 風の乱矢(エアー・ブラスト)

シュバババ!

ギエエエエ


中には数本の矢を一度に番え、風魔法を付与して放つ者も居た。

彼は風魔法を使う事で、一度に放った矢を器用に操作する。

そうしてすべての矢を、飛行する魔物に命中させていた。

これは魔法を使える、数名の狐人族だけの必殺技だった。


「凄い!」

「全部命中させやがった」

「オレ達も負けてられんぞ」

「ああ」


狐人族の妙技を見て、魔族達も魔法の矢を魔物に命中させる。

そうして落ちて来たところに、ドワーフの戦士が切り込む。


「ふんぬううう」

ザン!

ギャアアアア


彼等は背が低く、動きも決して機敏では無い。

その代わりに盾とメイス、斧を得意武器としていた。

そして接近すれば、その力で魔物を一撃で屠っていた。

飛べなくなった魔物は、最早彼等の敵では無かった。


「その調子じゃ」

「ユミル王様

 魔物が!」

「ぬう?

 抜けて来たか?」


しかしユミル王は、平然として腰の斧を手にする。

それは一見すると、両刃の手斧に見えた。

しかしその柄は、通常の斧に比べると短かった。

普通に持って切り掛かるには、不安定で不便そうに見える。


「ワシの前に来たのが運の尽きじゃ

 食らえ!」

「ユミル王様」

ブンブンブン!

ザシュッ!

ギエヤアアア


その斧は特殊な手斧で、ユミル王は思いっきりそれを投げ付ける。

それはクルクルと弧を描いて飛び、魔物の首を切り裂いた。

そのまま戻って来ると、ユミル王はそれを見事にキャッチする。

ユミル王はこの手斧と、大きな戦斧を使った戦闘を得意としていた。


「おお!」

「さすがユミル王様」

「うむ

 まだ腕は衰えておらんな」


部下達の称賛を受けながらも、王は周囲を警戒する。

いくら狐人族の弓が凄くても、飛行型の魔物の数は多かった。

最初の鳥型の魔物以外にも、蝙蝠の翼の様な物を生やした魔物も飛んで来ていた。

それはゴブリンの様に小型で、見た目も醜悪な怪物だった。

その魔物は武器を持ち、洞窟を抜けて侵入して来る。


「くそっ!

 思ったより数が多いな」

「しかし何とか押さえねば」

「ああ

 仲間が逃げる時間は、稼ぐ必要がある」

シュバババ!

バシュッバシュッ!


狐人族は懸命に矢を放ち、魔族も魔法を連続で放つ。

そうして2時間ほど、魔物の攻撃は続いていた。

しかし遂に魔物は底を着いたのか、洞窟を抜けて来なくなった。

後は地面を進む、コボルトやオーク達が向かって来ていた。


「飛行型の魔物は収まったか」

「何とかなりましたね」

「ああ

 お陰で助かったぞ」


周囲を見回すと、あちこちに魔物の死体が転がっている。

ざっと数えただけで、恐らく500は超えていただろう。

これだけの魔物が、洞窟を抜けて侵入して来たのだ。

しかし残りは、もう飛べる魔物は居ない筈だ。


「さあ!

 お前達も逃げ出せ」

「はい」

「しかしユミル王様は?」

「ワシか?

 ワシにはいざとなった時の脱出方法はある

 お前達は安心して逃げなさい」

「はい」


ユミル王に促されて、魔族や狐人族は城の裏から避難する。

ドワーフの戦士や文官達は、不安そうに王を見詰めていた。


「ユミル王様」

「何をしておる

 早く逃げんか」

「まさか本当に、刺し違える気では無いんでしょうね?」

「何を言っておる」

「しかしここから脱出術なぞ…」

「大丈夫じゃ

 心配するな」

「しかし…」

「ワシだけが使える、取って置きがあるからのう」

「…」


心配する部下達を、ユミル王は逃げる様に促す。

彼の考えでは、この先の確認をするのに彼等は邪魔だった。

彼等を守ってまでは、それを確認出来ないのだ。

ユミル王でも、それだけ黒騎士は警戒すべき存在だった。


「良いから行け!

 彼等を守って逃げるのじゃ!」

「しかし…」

「お前等を守りながら、ここを逃げる事は出来ん」

「それならば王こそが…」

「大丈夫じゃ

 ワシを誰だと思っておる?」

「くっ…」


結局王の説得に負けて、彼等は城から退避する。

彼等と違って、ユミル王はエルダードワーフなのだ。

その血は今は耐えて久しいが、嘗ては大陸を制したドワーフの祖である。

その王の力は、彼等ドワーフには計り知れない物だった。


「お気を付けください」

「ああ

 お前達もな

 無事にシャーロット砦に着くのだぞ」

「はい」


ドワーフ達が去った後、ユミル王は物見の水晶を弄り始める。

洞窟の中では、コボルトやオークが罠に掛かっていた。

感圧版で矢が飛び出したり、地面に落とし穴が開く。

落とし穴の底には、鋭利な杭が無数に用意されていた。

その他にも、分かれ道に丸太や岩が用意されていたり、天井が崩落する仕掛けも用意されていた。


しかし仲間の屍を踏み越えて、魔物はそのまま前進を続ける。

魔物の後ろには、例の黒い戦士の姿も見えていた。

そして魔物は、いよいよハイキャッスルの前に辿り着いた。

魔物は出口から出ると、油断なく周囲を見回していた。


「ふむ

 あの程度の罠では不足か

 もう少し考えんとな」


ユミル王はそう言って、渋い顔をして顎髭を扱いた。


ギャッギャッ

グガオオオ

ガアアアア

ガシャンガシャン!

「…」


出口から出た魔物は、そのまま広がって黒い戦士が来るのを待つ。

そうして黒い戦士が出て来ると、頭を下げて通り道を作った。


「ふむ

 狂暴化した割には命令に従うのか

 それともあの戦士だけなのか?」


ユミル王が見ていると、黒い戦士は水晶の方を向く。

そうして左手を翳すと、物見の水晶が砕け散った。


「ううむ

 気付かれたか」


ユミル王は悔しそうに、別の水晶を起動する。

そこには黒い戦士が、剣を天に掲げている姿が映っていた。


「何をする気じゃ?」


ユミル王が見ているのを知っていないのか、戦士は剣を天に向けたままだった。

その剣から、黒い靄の様な物が出始める。

同時に水晶の映像が、乱れて見え難くなり始める。

そして黒い靄は、周囲に転がる魔物の死体に向かって行った。


「ぬう?」


そのまま靄は、魔物の死体を包んで行く。

そうして靄が無くなると、魔物の死体も消えていた。

一頻り死体を吸収すると、戦士は今度は左手を突き出す。

するとそこに、黒い靄が集まって渦巻き始める。


「一体何を…

 ぬう!

 そういう事か」


渦の中から、新たな魔物が出て来る。

それはオーガの様な、大型の魔物だった。

筋骨隆々とした魔物は、頭部に牛の頭を載せている。

それは一見すると、牛の獣人が大きくなった様にも見えた。


「なるほどな

 あいつの言っていた事が合っているか

 しかし何でじゃ?」


ユミルは不思議に思って、ほんの一瞬だが水晶から意識を離した。

その一瞬で、黒い戦士は大剣を振り抜いていた。


「っ!」

ズガン!

ドガラララ!


もの凄い音がして、ハイキャッスルの正面が崩れていた。

黒い戦士の斬撃が、そのままハイキャッスルを打ち砕いたのだ。

しかも身を捻ったユミルの、身体の横を斬撃が摺り抜けた。

気付かなかれば、彼はそのまま真っ二つだっただろう。


「はははは…

 規格外じゃのう」


ユミルは己が足元の、切り裂かれた岩盤を見詰める。

あれだけの距離があったのに、城の正面を破壊してここまで届いたのだ。

そして破壊された城は、土煙を上げながらも外が見える程だった。

その先には、あの黒い戦士が立っているのだ。

ユミル王も、思わず身震いをしていた。


「これ以上は無理か…

 ワシもまだ死ねん」


ユミル王はそう言うと、手を挙げて合図を送った。

するとユミル王の足元から、淡い光が漏れ始める。

そして彼の足元に、小さな人影が現れた。

彼等が手を繋いで回ると、ユミル王も光で包んだ。


「今回はこれまでじゃ

 また会おう」


その言葉を残して、ユミル王の姿は掻き消える。

後には何の痕跡も残されていなかった。


黒騎士は剣を仕舞うと、王の居た場所をじっと見詰める。

しかし取り逃がした事を、彼は理解していた。

そのまま振り返ると、彼は元来た道へ戻り始めた。

まるでこの先には、罠が仕掛けてあるのを知っている様に。

まだまだ続きます。

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