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聖王伝  作者: 竜人
第三章 新たなる領主
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第70話

ザウツブルク卿の旗下の騎兵が数騎、公道を駆けていた

先行して城門に着き、本隊の到着を告げる為だ

普通は2、3騎で駆けるのだが、貴族の到着という事もあり7名が選抜された

騎兵はダーナの南門に近付くと、声を上げて到着を告げた

その日の午後、ダーナの南門の外に数騎の騎兵が到着した

王都から来た兵士と言う事で、揃いの領主の家紋の入った外套を着こんでいた。

ザウツブルク卿の擁する騎兵部隊から数騎、街に到着するという報せだ

先行した騎兵に向かって門番が、何事かと詰問していた


「我々は王都より、ザウツブルク卿のダーナ領主代行に伴い随行した騎兵部隊だ

 これより数刻の後、我が主ザウツブルク卿が到着される

 然るに、到着の際の城門の開放と、我が主の休める場所の提供をお願いしたい」


騎兵は丁寧に話し、城門の開放を求めた。

門番は直ちに領主邸宅に伝令を走らせ、騎兵の持つ通行証を検めた。

しかし、代表の騎兵はしっかりしていたが、他の騎兵は違っていた。

門番に聞こえる様に悪口を言っていたのだ。


「こんな田舎の門番如きが、我々を検閲とか何を抜かしてんだか

 すぐに門ぐらい開けろよ」

「我々がこれから守ってやるんだ

 礼を言ってすぐに通せよな」


そんな事を言いながら、数人の騎兵が馬鹿にした笑い声を上げる。

その態度に門番も顔を顰めていたが、最初の騎兵が代表して謝ってきた。


「すまない

 礼儀知らずの部下が居て」


騎兵は頭を下げて、部下の方に頭を向けた。


「おい!お前等!

 ふざけた態度をしてる奴は後でオレの所へ来い!

 その性根を叩き直してやる」

「だって、隊長

 こいつら間抜けな領主のせいで大勢死んだって

 それに責任取って家が潰れるんでしょ?」

「そうそう

 役立たずだから息子も廃嫡になったって

 だから俺達の主がわざわざ、こんな田舎に来てやっているのに」

「そうそう

 これからは、オレ達が魔物なんぞ倒してやりますよ

 こんな田舎の農民なんかより強いって見せてやりますよ」


また、騎兵達は馬鹿にした笑い声を上げる。


「こいつ等…」

「おい!

 それより、こいつ等妙な事を言っていないか?」

「殿下が廃嫡だと?」

「魔物を倒して街を護った功績のある殿下が…廃嫡?

 何かの間違いでは?」


門番はいよいよ我慢の限界に来ていて、数人が剣に手を掛けていたが、数人はその発言の真意を掴めずに困惑していた。


「お前等、いい加減にしろ!

 フランドール様に伝えておくからな!」


騎兵の隊長は部下を叱り、門番から離れようとしたが、門番の一人がそれを止めた。


「すいません

 先ほどの発言なんですが…」

「ん?」

「領主様のせいで死者が出たとか、殿下が廃嫡とか…

 どう言った事でしょうか?」

「あ…

 そうか、その事か」


騎兵隊長は気まずそうに向き直り、門番に話し始めた。


「この事は決定した事では無い

 ましてや噂が流れているだけだ

 だからここだけの事で頼む」

「はあ…」

「勿論、他言無用でな」

「ええ、分かりました」


騎兵隊長は馬から降り、門番の代表と離れた天幕へ移動した。

その際に、余計な事は言うなと念入りに部下に命じ、主にも報告すると告げていた。

遺された騎兵は押し黙り、不満そうな顔をしていた。

門番のリーダーである兵士は天幕に入ると、騎兵隊長に椅子を勧めた。


「ああ、すまない

 それで…先程の話だったな」

「ええ」

「これは主に辞令が下った後の話なんだが…

 そもそも、そちらの嫡男が廃嫡の話は知っているのか?」

「いえ!

 そもそも、今聞いて驚いています」

「そうか…」


騎兵隊長は顎髭を扱き、暫し思案する。


「これは…

 そもそも内密な話でな

 オレも詳しくは知らない」

「はあ」

「嫡男のギルバート殿は、11歳の誕生日をもって廃嫡になると

 それに伴い、我が主が後にこの地を引き継ぐ予定として、代行に選出されていた」

「え!!」


兵士は本当に何も知らず、驚いていた。


「領主殿がどの様に考えていらっしゃったのかは、オレらには窺い知らない

 しかし、廃嫡の話はまだ告示されていなかったのだな」

「ええ」

「そうか…

 それはマズいな」

「どうしてですか?」

「先のあいつらの様に、今回の事に色々誤解がありそうだ」

「誤解ですか?」


「そもそも、我が主が代行となるのは、領主が倒れた為に臨時で入ったのだ

 いずれは引き継ぐつもりではあるが、名目は負傷した領主の代行であった」

「ええ」

「それが、領主が亡くなってしまった為に、兵士の間に良からぬ噂が広まっている」

「それが先ほどの噂ですか?」

「そうだ」


騎兵隊長は真剣な顔をし、門番に向き直った。


「元々領主代行の話が上がっていた

 そこに来て今回の事だ

 今まで有能とされていたアルベルト様の名声に翳が降りた

 それでこの様だ」


「だから、こっちの兵士が馬鹿な事を仕出かすかも知れない

 出来る事なら、後々に凝りが残らない様にしたい

 何かあった時には、早急に伝えて欲しい」


騎兵隊長の言葉に、門番も頷く。


「そうですね

 これから一緒のにここを守る仲間です、オレも問題は起こしたくありません」

「ああ」

「分かりました

 将軍にも伝え、何某かの対策を致します

 勿論、双方に遺恨が残らない形で…」

「そうだな

 頼んだぞ」


騎兵隊長は頭を下げ、そんの丁重な態度に門番も好感を覚え、頭を下げた。


「ところで

 殿下は何で廃嫡何でしょう?」

「ん?」

「ザウツブルク卿が来られるのは事前に決まっていたんですよね?」

「ああ」


頭を上げた門番は、話題を変えた。

改めて、気になっていた廃嫡の件を尋ねたのだ。


「オレが知っているのは、オレ達の主に引継ぎの話が来ていた事と、嫡男であるギルバート殿が廃嫡になると言う報せだけだ

 それも、主が代行で入る理由というだけで、詳しい事は知らない」

「そうですか

 なら…何で殿下が廃嫡になるんでしょうか?」

「オレ達下の者には、分からない様な理由が有るんだろうな」


「そうですね

 少なくとも、殿下は廃嫡になる様な失敗はしてませんし、先の魔物の討伐の功績が御座います

 褒賞を受ける事は有りましても、廃嫡になるとは…」

「そうだな

 あんたを見ていても、その殿下はみなに気に入られている様だ

 そんな人物が廃嫡になるんだ

 余程の理由が有るんだろうな…」

「そうですね」


門番は、自分が敬愛する殿下を褒められて、嬉しそうに微笑んだ。


「何にせよ、主が到着すれば全てが分るだろう

 それまでは無用な混乱は避けたい

 協力をお願いしたい」

「そうですね

 これから大変でしょうが、よろしくおねがいします」


門番と騎兵隊長は固く握手をし、天幕を後にした。

天幕を出ると、騎兵と門番が武器を手に向かい合い、互いに牽制し合っていた。


「これは何事だ!」

「何をしているんだ」


折角これから仲良くやろうと話し合っていたのに、外へ出れば部下達がいがみ合っていた。

騎兵隊長は落胆し、溜息を吐く。


「だって!

 こいつ等田舎者が、生意気にもオレ達に逆らうんですぜ!」

「な!

 まだ言うか!」

「そうだ!

 領主様や殿下を貶すのは止めろ!

 これ以上は黙っていられるか!」


「何が領主だ!

 田舎の似非貴族風情が」

「無能で死んだ者が、駄目領主と言われるのは当然だろ」

「そうだそうだ

 無能な奴が居なくなるんだ、有能なオレ達に感謝しろ!」


門番は我慢出来ずに反論し、それを嘲笑う騎兵部隊が鎌を構えて囲む。

装備や馬の差がある為、門番は剣を構えて押されていた。


「貴様ら!

 これが誇り高い王国騎兵部隊のやる事か!!」


騎兵隊長が大声で叱責するが、騎兵達はヘラヘラと小馬鹿にした態度で返す。


「何が王国騎兵部隊だ!

 お前も大した活躍もしなかったくせに、家の名前で隊長をしているだけだろ」

「オレ達みたいに、王都で元々住んでいた選ばれた民とは違う

 所詮は田舎の貧乏人風情が偉そうにするな」

「貴様ら田舎者は、オレ達王都の人間に媚び諂ってれば良いんだよ」


「これは…」

「くそっ、選民思想者か!」

「選民?」


騎兵隊長と門番が話していると、騎兵の一人がニヤリと笑った。


「おい、こいつ等どうする?

 オレ、良い事思いついたんだが?」

「良い事?」

「そうそう

 この馬鹿共を殺して、こいつも殺すんだ

 それで隊長がやられましたからってな」

「なるほど

 田舎の馬鹿共を纏めて始末しようってか

 良いな、それ」


騎兵達は下卑た笑いを浮かべ、隊長と門番を見る。


「な、なんだと?」

「くそっ、こんな奴等まだ残って居たとは…」


隊長は意を決して鎌を構え、騎兵達を睨む。


「逆らう気か?

 その田舎者なのに、オレら王都の民に逆らうのが気に食わん

 正義の鉄槌を食らうが良い!」


騎兵が鎌を持ち上げ、隊長の方へ向き直る。

一触即発の様子の中、不意に声が掛けられる。


「これは何の騒ぎだ?」


みなの視線が門の上に向き、気が付けば一人の少年が城壁の上から見下ろして居た。


「何だ?あの小僧は?」

「殿下!」


「殿下?」

「ほう…

 あの小僧が無能の殿下とやらか」


騎兵達は小馬鹿にした薄ら笑いを浮かべ、ギルバートを見る。


「なるほど

 無能の小僧らしく、生意気にもオレ達を見下した気になっているのか?」

「小僧!

 ここへ降りてこい

 オレ達が切り刻んでくれる」


「こいつ等正気か?

 領主様の嫡男に何て不敬な態度を…」

「ふざけやがって…」

「王都の騎兵が何だ!

 このまま黙ってやられるものか!」


騎兵達がギルバートを挑発するのを見て、いよいよ門番は覚悟を決める。

門番の一人が剣を構え、今にも切り掛かろうと身構える。


「止せ!

 こちらから手を出してはならん

 例え野盗の様な破落戸でもな」


ギルバートはそう叫び、城壁から飛び降りる。


「な!」

「あそこから飛び降りるだと?」

「こいつ…馬鹿じゃねえか?」


王都の兵士はどうか分からないが、ダーナの兵士の多くが城壁から飛び降りて平気な技量はあった。

ギルバートも何度も城壁から飛び降りており、平然と着地していた。


「降りて来てやったが?」


ギルバートは軽装で帯剣もしておらず、警戒もせずに歩いて来た。


「領主は亡くなっているが、ここはまだオレが引き継いでいる

 その領主の代わりに当たるオレに、随分な口を利くな」

「うるせえ!

 田舎の小僧が!」

「オレ達王都の騎兵に逆らう気か!」

「生意気な!」


ギルバートの何気ない一言に、小馬鹿にされたと思った騎兵達は殺気立つ。


「生意気ねえ…

 王国の騎兵だか知らんが、貴族に対して無礼なのはどっちだ?」

「うるせえ

 生意気な小僧だ」

「そうだ!

 何が貴族だ!

 とっくに廃嫡して平民のくせに!」

「殿下!

 危ない!!」


騎兵達は鎌を振り上げ、ギルバートに切り掛かる。

しかし、ギルバートは危な気も無く躱し、残りの騎兵達の方へ向く。


「廃嫡の話はまだ先の筈だが…

 何で貴様らが知っている?」


「うるせえ

 おい、この生意気な小僧をさっさと殺せ!」

「あ、ああ」

「だが、大丈夫か?」

「大丈夫だ

 何せこいつは平民だ

 オレ達王都の民の方が正しいんだ

 構う事はねえ、さっさと殺してしまえ!」

「おう」


騎兵達の謎の自信に驚きながらも、ギルバートは身構える。

城壁が音を立てて開き、城門の中からダーナの騎兵達も出て来る。

騎兵隊長と門番はダーナの騎兵達に囲まれ、貴族の騎兵部隊とダーナの騎兵達が向かい合う。


「将軍

 こいつ等は出来れば殺さずに拘束してください

 どうにも不審な奴等ですが貴族の騎兵です

 殺すのはマズいのでお願いします」

「はい」


将軍は頷き、ダーナの騎兵達もゆっくりと取り囲み始める。

貴族の騎兵達は囲まれ、明らかに狼狽えていた。


「貴様ら、こんな事をして許されると思っているのか!」

「そ、そうだぞ

 オレ達は王都の騎兵だぞ

 それに逆らう気か!」


「ふーん

 王都のねえ…

 本当なんですか?」


ギルバートは騎兵隊長に近付き、質問した。


「ええ

 元は王都の兵士が多いです

 ただ現在はザウツブルク卿の配下になります」

「ふむ

 では偽称になりますかね?」


「なにお!」

「この小僧が!」


「貴族に対する暴言に不敬、さらに偽称まで

 拘束に値すると見て問題ないですね」

「え…

 はあ…」


ギルバートは騎兵隊長に尋ね、拘束する事を伝える。

隊長はその意図に気が付き頷いた。


「では、この不敬いな者共を捕らえる

 掛かれ!」


ギルバートの声に従い、騎兵達は囲まれて拘束される。

抵抗した者も居たが、普段から魔物と戦っていたダーナの騎兵達にすれば、この騎兵達は弱くて未熟に感じた。


「止めろ!貴様ら!」

「うぬ、この田舎者共が!」

「オレ達を誰だと思っている」


「煩い!黙れ!」

「何が田舎者だ!

 舐めやがって!」


「くそお」

「こうなれば、ザウツブルク卿を呼べ!」

「そうだ、オレ達に逆らうって事は、ザウツブルク卿に逆らう事になるんだぞ」


騎兵達は必死に抵抗し、仕舞いにはザウツブルク卿の名前まで出して来た。

先程まで、その騎兵隊長の指示を無視して、あまつさえその命を取ろうとしていたのが凄い変わり身だと、ギルバートは呆れて騎兵達を眺める。


「申し訳ないんだが…

 ザウツブルク卿の騎兵はああなのか?」

「いえ、奴等が特殊なんです

 まさか選民思想者が潜んで居たとは…」

「選民思想者?

 何だか複雑そうですね」

「ええ、まあ」


二人は捕らえられて引き連れられる騎兵達を見て、複雑な表情をした。

そのまま騎兵達は縛り上げられ、ザウツブルク卿が到着するまで待つ事となった。

それからザウツブルク卿が到着するまで、ギルバートと将軍は門の前で待って居た。

遅くなってすみません

これからもう一本書きます

日付が変わるまでに出来れば良いんですが

頑張って書きます

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