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聖王伝  作者: 竜人
第二十一章 暗黒大陸
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第691話

ミネアポリスの魔族の兵士は、王都の近郊を調べて回った

王都の南の町は、予想通りの惨状だった

ここは王都ほどの、徹底した破壊は行われていなかった

しかし城壁は破壊されて、建物もほとんど焼け落ちていた

王都に比べると、石造りよりは木造の建物が多い

その分火に焼かれて、住人共々燃え尽きている

しかし燃えていた為に、住民の遺骨が残されている場所もあった

兵士は遺骨を集めると、穴を掘って埋葬した


「酷いな…」

「ああ

 しかし収穫はあったぞ」

「それは?」

「魔物が居た証拠だ」


兵士が持っていたのは、焼け焦げた生き物の一部だった。

しかしそれは、魔族と違って蒼白い肌では無く、緑色の不気味な色をしている。

腕の肘から先なのだが、それは子供の様な大きさだった。


「子供の?」

「いや

 これはゴブリンだろう」

「ゴブリンって小鬼の事か?」

「ああ

 この肌の色からして、間違いないだろう」

「他の種族って事は…」

「人間は白いし、我等魔族は基本蒼白い

 森妖精や土妖精も違う体色だぞ」

「ううむ…」

「そもそも、子供ならここの住人って事だろう?

 攻めて来た者が子供を連れ回すか?」

「それもそうか…」


「王都近郊なら、角無しか角持ちの魔族

 居てもインプぐらいか」

「ああ

 インプなら確かに小さいが…

 あいつ等は蒼か赤銅だろ?」

「ああ

 緑色の体色なんて見た事が無い」


その体色の色からも、それは魔物の身体だと判断された。


「そうなるとやはり…」

「しかしゴブリンやコボルトだろ?

 それならこの規模の街なら…」

「ああ

 それだけなら、兵士で何とかなるだろう」

「それなら…」

「ここにも巨人の痕跡がある

 それに…」

「それに?」

「これを見ろ!」


それは切り裂かれた、金属製の鎧や盾の残骸だった。

王都に比べると、この町は多くの痕跡が残されていた。

その中には、戦った兵士の武装の残骸も転がっている。


「切り裂かれ?

 え?」

「ああ

 金属製の武具が切り裂かれている

 それなりの武装をしていた証拠だ」

「まさか?」

「そのまさかだろう?

 王都で装備を奪ったか…」

「しかしそれにしても…」


中にはそれだけとは思えない痕跡もある。

地面や建物まで、切り裂かれた痕跡があった。

それは魔物が、それだけ強力な攻撃をしていた証拠だ。

ゴブリンやコボルトでは、ここまでの攻撃は出来ないだろう。


「ゴブリンやコボルトだけでは無い

 相応に強い魔物も居るって事だ」

「巨人では無いのか?」

「巨人が人間の武器を使うのか?」

「それは…」

「それに普通の武器なら、ここまでの斬撃は無理だろう」

「それでは…」

「他にも強力な攻撃の出来る、危険な魔物が居るのだろう」


それは人間でも、いや魔族でも簡単に出来る事では無い。


「まさか…

 魔王様?」

「それこそまさかだ!」

「しかしこんな芸当…」

「ああ

 魔王様並みの魔物が…」

「そんな!」

「しかも1体とは限らないな

 これだけ痕跡があるとは…」


それは間違いでは無かった。

痕跡は兵舎跡を中心に、あちこちに残されている。

しかし彼等は、それが複数の魔物の仕業と考えていた。

それは間違いであった。

少なくともこの時点では、これを残したのは黒騎士だけだった。


「これは相当…念入りな準備が必要だな」

「ああ

 迂闊に進まなくて正解だったな」


これだけの破壊の痕跡があるのだ、彼等が慎重になるのも仕方が無かった。

しかしまさか、これが単体で行われているとは思っていなかった。

それこそこんな芸当を、一人で行うとは思えなかったのだ。

それを一人で行えるのなら、魔王でも無事で済まないからだ。


「危険だな…」

「ああ

 魔王様がいらっしゃっても…」

「そうだな

 これでは逃げるしか出来ないだろう」

「それでは住民は?」

「死体が残されていないと言う事は、そういう事だろう」

「そんな!

 食ったと言うのか?」

「ああ

 これだけの規模だ

 食料を奪ったとしてももたないだろう?

 そう考えれば…」

「まさか…

 食いながら進軍している?」

「だろうな…」


「それじゃあこれは…」

「ああ

 食い残しか骨だけだったからやめたんだろう」

「くそっ

 それじゃオレ達魔族は…」

「奴等にとっては餌なんだ」

「逃げた者が居なかったのも…」

「残さず食ったか…

 あるいは運んで食料替わりか…」

「ふざけるな!」

ドガッ!


兵士は怒って、手近な瓦礫を殴って破壊する。


「怒るなって」

「怒るなだと!」

「ああ

 事実を述べたまでだ」

「これが怒れずに…」

「オレだって腹が立っている

 しかし壁際に集めて、余さず殺しているんだぞ?」

「え?」

「壁って城壁?」

「ああ

 それでまとめて…」

パシン!


兵士はそう言って、掌を上下に合わせて叩く。

その様子から、巨人を使った住民の虐殺を示しているのだろう。

周りに集まっていた兵士も、意味を理解して顔色を変える。


「まさか城壁がああなっていたのは…」

「ああ

 取りこぼしが無い様に、城壁に追い込みながら殺したんだろう

 オレが全滅を狙うのなら、同じ戦法を考え…」

「それじゃあ城壁は?

 何で全部壊した?」

「魔物が大きくて加減が効かないとか?

 あのサイズならな…」

「そんな…」

「それじゃあオレ達が助けに向かっても…」

「無策では死ぬだけだろう

 だからこそ増援は必要だ」


兵士の声の震えからも、彼も巨人を恐れていた。

しかしこのまま放って置けば、被害はこの大陸中に広がるだろう。

そうなる前に、何としても魔物を殲滅する必要がある。

しかし倒そうにも、彼等の力には余る存在だった。


「くっ

 魔王様がいらっしゃれば…」

「いくら魔王様でも、複数の巨人では…」

「じゃあ!

 どうするって言うんだ?」

「そうだな

 他の種族にも声を掛けて…」

「無理じゃねえか?

 南に向かっているって事は…」

「そうだ

 獣人か森妖精か、はたまた土妖精なのか?

 目指している場所があるのだろう」

「くっ

 どうにか報せられ無いのか?」

「無理だろうな

 獣人に使い魔を送っても…」


使い魔を送れば、メッセージは送れるだろう。

しかし彼等は、使い魔を生み出す術を持たない。

答えを送るにしても、方法が無いのだ。


それに長く険悪な仲だったのだ。

使い魔程度では、彼等も信用しないだろう。


「送るだけ送らないか?

 せめて危険だと報せないと」

「そうだな…

 やるだけやるか」


兵士は使い魔を3体出すと、それを三方に向けて放った。


「フェニックス、オリンズ、アトランタに向けて放った

 無事に届けば良いが…」

「そうだな

 共同戦線は無理でも、せめて危機は報せないとな」


彼等は飛んで行く使い魔を、暫く見詰めていた。

魔力は十分に込めたので、何も起こらなければ無事に着くだろう。

問題は着いた先で、その国の王に伝わるかだ。

兵士が射落として、そのまま破壊しては意味が無いだろう。


一羽の使い魔は、そのままオリンズの城壁まで飛んで行った。

しかし予想通りに、そのまま兵士に捕まってしまう。

伝言自体は、その場に居た兵士達は聞く事が出来た。

しかし彼等は、その重要さを理解出来なかった。


我等は魔族の軍、ミネアポリスの兵士だ

王都が大規模な魔物の群れによって陥落した

魔物はそのまま、南に向かって進んでいる

貴殿らの国でも警戒を怠らない様にされたし


使い魔は繰り返し、魔族からの伝言を伝えた。


「うるせえ!」

「何だってんだ?」

「魔族の謀略か?」

「本当に王都が落ちたって言うのなら、今が攻め時じゃねえか?」

「そうだな

 仲間の恨みを晴らす時だ」

「馬鹿!

 それこそ罠だろう

 今こちらが動けば、和平交渉を蹴った事になる

 それがどれだけ不利になるか…」


「しかしよう

 王都って魔族の中心都市だろう?

 魔王も居るって…」

「そうだぜ

 そこが落ちたとなれば、あの恐ろしい魔王も…」

「馬鹿!

 それが罠だって分からないのか?」

「そうだぞ

 どうせ嘘に決まっている」


こうして兵士達は、それが嘘の情報であると思い込んでいた。

それで上官に相談する事無く、そのまま使い魔を破壊していた。

彼等が何某かでも、報告していれば違ったのだろう。

しかし兵士達は、使い魔の事すら報告しなかった。


彼等は酒場などで話す事はあっても、報告を怠ったのだ。

そのせいで情報は正確に伝わらず、魔物の接近に気付かなくなる。

王都で知られていないので、当然地方でも知られる事は無かった。

だから伯爵が捕まった時も、その情報はヒューストンの街には無かった。


王都の事が届いていれば、獣人達も態勢を整えていただろう。

しかし彼等も、魔物の事を知る事は無かった。

伯爵の話も、彼等には臆病風に吹かれたと嘲笑われる。

何者かに襲われたと言う話も、内乱だと判断されていた。


これが相手が獣人だったなら、評価は違っていただろう。

しかし正体不明の化け物と聞いて、獣人達は何を言っているのだと馬鹿にする。

彼等が逃げ出したのも、魔族の貴族同士の争いと思ったのだ。

それで魔物に対して、備える事も無かった。


伯爵が捕らえられて、3日目が過ぎていた。

獣人は伯爵を馬鹿にして、彼の証言を聞こうともしなかった。

しかしその間にも、ヒューストンに向かう途中の集落が襲撃されていた。

目聡い商人は、その事に疑問を覚え始めて居た。


「何が化け物が現れただ」

「しかし…

 妙では無いですか?」

「何がだ?」

「ここ数日ですが…」

「そうですね

 急に北から商人が来なくなりましたね」

「商人もそんなに毎日は…」

「しかしもう、3日目なんですよ

 そろそろ来ても…」

「遅れているんだろう?」

「そうだぜ

 明日には来るだろう」

「そうですかねえ」


しかし翌日になっても、隊商が向かって来る様子は無かった。


「今日も来ませんね…」

「そんなに騒ぐ事じゃあ無いだろう

 あの逃げて来た男も、内乱だって話じゃないか」

「本当に内乱なんでしょうか?」

「何を言う

 ワシ等は何もしておらん

 それなら他に攻め込む者は…」

「はぐれの野盗とかですか?

 しかしそれなら、街道を塞ぐ事はないでしょう?」

「うむ

 それもそうじゃなあ」

「奴等も食料が止まれば…」


そんな事を話していると、隊商らしき馬車が向かって来るのが見えた。


「ほら!

 来たみたいだぞ」

「問題無いじゃないか」

「しかし様子が…」


その隊商の馬車は、もの凄い勢いで向かって来ていた。

様子をよく見ると、護衛の兵士も着いていな。

さらに目が良い者が、馬車の様子に気が付いて声を上げる。


「おい!

 矢が刺さってるぞ」

「何だと!」

「襲撃にあったのか?」

「それでは野盗が…」

「そうじゃな

 野盗が居るなら問題じゃな」


向かって来る隊商は、馬車が2台だけだった。

普通ならば、数台の馬車と護衛の冒険者が一緒の筈だ。

しかし馬に乗った冒険者は居なくて、代わりに馬車には矢が刺さっている。

そう考えると、馬車が襲われたのは間違い無さそうだ。


「停まれ!

 停まれ!」

「頼む

 早く中に入れてくれ」

「まあまあ

 先ずは身分証の提示と…」

「そんな暇は無いんだ

 早く街に入れてくれ」

「駄目だ!

 ここは街の入り口を守る検問だぞ」

「しかし後方に化け物が!」

「化け物だと?

 吐くならもう少しマシな嘘を吐けよ」


兵士達はニヤニヤと笑って、商人達の懇願を無視していた。

商人はインプ達で、魔族と獣人という種族の壁が、ここでも悪影響していた。

獣人からすれば、インプは弱々しい種族に見える。

それで馬鹿にしているのだ。


「何が出たって?

 砂漠サソリでも出たのか?」

「はははは

 そいつは良いや

 それなら焼いて生薬でも使えるな」

「馬鹿にするな!」

「それよりここも危険だ…」

「ふざけるな!」

ガン!


インプは親切心から、彼等に警告しようとしていた。

しかし獣人からすれば、それは馬鹿にされていると感じたのだろう。

インプを壁に叩きつけて、首根っこを掴んで睨む。


「殺されてぇのか?」

「止せって

 さすがに殺しはマズいぞ」

「しかしこいつが…」

「いい加減にしろ

 私達は早く安全な場所に…」

「何が安全な場所だ

 ここはもう城門だぞ?

 ワシ等の街のどこが安全じゃあ…」

「そんな場合じゃ無いんだ

 すぐそこの集落まで、化け物に攻め滅ぼされているんだ」

「集落が?」

「ワシ等獣人の集落じゃぞ?

 貴様等魔族でも…」

「いい加減にしないか

 嘘だと思うのなら、行って見て来いよ」


インプの商人達の、必死な様子にさすがに衛兵も不安になってくる。


「いや…

 本当なのか?」

「ああ

 それも半端な数じゃ無いんだ!」

「あれじゃああんた等がどんなに強くても…

 敵うとは思えない」

「そんなに…居るのか?」

「ああ

 あの先の森の脇に集落があるだろう」

「ああ」

「その向こうは化け物で埋まっていた」

「はあ?」

「何を…」

「だからマズいんだって!」

「あれがここに来たら…」

「待ってろ!

 上司に相談する」

「それよりも早く、中に入れてくれ!」

「死にたく無いんだ!」


インプ達の必死の様子に、兵士達も動揺する。

すぐに領主の下に、一人の兵士が走って向かう。

その間にも、兵士達はインプ達の相手をする。

街に入れるにしても、城門で審査が必要なのだ。


「早く入れてくれ」

「ここでは不安なんだ」

「分かった分かった

 早く書類に署名をしろ」


兵士も不安になり、早目に城門を閉めようと考えていた。

誰も来ないのなら、一時的に閉門にしても問題無いだろう。

むしろ何かが迫っている今、門を開ける事の方が問題だろう。


「書類は書いたぞ!

 これで良いのか?」

「ああ

 早く入れ」

「一旦門を閉めるぞ」

「良いのか?」

「ああ

 何が起こるか分からん」


兵士達は商人達を入れると、慌てて城門を閉じる。

外は日差しが穏やかだったが、それが却って不安を煽っていた。

まだまだ続きます。

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