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聖王伝  作者: 竜人
第二十一章 暗黒大陸
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第690話

王都の北西にも、角無しの魔族の街があった

そこは王都との間に、ちょうど大きな山脈が立ち塞がっていた

それで王都に異変があった時も、すぐには気付く事が出来なかった

しかし王都からの使い魔が途絶え、この街でも王都に様子を窺いに向かっていた

ミネアポリスは北にある大きな城塞都市で、嘗ては王都と戦っていた街だ

しかし獣人の侵攻に対処する為に、手を握って立ち向かった

それで今では、南のセントールズと並ぶ王都周辺の要衝となっていた

直線距離ではセントールズと大差ないが、間にある山脈が邪魔であった

それで王都に異変が起きてから、おおよそ1週間後に王都に入る事になる


「これは…」

「ここが…王都?」

「いや、まさか?

 そんな馬鹿な?」

「しかしこの辺りには、廃墟になる様な場所は無いぞ」

「それにこれ程の広大な場所は…」


そこは数㎞に渡る、広大な荒果てた土地が広がっている。

何よりも瓦礫が、城壁の跡である事を示している。

それが数㎞に渡って、長い瓦礫の列を作っている。

これだけを見ても、ここに長い城壁があった事を示していた。


「これが…

 城壁があった跡だよな?」

「馬鹿な!

 王都の城壁と言えば、高さ5mの堅牢な城壁が数㎞に渡って…」

「続いているだろ?」

「いや、しかしな

 そんな堅牢な城壁が…」

「事実壊されているだろう?」

「しかし、獣人が攻め込んでも耐えたと聞いたぞ?」

「でも…

 壊されているな…」


王都シカゴも、ミネアポリスに並ぶ歴史ある魔族の街だ。

堅牢な防壁で獣人を追い返して、女神にも認められている街だった。

それで他の街と同様に、女神に名を与えられた美しい街だったのだ。

それが今では、崩された瓦礫が並ぶ光景に変わっていた。


「一体何が…」

「これが連絡が途絶えた原因?」

「しかし市民は?

 王都には万に近い軍勢と数万人の市民が居た筈だぞ?」

「しかし逃げた様子が…」

「おかしいだろ?

 それだけの市民が、逃げ出さずに死んだと言うのか?」

「しかし…

 何処にも居ないぞ?」


彼等が来た方向にも、この周辺にも人が居る気配は無かった。

それは生命力察知にもだが、魔力察知にも何も反応が無いのだ。

生きている者が居れば、いずれかの反応がある筈なのだ。


「それだけの人数が…全滅?」

「兵士も居たんだぞ!」

「だろうな

 軍事演習や、何処かに攻めるなんて話は聞いていない」

「それが誰も逃げ出さずに、そのまま死んだと言うのか?」

「そうだな

 死体も無ければ、骨もほとんど転がっていない」


彼等は廃墟となった、王都の瓦礫の中に入って行く。

しかし瓦礫を掻き分けても、ほとんど生活していた痕跡は見付からない。

まれに骨の一部が見付かるが、それ以外に人が居た形跡は無い。

まるで何十年も前に、ここの住人が去ってしまった跡の様だった。

そうで無ければ、ここまで痕跡が無いのも不自然だろう。


「王都が移転した…とか?」

「馬鹿な事を言うな!

 それこそ連絡が…」

「じゃあ何か?

 これだけの破壊の痕を残しながら、みんなで何処かに行ったって言うのか?」

「しかし痕跡がな…」


彼等が困惑するのは、尤もだろう。

死体が残されていれば、何者かが攻め込んだと考えられただろう。

それでも、ここまでの一方的な破壊は考えられないのだが…。


だからと言って、何処かに移動したにしては破壊の意図が分からない。

ここまでの破壊が起こったのなら、当然周辺の街に救援の要請が行われていた筈だ。

しかしミネアポリスはもちろんだが、途中の集落にも異変の報は届いていない。

王都は突如として、連絡を絶っていたのだ。

そして様子を見に来れば、この様な有様になっている。


「獣人が和平交渉を裏切り…」

「それは無い!

 彼等の方が疲弊していたし、和平には積極的だった」

「なら一体誰が!

 誰が王都をこんな…」

「そうだぞ

 これはどうみても…」


城壁を破壊している辺りは、攻め込んだと考えるのが当然だ。

しかし疑問なのは、全ての城壁が破壊されている事だ。

まるで並ぶ城壁のみを、まとめて破壊したかの様だった。

そんな芸当は、獣人でも出来るとは思えない。


「みんな城壁ばかり見ているが…

 街の様子もおかしいぞ」

「どこがだ?」

「これだけ徹底的に破壊しているだろ?」

「ああ」

「それなのに、ほとんど痕跡が残されていない」

「はあ?」


兵士の一人が、崩れた瓦礫を持ち上げる。

そこにはズダボロの衣服の一部と、その持ち主だった物の骨の一部が見付かる。


「見てみろ

 これだけだ」

「遺体は持ち去れられたのか…」

「いや、骨だけだろ」

「ん?」

「食われたんだ」

「食うって…」


言われてみれば、骨は不自然な欠け方をしている。

そう、まるで噛み切られたかの様に、ギザギザに欠けているのだ。


「いや、まさか?」

「でも見てみろ!

 これって歯形だよな?」

「しかしそんな大きな歯形って…」

「それに獣人が人を食うのか?

 そんな話聞いた事が…」

「食わないだろうな

 人を食う様になれば、魔物だと言える」

「それなら獣人が…

 ん?」

「いや、待て!」

「そうだ

 魔物だよ」

「馬鹿な!

 そんな筈があるか!」


彼等が魔物と聞いて、狼狽えるのも当然だろう。

魔物に関しては、この大陸でも滅んでいる筈なのだ。


「そもそも魔王様が…」

「その魔王様が!

 魔王様は何処に行かれたのだ?」

「う…」

「それは…」


王都には本来なら、魔王が居る筈だった。

彼は女神に認められて、魔族の王となった者だ。

そして強大な魔力と力で、獣人を退けている。

魔物に関しても、数十年前の大戦で全て滅ぼしたと言われていた。

その魔王が、数年前から姿を見せなくなっていた。

獣人との戦争が一区切り着いてから、何処かに行ったまま帰っていないのだ。


「魔王様は確か…」

「ああ

 獣人との戦争が終わってから、女神様に会いに行かれた…

 しかし…」

「魔王様がいらっしゃらないからこそ、和平交渉が完結していない」

「だからと言って、魔物だと?」

「しかし獣人が攻めたにしては…」

「それはそうだが…」


獣人の方でも、戦争の終結は歓迎していた。

彼等も多くの兵士を失い、戦争の再開は望んでいない。

それに獣人に十分な戦力があったとしても、これほどの攻撃は出来まい。

いくらなんでも、これでは災害の跡にしか見えない。


「まるで魔王様の…」

「馬鹿な事を言うな

 それにいくら魔王様でも…

 これはさすがに…」


魔王が使う破壊魔法なら、確かに城壁は破壊出来るだろう。

しかし破壊の仕方が徹底的だった。

ここまで壊すとなると、一体どれほどの魔法を使う必要があるのか?

それも一度二度の攻撃では無かった筈だ。


「では?

 一体何者がこんな…」

「魔物だろう…」

「魔物だと!

 それこそ魔王様が…」

「覚えているか?

 魔物は女神様が生み出したんだぞ」

「女神様だと?

 それではまるで…」

「ああ

 女神様が再び、我等を滅ぼそうとしているのでは?」

「そんな馬鹿な!

 オレ達は女神様に認められて…」

「そうだぞ!

 オレ達角無しの魔族と、角有りの魔族が選ばれたと…」

「なあ

 あれは…あの話は本当だったのか?」


兵士の疑問の言葉に、他の魔族達も黙ってしまう。

それが本当なら、彼等は女神を見誤った事になる。

それこそ女神の言葉を…女神が与えたという神託を鵜呑みにしたのだ。

そうして魔物が居なくなったと、安易に考えていた事になる。


「しかしそれなら…

 枢機卿が偽りを申していたと?」

「魔王様に対して、嘘の報告をしたと言うのか?」

「ああ

 でなければ、魔物がこんな大規模な…」


「しかし魔物でも、これだけの破壊は…」

「並みの魔物ならな

 見てみろ!」


兵士が指差したのは、城壁の瓦礫とその周辺の建物の瓦礫だ。


「これを見ろ」

「これが何か?」

「大きいだろう?」

「はあ?」


「よく見ろ!

 こんな殴った跡が、我等魔族や獣人に作れるか?」

「え?」


その指差された跡は、確かに殴った様な罅が入った壁の一部だ。

しかし言われてみなければ、それが殴った跡には見えなかっただろう。


「これが…殴った跡だと?」

「ああ

 それにこの高さ…」

「馬鹿な事を

 こんな拳なんて

 それこそ巨人でもあるまいし」

「それならこれは?」

「う…」

「馬鹿な!」

「まさか…」


兵士が指差したもう一方は、地面に大きな足跡が残っている。

それこそ兵士を踏み潰せるほどの、大きな足跡が地面に残っている。

そしてそれは、城壁の周りに無数に残されていた。

瓦礫で気付かなかったが、よく見ればあちこちに大きな足跡が残っている。


「ま、まさか…

 はははは…」

「巨人が現れて、王都を滅ぼしたと?」

「それこそ荒唐無稽だぞ?」

「しかし現実だろう?

 それに巨人だけでは無いだろう

 ここには…」


そこには剣で切り付けた跡や、何かの生き物の毛が残されている。


「獣人か?」

「かも知れないが…

 巨人と獣人が、一緒に王都を襲うか?」

「それじゃあ何が?」

「魔物と言えば、コボルトがいるだろう?」

「まさか!

 お前、本気で…」

「それしか考えられんだろう?」

「ぐう…」

「魔物だと?」


しかし残された痕跡からは、巨大な生き物が襲った形跡がある。

そして毛を残す様な者が、その巨人と一緒に王都を襲撃したのだ。

そう考えなければ、辻褄が合わないのだ。


「しかし魔物だと?

 それなら魔王様が嘘を吐いたと?」

「いや、魔王様は確かに魔物を倒したのだろう」

「それなら…」

「しかし全滅したいう報告は、神託を受けた司祭達だ」

「それは…」

「それに、女神様なら魔物を生み出せるんだろう?」

「それはそうだろうが…」

「ちょっと無理が無いか?」

「そうだな

 出来れば違っていて欲しい

 しかし獣人が襲ったて事の方が、無理が無いか?」

「そうだが…」


「なあ

 他には居ないかな?」

「無理だろ?

 人間の数は、それこそ絶滅寸前で保護条例が発布されたんだぞ」

「妖精は?」

「森妖精はここ数十年、姿を見せていない

 それに土妖精は…」

「獣人の国か…」

「そもそも他の種族が、今の我等に襲い掛かる意味が無い

 我等の力を、魔王様が示したばかりだろう?」

「そうだな…」


大陸の覇権は、今や魔族が握っていた。

一番の実力者の翼人は、他の種族と共闘して滅ぼした。

今では翼人は、西の魔族に見張られて暮らしている。

そしてその大戦で、魔族の王が魔王と認められたのだ。


他の種族は、大戦後にそれぞれの住処に移動した。

森妖精は大陸の南西の、大森林に引き籠っている。

土妖精は獣人の国の東部に、大規模な坑道の国を作っていた。

そして獣人は、その後暫く魔族と領土争いを行っていた。

今では争いに疲れて、早急に戦うとは思えなかった。


「では…

 再び魔物が現れたと?」

「それが無難な答えだろう?」

「しかし…

 一体何処から?」

「そうだな

 それに何処に向かった?」

「こちらでは無いな」

「そうすると…

 南部か東部か?」

「そうだな…」


彼等は一先ずは、王都の周辺を調査する事にする。

王都の跡と言っても、数㎞の広大な土地になる。

もしかしたら、生き残りが居るかも知れない。

そう思って、数日を掛けて周辺を調べて回った。

彼等はこの時、200名近くの兵士を連れていた。

その規模で周辺を調べるが、生き残りの痕跡を見付ける事は出来なかった。


「居ない…」

「破壊は特に、東の方が酷いな」

「ああ

 東から攻め込み、ここまで来たか?」

「そう考えれば、そのまま南西か南に…」

「セントールズ?

 まさかあそこは…」

「ああ

 我等のミネアポリスに匹敵する城塞がある

 もしかすれば…」

「しかし…

 東部はそれでは?」


その答えには、誰も応える事は出来なかった。

王都がこの有様では、東部も相当荒らされているだろう。

救援要請があったとしても、肝心の王都がこの有様だ。

今頃東部では、どの様な状況になっているのか?


「そのまま南のアトランタに向かっているか?」

「そうだな

 あそこは近いしな

 それにドワーフの洞窟は頑丈だ」

「デトロイトやバッファローはどうだ?」

「そもそもそこが、無事かどうかも分からない」

「そうか…

 そうだよな」


デトロイトは王都の東で、魔物の侵攻ルートだった可能性が高い。

バッファローはその東で、そこにも魔物が向かった可能性は十分にある。

それに救援要請も、先ずは王都に使い魔か伝令が送られるだろう。

ミネアポリスに何も来なかったあたり、その前に王都が落ちた可能性もあるのだ。


「向こうの様子は…

 分からないな」

「そうだな

 とても無事とは思えない」


「それよりも、これからどうする?」

「そうだな

 南に向かうにしても…」


王都に調査に来たので、そこまでの物資は運んでいない。

このまま南に向かって、途中で補充が出来るとは思えない。

セントールズが心配だが、王都の事を考えれば無事とは思えない。

そこに碌に準備もせずに、救援に向かっても危険だろう。


「止むを得まい

 一旦帰還しよう」

「セントールズを見捨てるのか?」

「見捨てるのでは無い

 このまま行ってどうする?

 食糧も物資も碌に無いんだぞ?

 何が出来る?」

「それは…」


せめて攻め込むぐらいの、人数と物資を用意していれば良かった。

しかし200名程度では、返り討ちに遭うのが落ちだろう。


「先ずは人数と、十分な物資を集める必要がある

 伝令に使い魔を飛ばす」


兵士はそう言うと、魔力で猛禽類の様な鳥を作り出す。


「使い魔が戻るまで、周辺の町を調べよう」

「そうか、生き残りが…」

「可能性は低いがな」


生き残りが居るのなら、使い魔が飛ばされていただろう。

それが無いという事は、それが出来る様な者は居ないのだろう。

可能性は低いが、彼等は王都近郊の町を探すのだった。

まだまだ続きます。

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