表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第二十一章 暗黒大陸
689/800

第689話

魔物の侵攻は、ダラスから順調に南下していた

その間にも他の地域では、王都からの使い魔が途絶えた事を調べていた

カンザスより東に遠く離れて、火山地帯にも魔族は街を作っていた

そこにはインプよりも大型の、翼人に似た魔族が住んでいた

翼を持つ魔族は、小翼(インプ)と人間に近い大きさの翼持ち(フォールン)である

その内翼持ちは、翼人が地に落ちた者とされていた

それは彼等が、翼を持ちながらも長時間の飛行が出来ないからだ

精々が数m程度の高さを、数時間飛行するのがやっとなのだ


「駄目だ!

 伝令の姿も、使い魔を向けた様子も無い」

「ううむ

 東で何が起こっているのだ」


翼持ちの魔族達は、高い城壁から東を見る。

彼等は数mではあるが、飛翔する事が出来る。

それで能力を活かした、堅牢な城壁を築いている。

これは彼等の特性にも影響していた。


彼等は翼人のせいで、苦しい立場にあった。

この大陸でも、翼人は色々とやらかしていた。

それで翼人に似た彼等は、堕天(フォールン)などと呼ばれて微妙な立場にあった。

彼等が何かした訳では無いが、翼人が起こしたあれこれで八つ当たり的に辛い立場だったのだ。


それで他の魔族に攻め込まれない様に、こうして堅牢な城塞を築いていた。

王都との関係も、彼等は微妙な立場に立たされていた。

しかしその王都から、急に伝令が届かなくなった。

しかし王都から、軍が派遣された様子も無かった。

それで彼等は、疑心暗鬼になって警戒を続けていた。


「王都が…

 我等を解放したとか?」

「そんな筈は無いだろう?

 彼等にとっても、我等は虎の子の戦力だ

 それこそ裏切りを恐れてでも、この地を譲ったほどだ」

「それでは…何故?」

「ううむ

 分らんが…」


翼持ちの魔族は、遥か東を睨む。


「東で何かが起こったのは確かだ

 それでこっちに構ってられないのだろう」

「それなら尚更、こっちに兵を寄越せと…」

「そうだな

 それが無いのが疑問なのだ」


獣人と争うのなら、飛べない彼等を攻撃するのに翼持ちは重要だ。

それで無くとも、翼人以外には彼等は圧倒的に優位を保てる。

そう考えれば、内戦でも起これば彼等も召喚される筈なのだ。

それなのに何故か、未だに何も言って来なかった。


「ううむ…

 何が起こっている?」

「後は偵察に出た者達が、何か報告を持って帰るしか…」

「そうだな

 それまでは警戒を続けるか…」


彼等は王都から、連絡が途絶えてからすぐに行動に移した。

最初にした事は、軍を恐れて周辺の警戒だった。

その時にカンザスまででも、照会をしていれば違っただろう。

しかし彼等は、1週間経つまで周辺の警戒に留めていた。

それは彼等が、常日頃から裏切り者扱いをされていたからだ。

迂闊に動けば、王都からまた何を言われるか分からないのだ。


彼等の立場は、常に微妙な立ち位置なのだ。

翼人達からは、僕になれと高圧的に要求されていた。

飛行能力の差があるので、下手に逆らえ無いという背景がある。

しかし常に見下されていて、魔族が優勢になったところで翼人とは手を切っていた。


力に関しては、角無し以上で角有りより劣る。

魔力は並みだが、そこまで弱い訳でも無い。

しかし翼人に似た姿故に、常に同族からは差別されていた。

唯一インプだけが、彼等には同情的だった。


インプは力も無く、身体も小さかった。

翼を持ってはいるが、宙に浮いて移動する程度だ。

高い魔力を有するので、何とか他の魔族に抗っている。

しかし小さな身形から、常に同じ魔族からも見下されていた。

だから同じ立場の、翼持ちの彼等とは友好的だったのだ。


「カンザス方面は、友であるインプ達のエリアだ

 何も無ければ良いのだが…」

「そうですね

 あちらも音信不通ですからな」


1週間経ったところで、偵察部隊が東に向かう事になった。

その頃には、カンザスからの使い魔も届かなくなっていた。

ちょうどその頃、カンザスにも東の異変が伝わったのだ。

しかしカンザスも、魔物の対処で伝令など送れなかったのだ。

それが情報の遅れとなり、ダラスにも被害が出る事となった。


ダラスが襲われた頃、彼等はまだカンザスとの間に居た。

偵察部隊は小さな村や町に寄り、情報を集めていたのだ。

しかし肝心の町や村でも、伝令が途絶えた事しか分かっていなかった。

ただ、隊商が途絶えた事で異変を感じてはいた。


「隊商が向かった切り、帰って来ないんです」

「何かあったんじゃろう」

「そうだな

 伝令の使い魔すら届かなくなった」

「ええ

 ワシ等はインプです

 いくら弱いと言われても…」

「ああ

 魔法の使い手の、あんた等がそう簡単にやられるとも思えない」

「どうか周辺の公道を調べてください」

「分かった

 何か痕跡が無いか、周辺を調べるよ」


それで翼持ち達は、念入りに周辺も調べていた。

それがカンザスに到着する時期を遅くしていた。

そうして彼等がカンザスの西の集落に着いた頃には、魔物は既にダラスに向かっていた。

だから彼等が降り立っても、周辺には魔物は居なかった。


「これは…」

「酷い」

「しかし住民は?

 この集落の住民は何処に?」

「恐らくは…」


それは思い付いても、なかなか口に出来る事では無かった。

既に遺体は無くなり、肉片も残されていなかった。

遺体は魔物が食し、残り滓は小動物が処理したのだ。

そうとは知らない彼等は、そのまま周囲を捜索する。


「これは?」

「大きな足跡?」

「こんな大きな足跡?

 そんな魔族なんて居たか?」

「いえ…」

「獣人ならどうだ?」

「獣人でもあり得ませんよ

 それに…」

「ああ

 あんな壊れ方をするなんて…」


集落の建物は、ギガースが壊していた。

ギガースはその巨体から、強烈な拳と脚によって建物を破壊していた。

だからその光景は、まるで強力な攻撃魔法の後の様に見える。

しかし魔法にしては、その痕跡は異常なのだ。


「焦げたりしていない…」

「ええ

 属性が無いにしても、ここまでの大きさの破壊痕は…」

「ああ

 巨人としか考えられない」

「巨人ですか?」

「まさか?

 物語じゃあるまいし」


この大陸では、巨人の目撃譚は残されていない。

物語の中で、その様な化け物が出る事はあった。

しかし実際に巨人を見ただなんて話は、誰も聞いた事が無かった。

だからこの痕跡を見ても、誰も信じられなかった。


「まあ…

 巨人じゃ無いにしても、兎に角大きな者が襲ったのは確かだ」

「そうですね…」


彼等はそのまま、飛行して移動をする。

地上で襲われたら、彼等も無事で済みそうに無いからだ。

あんな破壊をする存在だ、まともに戦っては勝てない。

今重要なのは、少しでも情報を集めて帰還する事だった。


「あれは…」

「まさか?

 あれがカンザスだと?」


彼等は集落から東に進み、焼け焦げた残骸と崩れた城壁を発見する。

そこには嘗て城壁だった、石が崩れた塊が見えていた。

先の集落の建物同様に、大きな何かで殴り壊された様だった。

そして周辺に転がっているのは、恐らく家屋が焼けた炭だろう。


「酷い…」

「こんな破壊の仕方があるのか?」

「魔法とは思えない

 しかしこんな事が?

 本当に出来るのか?」


しかし隊長の問い掛けに、答えれる者は居なかった。

嘗てこの様な破壊を出来る者が、存在すると聞いた事が無かった。

精々魔法を使って、爆破させるなりしないと無理だろう。

しかし城壁は、その様な魔法を使った痕跡が無いのだ。


「先の集落はまだしも…

 カンザス程の街の城壁が…

 こうもいとも容易く破壊出来るものなのか?」

「いえ!

 聞いた事がありませんよ!」

「そうですね

 魔法にしたって、ここまでの破壊なら魔王様か…」

「馬鹿な!

 魔王様が我等魔族を殺すなど…」

「ああ

 それに魔王様でも…」


魔法も無しで、ここまでの破壊は出来ないと思われた。

そこで彼等は、何か痕跡が残されていないか調べる。

こちらは集落と違って、あちこちに痕跡が残されていた。

特に興味深いのは、魔物の遺した骨だろう。

遺体は消えていたが、骨はそのまま残されていた。


「骨?

 …ですか?」

「ああ

 その様だ」

「しかしこれでは…」

「いや

 一見すると獣人に見えるが…

 奴等こんな形だったか?」


それは一見すると、獣人の遺骨に見えた。

しかしコボルトの骨は、狼の獣人の骨格と微妙に違っていた。

ここには獣人は住んでいなかったので、比較する事は出来ない。

それでもそれは、人骨にしては関節などが獣のそれだった。


「獣化していたとか?」

「それもあり得るか…

 獣化していたのなら、関節も変わるのかもな

 しかし…」


隊長は別の場所にある、ゴブリンの骨の塊を調べる。

城壁の周りでは、大量のゴブリンやコボルトが死んでいる。

だから骨も多く残されていた。


「インプでしょう?」

「いや

 インプなら翼の骨が残る筈だ」

「なら翼を奪ったとか…」

「こんなに大量にか?

 それなら翼は?

 持って行ったのか?」

「それは…」

「ううむ…

 では、インプでなければ何だと?」

「それが分からないから調べているのだろう?」


インプもゴブリンも、骨格自体は人間や魔族の子供に似ている。

しかし決定的に違うのは、背中と翼の骨格だ。

翼が有るので、その分骨格が違うのだ。

そしてインプの骨と比べると、それは一目瞭然だった。


「子供の魔族では?」

「それでは数の説明が付かないだろう?」

「それは…」

「奇妙な小人の集団

 それに巨人…」

「あ…

 まさかあれが?」


城壁の外には、ギガースの骨も残されていた。

それは人間にしては大きかった。


「見てみろ

 これは魔族でも獣人でも無いぞ」

「ですがこんな大きな生き物は…」

「見た事が無いだけで、現実に存在する

 果たして…後何匹生きているか分からないが」

「これが何匹も?」

「当然だろう?

 死んでいるので全てとは限らないだろう?」

「え…」


隊長の言葉に、周りの魔族達は言葉を失う。

1体だけでも脅威になり得るのに、それが何体も居ると言うのだ。


「これでここが…

 カンザスが滅びた原因は特定出来た」

「こいつ等が?」

「どう見てもそうだろう?」

「しかし何で?」

「さあな

 理由は分からんが、こいつ等が攻め込んで来た

 それで…

 待てよ!」


ここで隊長は、嫌な予感に襲われる。

ここまで見たのなら、当然想定出来る事だろう。


「まさか…王都も?」

「へ?」

「何を言って…」

「見てみろ!」


隊長は不意に大声で、周囲に転がる街だった残骸を指差す。


「こんな状態だぞ!

 これが王都にも向かっているなら…」

「まさか!

 そんな…」

「それで王都からの連絡が途絶えたと?」

「そう考えて当然だろう?

 こんな危険な物が迫れば…」

「今頃は籠城ですか?」

「しかしそれなら、使い魔なりで救援を…」

「カンザスですら救援を呼べなかった

 それが王都でも起こっているのなら?」

「使い魔が送れない?

 確かにそれならば…」

「急ぐぞ!」

「はい」

「直ちに帰還して、この事を報告するぞ」


彼等は翼を広げると、急いで西に向かって飛び立つ。

行きは調べながらだったので、どうしても時間が掛かっていた。

しかしこのまま飛び続ければ、途中の休息は必要だが2日ほどで戻れるだろう。

同族の危機とあって、彼等は急いで戻る事にした。


この時の彼等は、大きなミスを犯していた。

それはそのまま、王都の方角を調べなかった事だ。

まさか先に、王都が陥落しているとは思わなかったのだ。

それは当然であった。


王都の守りを知っているし、何よりも魔物の侵攻方向が分かっていなかった。

だからカンザスから、王都方面に向かったと推測したのだ。

途中の集落が襲われていなかった事も要因である。

それで魔物の群れが、カンザスから王都方面に向かっていると判断したのだ。


もう一つは、魔物の正体を確認出来なかった事だろう。

正体不明の生き物とは分かったが、その正体は依然不明だった。

そして分からない以上は、同族に危機を報せる事を優先した。

その結果として、魔物が南に向かっている事も知らなかった。


彼等は城塞に戻ると、すぐに指揮官に事の次第を報告する。

しかし指揮官を持ってしても、最初はなかなか信じようとはしなかった。

獣人が攻め込んだのなら、まだ信用しただろう。

しかし正体不明の生き物など、報告を怠る為の嘘だと判断された。


「ですから大きな骨も…」

「何を言っている」

「はっ

 そんな与太話を信じろと?」

「ですから、私も信じたくありません」

「ほら見ろ

 お前も嘘だと思って…」

「しかしこの目で見たんです

 大きな骨が…」

「もういい!

 そんな嘘で報告を誤魔化せると?」

「お前には失望したよ」

「大きな人間の骨だと?

 うはははは」

「そんな馬鹿なホラを信じると思うか?」


彼等の上官達は、その報告を信じる事は無かった。

彼等を嘲笑い、新たな調査団を送る事にする。

その為に魔物の報告は、さらに1週間以上遅れる事になる。

それが後程に、大きな影響を与える事になる。


「だから私達は!」

「聞きたく無いな

 信用していたのにな…

 こいつ等を拘束しろ」

「司令官!」

「黙れ!

 独房で反省しろ!」


偵察に出ていた兵士達は、そのまま監房に送られる事になる。

そうしてデンバーでは、魔物の脅威を知る事に出遅れた。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ