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聖王伝  作者: 竜人
第二十一章 暗黒大陸
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第683話

カンザス北の城門は破られ、城壁も崩され始める

そこには巨人の魔物のギガースが、城壁を壊しながら入って来ていた

子爵と商人のインプ達は、力を合わせて強力な魔法を放った

それは恐ろしい威力で、魔物に膝を屈しさせる

ギガースは立ち上がると、咆哮を上げる

それだけで数人の兵士が、意識を失い昏倒する

インプ達も魔法の障壁を張るが、その上からでも意識を削られそうだった

何よりも恐ろしいのは、その回復能力だった

先の必殺の魔法の一撃が、既に再生されているのだ


「な…」

「無理だ…」

「いくら何でも、あれを…

 あの傷を回復するじゃと?」


彼等は気付いていなかったが、魔物はまだ立ち上がっただけだった。

表面の傷は癒えていたが、実は魔法のダメージはしっかりと残っている。

しかし表面上の傷はすっかり塞がっているので、絶望的に見える。

ここで同じぐらいの威力の攻撃が入れば、倒せない魔物でも無いのだ。


問題は外皮も丈夫なので、あれだけの威力でも切り裂けなかった。

あれで腕でも切り落としていれば、戦局は変わっていただろう。

魔物に効いているのは、爆発による衝撃と内部への火傷。

後は雷撃による一部の神経へのダメージだった。

それで魔物は怒りの咆哮を上げるものの、すぐには動き出さなかった。


「もう一度…

 もう一度ダメージを与えられないか?」

「無理じゃ

 ワシの魔力も底を着いておるし…」


子爵はそう言いながら、魔法兵の方を見る。

魔法兵では威力のある魔法は使えない。

角無しの魔族と言っても、攻撃魔法の訓練しかしていない。

実戦で使えるほど、高威力の魔法の訓練はしていない。


そして高威力の攻撃魔法を放った、インプの商人達は消耗している。

先の魔法でほとんどの魔力を使い切り、宙に浮く事も出来ない。

これでは歩く事も満足に出来ないだろう。


「くっ

 それではワシが!」

「無茶だ!

 お前の力でも…」

「無茶でも構わん

 その間に魔力の回復を…」

「むう…」

「しかし回復したとしても…」


魔物の様子を見る限り、大きな魔法でも効果は期待出来ない。


「ワシが

 ぬおおおお」

ガギン!

ウガアアアア


しかしルイス隊長の攻撃も、魔物の外皮は切り裂けない。

打撃のダメージは入っている様だが、切り傷や出血は見られなかった。


「このままでは!

 このままではルイスが!」

「くっ…」

「止むを得んな」


インプの中でも、年長者達が謎の小瓶を取り出す。

そして口を開けると一気に飲み干した。


「ぐっ…」

「うぐ…あ…」

「大将?」

「何だ?

 何を飲んだんだ?」


数名のインプ達が、謎のポーションを次々と飲む。

彼等は一様に苦しそうにしてから、呪文を唱え始めた。

いつの間にか彼等の周囲には、強力な魔力が集まっている。

それは先程の数名で集めた魔力よりも、明らかに大きな魔力であった。


「何だ?

 これは?」

「まさか?」


一人の若いインプが、ポーションの匂いを嗅いで顔を顰める。


「毒だ…」

「毒?

 何で毒なんかを!」

「我等インプには、ある毒が効果的に効くんですが…」

「その毒の効果が生命力を削って魔力に変換します」

「生命力を…」


「う…あああああ」

「ワシの命、全てくれてやる

 わが命を糧に、最期の一撃を!」

「逝くぞ!

 ワシに魔力を同調しろ

 生命の炎(ファイナル・ブロウ)

ボッ!


それは炎というよりは、小さな火の玉だった。

小さくて見た目は頼りないが、それはゆっくりと魔物に向けて飛んで行く。

魔力に強い魔族からすれば、それはまるで大きな魔力の塊に見える。

しかし見た目からは、とても魔物を倒せる様には見えなかった。


「ぐ…かはっ」

「ぬうう…」

「あと…のむ…」

「おい!」


魔法を放ったインプ達は、そのまま力尽きて倒れる。

倒れた彼等の身体は、生命力を失っている。

そのまま白くなり、砂の様に崩れ去った。


「え?」

「爺さん!」

「ああ!

 ああ…」

「大将!

 大将!」


インプ達が崩れ去った光景に、周りのインプ達は騒ぎ出す。


「何が、何が起こった?」


隊長は振り返る事も出来ず、子爵達に尋ねる。

ギガースが振り回す拳を、何とか剣で弾き返す。

その攻撃が重くて、剣で弾くのがやっとだった。

しかし子爵も、その光景をどう伝えるべきか言葉に迷う。


「くっ

 これが彼等の…命の炎だと?」


その小さな炎は、剣で攻撃を弾いた隊長の脇を摺り抜ける。

そのまま魔物の足元に近付くと、魔物の足に触れる。


ゴウッ!

ボガン!


次の瞬間に衝撃が発して、ルイスは仰向けに倒れる。

魔物は激しい炎に巻かれて、周囲に居た魔物も炎に巻かれていた。


「こ…これが魔法?」

「凄い…」

「じ、爺さんの生命の炎…」


インプの生命力を費やした魔法は、激しい炎を巻き上げて魔物を焼き尽くす。

そのままギガースの周りに居た魔物を、瞬く間に焼き尽くす。

そして頑丈な外皮を持つギガースも、その炎に巻かれて焼かれて行く。


グガア…ガアアア…


「おお!

 魔物が焼かれる…」


その光景に、ルイス隊長も魅入っていた。


さすがは生命の炎と言うだけあって、その炎は圧倒的に強力であった。

インプ数名の命を糧にして、その炎は魔物を骨まで焼き尽くす。

骨だらけになったギガースは、そのまま崩れ落ちる。

隊長は剣を支えに立ち上がり、正面の城門跡を睨む。


「やったのか?」

「ああ

 ギガースは死んだ」


隊長はそう言い捨てるが、剣は仕舞っていなかった。

隙無く城門を睨みながら、視界の隅の骨の塊から無理矢理視線を逸らす。


「これで…

 魔物の侵攻は防げたのか…」

「…」


しかしルイス隊長は、子爵の言葉に答えなかった。

彼は安心していたが、ルイスは未だに魔物の気配を感じていた。

魔物の群れは依然数を増し、城壁の周辺に集まっている。

そしてその奥には、一際大きな力を持つ者が歩いている。


「今の内に街の外に…」

「しかし子爵様

 子爵様はどうされるんです?」

「ワシは…

 ワシはもう動けぬ

 このまま捨て置いてくれ」

「そんな!」

「そんな事は出来ませんよ」


ルイス隊長は城門に向いたまま、剣を構える。


「子爵様を連れて逃げろ!」

「隊長殿?」

「急げ!

 まだ来るぞ!」

「ルイス!」


「先に行っておきます

 子爵は逃げてください」

「いかん!

 お前も逃げるんじゃ!」

「ワシは残ります

 少しでも時間を稼ぎますから」

ガラガラ…!


城壁が崩れ、黒い鎧を着た男が入って来る。


「黒い鎧…

 貴様が黒騎士か!」

「…」


男は答えずに、ゆっくりと背中の剣を引き抜く。

それは鎧と同様の、黒い刀身の剣だった。

禍々しい気配を感じて、隊長はじっとりと手に汗を感じる。


あの剣は…危険だ

何か禍々しい気配を感じる


「急いで逃げろ

 黒騎士が相手では、ワシも数分ももたんぞ」

「しかし…」

「良いから行け!」

「子爵様」

「ワシ等に掴まって」


魔力が多少でも回復して、インプ達は宙に受ける様になる。

それで子爵の肩を支えながら、移動を始める。

しかし速度が遅いので、魔物が近付いて来るのが感じられる。

このままでは子爵だけでなく、インプ達も逃げ切れないだろう。


「ワシも…

 先に逃げろ」

キュポン!


「おい!

 ダーレン」

「ワシには構うな

 ぐうっ…」

「ダーレン?

 おい!」

「貴様!

 お前までルナの涙を飲んだのか?」

「ルナの涙?」

「ああ

 爺さん達が飲んでた毒薬だ」

「何て事を!」

「ぐうっ…

 良いから…

 早く…」


ダーレンと呼ばれたインプは、苦し気に肩で息をする。


「ワシの!

 ワシの命を糧に…

 生命の炎(ファイナル・ブロウ)

ボッ!


先程の炎に比べると、それは魔力は少なかった。

しかし魔法は成功して、小さな火球が魔物の群れに向かって飛んで行く。


「先に逝く…

 早く…げろ…」

「ダーレン!」

「くそっ!」


火球は魔物の1体に当たって、そのまま爆発した。


キン!

ジュオオオオ!

ギャン

ギャアアアア


最初の1体を中心に、半径数mの炎が噴き上がる。

それを見送る様に、ダーレンの身体は砂の様に崩れる。


「ダーレン!

 ちくしょう!」

「行くぞ!

 ダーレンの遺志を無駄にするな!」

「くそっ!

 魔物がまだ来るぞ」

「急げ!」

「なあに…

 いざとなれば…」


インプ達は子爵を抱えて、宙に浮いて移動する。

魔力が完全に回復すれば、宙に浮いたまま走るぐらいの速度は出せる。

しかし回復しきっていないので、その速度は早歩き程度しか出せない。

急がなければ、再び魔物に追い付かれるだろう。


ガシャン!


黒い男の鎧の音が、静かになった城門前の広場に響く。

しかし彼の後ろには、まだまだ魔物の群れは控えている。

その間にも1匹、また1匹と入って来る。

隊長はそれを睨みながら、黒い男に視線を向ける。


「ここは…通さないぜ

 通行料は…」

カシャン!


剣を構えるルイスを見ながらも、男はゆっくりと近付く。

その鎧は黒いスケールメイルに、大きなプレートを組み合わせた鎧だ。

しかし男は、それに重さを感じさせない緩やかな動きで近付く。


「貴様等の命だ!」

ギャッギャッ

ガルルル


向かって来るゴブリンやコボルトを、隊長は摺り抜け様に切り捨てる。

集中力を高めながら、眼前に迫る黒騎士に意識を向ける。

嘗て無いほどの集中力を高めて、隊長は黒騎士の動きに集中する。

そして構えた剣を、間合いに入った黒騎士に向ける。


「うおおおおお」

ブン!

パキン!


やはり…

むり…

後は…


ルイスの身体は、ゆっくりと斜めに滑り落ちる。

その上半身が落ちた後に、腹の辺りから盛大に鮮血が迸る。

それから足元から崩れ落ちて、彼の骸は静かに冷たくなる。

しかしその両目は、最期まで黒騎士を睨み付けていた。


ギャッギャッ

ガシャン!


ゴブリンが1匹、その遺体に近付こうとする。

しかし何を思ったのか、黒騎士はその魔物を弾き飛ばす。

そしてゆっくりと近付くと、その生気の失われた瞳を閉じさせる。

それからゆっくりと立ち上がると、彼の亡骸に剣を突き刺した。


ルイスだった物から、魔力と生命力の残滓が剣に流れる。

黒騎士はそれを受け止めると、ゆっくりと剣を背中に戻す。

そうして魔物に合図を出すと、そのまま広場の一角に腰を下ろした。

魔物は黒騎士の合図を受け、一気に街の中心に向かって駆け出す。


ギャヒヒヒ

ウガオウ


魔物は喜びの声を上げて、街の中心に向かう。

そこにはまだ、逃げ遅れた市民達が居た。

ほとんどが逃げる気力が無いか、私財を諦め切れなかった商人達だ。

兵士のほとんどが、北の城門の守りに向かったのだ。

街の中心には、兵士は数名しか居なかった。


「うわああああ」

「ま、魔物だ!」

「に、逃げ…げひゃっ」

「助けて!

 たすけひゃっ」

「くそ!

 くそっ!」

「逃げろ

 逃げるんだ!」


数名しか居ない兵士は、懸命に剣で応戦しようとする。

しかし戦い慣れていない上に、武器も鉄製の剣だ。

たちまち魔物に迫られて、革鎧ごとコボルトの爪に切り裂かれる。

ゴブリンを切り倒せる者も居たが、喜びの表情のまま崩れ落ちる。

その背中には、背後に回ったゴブリンの剣が突き刺さっていた。


「あ…」

「兵士達が…」

「終わりだ!

 もうお終いだ!」


その声も、数分後には全て消え去る。

後には血に興奮した、魔物の声だけが響く。


グルルル

ギャアギヤアア


中にはそのまま、同士討ちを始める魔物も居る。

しかし黒騎士は、それに興味無さそうに座ったままだった。


一方逃げ出したインプ達は、そのまま西の城門近くまで逃げ延びていた。

その近くには、仲間だった塩の塊が残されていた。


「はあ、はあ…」

「くそっ!

 エリックまで…」

「すまない…

 すまない…」

「何を言ってるんだ」

「そうだぜ

 あんたを生かすのが…

 あいつ等の遺志だったんだ」


インプ達は再び子爵を抱えると、城門を出ようとする。


「あ…」

「どうした?」

「ああ…」


先に城門を出たインプが、不意にその場に留まる。

後続のインプ達が訝し気に尋ねるが、その声はすぐに絶望に変わる。


グガオオオオ

「あ…

 ああ…」


後に残されたのは、襤褸切れの様になったインプ達の死体だった。

ギガースに囲まれて、子爵は最期まで彼等を庇おうと立ちはだかる。

そしてギガースの一撃で、彼の身体は砕け散った。

それからは一方的な虐殺であった。

ギガースの膂力の前では、ひ弱なインプの身体では無力だった。


最後の一人が、絶望しながら事切れる。

そのまま巨人は、仲間の遺体を美味そうに食い始める。

ここまで走って来たので、巨人も腹が減っていたのだ。

インプの身体は小さく、とても飢えを満たせない。

彼等は次の獲物を求めて、そのまま北西に向かい始める。


魔物が向かったのは、先に逃げた衛兵達の向かった方角だった。

しかし運が良かったのか、彼等は魔物に追い付かれなかった。

彼等が向かった方角は、公道が繋がる北西の方角だった。

運が悪かったのは、その方角にあった小さな集落だろう。


「あ…」

「何だ?

 あれは?」


その集落にも、獣人に対して高さ2mの城壁は作られていた。

しかし魔物は巨人の魔物で、その高さは十分では無かった。

衛兵が気付いた時には、魔物の顔が東の城壁の上から覗き込んでいた。

そして集落には、住民達の悲鳴が響き渡る。


「うわああああ」

「化け物だ!」

「何でここに…

 こんな化け物が…」


彼等は逃げ出す暇も無く、魔物達に蹂躙されて行く。

城壁は瞬く間に破壊され、魔物が集落に侵入して来たのだ。

巨人しか来ていなかったが、それが却って仇になった。

魔物は魔族を食らい、満足するとその場で眠り始めた。

しかし住民の生き残りは、そのまま逃げ出す事が出来なかったのだ。

魔物が集落の中ほどの、広場で眠っていたからだ。


「我々は…どうすれば…」

「うう…

 ぐすっ」

「お母さん…」


魔物に囲まれていて、住民達は絶望していた。

このまま待ち続けても、魔物が起きれば次は自分達だろう。

そして逃げ出そうにも、魔物が近くに居て無理なのだ。

そのまま絶望的な夜が、集落に訪れようとしていた。

まだまだ続きます。

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