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聖王伝  作者: 竜人
第三章 新たなる領主
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第68話

領主の葬儀は恙無く終わり、反乱勢力はギルバートの知らぬ内に排除された

それにより、ギルバートはそのまま代行が来るまでの繋ぎとして執務に就く事となった

その陰では、ギルド長達が動いていたのだが、ギルバートがその事を知る事は無かった

父の葬儀が無事に終わった翌日、ギルバートは執務室に入った

領地の経営等はした事は無かったが、少しでも現状を維持しなければならない

出来ないなりにも、次の領主代行が到着するまでをどうにかしなければならないのだ

溜まっていた書類を広げ、問題の無さそうな物からチェックしていく


「今年の農業支出は…去年の資料を探さないと」

ガサゴソ!


「商工ギルドからの陳述書?

 生産の遅れと開発中の資材について…」


必死に羊皮紙にメモを走らせ、問題が無さそうな書類から決裁の印可を押して行く。

しかし数が多く、中には同じ様な書類も混じっている。

ここ数日中に再提出された書類だ。


「ふう

 この新しい素材での武具の作成は急がないと

 また、いつ魔物が現れるか分からないからな」


ギルバートが独り言をブツブツ言いながら書類を見ていると、外から駆けて来る音が響く。

執事が叱責し、外で口論している声が聞こえる。


「…ですから…魔物の…今すぐ…」

「廊下を…今は坊ちゃまが…」

「ん?」


魔物という言葉が聞こえて、ギルバートは立ち上がる。

小型ならいざ知らず、大型なら手早く対処せねばならぬ。

城壁は万全とは言えないのだ。


「何事だ?」

「殿下!」

「坊ちゃま」


ギルバートはドアを開け、執事と言い合っている兵士に向かった。

兵士は直ちに状況を説明する。


「坊ちゃま、この男が廊下を…」

「ええい!

 今は魔物が出て緊急時なんだ、そんな事を言っている場合じゃない!」

「魔物が出たのか?」

「はい」


ギルバートは執事に目配せをして、執事は不承不承といった感じで引き下がる。


「状況は?」

「はい

 将軍が騎士団の24名を率いて出ています

 騎兵隊は人数が足らず、また練度も足りておりません」

「うん、そうだろうな

 先の戦闘で、犠牲者が多過ぎた」

「はい」


「魔物の種類と数は?」

「コボルトが30ほどと、オークが10

 後はオーガですか?

 大型が5匹います」

「オーガか…

 将軍だけでは無理かも知れんな」

「はい

 ですので、アーネストが殿下に連絡をと」

「分かった

 すぐに向かう」


ギルバートは頷くと、執事に書類の束を渡して支度に掛かった。

支度と言っても、鎧は着けていたので武器の用意だけだったが、新しく打ち直した剣を手に持った。


「オーガか

 この前の残りだろうな」

「その可能性は…

 なんせ正確な数は判明していませんでした

 逃げた魔物が居ても分かりません」

「ああ

 だが…父上には良い手向けになる」


ギルバートは好戦的な笑みを浮かべて、邸宅を後にした。

広場を抜けて南門に向かう間も、戦闘の音は響くが城壁の破砕音は聞こえなかった。

どうやら将軍が善戦して、城壁には取り付かれていない様だ。

城門からは負傷した騎士が運び込まれ、新たに集まった12名が出撃して行った。


「準備は良いな」

「おう!」

「将軍の援軍に向かうぞ!」

『行くぞー!』


「負傷者の数は?」

「殿下!

 現在は11名になります

 死者はまだ出てません」

「そうか」


ギルバートは城壁に上がる階段に向かう。


「将軍とアーネストが頑張り、現在は森に押し返しています」

「どれどれ

 ふーむ…」


城壁の前には、3匹のオーガが倒れており、その様子からアーネストの火球で打ちのめされ、止めを刺された様だ。

その周りにオークやコボルトの死体も散らばっており、現在2匹のオーガが交戦中だった。

それも追撃の騎士が加わり、将軍が1匹のオーガの足を切り裂いていた。

ほどなく戦闘は終了するだろう。


「なんとかなりそうだな」

「ええ」


将軍もアーネストも前回の戦闘の経験がある。

念の為にギルバートを呼んだんだろうが、なんとかなりそうであった。

そこへ、広場を駆ける兵士の声が聞こえてきた。

何事か大声で叫び、必死にこちらへ駆けて来る。


「何だ?」

「さあ?」


「…へんだ!

 東門に、東門に魔物が」

「何だと!」


微かに聞こえて来たのは、東門に魔物が出たという言葉だ。


「急ぎ兵を向かわせろ!」

「はい

 残った騎兵を掻き集めろ!

 東門の防備に回すんだ!」

「はい!」


兵士達が慌てふためく。

慌てて兵舎に向かって駆け出すが、それでもせいぜい20名ぐらいしか居ないだろう。

ギルバートはその様子を確認して、城壁の上を駆けだす。

このまま城壁を渡って行けば、数分で東門に着けるだろう。

ここからは見えないが、急がなければ再び城壁が壊される。

ギルバートは城壁を駆け抜けて行った。


東の門が見え始めると、その近くに歩いて来る大きな影が見えた。

やはりオーガが居る様だ。

その数は3匹確認出来た。

足元にはコボルトの群れも見える。

数は50匹を超えないだろうか?

城壁の上の兵士が、必死に矢を射掛けて応戦していた。


「殿下!

 危のうございます」

「良いから、矢をコボルトに集中しろ

 オーガはオレに任せろ!」


走り出しながら、3mもある城壁から飛び上がり、剣を抜き放ちながら飛び降りる。


「うおおおお!

 バスター!」


空中で大剣は弧を描き、スキルの力を借りて勢いよく叩き付けられた。


ブォン!

ズドーン!

グギャアア

ギャワン


オーガの足元に着地し、勢いで数匹のコボルトを切り飛ばす。

その音にオーガの視線が集まり、足を止める事に成功する。

土煙が収まる前に、次のスキルの構えを取る。

狙うは目の前のオーガの左脚だ。


「スラーッシュ!」

ズバーッ!

グオオオ


オーガの左足が切り裂かれ、大きく左に倒れ込む。

それを見て、もう1匹のオーガが棍棒を振り翳す。


ガアアア

ズドーン!


「甘い!」


ギルバートは余裕で躱し、剣を構えて駆け出す。

打ち下ろされた大木の様な棍棒に飛び乗り、再び持ち上げる勢いを使って宙に跳ぶ。


グガアア

ブン!


その勢いで3匹目の左肩に目掛けて構えを取る。

右に剣を担ぎ、力を溜める。


「うおおおお

 ブレイザー!」

ゴガン!


一振り目は棍棒で防がれるが、そのまま棍棒に亀裂が入る。

返す一撃で、今度は左腕を切り落とす。


ズバッ!

グガアアア


「ちっ!

 甘かったか」


左腕一本では、まだ攻撃は出来る。

このまま着地したら、2匹のオーガに挟まれる。

そう思っていたら、2匹目のオーガが棍棒を投げて来た。


グガアアア

ブオン!


「うわっと!」


ギルバートは空中で身を捩り、慌ててそれを躱す。

跳んできた棍棒は肩を掠める様に飛んだが、何とか躱せた。

棍棒はそのまま飛んで行き、3匹目のオーガの頭に直撃した。


ゴン!

ウガア


この棍棒が、思わぬ好機を与えてくれた。

どうやらこのオーガは、あまり賢くないらしい。

1匹目のオーガの振り上げた棍棒を躱し、跳躍しながら顔を切り裂く。


ウガアアア

ブン!


「せりゃああ」

ザクッ!

グガアアア


これで1匹は目が見えず、片足も動かせない。

3匹目は片腕で、棍棒には亀裂が入っているし、2匹目は棍棒を失っている。

かなり有利になってきた。


加えて、コボルトは城壁からの弓に攻められて、思う様に動けない。

もう少しすれば、城門から騎兵も出るから、コボルトはそちらに任せよう。

ギルバートは戦況を見回し、次の一手を考えた。

相手は思ったより愚鈍と判断し、素手のオーガに向かって駆け出す。

大きく身体を沈め、跳躍すると見せ掛けると、そのまま前方へ飛び込む。

相手のオーガも身構えていたが、ギルバートの構えに頭上を警戒して手を挙げる。

そのままギルバートは前方へ飛び込むと、低い体勢から横薙ぎに剣を振り抜く。


「ぬああああ

 スラーッシュ」

ザシューッ!

ガアアアア


横をすり抜ける様に、見事に一閃が左脚を切り裂く。

頭を庇った体制のまま、オーガは倒れ込んでしまった。

そのまま踏み切ると、ギルバートは跳躍する。

オーガの胸元へ目掛け、大剣を下向きに突き刺す。


「ふうん」

グサリ!

グオオ…グハ


心臓に一突きが決まり、オーガは血反吐を吐いた。

そのまま剣を引き抜き、迫る片腕のオーガに振り向く。

オーガは残る右腕で、壊れかけの棍棒を掲げる。


ウガアアア


そこへ1匹目のオーガが、目に血が入って見えなくなっていた為に棍棒を振り回す。

振り回した棍棒がもう1匹のオーガの脚に当たり、バランスを崩す。

その隙にギルバートは、オーガの死体を踏み台にして跳躍した。


「うりゃあああ

 ブレイザー!」

ズバッ!ザクッ!

グガアアア


一太刀目が右肩から切り裂き、そのまま胸元から首を切り落とす。

そのままの勢いを使い、オーガの首なし死体を踏み台にする。

宙を舞い、最後のオーガの脳天に剣を突き立て、勝負は決した。


ウガアアア


「せりゃああ」

ドス!

グガ…


3匹のオーガが倒れ、ギルバートはその場に着地する。


「ふう

 やれやれ、何とかなったな」


見回すと、いつの間に出ていたのか、騎兵がコボルトを蹂躙していた。

被害も少なく、倒れているのは2人だけであった。


「殿下、ありがとうございます」

「流石ですな

 あの化け物をお一人で倒すとは…」


騎兵達がギルバートの近くへ集まる。


「オレの事は良い

 負傷者の手当と、周囲の警戒を頼む」

「はい」

「負傷は2名です

 怪我の具合は…」

「すぐにポーションで手当てをしてやれ」

「はい」


倒れている二人はピクリとも動かない、息はしている様だが重傷だろう。

少しでも助かるなら、それに越した事は無い。

今は少しでも、戦力を温存しておきたい。


ギルバートは気が抜けたのか、スキルの連投の反動でふらつく。


「殿下?」

「大丈夫だ!

 少し休めば回復する」


ギルバートは心配して駆け寄る兵士を制し、水袋を受け取って呷った。


「ふう

 やはり、スキルの多用は注意しないとな

 身体に反動が来る」


オーガの死体の上に腰を下ろし、一人呟く。

しかし、現状ではスキルの連投でもしなければ、大型の魔物は倒せない。

それも、そこまで使えるのは数名しか居ない。

この先、この様な大型の魔物が多く現れたら…街は守れるのであろうか?

大きな不安が付き纏うが、今は信じて戦うしか無い、そう思うのであった。


少し休んでから、ギルバートは騎兵隊を指揮して、魔物の遺骸を集めさせた。

コボルトの毛皮も大事だが、一番はオーガの遺骸だ。

大きな身体から取れる骨は、丈夫で使い道が多い。

魔石も大きな物が取れるので、魔法の触媒に重宝する。


今、ギルバートが持っている大剣も、先の戦闘で手にいれたオーガの魔石が使われている。

そのお陰で、身体強化と耐久性、切れ味の向上が発動できる。

これだけでもかなり有用なんだが、更に身体能力の強化によって、より大きな剣が持てる様になった。

今まででも長剣までは持てたが、今回の魔石の性能から1mの大きな大剣が持てるまでになった。

これは純粋に攻撃力も上がるので、今回の戦闘が楽になったのはこの辺も関係している。


ギルバートはまだ無銘の大剣を持ち上げ、その魔石を撫でる。


「良い剣ですよね」

「ああ」


「名前は決められたんですか?」

「いや、まだだ」

「どうせなら…

 オーガ・スレイヤーとかどうです?」

「うーん

 今一なんだよな」


ギルバートは首を傾げて悩む。


「お前のセンスでは、殿下は納得せんだろう」

「ひでえな

 じゃあ、お前なら良いのがあるのか?」

「オレなら、オーガ・バスターだな」

「あまり変わらんな…」

「あ…」


兵士達が笑い出す。

どちらもオーガを倒した者と言う意味になるが、今一しっくりしなかった。


「巨人殺し?

 それなら巨人を殺してみないとな

 無理だろうし」

「熊殺しでは?」

「馬鹿!

 価値が下がってるだろ」


兵士達は勇ましい名前を考えて色々と挙げてはみたが、どれも良い名前が浮かばなかった。


「取り敢えずは…

 鬼殺し?

 オーガ・バスターとでも名付けておくか」


ギルバートは当面はそう呼ぶ事にした。

また良い名前が浮かべば、その時改名すれば良い。


「では、鬼殺し、オーガ・バスターで

 そう呼びましょう」

「良いなあ、オレも欲しいや」

「馬鹿、お前には無理だろ

 殿下用に作られた剣だ、お前みたいに酒代に使う奴では買えんだろ」

「それに…

 重くて振り回せんだろう?」

「確かに」


兵士達の装備は、ここ最近の戦闘で向上していたが、それでも長剣や鎌がせいぜいであった。

身体能力の向上が付与されても、元々の力量の差が出ていた。

ギルバートが急激に力を着けたのは、恐らく称号が与えられたからだろう。

実際に大剣を使いこなせた者は、戦士や騎士の称号が与えられた者で、天からの声を聴いてから力が強くなっていた。


「称号の謎は、まだ解明されていませんが

 恐らくは魔物との戦闘の経験が必要かと

 今回の戦闘でも、何人か戦士の称号が与えられています」

「この先、活躍に期待されています」

「そうか」


ギルバートは新たな戦士が誕生していると聞き、魔物との戦闘に少しだけ希望が持てた気がした。

このまま、何事も無ければ良いのだが。

そう思いながら、城門に向けて歩いていった。

裏話も考えたのですが、それはまた、別の機会で書こうと思います

あまり詰め込むと、ストーリーの進行が遅くなりそうなので

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