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聖王伝  作者: 竜人
第二十一章 暗黒大陸
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第679話

魔族達の城塞都市、セントールズは壊滅した

逃げ出した市民達も、大半が追って来た魔物に殺される

生き残りは方々に散った者と、先に逃げ出していた者達だ

そうした者の一人に、伝令を任されたジョンソンも居た

ジョンソンはカンザスの街に着くと、そのまま城門で兵士と話していた

まさかその近くまで、既に魔物が近付いているとは思わなかった

ジョンソンがここに着いた時点で、朝に発った集落にまで魔物は迫っていた

そしてそれは少しずつ、確実に近付いて来ていた


「だあからあ…」

「嘘を言うな!

 魔物だと?」

「王都が陥落なんぞ信じられるか」

「そう思うなら確認しろよ」


ジョンソンは城門で、かれこれ1時間ほどこうして問答している。

彼が報告しに来た事を、なかなか信じてもらえなかったのだ。


ああ!

何で隊長はオレなんかを…


彼が新兵で平民な事が、彼等を一層信用させていなかった。

兵長に渡された手紙も、既に取り上げられている。

彼が持っている事に、門番の兵士が不審感を持ったのだ。

それでここに拘束されて、白状する様に問い詰められていた。


「何度言ったら分るんだ

 オレはヨハン隊長に…」

「そんな事は信じれるか!」

「そもそもこの書類は何だ?

 信用出来る者なので通す様に?」

「こんな平民が何だって、子爵の通行手形を持っている?」

「どうせどこかで盗んだ物だろう」

「さあ!

 さっさと白状しろ」


彼等は最初っから、ジョンソンの事を信用していなかった。

いや、正確にはこうして、平民に難癖を付けて甚振るのが目的だった。

しかし問題は、こうやって捕まえた平民の言い訳がおかしかった事だ。

王都が陥落したとか、街に魔物が迫っているとか、兎に角言っている事がどれも噓臭かった。


どうせならもっと、上手い嘘を吐けよ


城門の衛兵達は、そう思いながらニヤニヤしていた。

後少しすれば、交代の時間になる。

そうすればこの平民を、処刑と称して連れされる。

後はいつも通り、人知れず街の外で処刑を愉しめる。

舌なめずりをしながら、彼等は後退が来るのを待っていた。


「おい!

 交代の時間だぞ」

「おお!

 待ちわびたぞ」

「さあ、この嘘つきな平民を、どうやって処刑するか…」

「くそっ!

 離せ!

 オレはここのルイスって隊長に…」

「はは

 嘘ならもうちょっと、まともな…」

「私がどうした?」

「は?」


そこには交代の兵士と一緒に、初老に差し掛かった男が立っていた。


「こ、これはルイス警備隊長」


その男こそが、ジョンソンが探している男だった。


「な、何でこんなところに?」

「む?

 最近魔物が増えているそうでな

 警備の相談でここに来たのだが…」

「あなたがルイス隊長ですか?」

「黙れ!

 この罪人が」

「うぐっ」


衛兵達は、慌ててジョンソンを黙らそうと殴り付ける。

しかしそれが逆効果になった。

ルイスはその若い兵士に、興味を持ってしまった。


「何をしている

 罪人だと?」

「はい

 こいつは他所で窃盗を働いて逃げて来た様で…」

「兵士の恰好をしておるが?」

「どこかで盗んだんでしょう?」

「違う!

 オレは隊長に…がふっ」

「黙れと言っただろうが

 この平民が」

「止さんか!

 この者が何か、罪を犯したと言うのか?」

「ええ

 窃盗を働いております」


ここで衛兵達は、ジョンソンから取り上げた書類を取り出す。

そこには子爵の名で、急使であると書かれていた。


「これは急ぎの伝令に渡す、大事な書状ではないか」

「ええ

 こいつはそれを盗み、この街に入ろうとしておりました」

「本当か?」

「違います!

 それは…」

「黙れ!」

ゴスッ!


「止さんか!」

「しかしこいつは…」

「さっきから嘘ばかり並べていまして」

「嘘だと?

 この書状も嘘だと?」

「ええ

 もらったものだとか?

 こんな重要な書類を、新兵に渡す訳が無いじゃないですか」

「馬鹿者!

 よほど重要な任務かも知れないだろう」

「重要?」

「隊長

 何か勘違いしてません?」


衛兵達はニヤニヤと、厭らしい笑いを浮かべていた。


「あんたはただの警備隊長だ

 それに重要かどうかは、オレ達この城門を守る兵士が決める」

「そうだぞ

 街の警備隊長だか知らんが、他所の部署に口出ししないでくれ」


「口出しするつもりは無いが…

 仮にも子爵の名の入った命令書だぞ」

「だから何だ?」

「こいつが盗んだ物だろうが」

「良いからこの兵士の身柄は、ワシが引き受けるぞ」

「何を勝手な!」

「警備隊長とはいえ…」

「聞いてください

 王都が陥落したんです

 このままでは他の街も危険で…」

「貴様は黙って…」

「止さんか!」


衛兵が遂に、剣を引き抜こうとする。

このままでは、自分達の行為がバレる可能性がある。

それはさすがにマズいと考えて、口封じに殺そうとする。

しかしルイス隊長は、素早くその剣を押さえて封じる。


「王都からの連絡が途絶えたと聞いていたが…

 本当なのか?」

「それはこの罪人の嘘で…」

「良いから黙ってろ!

 大事な事なんだぞ!」


ルイスの必死な様子に、衛兵達も驚きを隠せなかった。

王都の様子がおかしい事は、まだ一般の兵士には知らされていない。

ルイスは警備隊長なので、領主から内密に話を聞いていた。

市民の中から、何か聞く事が出来るかも知れないからだ。

それがここで、さっそく役立っていた。


「彼の身は警備隊で預かる」

「しかし…」

「反論は許さん

 来い!」

「は、はい…」


ルイスはジョンソンを連れながら、事情を聞いていた。


「一体何が起こったんだ?」

「詳細は分かりません

 しかし王都から逃げて来た者がいまして…」

「王都から…」


ジョンソンは王都から逃げて来た、王都民の話を証言として話す。

それは子爵が魔物と戦い、黒騎士に敗北した事も含まれていた。

本当は子爵も、黒騎士に相手にされる事無く倒されていた。

最期は武器を壊されて、魔物に囲まれて殺されている。

しかしそこまでは、逃げ出した市民達は見ていなかった。


「レオン子爵殿が?

 本当か?」

「ええ

 子爵様が市民を逃がしていたそうですが…

 魔物には優勢だったそうなんです

 しかし…」

「信じられんな

 子爵は王都でも有数の剣の腕を持たれていた

 そんな方が?

 どうして?」

「噂では黒騎士という男が、向こうに居るらしく…」

「黒騎士?」


黒騎士という名は初めて聞く名で、隊長も首を傾げる。


「聞いた事が無いな」

「ええ

 魔物の指揮をしていたとか、もの凄い剛剣だとか…

 しかし見た者で生き残った者が居なくて…」

「そうか…

 子爵を凌ぐ、腕前の剣士か…」


しかし今の魔族の王国では、その様な者が居るとは聞いた事が無い。

それにそもそもが、魔物自体が突然活性化し始めたのだ。

その辺りも含めて、情報が少な過ぎた。

確認を取ろうにも、王都は既に陥落しているという。

それならばセントールズの城塞都市も、危険だという事になる。


「よく話してくれた」

「ええ

 隊長がそれを報告しろと…」

「隊長というのは?」

「城塞の兵士隊長であるヨハン隊長です

 あなたに伝える様に言われまして」

「ヨハンか…

 あの跳ねっ返りが…」

「へ?」

「いや

 それでヨハンは?」

「さあ…

 オレは…

 私はすぐに街を発ちましたので」

「ううむ…」


ルイス隊長は、暫く黙って歩いていた。


ヨハンならば、すぐさまに市民を逃がすか…

しかしここに来ていないとなると…


ルイスは嫌な予感がして、もう一度子爵の印可を押された急使の書簡を見る。


「この書簡は…」

「え?」

「これは誰に貰ったのだ?」

「それは出立の折に、兵士長が渡してくださって

 何かあったらこれを見せろと」

「兵士長?

 名前は知らないのか?」

「ええっと

 普段から兵士長と呼んでまして…」

「覚えていないか…」


兵士長ほどの階級だ、どこかの貴族と繋がりがあってもおかしく無いだろう。

それこそ不正を働く兵士の、監視の為に潜入していた可能性もある。

印可は押されているが、その印可が誰の物かルイスは知らなかった。

やはりこの書簡を持って、領主の下に向かうのが良いだろう。


「悪いがワシに着いて来てくれんか?」

「あのう…

 私は一兵士で…」

「悪い様にはせん

 それにあの馬鹿共の事もある」

「え?」

「以前から奴等の行動が、どうにも不審でな

 これも良い機会じゃ」

「は、はあ…」


ルイス隊長も以前から、彼等衛兵の不正を疑っていた。

それも着服や袖の下だけでなく、行方不明者にも関わっていると確信していた。

しかし証拠が見付からず、これまで野放しにされていた。

今日立ち寄ったのも、城門で何か情報が入っていないか確認の為だった。

彼等が何かして、肝心の情報が聞けなければ困る。

それで衛兵隊長に、警備の事で相談に向かったのだ。


「君が無事で良かった」

「へ?」

「あいつ等が何か良からぬ事をしていて、君も巻き込まれたのだろう?」

「そうなんですか?」

「ああ

 あのまま連れ去られて、君の報告が聞けなければ…」

「ま、まさか?」

「いや、そのまさかだ」

「そんな!

 処刑って本当に一方的にするんですか?」

「普通はそうしないさ

 しかし奴等の慌てよう…」


ルイスの言葉に、今さらながらジョンソンは唾を飲み込む。

ルイスが止めなければ、処刑されていた可能性があると言うのだ。

しかも弁明の場も持たずに、そのまま殺されていた可能性があった。

そう考えれば、ルイスに話を聞いてもらえたのは運が良かった。

あれが無ければ、彼はそのまま処刑されていただろう。


それもルイスやジョンソンが考える様な、生易しい状況では無かっただろう。

彼等は既に、何人もそうやって処刑していたのだ。

そして処刑した者から、私財を奪っていた可能性もある。

明らかに衛兵の給金では、出来ない様な贅沢をしていたのだ。

その事は他の衛兵達から、領主にも報告が入っていた。


「奴等の行動は、以前から怪しかったんだ」

「しかし先ほどの様子では…」

「ああ

 どうせどこぞの貴族と、繋がりがあるのだろう」

「それではルイス隊長が…」

「大丈夫さ

 こっちには領主様がいらっしゃる」

「しかし…」

「並みの貴族なら、領主様の方が立場は上じゃ」


ルイスはそう言うと、愉快そうに笑っていた。


「奴等が何か企もうと、こっちは領主様がいらっしゃる

 大丈夫さ、はははは」

「そう…ですかね…」


ジョンソンの家は裕福で無い、地方の平民の出だった。

父親を早くに亡くして、母親に女手一つで育てられていた。

それで稼ぐ為に、王都に向けて上京していた。

結局は王都では職に就けなかったが、セントールズで兵役に受かった

だからこそ、貴族が恐ろしい者だと感じていた。


そしてその考えは、半分当たっていた事になる。

彼等は愉しみを邪魔された事と、自分達の思い通りにならない事に腹を立てていた。

そこで懇意にしている、男爵に面会に向かった。

あの生意気な警備隊長と、兵士を処罰する為に。

男爵にある事無い事話して、強力を仰ごうとしたのだ。


そんな事になっているとは知らず、ルイスは領主の館に入る。

ここの領主である子爵は、長年の友を歓迎して迎え入れる。


「よう、ルイス

 さっそく何か掴んだか?」

「ああ

 例の兵士達に、さっそく会って来た」

「ほう!

 それは早いな

 それで、その若者は?」

「ああ

 まさに獲物になっているところだったのさ」

「ほう…

 あいつ等め…」

「あのう…

 獲物って?」


ジョンソンは恐らく、自分の事を話していると気付いていた。

しかし獲物の意味が分からず、素直にルイスに尋ねる。


「彼には?」

「まだ詳細ははなしていない

 しかし自分の身が危なかった事ぐらいは、理解していると思う」

「ううむ…」


子爵はジョンソンを見て、暫し何事か考える。


「文字通りの意味だ

 奴等は既に、何人か平民を殺害した容疑が掛かっている」

「殺害って…」

「私財を奪う為と…」

「憂さ晴らしですね

 奴等魔族優勢主義に染まっている」

「魔族優勢主義?」

「ああ

 我等魔族が、この世で最も優れた種だという主義だ」

「それは一体…」


一般の兵士には、いや平民にはあまり知られていない事だった。

魔族が優秀という考えは、一部の貴族と兵士に浸透している。

それは獣人と戦う上で、兵士の士気を上げる効果があった。

だから兵士達には、浸透しつつある思想だった。


「人間もだが…

 獣人も我々魔族に比べると弱い」

「弱い?

 獣人がですか?」

「ああ

 昔は兎も角、今の獣人は弱体化しておる」

「今の獣人共は、身体強化しか使えない

 魔法も使え無ければ、武器も満足に扱えない

 これではワシ等よりも弱いと言われても仕方が無いじゃろう?」


数十年前までは、獣人達も多少の魔法を使う事が出来た。

しかし長く続く魔族との境界戦争で、その能力は弱体化の一途を辿っていた。

接近戦による武器での攻撃が、彼等の持ち味だったのだ。

それがここ数年では、急速にその数を減らしていた。

特に魔力の低い者が多く、魔族に勝てないのもそれが理由だった。


「理由は分からんがな

 獣人共は力を失いつつある」

「それで勘違いした若い世代は、魔族優勢主義に囚われている」

「そんな…

 何でです?」

「愚かしい事じゃな」


子爵はそう言って、溜息を吐いていた。

子爵としても、その思想には反対だった。

しかし魔族の大半が、この思想に影響されつつあったのだ。

それが今の魔族の現状だった。

まだまだ続きます。

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