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聖王伝  作者: 竜人
第二十章 女神の神殿
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第675話

エルリックは港に入ると、さっそく司令官に面会をする

彼は男爵の直属の部下であり、実質ここを取り仕切る指揮官だった

普段はフランシスやエジンバラから来る船の寄港地である

しkしもう一つの重要な役目は、軍船を管理して実質王国の海を守る拠点である

港にある二階建ての建物が、ここの拠点である

領主の館は別にあり、ここで海から来る船を見張っている

港には軍船が3隻泊めてあり、他にフランシスから来た船が泊っている

それを眺めながら、エルリックは司令官を待っていた


コンコン!

「失礼します」


兵士が入って来て、司令官と初老の男が入って来る。

彼がここの領主であり、ギルバートの叔父に当たるロペス男爵であった。

ジェニファーの実弟であり、ギルバートにはあまり似ていない。

ガッシリとした軍人らしい男で、司令官よりも実力は上に見えた。


「エルリックです

 今回はアーネストの代わりに来ました」

「使者はまだ戻っておらんが?」

「私が転移で来ましたので」

「転移?」

「失われた転移の魔法でしょうか?」


司令官がこっそりと、領主に耳打ちする。

エルリックは聞こえていたが、気付かないふりをして話しを続ける。


「腹の探り合いをする時間も惜しいので…

 私はハイエルフであり、女神様の使徒です」

「な!」

「女神の使徒だと?」


兵士達は身構え、司令官も思わず剣に手を伸ばす。

彼等も散々、偽の女神に魔物を送り込まれている。

警戒されても仕方は無いだろう。

仕方は無いのだが、エルリックは溜息を吐いて肩を竦めた。


「ここにも話は届いているでしょう?

 あれは女神の予備端末であった、偽の女神です」

「しかし貴殿は…」

「止さんか!

 アーネスト殿がその様な者を寄越す筈も無かろう?」

「しかし…」

「今ではアーネスト殿が、実質の国王の名代

 それに使徒殿と言えば殿下の…」

「ええ

 イーセリアの兄でもあります」

「兄?

 しかしイーセリア様といえば、確かまだ少女で…」


「ハイエルフと…

 仰ったな」

「ええ」

「そうなるとイーセリア様も?」

「ええ

 あの子は精霊の女王でもあります」

「精霊の女王

 昔母に聞いた物語にあったな

 しかしそれにしては…」


エルリックの老け様を見て、男爵は眉を顰める。


これでは年の差があり過ぎでは?


「イーセリアは訳あって年よりも若いままなのです」

「それでは御身は?」

「既に260を越えております」

「ふむ

 それならばその容姿も納得か」

「男爵!」

「黙っておれ

 260歳ともなれば、この方も王国の被害者じゃぞ

 ワシ等は詫びねばならぬ立場にある」

「王国?」

「ああ

 過去に魔導王国と戦争があった

 この地も戦火に巻かれて、妖精の国が攻め滅ぼされたと聞く

 それを考えれば…」

「え?

 妖精の国ですか?」

「ああ

 彼はその国の王子で、イーセリア様はその女王という訳だ」

「はあ?」

「さすがですね

 頭は切れる様で安心しました」

「はははは

 ワシは殿下のお話を聞いて、いつかこうなるのではないかと思っておった

 ワシ等の祖先が、貴公の国にした事

 申し訳なかった」


そう言って、男爵は深々と頭を下げる。


「へ?

 え?」

「良いんです

 気にしてない…といえば、嘘になりますが

 あなた達に責任を問うつもりはありません」

「しかし攻め込んだ事は事実

 それだけは謝罪したい」

「真面目なんですね

 まるでギルバートの様だ」

「甥っ子か」


男爵はそう言いながら、苦笑いを浮かべる。


「過去の事は今…

 水に流しましょう」

「それでは謝罪を…」

「今はそれよりも、この先を見るべきです

 違いますか」

「う、うむ…」


エルリックとしては、いい加減この手の話は嫌だった。

ギルバート達と旅してから、彼の考えや価値観も変わって来た。

それでもう、過去の事は忘れようとしていた。

それに今は、それよりも重要な事があるのだ。


「今は義弟の…

 ギルバート達の事を探す事が重要です」

「甥っ子…

 殿下の所在が分かったのか?」

「いえ

 しかしこの大陸には、既に手掛かりがありません」

「この…大陸?」

「ええ

 ですから考えられるのは…」

「まさか!

 暗黒大陸?」

「ええ

 船乗りがそう言って恐れる、魔の海峡の先の大陸

 そこを調べるべきかと」

「しかしここからでは…」

「そうです

 我が国の軍艦でも、あの海峡を渡る術は…」


エルリックの言葉を聞いて、男爵は明らかに顔色を変えていた。

彼ほどの男でも、やはり魔の海峡は恐ろしいのだろう。

そもそも屈強な海の男達が、魔の海峡と恐れる場所なのだ。

それは船乗りにとっては、忌むべき危険な場所だった。


「渡る術は後でよろしいでしょう

 それよりも先ずは、彼等の痕跡があるかです」

「むう?」

「向こうから来た男が居るんでしょう?」

「向こう…から?」

「あ!

 男爵、あの男ですよ

 例の嵐の後に見付かった」

「まさか?

 あの男が魔の海峡の向こうから?」


男爵達は、男の素性には宛が無かった。

回復してからの様子で、どうも海の事は分かっている様子だった。

しかし言葉が通じないので、意思の疎通が出来ないでいた。

そもそも聞いた事も無い言葉で、彼等には理解出来ないでいたのだ。


「あの男が…

 海の向こうから?

 しかし船があったという報告は…」

「そうですな

 しかしアーネスト殿は、彼が魔の海峡を渡ったとお考えで?」

「ああ

 恐らく私ならば、その言葉が分かるのではないかと」

「おお!

 そういえばあなたは、長命な森の妖精でしたな」

「はははは

 その名はどうも慣れないな」


司令官に案内されて、エルリックは件の男に会いに向かった。

男は身体の消耗も癒えて、彼等の仕事の手伝いをしていた。

操船は出来ないが、網の手入れなどはとても上手だったのだ。

それで漁に出る船の手助けをしていた。


「ケッパ!

 クシャナ!

 クシャナ!!」

「あー…」


しかし男はエルリックを見ると、怯えて漁師達の後ろに隠れてしまった。


「クシャナ、コウサ、アルムンザ」

「アデニエ、クシャナ!

 アデニエ!」


エルリックは先ず、姿勢を低くして相手に敵意の無い事を示す。

その上で聞き慣れない言葉で、男に語り掛けた。

しかし男は首を振りながら、いやいやと漁師の後ろに隠れる。


「あの男は何と?」

「いやあ…

 ははは…


エルリックは困った顔をして、司令官の方を見ていた。


「コウサ、アルマンデ

 クシャナ、アルマンデ」

「アデニ…

 アデニエ!」


暫く男は、首を振りながらエルリックを睨んでいた。

しかしエルリックは、根気強く何度も呼び掛ける。

その内に男は、恐る恐るといった感じで出て来る。

それから異国の言葉で、エルリックと話し始める。

エルリックは暫く頷きながら、男の話を真剣に聞いていた。


「一体何の話を?

 彼は何と言っておるんじゃ?」

「この言葉は…

 やはり古代王国語に似ていますね」

「古代王国?」

「ええ

 昔ここより東を治めていた、大きな国が在りました」

「魔導王国じゃな?」

「いえ

 その前身に当たる、帝国でしょう」

「帝国?」

「聞いた事がありませんね」

「ええ

 魔導王国に滅ぼされ、その痕跡は残っていないと聞きます

 しかし一部の文字が酷似してまして

 何よりも独特の単語が特徴的で…」

「それで…

 彼は何と言っておるんじゃ?」

「参りましたな…

 ここではちょっと…」

「うむ

 それでは場所を変えるか」


エルリックは、再び司令官の執務室に移動する。

そして男と共に腰を下ろすと、司令官と男爵に話を始めた。

男はオドオドしながら、エルリックの隣に腰掛ける。

そうして座ってからも、落ち着かない様子だった。


「先ずは彼は、奴隷の身であります

 それでここでの安全を説明したいんですが…」

「奴隷?

 しかし我が国では奴隷制は無いのだが…」

「ですが彼のこの…」


エルリックはそう言って、男の身体のあちこちに刻まれた刺青の様な物を指差す。

それは独特な色彩で、彼の身体のあちこちに刻み込まれていた。


「これが厄介でしてね」

「ん?

 刺青の事か?」

「いえ

 これは奴隷紋なんですよ」

「奴隷…紋?」

「ええ

 魔法で全身に刻み込まれています

 それで船乗りたちの…」

「ああ

 度胸を示す為の刺青を見て、仲間だと思ったのか?」

「ええ」

「それなら心配要らん

 この国では奴隷制なんぞ無い

 それに言葉が通じる様になれば、職や身分も与えるつもりじゃ」

「ええ

 その様にお願いします」


エルリックは頷き、領主の言葉に感謝する。

それから男に、その事を翻訳して伝えてやる。

男は最初驚いていたが、意味を理解すると繰り返し感謝して頭を下げる。

どうやら再び、奴隷として扱われると思っていたのだろう。

そうでないと分ると、安心している様子だった。


「しかし彼は…

 奴隷の身でありながら、何でこの地に?」

「そうですよね

 何だって海を流されて来たんですか?」

「それが…

 実はですね…」


エルリックは言い難そうに口籠った。


「それを説明する前に、彼が何で私を恐れていたかです」

「うむ」

「そういえば、随分と怖がっていましたね」

「ええ

 どうやら私の事を、魔族と思ったらしくて」

「魔族?」

「ええ

 暗黒大陸では、魔族が主に住んでいる様です

 それで私の事を、その魔族だと思ったらしくて…」

「まさか!

 恐れていたのはその所為か?」

「ええ、そうですね

 連れ戻しに来たと思ったらしくて」

「しかし何故じゃ?

 何故そんなに恐れる?」

「それがどうやら…

 向こうでは人間は、魔族の奴隷みたいです」

「っ!」

「何じゃと?」


男から聞いた事は驚くべき事実だった。

暗黒大陸では、魔族と魔物、そして獣人が支配している。

人間はその魔族や獣人に、ペットの様に扱われているらしい。

彼は漁に出る魔族に従い、海に船で出ていた。

そこで魔物に襲われて、船は沈んでしまったらしい。

彼は何とか寄せ集めの木材で、筏を作った。

しかしそこで意識を失い、気が付けばここで助けられていたという事だった。


「むう…」

「魔族や獣人が支配する国」

「随分と違った世界じゃのう…」

「しかし人間が奴隷とは…」

「純粋な力では、魔族や獣人の方が上ですから

 人間では敵いませんよ」

「そうなのか?」

「ええ

 しかしそこへ最近、魔物が活性化して襲って来たみたいです

 さすがの魔族や獣人達も苦戦している様です」

「まさか!

 例の偽の女神が?」

「ええ

 多分…」


こちらの大陸から、偽の女神は逃げ出す事にした。

恐らく向こうの大陸で、分体のボディーが置いてあったのだろう。

そして力を着ける為に、向こうで魔物による侵攻を始めたのだ。

再びこの大陸で、魔物の侵攻を行う為に。


「それでは今、あの偽者は暗黒大陸に?」

「それで間違い無いかと思います」

「むう

 向こうで魔物を増やし、再びこの地に攻め込むつもりか?」

「恐らくそうでしょう…」

「それでは殿下も?

 確か偽者と消えたと聞いたが?」

「その可能性は十分にあります

 しかしもう少し詳しく聞かなければ」

「そうじゃな

 彼が知っておれば良いのじゃが…」


彼はあくまでも、魔族の奴隷でしかない。

身分も高く無いので、向こうでの政情は詳しく無いだろう。

しかし噂ぐらいは、何か聞いているかも知れない。

後はエルリックが、彼から詳しい話を聞くしか無かった。


「しかし…何でじゃ?

 魔族とはそんなに…エルリック殿に似ておるのか」

「ああ…

 いえ、似ているというか

 強い魔力を持っている上に、この耳が見えた様子で」

「耳?」

「ええ

 向こうには私の様な、エルフは居ないみたいですね

 それで魔族の特徴である尖った耳と高い魔力を持つ、それで勘違いをしたみたいです」

「なるほど

 森の妖精は住んで居らぬのか」

「みたいですね」


「ザウル、ペッメ」

「ああ

 ここはクリサリス聖教王国…

 ペル、クリサリス、アドラミル、ホスホイ」

「ん?

 そういえばここに来た時も、彼は繰り返しそう言っていたな」

「ええ

 ここは何処かって言葉です」

「なるほど…

 見知らぬ土地だからな…」

「不安じゃったのじゃな」


男は暫く、クリサリスとアドラミルを繰り返し呟いていた。

その言葉が、恐らくこの地を示す言葉なのだろう。

そんな彼の様子を見ながら、エルリックはふと溢していた。


「私は…

 生きる気力を無くし掛けていました」

「む?」

「エルフは長命の種ですが、生きる気力を失うと急速に老います

 そうして寿命を迎えます」

「エルリック殿?」

「私はイーセリアを

 妹を失ったと思って悲観していました」

「それは…」

「いくら探せども…何も見付からない

 いつしか希望を失い、生きる気力も失っていました」

「ぬう…」

「しかし私は、再び生きる目標を見出しました

 小さいながらも光明が見えたのです

 まだ…死ぬ訳にはいきません」


エルリックの顔は疲れ果てた様に老いていたが、その目はまだ死んでいなかった。

暗黒大陸に女神の分体が居るのなら、ギルバート達もそこに居る可能性が高い。

それならばどうにかして、彼等を迎えに行く必要がある。

彼は再び、自分の生きる意味を見出していた。

そう思えば、身体に沸々と気力が湧いて来ていた。


「しかし…どうするんじゃ?」

「方法は後で…何か考えます

 それよりは先ず…」


エルリックは男の方を見ていた。

彼がその道を切り開く、鍵を握っている筈だ。


「先ずは彼の話を聞いて、向こうがどういう世界か知る必要があります

 渡る手段はそれからで良いでしょう」

「うむ

 休む部屋は用意しよう

 貴殿は引き続き、彼の話を聞いてくれ」

「はい」


エルリックはそう言って、感謝の気持ちを込めて礼をする。


待っていろよ

必ず私が行くから


エルリックはそう決意していた。

これで幕間となる閑話は終わりです。

次から二部である新章が始まります。


まだまだ続きます。

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