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聖王伝  作者: 竜人
第二十章 女神の神殿
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第671話

エピローグ

そして物語の終幕へ…

アーネストは、天幕から朝早く出て来た

昨日は疲れと安心感があったのだろう

思わず不安になっている、兵士達に怒鳴り付けてしまった

失敗を恥じる様に、アーネストは野営地の真ん中に向かう

そこでは焚火の前に、多くの兵士が集まっていた


「おはよう

 何をしているんだ?」

「アーネスト様」

「おはようございます」

「昨晩はすみませんでした」


集まっていた兵士のほとんどが、昨晩アーネストに不満を漏らしていた兵士達だ。

彼等はアーネストに謝りたくて、ここに集まっていたのだろうか?


「いや

 昨晩はオレも、頭に血が上っていた

 すまなかった」

「頭をお上げください」

「考えてみれば、アーネスト様は殿下の親友ですものね」

「一番心配しておられたのは、アーネスト様ですものね」

「おい

 そんなに言うなよ…」


アーネストは照れて、顔を赤らめながら俯く。

普段は軽口を叩いては、ギルバートと喧嘩をする事もあった。

しかし幼馴染として、親友としていつも側に居た。

そんなギルバートに対して、彼が心配する事は当然の事だった。

そしてそれを、面と向かって言われると、とても恥ずかしくなっていた。


「あれ?」

「アーネスト様が照れている?」

「いつもは傍若無人なのに」

「おい…」


アーネストの肩が、一瞬だがピクリと反応する。


「殿下にも噛み付いて…」

「それでも平然とされているのにな」


ピクピク!


「そもそもアーネスト様は、夜もはっちゃけるらしいぞ」

「子供もすぐに作られたからな」

「あの顔でフィオーナ様に愛を囁く?」

「オレ達には無理だな」

「貴様等!」

「はははは」


アーネストが怒って、顔を真っ赤にしていた。


「顔は関係無いだろうが」

「冗談ですよ」

「そうそう

 やっといつものアーネスト様らしくなられた」

「その方が我々も、気安く話せるんですよ?」

「ほう…」


アーネストの視線が細まり、顔が悪い事を企んでいる顔に変わる。


「あ…」

「おい

 マズいぞ」

「お前達、よほど訓練が好きみたいだな」

「いえ、決して…」

「そうですよ

 これはアーネスト様に謝ろうと…」

「これから交代で寝ますんで」

「そうか…」


アーネストはいつの間にか、杖を手にしてクルクルと回していた。

ここで間違った返答をしていれば、何らかの魔法が飛んでいたのだろう。

兵士達はそれではと、挨拶をして休息を取りに向かう。

その背中に向けて、アーネストはボソリと呟いた。


「王都に戻ってからの…

 お楽しみだな」

「ひえええ」

「勘弁してください」


兵士達は蜘蛛の子を散らす様に、各自の天幕へ向けて駆け出した。

アーネストはその様子を見て、満足そうに頷く。

本当は素直に、兵士達の謝罪を受けても良かった。

しかし兵士達が、悪乗りをするので懲らしめる事にしたのだ。


それに…

フィオーナの事を引き合いに出されるのは困る


アーネストは気付いていないが、彼の顔はそこそこ整っている。

そして貴族でもあるので、彼の隠れファンは多かった。

その事で兵士達も、多少私情が挟まっている。

美男美女の夫婦なので、嫉妬の対象なのだ。


しかしアーネストは、魔導士でありながら貴族でもある。

こした状況で兵士に舐められるのは、色々と問題がある。

だから釘を刺せる事は、しっかりと締め付ける必要がある。

まだ王都まで、帰還する任務が残っているからだ。


アーネストは周囲を見回し、兵士達が仕事に戻ったのを確認する。

ここはアモンの居城だが、今では安全とは言い切れない。

アモンは亡くなり、偽の女神も未だに健在なのだ。

暫く魔物は姿を見せていないが、安心だと過信できなかった。


アーネストは朝食の用意をしながら、周囲を何となく見回す。

ハイランド・オーク達が、周囲を見回りながらアーネストを見ている。

先程のやり取りを見ていた者は、ニヤニヤ笑いながら会釈をしていた。

アーネストは、その内の一人を手招いた。


「どうしました?」

「なあ

 お前達の移住の希望なんだけど」

「ああ

 あの話ですか?」


アーネストは申し訳無さそうに、ハイランド・オークと話す。

彼は一緒に着いて来た者の一人で、王都への移住を持ち掛けていた者だ。

ギルバートは彼等に、王都に住んで欲しいと願っていた。

魔物の中にも、人間と共存出来る者が居るのだ。

その事を彼等で、王国の者達に示したかったのだ。

しかしそれには、様々な問題が山積みだった。


「王太子殿下も行方不明

 それにあなた達の国も安定しておらんのでしょう?」

「そうなんだよな

 ギルが居なくなった以上…」

「構いませんよ

 確かに魅力的な申し出ですが…」

「いや、必ず実現させる

 お前達は何も悪く無いんだ」

「それはそうでしょうが…

 私達は所詮、魔物なんですよ」

「だからこそだ!

 魔物だなんて蔑称も、過去の人間が勝手に着けたものだ」

「そうでしょうが、普通の人間では…

 私達は恐ろしい魔物ですよ?」

「そんな事は無い!」

 お前達の様な者も居るんだと、王都に居るみんなにも紹介したいんだ」

「それは嬉しい申し出ですが…」

「ここで待っていてくれ

 必ず迎えに来るから」

「分かりました

 どうせ私達は、この城から離れたくありません」

「すまない…」

「いいえ

 気長に待っていますよ」


ハイランド・オークは、アーネストに片手を差し出す。

二人はそこで、固い握手をして約束する。

いつの日にか彼等を、王都で共に暮らす為に招くと。

その為には先ず、王都に無事帰還する必要がある。

事の顛末を、王都で待っている者達に報告しなければ。


「報告か…」

「え?」

「いや、何でも無い」


アーネストの胸中には、嘗ての何気無いやり取りが思い起こされていた。

なかなか報告しないギルバートに、アーネストが怒った事だ。

しかもアーネストが知らない、重要な事も報告していなかった。

それでギルバートに、ホウレンソウを守れと怒った事がある。

それを思い出し、少し感傷的になっていた。


それに王都では、彼等の事も話さないとな

偽の女神も重要だが、それと関係無い者達も居るのだ


今のままでは、彼等も危険な魔物として扱われるだろう。

狂暴化している訳では無いのに、他の魔物と一緒に扱われてしまう。

それでは友好的に受け入れる事も難しいだろう。

出来る事なら、元凶である偽の女神を探し出して討伐しておきたい。

しかし先ずは、王都に戻る事が先決だ。


アーネスト達は、戦いで兵士達の負傷した治療を行う。

これまでの帰路では、安心して治療の出来る場所は無かった。

獣人の集落でも、治療はある程度済ませてはいる。

しかしそれは、馬車での旅に耐えられる程度の応急処置だった。


この地でハイランド・オーク達に見張りを任せて、重傷者の手当てを行う必要がある。

ここから王都までは、まだまだ距離がある。

そして、魔物の目撃情報が少なくなったとはいえ、この先の森は魔物が多く潜む場所なのだ。

兵力の減った今では、そこを無理して突っ切るのは困難なのだ。


2週間ほどして、ようやく怪我人達の容体も安定して来た。

今戦える者は、兵士が一個部隊50名と生き残りの8名だった。

他にも騎兵が、6名戦える状態に回復している。

しかしその他の者は、腕や足を失ってまともに戦える状態では無かった。


馬車に載せられた怪我人は、それでも12名しか居ない。

他は女神の神殿で殺されたか、その後に傷が悪化して亡くなっていた。

彼等の遺品は、髪等の運べそうな物が収められていた。

中には原型を留めていない者も多く、階級章や鎧の一部等が収められた者もいる。

そうした遺品も、馬車に一緒に載せられた。


「それじゃあ、オレ達はこれで…」

「ああ

 私達はここで待っている

 いつまででも…」


アーネストや兵士達は、ハイランド・オーク達と固く握手を交わした。

それから馬に乗り込み、一行はカザンに向けて出発する。

季節はあれから、半年近く過ぎている。

山の一部は紅葉して、色鮮やかな茜色をしていた。

それを眺めながら、アーネスト達は南に向かう。


「魔物が…」

「居ませんね」

「どうしたんでしょうか?」

「むう…」


警戒をしていたが、魔物の姿は見当たらなかった。

アーネストは不安を感じて、兵士達に確認を取る。


「ここ最近は、カザンからの早馬は無かったのだな?」

「え?

 はい」

「前に来た時も、特に問題は無いと…」

「そうか…」


「アーネスト様?」

「ここで早馬を送り、そのまま王都に向かうぞ」

「え?」

「しかし…」

「何も無ければ…

 それで良い

 しかし何か起こっているのなら」


兵士の誰かが、ゴクリと鍔を飲み込んだ。

確かにこの状況は、あまりにも不自然だった。

少なくともこの森には、多くのゴブリンやコボルトが居た筈なのだ。

それが今や、獣が出て来る気配すらなかった。

アーネストが警戒して、王都に急ぐのも納得が出来る。


「それならオレが!」

「オレも一緒に向かいます

 二人ならどちらかが…」

「馬鹿!

 そんな悲観的な考えは止せ」

「でも、アーネスト様が…」

「むう…」


「兎も角

 こちらの報告書を頼む」

「これは?

 オレが何の為に認めておいた

 今回の顛末が簡潔に記されてある」


アーネストは魔法で、書状の文言をもう一つの書簡にも書き写す。

こうした時に、文書を書き写す魔法は便利だった。

それを二人に一つずつ渡すと、彼等に一言だけ命じた。


「良いか

 死ぬなよ」

「はい」

「カザンの無事を確認したら、書状を渡すんだ

 そうで無ければ、そのまま王都に向かえ」

「え?」

「よろしいのですか?」

「ああ

 カザンがどうなっていようと、大切なのはお前達だ

 簡単に命を…

 投げ出そうとするな」

「はい」


「王都で先に待っている」

「気を付けてな」

「生きて帰って来いよ」


兵士達は拳を打ち付け合って、暫しの別れを告げる。

二人は馬に乗り込むと、そのまま南に向かって駆け出した。


「さて、問題は…」

「魔物が居ない事が、却って不気味ですね」

「ああ…」


ゴブリンやコボルトなら、今の兵士達でも十分に戦えるだろう。

いや、数体のオーガでも、彼等は勝つ事が出来る筈だ。

ハイランド・オークの下で、彼等はその身を鍛えていたのだから。

しかし問題は、それ以上の魔物が放たれていた場合だ。


「ギガースや巨人の様な魔物が放たれていたら…」

「それは何です?」

「ギガースも巨人だ」

「オーガより大きく、危険な魔物だ」

「巨人の方がマシだな」

「ひええ…」

「そんな魔物が?」


生き残りの兵士や騎兵達は、ギガースを知っている。

少数なら何とかなりそうだが、群れならアーネストが居ても危険だ。

追い返す事すら難しいだろう。


「しかしじっとしていても、王都には帰れない

 進もう」

「はい」

「女神様

 我等をお守りください」


マリアーナは、亡き女神に旅の無事を祈る。

これが以前なら、六大神に祈りを捧げていただろう。

しかし今は、女神の真実を知ってしまっていた。

彼女は戦おうとしていたが、それは他の人間達を守ろうとしての行為だ。

彼女はあくまでも創造主として、女神として人々を守ろうとしていた。


その祈りが…

あの女神様に届けば良いが…」


「行くぞ」

「はい」


アーネスト達は、馬車と馬を駆って前に進む。

危険な偽の女神は、今は姿をかくしていた。

そして魔物達も、今では姿を見せなくなっていた。

しかしあの偽者が、このまま引き下がるとは思えない。


今のこの平穏は、嵐の前の静けさに似ていた。

王都が無事である様に、アーネスト達は直走りに走った。

途中で馬の休息が、もどかしく思えるぐらいだった。

しかし休ませなければ、馬たちが持たないだろう。


そうして街道を走って、5日目の昼が過ぎようとしていた。

彼等の眼前には、遠くに王都の城壁が見えて来ていた。

それは出発した時と、変わらない佇まいを見せていた。


「あれが城壁か?」

「ああ」

「随分と小さいのう」

「あれでも人間の技術では、十分に大きいのだが…」


馬車に同行していた、ドワーフ達が顔を覗かす。

王都の城壁は、遠目に見ても損傷は見受けられなかった。

しかしドワーフ達の言う様に、これから先は大きく頑丈にする必要がある。

ギガースの様な魔物が、攻めて来てはもたないだろうから。


「先ずは帰還してからだ

 それからドワーフの…」

「ああ

 ワシ等の腕を見せてやる」

「ギルバート殿に見せてやれないのが残念じゃがな」


ドワーフ達はそう言って、自分達の腕を叩いてみせる。

ここまで何とか、魔物の群れに見付かる事は無かった。

しかしアーネストが懸念した通り、周辺の魔物の分布は変わっていた。

一度は近くにまで、ギガースらしき巨人が向かって来る事もあった。


王都が無事で良かった

しかし…これからが大変だ


「さあ!

 帰還するぞ」

「おお!」


王都の城壁が見えたので、兵士達の士気も上がっている。


さあ、懐かしい王都への帰還だ

オレ達は戻って来たんだ


兵士達は喜び、涙を流す者も居た。

馬が先頭を走り、王都の城門へ帰還を告げる。

馬車に乗った者達は、その光景を見ながら進んで行く。

懐かしい城門が開き、兵士達が出迎えの為に並ぶ。

そこへ向かって、馬車は進んで行った。


終わった…

いや、これは始まりなんだ

ギルを取り戻して、偽物と戦う為に


アーネストは馬車の御者台に身を乗り出すと、歓迎する人達に手を振って応える。

王都に帰って来たのだと。

これで王太子ギルバートの物語は、いったん終了となります。

まだまだ隠された秘密があり、それは紐解かれていません。

しかしそれは、この先に語られる物語で解き明かされるでしょう。


一旦作品を移して、外伝みたいな物を書いています。

それが終わったら、また書いて行こうと思っています。


読んでくださった方々、ありがとうございました。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

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