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聖王伝  作者: 竜人
第二十章 女神の神殿
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第668話

ギルバートは飛び出すと、一気に魔獣の背後に飛び上がる

そのまま剣を振るって、魔獣を背後から切り刻んだ

魔獣は痛みを感じ無いのか、切り刻まれてもルシフェルを離さない

それでギルバートは、そのまま片方の首を切り落とした

切り落とされた首は、さすがに噛む力は弱まっていた

ルシフェルは何とかして、その首を肩から引き剥がす

しかし魔獣に噛まれた肩は、既に動かせないほどボロボロになっていた

6本あった内の2本が、魔獣に食われて失われている

そして残る4本も、傷だらけで剣も握れなかった


「大丈夫か?」

「あ、ああ…」

「ルシフェル!

 こんなにボロボロに…」

「うる…さい

 はやく…にげ…」

「馬鹿な事を言ってないで

 逃げるのはあなたでしょう

 お願いします」

「任せておけ

 寝起きで絶好調なんだ、相手をしてもらうぞ」

ギャオオオオ


アスタロトはルシフェルを抱えて、何とかその場を離れようとする。

しかしアスタロトも消耗しているので、その足取りは覚束無い。

エルリックとアーネストも駆け寄って、三人で何とか担いで行く。

その間に今度は、ギルバートが魔獣に向かい合っていた。


「むり…やめ…」

「大丈夫だ

 ギルは覚醒したんだ」

「覚醒?」

「ああ

 さっきは死んでいたんだが、息を吹き返した

 それからは見違える様に…」

「ああ

 さっきのはそれで…」


アスタロトは、アーネストの言葉で何となく事情を察した。

しかし今までの経験で、死に掛けたガーディアンが生き返った話は聞いた事が無い。

ましてはそれで、覚醒したなどと言う話もだ。

もし覚醒したのなら、今までが覚醒していなかった事になる。


「そんな馬鹿な…」

「え?」

「何でも無いです」


アスタロトは、そんな筈は無いと思っていた。

この部屋に入って来た時に、ギルバートは十分に強かった。

力もルシフェルに近付いていたし、何よりも魔力だって大きかった。

そう考えるなら、未覚醒でそんな力があるとは思えない。

大方死に掛けた事で、より感覚が鋭くなったのだろうと考えていた。


「うおおおお」

ドシュッ!

ギャオオオ


しかしギルバートは、格段に強くなっていた。

今までも十分に強かったが、その倍以上に強くなっている様に見えた。

魔獣の身体を素早く切り裂き、その回復速度を上回っている。

魔獣は少しづつ切り裂かれて、もう片方の首も刎ねられていた。


「え?

 そんな?」


ルシフェルでも、万全な状態でも片方の首までだった。

それがギルバートは、両方の首を刎ねている。

しかも再生している首を、念入りに切り落としていた。

そしてその攻撃を、息継ぐ間もないほどの速さで行っているのだ。


「そんな…

 ツーヘッド・ドラゴンだぞ?」

「はは…

 ワシを…超えたか…」

「ルシフェル」

「もう喋るな」

「ポーションよ

 これで傷を」

「止せ…

 無駄…じゃ…」

「良いから

 しっかりしろ」


マリアーナがポーションを何本か開けて、ルシフェルの身体に掛ける。

シュワシュワと煙が上がり、ポーションの効果は出る。

しかし傷付いた身体は、それ以上は癒せなかった。


「何でなの?

 上級のポーションなのよ」

「無理なんです

 身体が死に始めているんです」

「良い…じゃ

 手遅れ…ぐうっ」

「そんな」


翼から羽が抜け落ち、身体の一部は崩れ始めていた。

ルシフェルの身体は既に、その限界を迎えようとしていた。

いくらポーションの効果が高くても、死滅した身体までは回復出来ない。

後はもう、そのまま死を待つしか無かった。


「そんな…

 そんなの嫌よ」

「ふふ…

 悲し…な

 これも…さだめ」

「くそっ」


ルシフェルの手当てをする間も、ギルバートは魔獣を切り刻んでいた。

その身体は再生と破壊を繰り返して、徐々に小さくなって行く。


「そんな…

 そんな馬鹿な事があるか?

 あれは厄災の権化じゃぞ?

 あれが消滅するなんぞ…」


パネルの向こうで、偽の女神も驚いていた。

この施設を棄ててでも、ギルバート達を葬ろうと思っていたのだ。

だからこそ危険な、ツーヘッド・ドラゴンを解放したのだ。

しかしその魔獣も、いよいよ最期を迎えようとしていた。


「ここ…か!」

バキン!

ガシャン!


遂にギルバートが、魔獣の核である魔石を打ち砕いた。

核を失った事で、魔獣の再生能力も停まってしまった。

後は身体が崩れて、消滅するだけとなった。


「はあ、はあ…

 ぜえ、はあ…」


さすがのギルバートも、ツーヘッド・ドラゴンを倒すのがやっとだった。

大きく肩で息をすると、その場に座り込んでいた。


「ギル

 大丈夫?」

「あ、ああ…

 何とかな」

「はい

 ポーションを飲んで」

「ぐむっ

 苦いな…」

「ふふ

 良かった」

「はははは…」


ギルバートはセリアの頭を撫でて、ルシフェル達の方を見る。

彼の生命は今、燃え尽きようとしていた。


「認めん

 認めんぞ!

 私の計画を台無しにして!」


偽の女神はパネル越にその光景を見て、悔しそうに地団駄を踏んでいた。

その手元のコンソールには、シークエンスバーが半分を越えようとしていた。


「後少し

 後少しでどうにかなる

 ミハイル!」

「ぐうっ

 があ…」

「まだ抗うか」

「ふははは…

 あの兄者を越える者が…現れたんだ

 諦めろ…」

「うるさい!

 行って奴等を始末して来い」

「ぐぎ…ぎぎ…

 しょうち…しました…」

「お前らも行け」

「はい」


残る翼人や魔族を、全てギルバート達に向かわせる。

その間に彼女は、全てにケリを付けようとしていた。


ズシンズシン!


重たい足音を立てて、ファクトリー内にミハイルが入って来る。

予備電源が入り、施設内の照明が再び点灯した。


「ぐおおおお

 あにじゃ、あにじゃ…」

「ミハイル」

「あれがミハイル?

 本当にルシフェルに似ているな」

「ああ…

 最強と謳われし魔王様が…」

「なげ…くな…

 ワシが…ケリを…」

「何を言っているんです」


ルシフェルは身体を起こすと、起き上がろうとする。

既に朽ちかけた身体の、どこにそんな力が残されていたのだろう。

彼は気力を振り絞ると、ミハイルに向かって進んで行った。


「ああ

 ルシフェル

 あなたはもう既に…」

「止められないのか?」

「無理です

 それにここは…」

「何を…しておる

 ワシに任せ…先に行け」

「しかし、ルシフェル」

「いいか…行け」

「行きましょう

 彼等の決着を邪魔しては悪いわ」

「くっ」


ルシフェルは残った2本の腕で、ミハイルの腕を掴んだ。

ミハイルは洗脳された影響で、自我を半分失っている。

その為に冷静な判断も出来ずに、正面からルシフェルと殴り合っていた。

その間にミハイルの足元から、魔族や翼人の残党が入って来る。

こちらも洗脳されているので、まともな行動が取れていなかった。


「ここは私が食い止めます」

「しかし…」

「良いんです

 彼の最期を看取りたいんです」

「分かった」

「さあ

 死にたい者から掛かって来なさい」


アスタロトは呪文を唱えて、魔族達を攻撃する。

攻撃された魔族達は、そのままよろよろとアスタロトに向かって行く。

最早正常な判断が出来ないので、ただひたすらに掴み掛かろうと向かっていた。

そんな彼等を見て、アスタロトは悲しそうに魔法を放っていた。


「ギル

 大丈夫か?」

「ああ

 まだ少しふらつくが…

 ポーションをくれ」

「これを使って

 体力が回復するポーションよ」

「すまない」


ギルバートはポーションを飲みながら、ファクトリーの奥の部屋に向かう。

暗い通路を抜けた先に、その部屋はあった。

部屋の入り口の上には、女神様の私室よと書かれている。

部屋の周りもよく見ると、ノック・プリーズとか入室禁止とか書かれている。


「相変わらずふざけた内容だな」

「いえ

 これが偽者の仕業なら良いんですが…」

「ん?」

「本物が書いた物なんです」

「はあ?」

「頭が痛くなって来た」


女神の性格は、オリジナルもまともでは無かった。

そもそも予備のボディーに、幼女の身体を用意するぐらいだ。

それもメイドの服や、子供服まで用意しているぐらいだ。

大人用のボディーや服装も奇抜な物が多い。

そんな女神だからこそ、信奉者が多いのも事実なのだが。


「それで?

 あの部屋の中に居るのか?」

「待て!

 その前に話がある」

「ん?」


エルリックはいつになく、真剣な表情をしていた。


「あの部屋の中は、本来は女神様の私室になっている」

「ああ」

「だから誰も入れない」

「そりゃあそうだろう?

 女神様の私室なんだから」

「そう

 例え偽者の女神でも」

「え?」

「でも、中に入っているんだろう?」

「ああ

 それは間違い無いだろう

 世界の声も使われていたしな」

「それじゃあ…」

「むう

 よく分からないでしょう

 もっと分り易く話しなさいよ」

「セリア…」

「いや、そうは言われてもな…」


「ごほん

 誰も入れないと言うのは、勿論比喩的な意味では無い

 本当に入れないんだ」

「おい

 それは…」

「慌てるな

 女神の権限かそれ以上の者でないと…

 入った瞬間に弾け飛ぶ」

「はあ?」

「バン!と文字通り弾け飛ぶんだ」

「だったら何で…」

「お前達が女神様を倒しただろう?

 それで権限が委譲されたんだ」

「そんな…」

「それじゃあこの中には…」

「だから慌てるなと言ってるだろ」

「もう!

 話がながいのよ」

「いや…

 あのう…」


セリアに膨れらて、エルリックは判断に迷う。


「女神かそれ以上と言っただろう?

 実はこの中に、該当する者が二人だけ居る」

「え?」

「まさかそれって…」

「ああ

 先ずは一人は、精霊女王であるイーセリアだ」

「何だって?」

「精霊女王とは、元々はこの世界の住人だった精霊の因子を強く受け継いでいる

 だから女神も、精霊や精霊女王は入れる様にしている」

「そうなのか…」


「ああ

 だからイーセリアが狙われたのも、精霊女王を消したかったからだと思われる

 ここに入られると困ると思ったのだろう」

「セリアが妖精郷から連れ出された件か?」

「そうだ

 あれは偽の女神が、イーセリアの命を狙っていたのだろう」

「許せない…」

「そういう事だったのか」

「ふみゅう?」


ここに来て、エルリックは重大な件を話した。

元々セリアは、妖精郷にかくまわれていた。

それが幼い頃に、こっそりとそこからら連れ出されていた。

それによく考えると、ダーナが再三襲われた事も関係しているだろう。

セリアがそこに逃げ込んでいたから、魔物が差し向けられていた訳だ。


「もう一人ってやっぱり…」

「ああ

 ギルバートがそうだ」

「しかし何故だ?

 オレが女神と同等かそれ以上の権限を持つって?」

「それは覚醒をしたからな」

「覚醒って…

 マーテリアルってやつか?」

「そうだ」

「そうか!

 そういう意味だったのか」

「ん?

 どういう事だ?」

「マーテリアルって言うのは原材料って意味なんだろう?」

「そうだ」

「だからギルバートの中には、そのマーテリアルの血が流れているんだ」

「ん?」


「アーネストの推測通りだな

 私も最近になって知ったんだ」

「それってどういう意味だ?」

「マーテリアルというのは、女神を生み出した存在だ」

「え?」

「アモンが残してくれた映像を見ただろう?

 あの元になった世界の人間が、マーテリアルなんだ」

「何だって!」

「正確に言うと、女神を作り出した者達の遺伝子だな

 それがギルバートに受け継がれている」

「オレの身体にそんな物が…」


ギルバートは驚き、改めて自分の両腕を見る。

この身体の中に、女神を生み出した者達の血が流れている。

だからこそ偽の女神は、執拗にギルバートを狙っていたのだ。

自分の脅威になり得る、ギルバートとセリアの命を…。


「つまりギルもセリアも、この部屋に入れるって事か?」

「そうだ」

「だからあの偽の女神は、ギルやセリアを執拗に狙っていた」

「そうだ」

「それじゃあ帝国が狙われたのは?」

「それはギルバート達を孤立させる為だな

 あの時は女神は、まだ偽者だと確証されていなかった」

「なるほど…

 女神に狙われている事で、人間から狙わせようとしたって事か」

「そういう事だ」

「くそっ!」


ギルバートは怒りを剥き出しにして、女神の部屋を睨み付ける。

ここから少しでも進めば、部屋の中が見えるだろう。

さすがにもう、女神を守る者は居ないと思う。

しかし最後の戦いを前に、万全な準備はしておきたかった。


「それで?

 オレとセリア以外は入れないのか?」

「ああ

 残念だがな」

「くそっ

 オレは駄目なのか?」

「恐らくな

 試しに入ってみるか?」

「遠慮しておくよ

 女神に負けるのなら兎も角、一方的に殺されるのはな…」

「賢明だ

 私も勧めたくは無い」

「なら言うなよ」


「ここで…お別れなの?」

「そうだな

 私達はこれ以上先には、進む事が出来ない」

「悔しいが、試す事も出来ないからな」


「必ず…

 勝って帰って来る」

「ああ

 約束だぞ」

「イーセリア…」

「むう…」


エルリックが何か言いたそうにするが、セリアは顔を背けようとする。

しかしギルバートに背中を押されて、もじもじしながら呟く。


「行ってくるよ…お兄ちゃん」

「イーセリ…むぎゅう」

「やあ!

 抱き着くな!」

「エルリックさん…」

「折角の雰囲気がぶち壊しだ」

「はははは

 では行って来る」

「ああ」


最後に別れの握手をして、ギルバートは扉を潜った。

そこは少女趣味全開なな部屋に、機械があちこちに置かれていた。

予備のボディーや着替えが、部屋の隅に集められている。

およそ片付けが出来ない、散らかった部屋に見えた。

その部屋の奥に、その少女は黙って立っていた。


「別れの挨拶は済んだか?」

「ああ

 お陰様でな」

「では…

 しいでのたびに…

 イザナッテヤロウ…」

ガタガタガタ!

バギン!


女神の声は徐々に歪んで、不気味な太い声に変わる。

そして部屋が激しく揺れて、地面が割れて黒い亀裂が口を広げる。

そのまま三人は、その深い亀裂に飲み込まれて消えた。

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