表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第二十章 女神の神殿
667/800

第667話

女神が倒されて、偽の女神に権限が委譲される

しかしその権限は、メインコンピューターまでは含まれていなかった

メインコンピューターの権限が解放されない以上、彼女には全ての機能は扱えない

精々今まで通りの、最低限の権限しか使えなかったのだ

彼女はコンソールを操作して、必死に権限を解放する方法を模索する

この部屋に入る事が出来た以上、どうにかしてアクセスも出来る筈だ

しかし肝心の、メインコンピューターに繋がるロックが解除出来ない

プロテクトが解けない以上は、各施設を自由には使えないのだ


「くそっ」

バシン!


「くそくそ!」

バシバシ!


何度もコードを変えては、プロテクトの解除を試みる。

しかしコードの認識だけが、どうしても許可されない。

その間にも、竜神機はギルバート達に向かって飛び立った。

先程壊した非常ボタンで、緊急防衛機能が起動したのだ。

竜神機はギルバート達を、危険物として排除に向かった。


「くそ女が!

 よくもよくも!」


少女は呪詛の言葉を吐き捨て、コンソールをバシバシと叩く。

それで通信機能が働き、周囲に世界の声として響き渡る。

彼女が呟く音声が、世界の声として届いているのだ。

しかし少女は、その事に気付かずに悪態を吐いていた。


「女神様

 落ち着いて」

「そうです

 こちらが優勢なんですから」

「竜神機も起動出来ました

 後は順番に、人間の国から焼いて回れば…」


洗脳の効果で自我を半分失った、魔族や翼人達が声を掛ける。

部屋の中には入れないので、入り口から少女を見守っていた。

しかし少女は、怒りに任せて暴言を吐き続ける。


「何で動かない

 何で何で何で!」

「女神様

 起動出来ない以上は…」

「これじゃあ魔物の軍勢は立てられないじゃない

 どうするのよ!

 折角あのクソ女神を壊したって言うのに」

「え?」

「女神様?」


思わず呟いた言葉に、一瞬だが魔族達に自我を取り戻させる。

目の前に居る少女が女神な筈なのに、もう一人の女神を示す言葉を呟いたのだ。

その事で彼等は、目の前の少女に疑問を抱く。

それで少しだが、自我が戻り始める。


「あ!

 ああ…

 今のは無し」

「え?」

「どうい…

 ぐぎが…」


少女は再び洗脳を強化して、何とか黙らせようとする。

その結果として、数名の魔族と翼人が自我を壊された。

ミハエルの騎士であるアリアンロッドも、その影響で自我が壊れかける。


その後も竜神機の、収音機で拾った音声に怒声を上げる。

そうしなければ内情もバレないのに、彼女は冷静さを欠いていた。

結果として、ファクトリーが現在は使えない事が分かった。

一番の懸念は、各地のファクトリーが稼働する事だった。

そんな事が起これば、地上は魔物で溢れてしまうからだ。


「どうやら権限は奪えたものの、ファクトリーは使えなかったみたいですよ」


それはギルバート達にとっては、僥倖であった。

これで安心して、偽物の女神を倒しに向かえるからだ。

そうしてギルバート達は、ファクトリーに向かって侵入した。

魔物を倒しながら、その奥まで進んで行った。


後少しまで進んでいたのだ。

ファクトリーの電源を落として、後は偽の女神を倒すだけだった。


「ねえ…

 ギルが…冷たい」


ファクトリーの電源ケーブルを、ギルバートは切断した。

ファクトリー内は真っ暗になり、放電する明かりでセリアはギルバートの元へ向かう。

しかしその身体に触れても、ギルバートは動かなかった。

その身体は冷たくなり、身動き一つしなかった。


「え?

 何を言って…」

「セリア

 こんな時にそんな冗談は…」

「ううん

 冷たくなって…

 動かないの…」

「はあ?

 そんな馬鹿な!」


しかしエルリックが触れても、ギルバートは冷たくなっている事が確認出来る。

その身体は動かず、既に冷たく硬直していたのだ。


「ぎる…

 ねえ、うそだよね?」

「いや…

 そんなの嫌よ!」

「そんな筈は無い

 そんな筈があるか!

 イーセリアを、妹を幸せにするんだろう?」

「ぎう…」


セリアは大粒の涙を流して、ギルバートの身体を揺さぶる。


「おい!

 何やって…」


アーネストも近付くが、その姿を見て愕然とする。

既に目は瞳孔が開いて、口も半開きになっていた。

どう見てもそれは、既に絶命している様に見えた。


「おい!

 動けよ!

 返事をしろよ!」


エルリックも揺さぶるが、ギルバートの身体は硬直したままだった。


「う…そだ…ろ」


アーネストはふらふらと、ギルバートの身体に近付く。

そのまま抱き締めると、亡くなった親友の名を叫んでいた。


「ギル!」

「ぎう

 うわあああん」


セリアも泣き出し、ギルバートの身体に抱き着く。


「何だ?

 どうしたんだ?」

「それ…どころ…」

「ああ

 くそっ!」

グギャオオオ


ルシフェルとアスタロトも、その慟哭は聞こえていた。

しかしルシフェルは、未だにツーヘッド・ドラゴンに噛まれていた。

アスタロトが魔法で攻撃するが、大したダメージにはなっていない。

どんなに気付付けても、その身体がすぐに再生されるからだ。


しかもマズい事に、今はルシフェルの魔力を吸っている。

その魔力を糧にして、魔獣は再生を繰り返していた。


「うぬう…」

「ルシフェル!」

「ワシも…

 さすがに…」

「くそっ!」


ギルバートは真っ暗な闇の中に居た。

それは電気が消えた訳では無く、文字通りの真っ暗な世界だった。

そこには何も無く、ただ暗闇だけがあった。


「オレは…」

「何だよ

 もう来ちまったのか?」


ふと耳に、懐かしい声が聞こえる。


「ギルバート?」

「おう

 元気にしてたか?」

「元気って…」

「あ…

 そうだな、死んだ奴に元気って…」

「死んだ?

 オレは…死んだのか?」

「ああ

 ここは死んだ奴が居る、魂の世界ってやつさ」

「魂の世界?

 それじゃあ!」

「ふむ

 お前まで来てしまったか」

「くっ

 ワシが生きておれば…」

「親父達が生きてても、何にもならんだろう?

 ギルが死んだんだぜ?」

「それはそうじゃが…」

「父上!

 それに国王様も…」

「馬鹿者

 お前の父はそっちじゃ

 ワシは父では無い

 いや…父親として何も出来なかった者じゃ」

「親父…」


アルベルトの言葉に、ギルバートは悔しそうに口を紡ぐ。


「いや、ワシの息子はこっちのギルバートで

 お前は本当はアルフリートで…」

「何じゃかややこしいのう」

「はははは

 みんな元気そうで何よりだ」


ギルバートはそう笑って、暗闇を声がする方に向く。

しかし真っ暗で、何も見えて来ない。


「真っ暗だ

 本当に何も見えない…」

「そうじゃな

 目も耳も無いんじゃ

 当然と言えば当然じゃな」

「父上…」

「じゃからお前の父親は…」

「そんな事はどうでも良いわい

 それにしても…

 何があった?」

「実は…」


ギルバートはこれまでの事を、掻い摘んで話す。

ここでは時間の感覚が無いので、ゆっくりと話す事が出来た。


「ほう…

 お前に子供が」

「はい

 セリアとの間に…」

「何?

 あの時の…

 そうか、イーセリアがお前とのう…」

「ええ

 彼女を残してしまった

 オレが先に逝くなんて」

「ははは

 どうせ女神様が亡くなられたんじゃ

 この世界は終わりじゃろう」

「そうですね…」


暫しの沈黙の後、ギルバートは質問をする。


「ところでみんなは、何でこんな所に?

 今は何をしているんですか?」

「何も?」

「何も無い所じゃ

 何もしようも無い」

「え?」


言われてみれば、ここには何も無い。

ただ虚無の闇が広がり、声だけが響いていた。


「それではみんな、ずっとここに?」

「そうじゃなあ」

「特にする事も無い」

「お前が来るまでは、何も無かったんだぜ」

「そんな!

 それでは世界は?」

「何を言っておる」

「そうじゃぞ

 お前は既に死んでおる

 今さら何が世界じゃ」

「しかしみんなが…」

「みんな?」

「みんなって何じゃ?」

「え?」

「ここには何も無い」

「ここには誰も居ない」

「ここは虚無」

「ここは虚空」

「何も無い」

「誰も居ない」

「何者にも縛られない」

「ただ闇が広がるだけ」


少しずつ声が、空虚に響き渡る。

それは次第に感情を失い、虚ろに闇に響き渡る。


「う、うわあああ」

「どうしたのじゃ?」

「どうしたんだ?」

「どうしたの?」

「うわあああ」


ギルバートは不意に怖くなり、訳も無く悲鳴を上げていた。


「落ち着け!」

「ギルバート?」

「心を強く持て」

「心って…

 でも、オレは死んでしまって…」

「そう、死んでしまったな」

「だから…」

「諦めるのか?」

「え?」


不意にギルバートの声が、冷たい怒りを秘める。


「このオレの生を奪っておきながら…

 こんなところで諦めるのか?」

「諦めるって

 だって死んでしまったんだろう?」

「そうなのか?」

「そうなのかって…」


ここでギルバートは、この不可思議な闇に疑問を持った。


「本当にオレは…

 死んだのか?」


答えは何も無い。

ただ深い闇が、ギルバートを包み込んでいる。


「オレは確か…

 エルリックに頼まれて、ケーブルを切って…」


深く思い出そうとするが、意識が混濁して上手く思い出せない。


そもそもケーブルって何だ?

壁から出ていた金属を…

エルリックに魔法剣を使えって…

それから…


再び意識が、深く水の底に沈んで行く。

そうして遠のいて行く意識に、再び何者かの声が掛けられる。


「情けないのう

 これがワシの曾孫か?」

「そう言わないでください

 よく戦ったと思いますよ?」

「しかしケーブルを切断とはな

 それで感電して、心臓が停まるとは」

「心臓が停まる?」


その言葉に、沈みかけていた意識が浮上する。

それはさっきの声と違って、明確にギルバートの知らない状況を示していた。

これは妄想では無く、事実だと告げている。


「電気ショックでな

 ビビビッとな」

「ふざけている場合か?」

「こんな事で終わるとはな」

「女神もさぞ悔しがっておるじゃろう」

「あなた達は誰です?」

「…」


ギルバートの問い掛けに、暫く沈黙が続く。


「誰じゃって良いじゃろう?」

「そうだぞ

 重要なのはどうするかじゃ」

「どうするったって…

 オレは死んでいるんでしょう?」

「そうじゃあ無い」

「さっきも言ったじゃろう?

 電気ショックで心臓が停まったって」

「いや、心臓が停まったら…」

「それが死か?」

「え?」

「それなら…

 この声は聞こえるか?」


声と言われて、ギルバートは耳を澄ます。

その耳には微かに、セリアがすすり泣く声が聞こえる。


「ぎう…

 ぐすんぐすん

 おぎでよ」

「起きろ!

 この馬鹿野郎」

「そうですよ

 妹を…イーセリアを泣かしなさんな」

「ううっ

 どうしてなのよ」


セリア

アーネスト

エルリック

マリアーナ


「ぐぬおおお…

 これしき…」

「ルシフェル

 何とかして彼等を…」


ルシフェル

アスタロト


聞こえるか?

聞こえるだろ?

お前を呼んでいる声が…


何も無かった闇の中に、ギルバートを呼ぶ声が聞こえて来る。

それは闇の中に輝く様に、魔力と生命力を感じさせる。

セリアの魔力の上に、もう一つの小さな魔力を感じた。

その瞬間、ギルバートは涙が零れた気がした。


死ねない

死にたくない

でも…


「でも!

 オレは心臓が停まって

 それで死んでここに…」

「何を情けない事を言っておる」

「それでもワシ等の血を受け継いでおるのか?」

「貴様もマーテリアルの一人ならば!

 生き返ってみせろ!」

「アルフリート!

 目を覚ませ!」


ギルバートの声が聞こえて、ギルバートの身体は微かに反応する。


ドクン!


瞳孔が緩やかに収縮して、世界が光に包まれる。


ドクン!


うおおおお


ギルバートは片膝を着いた姿勢のまま、左腕をなんとか動かそうとする。

それはまるで、鉛の中に漬け込んだかの様に重く感じた。

しかしそのまま、腕を懸命に動かす。


「え?」


あああああ


腕は緩やかに動き、ギルバートの胸に当てられる。


「ギル?」


ああああ…

ドン!


静かに胸に当てられた手が、心臓を激しく波打たせる。


ドクン!

ドクンドクン!


激しい動悸の音が、身体の中から聞こえて来る。

耳の中を血液が、流れて行く音が聞こえる。


「あ…ああ…

 ああああ…」

「ギル!」

「ギル!」

「ギルバート!」

「この野郎

 死んだふりなんかしやがって」


エルリックだけが、見当違いなセリフを呟く。

しかしみんなの声が、ギルバートに生きる活力を与える。


「うおおおお」

「生き返った?」

「ぎう

 うわあああん」

「良かった」

「ん?」


ギルバートは息を吹き返すと、立ち上がろうとする。

呼吸が停まっていた影響か、立ち上がろうとするとくらくらする。

しかしその間も、ルシフェルは魔獣と戦い続けていた。

その姿は暗闇で見え難いが、濃密な血の匂いが漂っている。


「ぐうっ…」

「無茶するな

 本当に死んでいたんだぞ」

「ぎう…

 よがっだ…」

「うっ

 生き返るなんて

 驚かさないでよ」

「あれ?」


「くうっ

 こうしちゃ…おけない」

「おい!」

「おねがい、もうむぢゃはじないで」

「セリア

 ルシフェルが危ないんだ」


ギルバートはそう言うと、ニッコリと微笑んだ。

暗闇でその笑顔は見えないが、ギルバートは優しくセリアを抱き締める。

それから二人を引き離すと、剣を構えて魔獣の方を見据える。


「行くぞ…

 うおおおお」


ギルバートは地面を蹴ると、一気に魔獣の背後まで迫っていた。


軽い?

身体が軽い?


「え?」

「どうしたんだ?

 さっきまで瀕死だったのに」

「どういう事なの?」

「遂に覚醒したのか…」


「うおおおお」


ギルバートは唸り声を上げると、そのまま魔獣の背に切り付けた。

そしてそのまま、魔獣の身体を切り刻む。

それは今までのギルバートよりも素早く、力強い動きだった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ