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聖王伝  作者: 竜人
第二十章 女神の神殿
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第665話

ギルバート達が聖域である、女神の神殿に訪れた頃

偽の女神はもう一つの聖域に向かっていた

本来の目的は、この聖域を奪い取る事だったのだ

ここを手にすれば、彼女が女神の権限を行使出来る

だからこそ、この場所を何としても奪いたかった

女神は魔族と、翼人を伴なって来ていた

傍らには配下の、魔王ミハイルとその守護騎士が見張っている

ミハイルは偽の女神を、僅かながら疑っていた

女神を盲目的に崇拝していたが、違和感を感じていたのだ


「駄目です

 プロテクトが解除出来ません」

「何故じゃ?

 何故解除出来ん」


偽の女神は、本物そっくりに癇癪を起す。

あまりに似ているので、翼人達も偽者とは疑っていない。

しかしミハイルは、その事にも疑問を感じる。

本物であるなら、自分で部屋に入れる筈だからだ。


「お言葉ですが女神様

 普段ではここに、ご自分だけで入られていましたよね?」

「そうじゃ

 お主らでは入る事は出来ん」

「でしたら何故?

 ここに入る事が出来ないんです?」

「そんな事、私が分かるか!

 何故か入れん様になった

 じゃから其方達を呼んだのじゃ」

「何故かって…」


ミハイルは頭を掻きながら、目の前のコンソールを叩く。

しかしいくらキーボードを叩いても、彼等の権限では扉を開けられない。

ここを開ける事が出来るのは、文字通り女神と同等の権限が必要なのだ。

女神の次に高い権限を持つ魔王でも、ここを開く事は出来ない。


「くそっ

 こんな事ならフェイト・スピナーを…」

「え?

 何でフェイト・スピナー何ですか?」

「恐らくあ奴が、ここの権限を書き換えたのじゃ

 あ奴だけには、扉の解放までを許可をしていた」

「何故です?

 あれは情報収集と、緊急時の報告の権限しか…」

「その緊急時の権限じゃ

 それが扉のロックの解除コードでもある」

「なるほど…」


女神の説明には、確かに頷ける部分はある。

ここが解放されれば、入る事は出来なくても女神に情報は入る。

そうすれば女神が、スリーブ状態でも起動される事になる。

まさに緊急時の、合法的な処置ではあるのだろう。


しかしそれでも、違和感が拭われない。

女神は女神なのだが、どうにも違和感を感じるのだ。


ミハイルの推察は、ある程度は当たっていた。

しかしそれは、ほんの小さな違いでしか無かったのだ。

顔に小さく、刺青の様に製造ロットが記されている。

本物の女神なら、その頭文字を取ってS.O.R.N.S:No.001と記されている。


「くううっ

 どうして開かんのじゃ」

ガンガン!


女神は癇癪を起して、ドアを小さな足でけり上げる。

その姿は幼女の姿にしており、その愛らしさから翼人達もほっこりしながら眺めていた。

この事にも、ミハイルは違和感を感じていた。

勇者が居なくなってから、女神は幼女の姿をしなくなっていたのだ。


これは偽の女神が、彼等に隙を見せる為に選んでいた。

威厳のある大人の女神よりも、幼女の姿の方が好まれるからだ。

人間は幼女の姿に、庇護欲を駆り立てられる。

それを見越して、敢えてこの姿を選んでいたのだ。


「むうう

 こうなれば、あの人間共を捕らえるしかない

 確か精霊女王もおった筈じゃ」

「精霊女王ですか?

 しかしどうして必要なんです?」

「女王の兄が、フェイト・スピナーの任務を担っておる」

「そのまま召還出来ないんですか?」

「あ奴は私に反攻して、呼んでも来ない」

「女神様に反攻?」

「ふざけるな

 汚らわしい森妖精が」

「ワシ等に反攻しただけでは飽き足らず、女神様にまで逆らうとは」

「まあまあ

 そこまで明確には反抗しておらん

 私の政策に反発しておるのじゃ」

「人間を滅ぼすという…あれですか?」

「うむ」


女神は困った様な顔をして、扉を見詰めている。

しかしミハイルは、これにも違和感を感じていた。

再三に渡って、ミハイルは人間は害虫だと申請していた。

だからこそ今回の、人間を滅ぼす事自体は賛成だった。


しかし、今まで女神はそれを拒み続けていた。

いつか人間も、その行いを悔いて変わるだろう。

女神はそう信じて、ミハイルの主張を退け続けたのだ。

それが少し前から、急に方針が転換したのだ。

その事がより一層、ミハイルに違和感を与えていた。


「どうされます?

 ここが開かない以上…」

「そうじゃなあ

 面倒じゃが、個別にファクトリーを回るしか…」


偽の女神は、一旦ファクトリーへ引き返す。

そこで翼人と魔族に命じて、ファクトリーを起動させる。

しかしここでも、思わぬ障害が起こっていた。

何故かファクトリーは、起動コードを受け付けなかった。


「駄目です

 コードを受け付けません」

「何じゃと?

 私のアクセスキーでも承認出来ぬのか?」

「はい

 プロテクトが解除出来ません

 これは?」

「貸してみろ

 ワシがやってみる」


ミハイルがコンソールの前に立ち、パネルを開いてキーボードを叩く。

魔王のアクセスキーでも、起動や簡単な命令は受け付ける。

しかし何故か、プロテクトが働いてアクセス出来ない。

そこの表示を見て、ミハイルは愕然とする。


The goddess is sleepinng.

Freezing startup programs.


パネルにはそう表示されていて、女神は眠っている事になる。

このプロテクトは、女神が眠る前に行った保護プログラムだ。

勝手に魔王が暴走して、魔物を解き放たない為の物だ。

これを解除するには、女神が起動するかメインコンピューターを起動するしか無い。


「どう…いう…事だ??」

「何だ?

 どうした?」


女神はミハイルの様子が変なので、横からパネルを覗き込む。

そしてそこにある文面を見て、ギョッとした表情になる。

魔族や翼人では、翻訳されていない文面は理解出来ない。

しかし魔王なら、ある程度の文書は読む事が出来た。

当然ミハイルも、この文面を理解する事が出来た。


「どういう事だ!

 これは何だ!」

「ミハイル様?」

「どうされたんです?」

「落ち着いてください」

「これが落ち着いて居られるか」


偽の女神は、しまったと思って顔を歪める。

それはおよそ幼女らしからぬ、醜悪な表情だった。


「女神…様?」

「おい!

 ミハイル様をお止めしろ」

「女神様に逆らうなんて…」

「くっ…」


偽の女神は思わず、悪態を吐きそうになる。


ビービービー!

「何だ?」


そこに突然、警報が鳴ってシステムが起動する。

ギルバート達が神殿に入り、本物の女神が目覚めたのだ。

ファクトリーの電源が入り、起動シーケンスが稼働する。

それを見て、偽の女神はしたり顔でミハイルを見る。


「どうやら起動した様じゃな

 誤作動でも起きておったか」

「な…」

「少々驚いたが、これでファクトリーは起動したのう」

「ううむ…」


誤作動だと言えば、確かにそう見えなくも無かった。

現に女神はここに居て、ファクトリーも無事に起動していた。

長らく起動していなかったので、何らかの誤作動を起こしたと言われれば、頷く事しか出来なかった。


「どうじゃ?

 どんな魔物が作れる?」

「え?」

「はい」

カタカタカタ!


魔族がキーボードを操作して、パネルに文字や図が表示される。

しかしいくら操作しても、検索や表示しか出来なかった。


「あれ?」

「魔物のリストは…

 表示されるんですが…」

「何じゃ?」

「操作出来ません」

「何じゃと?」


「ぬう?

 貸してみろ」

カタカタカタ!


再びミハイルがコンソールを操作して、起動可能な機械を調べる。

しかしどれも自動操縦で、こちらの操作を受け付けない。

女神の許可が必要と表示され、コードを受け付け無かった。


「どういう事ですか?

 あなたの権限では…

 このコードではアクセス出来ません」

「何じゃと?

 馬鹿な…」

カチャカチャカチャ!


偽の女神は中空にコンソールを開き、無理矢理キーコードを入力しようとする。


ブー!

「何故じゃ?」


ブー!

「何故じゃ

 何故じゃ何故じゃ」


「女神様?」

「どういう事だ?」

「き…さ…ま…」


ミハイルは歯軋りをして、片手に剣を作り出す。

それはルシフェルの剣に似た、美しい羽根飾りのある剣だった。


「私のコードが…拒絶される?」

「よくも騙してくれたな」

「私の権限なら、ここは起動する筈じゃろう」

「この!

 偽者め!」

「くうっ!

 あの女め!

 抑制の鎖(カース・バインド)

バチバチ!


偽の女神は、咄嗟に自身の権限でミハイル達を拘束する。

それは魔法では無く、彼女自身の権限で下位の者を拘束する能力だ。

ミハイルだけでは無く、部屋に居た全ての者が拘束される。

しかしミハイルだけは、踏み止まって偽の女神を睨んでいた。


「何故じゃ?

 ここまで上手く行っておったのに」

「ぐ…ぎ…」

ドゴーン!

グラグラ!


爆発音が外から聞こえて、施設内も大きく揺れた。

パネルが何枚か開かれ、外の様子が映し出される。

その中に女神の神殿が、崩れている様子が映し出される。

ギルバート達が攻撃して、女神が一度引いた直後の映像だった。


「あ、あれは?」

「女神の天鎧

 やはり貴様は…」

「ぐうっ

 目覚めやがったか

 しかし好機じゃ」


偽の女神は両腕を掲げて、青白い放電を放つ。

ミハイルはその瞬間、一瞬だがパネルに目を奪われていた。

そこに映っていたのは、女神と戦う人間の姿だった。

人間が何故、この聖地まで踏み込んでいる?

ミハイルのその疑問は、偽の女神に十分過ぎる隙を与えた。


束縛の呪い(ギアス・コード)

バシュッ!


「ぐあああああ」

「ぎやあああ…」

「ぐぎゃああああ…」


部屋中に紫電が放たれ、魔族や翼人達を打ち付ける。

彼等は電撃を浴びると、意識を失って痙攣を始める。

強烈な自我を失う電撃が、心を砕いて精神を支配する。

上位の者が洗脳する為の、強力な支配の拘束だ。


これは体内に宿る魔石に、無理矢理支配のコードを刻み込む。

その苦痛は強烈で、並みの者なら自我を崩壊するだろう。

ミハイルの直属の騎士も、身体ビクンビクンと痙攣させていた。


そしてミハイルも、その拘束には抗えなかった。

元々が女神に心酔し、心に隙が生じていた。

今は疑いが核心に変わり、抗い始めていた。

しかし女神の方を向いていた事で、僅かながらに隙が生じていた。

その事が原因で、抵抗し切れないでいた。


「め…が…」

「ええい!

 女々しい

 私が女神じゃと言っておろうが」

ドガッ!


止めの蹴りが入って、ミハイルの意識は途絶えた。

全ての者が倒れて、部屋の中は再び静かになる。


「くふっ

 くふふふふ」


偽の女神はニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて、戦っている女神の姿を見る。


「良い具合に戦ってくれておる

 忌々しいと思っておったが…

 私の為に戦ってくれるとはな」


彼女は舌なめずりをすると、歪んだ笑みでその光景に魅入る。


「どれ

 手助けをしてやらんとな

 幸い今ので、アクセスキーが解除出来た筈じゃ

 行くぞ!」

ギ…!

ギチギチ!


不気味な音を立てて、倒れていた魔族や翼人が立ち上がる。

その表情は虚ろで、無理矢理支配した影響で自我を失っている。

しかし彼女にとっては、そんな物はどうでも良かった。

ただ今は、女神が窮地に立っている事が心地よかった。


長年目の上のたん瘤だった女神が、いよいよ倒されようとしている。

それも彼女の策略が功を奏して、ギルバート達が戦っているのだ。

理想としては、このまま同士討ちが好ましい

しかし今のところ、女神の方が優勢だろう。


「アクセスコード:S.O.R.N.S:002」

ポン!

承認しました!


無機的な女性の声がして、部屋のロックが解除される。


プシューッ!

「おほっ

 遂に遂に遂に

 この部屋が私の物に♪」


偽の女神は喜びを隠しきれずに、スキップしながら部屋に入る。

次の瞬間、指示に従って魔族の一人が入ってしまった。

彼はそのまま痙攣すると、ビクビクと波打ってから弾ける。


バシャッ!

「ぬっ?

 お前等は入るな

 くそっ

 部屋が汚物で汚れてしまった」


偽の女神は忌々しそうに、弾け飛んだ魔族の遺体を睨む。

この部屋には女神以外は、入る事は出来なくなっている。

無理に入ろうとすれば、先ほどの魔族の様に弾け飛んで死んでしまう。

その様にここは作られているのだ。


「くそっ

 聖域を穢すとは…

 お前等掃除…

 いや、余計に手間が増えるか」

カタカタカタ!

プシャーッ!


偽の女神はコンソールを呼び出し、部屋を掃除する様に指示を出す。

魔族達に指示を出しても、その者が再び弾け飛ぶだけだ。

だからそうならない様に、この部屋の機械に指示を出す。

機械は天上から細長い腕を伸ばして、遺体を壁に開いた穴に放り込む。

それから良い匂いのする泡を吹き出し、血の汚れを洗い流した。


「うむ

 これで良いじゃろう」


偽の女神は満足そうに頷くと、再びコンソールを操作する。


「ひひひひ

 積年の恨みじゃ

 苦しみながら逝くがよい」


彼女がキーボードを叩き終わると、画面に女神の戦いが映し出される。

女神はギルバートの攻撃を受け、苦悶の表情を浮かべる。

その表情は何かを悟り、驚愕した表情に変わる。

しかし今の彼女は、金属で出来た身体に変わっている。

よほど見慣れた者にしか、彼女の表情が変わった事は気付けないだろう。


「くふっ

 きゃはははは

 再生が出来ない事は、どんなに恐怖じゃろうのう?」


偽の女神は、さらにキーボードを叩く。

次の瞬間、女神を動かしている動力ケーブルが外れる。

それは地中深く張り巡らされ、天鎧を動かすエネルギーを供給している物だ。

それが外れるという事は、天鎧を動かすエネルギーが止まるという事だ。


「きゃは

 きゃはははは」


幼女の姿をした偽の女神は、醜悪な笑みを浮かべて高笑いをする。

それは勝利を確信して、悦に入った笑みであった。

まだまだ続きます。

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