第664話
エルリックは、ファクトリーで電源ケーブルを調べていた
それはまるでコンピューターの様で、文字を入力して検索する
エルリックは権限の一部を持っているので、ここで調べる事が出来た
アクセスキーを入力して、内部情報を細かく調べる
アスタロトも機械を調べるが、エルリックほどの権限は持っていない
検索ワードで調べるが、アクセス権限無いので詳細は出て来なかった
アスタロトはしかめっ面をして、キーボード代わりのボタンを叩く
偽の女神に権限を奪われていなければ、こんな事をしなくても済んだのだ
「くそっ
ここも入れませんか…」
「アスタロト様
アクセスキーを渡しましょうか?」
「無駄だ
それは個個人を識別して認証する
キーコードを知っただけでは、認証は解除出来ない」
アスタロトには権限は無く、詳しい情報は開示されない。
それでもアスタロトは、何とか出来ないか情報を調べ続ける。
その間にエルリックは、何とかファクトリーの見取り図を見付ける。
後は情報を入力して、電源のケーブルを見付けるだけだ。
そこで急に音が鳴りだし、ガラスの筒が再び動き出す。
「くそっ
もう他の魔物が出て来るのか?」
「エルリックが調べた事で、何か反応した様じゃ
気を付けろ」
ルシフェルは最後のギガースに止めを刺しながら、音が鳴っている筒を見る。
そしてそれを見たルシフェルは、思わず息を止めていた。
「ぐうっ…
まさか…」
「どうした?」
「良いからさっさと調べろ
こいつはワシが何とかする」
ルシフェルは今までになく、顔を険しくして筒を睨み付ける。
「ギルバート
こっちに来てくれ」
「何だ?」
「これを壊して欲しいんだ」
エルリックに呼ばれて、ギルバートはルシフェルの方を見る。
ルシフェルは一瞬躊躇った後、微笑みながらギルバートに言った。
「ここはワシに任せて、さっさと壊して来い」
「しかし…」
「良いから任せろ」
「分かった
すぐに戻る」
ギルバートは頷くと、エルリックの元へ向けて駆け出す。
「ふっ
ここであれが出るか…
つくづく運が無い」
ルシフェルはそう言うと、地面をしっかりと踏みしめて気合を入れる。
「うおおおおお」
メキメキ!
ルシフェルは渾身の気合を込めると、腕を4本からさらに6本に増やす。
それから盾を2本の腕に装備して、残りの腕に剣を握り締める。
表情を険しくしながら、ルシフェルはガラスの筒を睨み付ける。
そこには二つの歪な頭を持った、不格好な蜥蜴の様な魔獣が姿を現していた。
「ツーヘッド・ドラゴン…
ワシが唯一負けた魔獣…」
ルシフェルは苦笑いを浮かべると、白いローブをはためかせる。
それは傷だらけの白い翼に変わり、ルシフェルを宙に浮かせた。
そのままルシフェルは唸り声を上げると、魔獣に向かって進んで行く。
その様子を見たアスタロトは、絶望的な表情を浮かべた。
「な…
何であれが?」
「アスタロト様?」
「急げ
いくらルシフェルでも、あれに勝つ事は出来ない」
「え?」
「アーネスト
頼む
ルシフェルの援護を手伝ってくれ」
「は、はい」
アスタロトはそう言うと、両腕に杖を持って駆け出す。
その顔は蒼白に変わり、険しい表情を浮かべていた。
「うおおおお」
ザシュッ!
ルシフェルの剣は、魔獣の皮膚を容易に切り裂く。
一見すると、ルシフェルの攻撃は効いている様に見える。
しかしその傷は、瞬く間に塞がって治っていた。
この魔獣の特徴は、その再生能力の高さにある。
少々の傷を受けても、すぐさまに回復してしまうのだ。
「ぐぬうっ
これなら…どうだ!」
ザシュッドシュッ!
立て続けに剣を振るい、ルシフェルは魔獣の身体を切り裂く。
しかし魔獣は、その歩みを止める事無く迫って来る。
その身体は5m以上の大きさで、大きくなったルシフェルに比べても倍以上の大きさだ。
そんな大きな魔獣が、異形の頭を振り回して迫って来る。
「くそっ
炎の槍」
ドシュドシュ!
アスタロトが魔法を放つも、魔獣はその炎に食らい付く。
そして食った後には、その痕跡も残されていなかった。
「アスタロト
止すのじゃ」
「しかし!」
「魔法をぶつけても、奴のエネルギーになるだけじゃ」
「だからと言ってあなたでは…」
「2度も負ける気は無い」
「しかし…」
「アスタロト
魔法は効かないのか?」
「分かりません
しかし以前の戦いでは、ほとんどの魔法を食われました」
「食うのか?」
「ええ
ブラッド・ワームと同様に、あの魔獣も魔力を食らいます」
「それでは迂闊に攻撃しても…」
「ええ
しかし攻撃しなければ」
ルシフェルが切り付けるが、いくら切り付けてもすぐに元に戻る。
そのうちルシフェルは追い詰められて、魔獣が首を振って噛み付く。
ルシフェルは何とか躱すと、翼を使って何とか宙に逃げる。
しかし傷付いた翼では、そう長くは飛行出来ない。
ルシフェルは少し飛ぶと、再び翼を閉じて地面に降り立つ。
「ルシフェルは何で飛ばないんだ?」
「飛ばないのでは無いのです
飛べないのです」
「飛べないって…」
「あの翼を見てください
イチロとの戦いの傷が癒えない為に、今も血を流し続けて…」
苦しそうに翼を畳むルシフェルを見て、アスタロトも顔を顰めていた。
翼はあちこちが破れて、剥き出しの所から血が流れている。
それでも多少は飛べるのは、彼が魔王であるからだ。
苦痛に声を上げる事も無く、彼は宙を飛んでいたのだ。
しかしボロボロの翼では、そんなに長くは飛べない。
墜落しない様に、移動する時だけ翼を広げていたのだ。
「くそっ
万全な状態でも、あの魔獣には負けているのに…」
「負けた?
ルシフェルがか?」
「ええ
あのツーヘッド・ドラゴンは、無節操に何でも食べます
そして魔力が尽きるまで、何処までも追って来ます」
「まさかルシフェルが負けたのって…」
「ええ
魔力切れで墜落して…
奴の魔力が先に切れていなければ、ルシフェルが食われていたでしょう」
「何て恐ろしい魔獣だ…」
「さらに残念な事があります」
「言わなくても良い
何となく予想が付く」
「そうですね
後はエルリックが、ここの機能を止めれれば…」
「しかしファクトリーが止まっても、奴が襲って来るのでは…」
「いえ
ファクトリーが止まれば、何とかなるかも知れません」
アーネストとアスタロトは、何度も魔獣に向けて魔法を放つ。
魔獣が魔力を食らい、回復する事は分かっている。
しかしそれでも、少しでも魔獣の気を引く必要があった。
魔獣は魔力の大きさから、ルシフェルを執拗に狙っているからだ。
「くそっ
しつこいですね」
「よっぽどルシフェルの事が、美味そうに見えるのか?」
「そうですね
純粋な魔力量なら、ルシフェルの方が上ですからね」
魔法の技量では、アスタロトの方が上だった。
しかし身体を作り出す魔力もあるので、総合的にはルシフェルの方が上なのだ。
ギルバートも魔力は高いが、まだルシフェルの方が上なのだ。
それでツーヘッド・ドラゴンは、執拗にルシフェルを追い続けていた。
一方で、ルシフェルが戦っている間に、ギルバートは剣で壁に切り付けていた。
エルリックが調べた見取り図で、壁にあるケーブルの位置は判明した。
後はそのケーブルを引っ張り出し、切ってしまえば良いだけだった。
しかし肝心の壁が、簡単には壊せなかった。
「ぬおおおお」
ガギン!
「ぐうっ
硬いな」
「ギルバートの攻撃でもこの程度か…」
何度か切り付けて、壁には数cmの亀裂が入っている。
しかしケーブルを引っ張り出すには、最低でも数十cmの亀裂が必要だった。
しかも壁の中に埋まっているので、なかなか見つけ出す事が出来ない。
ギルバートは痺れる腕で、再び壁に向かって切り付ける。
「後少しなんだが…」
「そのケーブルだっけか?
それを切れば良いんだな?」
「ああ
そうすれば電力の供給は止まり、少なくとも魔物を作るペースは落ちる筈だ」
「止まる訳じゃあ無いのか?」
「完全に止めるには、それこそ壊すしか無い
しかし今は、そこまでするだけの時間が無いんだ」
「くそっ
こんな事なら、ドワーフ達を連れて来るんだった」
「ドワーフでも無理ですよ
この壁は恐ろしく硬い鉱石なんですよ」
「そうだったな
ふん」
ギャリン!
少しずつだが、硬い外壁は切り裂かれて岩肌が露出する。
その中に金属で出来た、電気を流す配線ケーブルが姿を見せる。
しかしそれは、頑丈な金属で覆われていた。
ギン!
「ぐうっ」
「ギルバート
大丈夫か?」
「か、硬い…」
「それはそうだろう
この施設のエネルギーを供給する、配電ケーブルだ
そう簡単に壊れない様に、特殊な金属で覆われている」
「そんな物を壊せるのか?」
ギルバートの問いに、エルリックは表情を曇らせる。
「恐らくはルシフェル様でも、これを壊すのは難しいだろう
アダマンタイト以上の硬度らしい」
「そんな…」
「しかし魔法剣を会得したマーテリアルのお前なら…
あるいは…」
「魔法剣?」
「ああ
剣に魔力を流す技術だ
その神髄を会得出来れば…
切れない物は無い筈なんだ」
「魔法剣…」
ギルバートはじっと剣を見詰める。
ルシフェルやアスタロトが協力して、鍛え上げた最強の剣。
勇者が所持していた聖剣に匹敵する光の剣。
これに魔力を乗せる事が出来れば、どんな物でも切り裂けるというのだ。
後はギルバートが、ここで物にするしか無い。
「すう…はあ…」
「頼む…」
「ギル…」
エルリックとセリアが、ギルバートを見守る。
少し離れた場所で、マリアーナも祈っていた。
裂帛の気合を乗せて、ギルバートはケーブル目掛けて剣を振るう。
「うおおおお!」
ガギン!
しかし剣は、無情にもケーブルを覆うカバーに阻まれる。
「っくうっ…」
「ギル…」
「くそっ
このままではルシフェル様がもたない」
振り返ると、いよいよルシフェルは追い詰められていた。
翼はさらにボロボロになり、最早飛翔する事も叶わない。
それでも剣を構え、近付く魔獣の頭部に切り付けている。
しかしこのままでは、いずれ噛み付かれるだろう。
そうなればさしもの魔王も、魔獣の餌食になるしかない。
「ぐうっ…
くっ…おおおおお!」
「ギル…
ギルバート!
いっけええええ」
「頼む
女神様」
「お願い
届いて」
「うおおおお!」
キン!
再びギルバートは、ケーブル目掛けて剣を振り抜く。
今度は弾かれる事無く、そのまま駆け抜けていた。
しかしケーブルはそのままで、周囲の外壁だけが崩れる。
エルリックは力なく座り込み、ルシフェルの方へ振り返る。
グギャオオオオ
「ぐはっ」
「ルシフェル!
くそっ!
くそくそくそ!」
「離れろ!
離れろ離れろ!」
ルシフェルの左肩が噛み付かれ、そこから魔力が吸われる。
アスタロトは炎だけでなく、雷や氷の魔法も連発する。
しかし魔獣は首を振り回して、ルシフェルの肩を引き千切ろうとする。
アーネストも魔法を飛ばすが、その顔は疲労でやつれていた。
アスタロトもアーネストも、魔法の連発で魔力切れを起こし掛けているのだ。
ヒュウウウ!
ブウン!
不意に鈍い音がして、周囲が真っ暗になる。
外壁の辺りに火花が散り、ケーブルが切れている事を示す。
ギルバートの最後の一撃が、ケーブルを断ち切っていたのだ。
しかし頑丈なカバーのせいで、見た目は切れていない様に見えていたのだ。
流れていた電流が漏れ出し、カバーの周りでショートする。
それでケーブルもズレて、さらに電流が漏れ始める。
部屋の中は真っ暗になり、明かりはショートする電流の光だけとなった。
しかしその中でも、魔獣は執拗にルシフェルに噛み付いていた。
「や…
やった?」
「暗くなった
ギルが切ったのよね?」
「はははは…
これで…」
ギャオオオ
「ぐうっ
この…」
「まさか?
この暗闇でも動けるのか?」
「ツーヘッド・ドラゴンは魔力を狙っています
暗くても本能で狙えるのでしょう」
「そんな…」
「ワシ等に構うな!
とっとと先に向かえ!」
「しかし!」
「アスタロト!」
「はい
最期まで一緒ですよ」
「え?」
パリン!
アスタロトは何かを投げ付け、それはアーネストの足元で割れる。
そこから緑色の光が漏れ出し、アーネストを包んだ。
「なけなしのエーテルポーションです
あなたの魔力の全ては回復出来ませんが…
先に進むぐらいは回復出来たでしょう」
「アスタロト?」
「エルリック!
この先は任せます
女神の使徒の…フェイト・スピナーの務めを果たしなさい」
「はい
イーセリア、マリアーナ」
「ええ
分かったわ」
「待って
ギルが…」
「え?」
気が付けばギルバートは、そのまま座り込んだ姿勢になっていた。
そういえば先ほど、切り付けてから一言も発していなかった。
ケーブルを切断した後、そのまま動かなくなったのだ。
まるでこの施設の電源が落ちたと同時に、機能が停止した様に。
「ギル
どうした…え?」
「イーセリア
どうした?」
「ねえ…
ギルが…冷たい」
「え?
何を言って…」
「セリア
こんな時にそんな冗談は…」
「ううん
冷たくなって…
動かないの…」
「はあ?
そんな馬鹿な!」
エルリックは駆け出し、慌ててギルバートの前に行く。
暗くてあちこちぶつかりながら、ギルバートの前に座り込んだ。
そして首筋や胸に手を当てて、ギルバートの様子を確認する。
「ぎる…
ねえ、うそだよね?」
「いや…
そんなの嫌よ!」
「そんな筈は無い
そんな筈があるか!
イーセリアを、妹を幸せにするんだろう?」
「おい!
何やって…」
アーネストが様子がおかしいので、ギルバート達の方へ向かう。
アスタロトのポーションで回復していたが、まだ身体が重く感じているのだ。
しかしアーネストが辿り着くと、そこではセリアとマリアーナが啜り泣いていた。
そしてエルリックが、固まったままのギルバートを激しく揺すっている。
「おい!
動けよ!
返事をしろよ!」
「う…そだ…ろ」
アーネストも力を失い、その場で座り込んでしまった。
まだまだ続きます。
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