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聖王伝  作者: 竜人
第二十章 女神の神殿
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第662話

ギルバートは、ルシフェルと共に慎重に部屋に踏み入る

ここには何か居る筈なのに、その姿が見えないのだ

アーネストの魔力察知にも、何か居ると反応は感じられる

しかし肝心の居場所が、何処なのか分からなかった

部屋に踏み込み、慎重に前に進む

しかし魔物は、なかなか姿を現わそうとしない

ギルバートは2mほど進んで、周囲を見回してみた

しかしそこからでも、何も潜んで居る様には見えなかった


「ぬう…

 何処に隠れて居る」


遂に我慢出来なくなったか、ルシフェルは大きな声を上げる。

そのままドスドスと、部屋の中ほどまで進んだ。

しかし相変わらず、何者も姿を現わそうとしなかった。


「ぐぬぬぬ…

 ワシを愚弄するつもりか!」

ドン!


ルシフェルが怒って、地面を思いっ切り蹴り付ける。

しかしその瞬間、急激に部屋の魔力が高まる。

それと同時に、ギルバートも何かが迫る感覚を感じた。


「ルシフェル

 何か来るぞ」

「何か来ると言っても…」


ルシフェルも気配を感じて、周囲を見回していた。

しかし一向に、その気配の元は見られなかった。

そしてルシフェルが再び前を向いた時に、不意に足元から気配を感じる。

ルシフェルは咄嗟に、身体を前方に傾けた。


ドガン!


地面が急に揺れて、硬い岩盤の足元が砕ける。

そこから大きな口が広がり、ルシフェル目掛けて向かって来る。

ルシフェルは倒れ込む様に前に出て、必死にその攻撃を躱そうとする。

しかし左足の膝から下が、その口に噛み千切られていた。


「ぐうっ…」

「ルシフェル?」

「構うな

 次が来るぞ」

ドガン!


再び足元が割れて、下から口が現れる。

よく見ればそれは、2mぐらいの大きさの口だった。

口の下にも身体があり、それが地面の下から出て来ているのだ。


「サンド・ワーム?」

「違うな

 そんな生ぬるい魔獣じゃ無い

 ブラッド・ワームだ」

「ブラッド・ワーム?」

「まさかこんな物まで用意されていたとは」


アスタロトは顔を歪ませて、吐き捨てる様に呟く。


「こいつは何なんだ?」

「良いから貴様は逃げろ」

「しかし…」

「構うな!」


ギルバートは一旦、部屋の入り口まで引き返す。

その間にも魔獣は、再びルシフェルを狙って顔を出した。

しかし今度は、ルシフェルも対処をちゃんと考えていた。

片方の足では逃げ切れないので、地面から飛び出す瞬間を狙う。


「危ない!」

「大丈夫です

 彼はあの程度では死にません」


アスタロトは飛び出そうとする、ギルバートを掴んだ。

ルシフェルは地面が突き上がる瞬間に、両腕でその地面を押し付ける。

そのまま反動を利用して、宙に浮いて難を逃れる。

そしてそのまま、勢いを利用して入り口まで跳ね飛んで逃れる。


「ぶはっ

 ゲホゲホ」

「相変わらず無茶をしますね」

「うるせえ

 ああするしか無いだろう」

「そうですね

 油断して片脚を失うだなんて

 耄碌しましたか?」

「ちょっと疲れてただけだ」

「へえ…」


アスタロトは嫌味を言いながらも、ルシフェルの怪我を確認する。


「片脚を失うだなんて…」

「大丈夫

 この程度で済みましたからね」

「この程度?

 脚が無いんだぞ?」

「私達は魔王です」

「魔王には特権がある」


ルシフェルはそう言うと、ポーションをごくりと飲み干す。


「ぐっ…

 がああっ」

ズボッ!


すると苦悶の声を上げながら、ルシフェルの失われた左足が生えて来る。


「へ?」

「部位欠損を癒すポーションか?」

「いいえ

 そんな大層な物ではありません」

「しかし…」

「魔王の…

 ガーディアン以上の資格がある者は、ある程度の部位欠損なら癒せます」

「そうなのか?」

「それじゃあオレも?」

「ええ

 ギルバートもアーネストも、意志力次第で治せます」

「そうなのか…」

「意志力次第?」


ギルバート喜んでいたが、アーネストは聞き逃していなかった。


「それじゃあ容易には、治せないって事だよな」

「そうなのか?」

「察しが良いですね」

「訓練が必要じゃ

 それも部位を欠損させた上でな」

「え…」

「つまり容易じゃ無いって事だ

 怪我は出来ないぞ」

「そうか…」


ギルバートとしては、自身の事よりもアーネストを心配してであった。

アーネストは魔術師であったので、戦闘にはなれていない。

このまま激しい戦闘が続けば、いつ大けがを負うか分からない。

だから腕や脚を欠損しても、回復手段があるのならと思ったのだ。


しかしアーネストは、別の観点からこの能力を危険だと判断していた。

一つは怪我をしても、何とか治せると油断する事だ。

これはギルバートの様な、戦闘で前に出る者にとっては危険な事だ。

ある程度治せるとなると、どうしても攻撃に対する認識が甘くなるだろう。

そうすれば油断して、取り返しの付かない怪我を負う可能性もある。


もう一つの危険性は、ルシフェルの様子だった。

隠そうとしていたが、ルシフェルの魔力は大きく落ちていた。

恐らく先ほどの怪我と、それを治癒する事で使ったのだろう。

そう考えれば、欠損した部位を癒す事にはデメリットがある筈だ。


「…」


アーネストはルシフェルを見ながら、先の会話を思い返していた。

アスタロトはルシフェルの事を、身体がボロボロになったから封印されたと言っていた。

それがこの様な、無理矢理傷を癒した事が原因では無いのか?

アーネストはそう推察していた。

そしてそれは、アスタロトも気が付いていた。

アーネストの様子から、恐らく勘付かれたと思っていた。


「さて、どうしますか?」

「うむ

 相手がブラッド・ワームなら、ここまでは負って来まい」

「そうですね

 あそこに近付かなければ…」

「しかし先に向かうには、あそこを通らないと」

「そうなんですよね」

「ワシが誘い出して…」

「駄目です!」

「しかしアスタロト…」

「あなたは暫く、大人しくしておいてください」

「ワシの事なら…」

「いいえ!」


ルシフェルが囮になろうと提案するが、アスタロトは頑なにそれを拒んだ。


「なあ

 あれはそんなに危険な物なのか?」

「そうですね…」

「そうか

 あれを知らんのじゃな」

「ええ

 魔導王国にも記録がありません」

「そうじゃなあ…」


ルシフェルはアスタロトと顔を見合わせて、頷きながら語った。


「あれはブラッド・ワームと言ってな

 サンド・ワームの上位の魔獣に当たる」

「そんな生易しい物ではありませんよ

 女神様はあれを、危険だとして封印されていました」

「封印?」

「正確には…

 作らせない様にしておったんじゃ

 しかし現に…」

「ええ

 どうやって作ったのか、あれはここの見張りなんでしょう」


「どういう物なんだ?

 口しか見えなかったが…」

「そうですね

 基本的には近付いて来た物を食らいます」

「それはサンド・ワームも…」

「いえ

 サンド・ワームはまだ、生き物しか食らいません

 あれは何でも食らいます」

「じゃから危険なんじゃ

 別名大食らいとも、悪食とも呼ばれる」

「何でも?」

「何でもです」


アスタロトは嫌そうな顔をして、地面の抉れた場所を睨む。

そこはブラッド・ワームが口を出した後は、何も無い穴が暗く口を開いていた。

硬いこの地面ですら、魔獣はそのまま食っているのだ。

まさに名前通りの悪食であった。


「それで…

 どうやって倒せば良いんだ?」

「倒せません」

「へ?」

「ですから倒せません」

「そうじゃな

 倒す手段が無いんじゃ」

「何を言って…」


アスタロトとルシフェルの返答に、ギルバートは困惑していた。


「ギル

 話を聞いていなかったのか?

 何でも食べるんだ」

「何でもって…」

「文字通り何でもだ

 魔法や毒でも…そうだよな」

「ええ

 ですから封印されたんです」

「え?

 でも倒した事はあるんだろ?」

「あるにはありますが…」

「魔王数人が犠牲になって、やっと倒せたんだ」

「そんなに?」

「ああ」


それは魔法が効かないという事もあって、実に単純な戦い方だった。

囮で向かった魔王に襲い掛かる間に、他の魔王が外から攻撃を加える。

それでも思う様な攻撃が与えられず、多くの犠牲を払う事となった。

今の人数では、その戦い方も出来ないのだ。


「何とかならないのか?

 そのう…攻撃が効き易い箇所とか?」

「そんな弱点は無いな」

「そうですね

 引き摺り出すのも一苦労で

 おまけに外皮も相当に硬いんです

 ルシフェルでも切り裂けるか…」

「ワシなら何とか引っ張り出して…」

「止めてください

 その前に食われてしまいますよ

 そうなればいくらあなたでも…」

「ワシはそう簡単には…」


ここで再び、ルシフェルとアスタロトが口論を始める。

しかしいくら言い合ったところで、有効な手段は思い付かなかった。

そうする間にも時間が経ち、魔物が再び増えるだろう。

なんとかならない物かと、ギルバートは思案を続ける。


「ううん…

 口だけしか出さないから、なかなか攻撃出来ない」

「そうだ

 だからと言って、魔法で攻撃しても、その魔法自体を食らってしまう」

「そのう…

 魔法も食うのって…」

「そうですね

 魔力を吸収して、文字通り食べてしまいます」

「だから困っておるんじゃ」


「そして攻撃を加えるにしても、外皮も強靭で硬いと…」

「そうじゃ」

「魔王数人掛かりで倒したそうですから

 どれだけ強力な魔獣か…」

「そんな物を、よくここに放ったな」

「そうですね

 そもそも作れない様に、データもデリートされてる筈なんですが…」

「あの女がいつから、女神の座を狙っておったのか分からん

 しかし少なくとも、イチロが呼ばれる前じゃった事は確かじゃ」

「そうですね

 そう考えれば、あれの作り方を知っていても不思議じゃありません」

「もしかして…

 あれもその勇者に絡んだ事なのか?」

「え?」

「ううむ

 まあそうじゃな」


イチロという名が出たので、アーネストが確認する。

するとここで、意外な理由が説明された。


「あれはな、元々はイチロが考案した魔獣じゃ」

「え?

 勇者が魔獣を?」

「ギル

 その勇者は、元々は魔物の側の勇者だったんだ

 不思議じゃ無いだろう」

「そういえば…

 人間から魔物達を守る為に、呼ばれたんだったか?」

「そうじゃ」

「それで人間達に襲われない様に、強固な陣地を作る事になったんです

 あの魔獣もその一環です」

「つまりは…

 侵入されない様に配置したと?」

「ええ

 簡単に侵入されない様に、地面に魔獣を伏せて置く」

「それに簡単にやられない様に、色々工夫した訳じゃ」

「工夫って…

 やり過ぎじゃ無いか?」

「うむ

 それで持て余してな」

「しかし簡単に退治出来ない

 それで二度と作らない事にしたんですよ」


二人は経緯を話しながら、ふと疑問を呟く。


「そういえば他にも…」

「ええ

 イチロの考案した魔獣が居ましたね」

「まさか…な」

「え?

 他にも居ると?」

「その可能性は高いな」

「そうなってくると…」

「ええ

 ますます早く、ここを突破せねば…」


他にも危険な魔獣が、この先に待ち構えて居るかも知れない。

そうなれば、ますます時間が掛かってしまうだろう。

今のところは偽の女神は、何も仕掛けて来ない。

しかし時間が経てば、何をして来るか分からないだろう。


「どうにか進む方法は?」

「無いな

 あれは近付いた物を、何でも食らうんじゃ」

「近付いた…

 ん?」

「どうした?」

「何か思い付きましたか?」


「なあ

 最初あの魔獣は、何もして来なかったよな」

「そう…ですね」

「魔獣が食らい付いたのは、ルシフェルが暴れてからだよな」

「暴れてって…

 人聞きの悪い」

「いや、実際に暴れてたでしょう」


ギルバートは暫く考えてから、手近に転がっていた石を手にする。

それはブラッド・ワームが、顔を出した時に飛び散った石の破片だった。

それを振り被ると、地面に開いた穴の近くに放った。

石は穴の近くの地面に当たり、軽く跳ねていた。


「何をしているんです?」

「いや、石を投げて反応を見たんだ」

「石ころぐらいでは…」

「そうじゃな

 何か食べられる物でも近付かないと」

「だからじゃ無いかな?

 ルシフェルに最初反応しなかったのは」

「え?」

「範囲外だった…

 そう思えないか?」

「ううん…」


ギルバートの言葉に、今度はアスタロトが考え込む。

確かに最初は、魔獣は出て来る事も無かった。

反応が近くにあっても、姿を見せなかったのは地面の下に居たからだ。

それもルシフェルが暴れるまで、出て来ようともしなかった。


「どうやって判断して…

 そしてどこまでが範囲か

 そういう事ですね」

「そうだ

 そうとしか考えれない」

「なるほど

 そういう事なら

 炎の槍」

シュバババ!


アスタロトは魔法の槍を出すと、それを先ほどの場所に向けて放つ。

しかし何故か、魔獣は出て来る事は無かった。

それから何ヶ所か放つと、出て来る場所がある程度特定出来た。

魔獣は出て来る場所が、ある程度決まっていたのだ。


「なるほどね

 そういう事なのか」

「ああ

 これなら問題無く…」


ギルバートとルシフェルは、今度は部屋の隅を歩いてみる。

この辺りは炎の槍を飛ばしても、魔獣は反応しなかった。

そう考えてみると、この魔獣はある程度動ける場所が限定されているのだ。

だからこそルシフェルも、最初は襲われなかったのだ。


そのまま隅を通って、ギルバートとルシフェルは向こう側に辿り着く。

それを確認してから、アーネスト達も渡って来た。

全員が渡り終えたところで、再び部屋の向こうに向かう。

ファクトリーがある部屋を探して、通路の先に向けて歩き出した。

まだまだ続きます。

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