第660話
洞窟の奥に向けて、ギルバート達は踏み込んで行く
この先にはファクトリーがある筈だが、今はどの様になっているのか分からない
偽の女神は女神を倒せたが、その権限の全てを奪えた訳では無かった
それで新たな魔物を、生み出す事が出来ないでいた
アスタロトは呪文を唱えると、光る球体を前方に出した
それは魔力で作られた光球で、暫くの間光り続ける
こういった魔法は、魔導王国以前では当たり前の様に使われていた
今の時代に使われないのは、帝国が行った焚書のせいだろう
「便利な魔法だな」
「両手が塞がらないのが良いな」
「その代わり、短時間しか効果が無いのが欠点じゃ」
「切れない様に小まめに、魔法を使う必要がある」
「どのくらいの時間もつんだ?」
「大体10分ぐらいですね」
「10分か
オレにも教えてもらえないか?」
「そうですね
しかしあなたは、既に覚えている筈ですよ」
「え?」
「私の呪文を聞いていたでしょう?」
「それは…」
「後は繰り返し使って、イメージを定着させるだけです
魔法に重要なのは、そのイメージと魔力だけです
後は結句である魔法の名称だけでしょう」
「そんな簡単な物では…」
「何を言っています
あなたは魔導士として…
ガーディアンとして目覚めたのですよ」
アスタロトの説明では、魔法に本当に大切なのは魔力とイメージだ。
込められた魔力と、イメージによって結果が変わって来る。
そのイメージ次第で、魔法の威力や効果も変わって来る。
逆に言えば、イメージが悪いと魔法も成功しない。
「呪文を覚えなくとも、結句である名称が…
いえ、具体的には魔法の効果が分かっていれば良いのです」
「効果が?
それでは結句の意味は?」
「それは魔法のイメージを定着させる為です
例えば、マジック・アローがありますよね
あれは名前からも、魔法で作った矢を想定します」
アスタロトは話しながら、洞窟の壁を指差す。
「例えばあそこに、魔法で作った炎の矢を撃ちたい
そういう時は…どうします?」
「それはファイヤー・アローの呪文を…」
「マジック・アロー」
シュバババ!
アスタロトがそう言うと、アスタロトの周囲に火の矢が現れる。
それがアスタロトが指差した先に、次々と突き刺さる。
「え?」
「今のは私が、炎の矢をイメージして作りました」
「それでは…」
「ええ
結句がなくても…
はあっ」
シュババ!
今度も炎の矢が出るが、今度は本数が半分だった。
「結句を唱える事で、威力は安定します
また呪文を唱えれば、より深くイメージが作れるでしょう
尤もそれは、魔術師であるあなたには分かっている事でしょうが」
「それは…
魔導王国の資料にも書かれていた
しかしまさか…
結句すら必要無いとは…」
「魔術師なら、結句は必要でしょう
しかしあなたは魔導士ですから、より魔力と魔力操作が上がっている筈です」
「つまり今までよりも、より効率よく使えると?」
「そうです
試してみなさい」
「はああああ
はっ」
シュバッ!
アーネストが掛け声を上げると、魔法の矢が4本出て来た。
アスタロトの様に数十本では無いが、アーネストも魔法を無詠唱で使う事が出来た。
「で、出来た!
無詠唱で魔法が…」
「凄いな
今までは発火や灯火程度しか出来なかったからな」
「ああ
これなら魔物相手にも、十分に戦えそうだ」
「しかし慢心してはなりませんよ
無詠唱ではイメージが浮かび難いので、その分効果が低いでしょう」
「そうだな
たったあれしきとは…」
「ですから今後は、しっかりとイメージをして使ってください」
「そうだな…」
「それと
ギルバート同様戦闘を何度も経験する事じゃ
それが一番、身に付く筈じゃ」
「ルシフェル…」
「何じゃ?」
ルシフェルが言いたいのは、極度の緊張感の中での方が身に付くと言う事だ。
実際に兵役に就いた者の方が、技能は身に付き易かった。
しかしそれを、魔導士であるアーネストに当て嵌めるのは強引だろう。
アスタロトは呆れた表情で、ルシフェルの方を見ていた。
「実戦と言うのは分かりますが…
魔導士ですよ?
戦士や騎士とは訳が違いますよ」
「まあ同じじゃないか
緊張感があった方が良いじゃろう?」
「そうですか?」
「ううむ…
アーネストは大丈夫なのか?」
「さあ…」
「さあって…」
「実はさっきの薬を飲んでから、調子が良いんだ」
「本当か?」
「ああ
今なら今まで使えなかった魔法も、使えそうな気がする」
「大丈夫なのか?」
「さっきのを見ただろう?」
「あ…
まあ…」
先程の戦いで、アーネストは女神の雷を放つ魔法を使っていた。
それも魔力を溜める隙も見せずに、何発も続けて放てていた。
調子が良いと言うのも、どうやら本当の様子だった。
「それなら次に魔物が現れたら…」
「ああ
任せておいてくれ」
「アーネスト
ギルの足を引っ張らないでよ」
「おい!
そこは信用しろよ」
セリアの言葉に、アーネストは少しだけ拗ねてみせる。
「そういえば…
セリアはそのままなんだな」
「んみゅう?」
「そういえばそうだな
以前はすぐに、元の姿に…」
「こっちが本当のセリアなの!
あれは力を封じてた姿だよ」
「そうなのか?」
「ええ
力を使い過ぎると、まだまだ影響がありますからね
精霊に頼んで封印してたんです」
「それでは今は?」
「危険ですが、そんな事を言ってられません
封印は解いています」
「大丈夫なのか?」
「うん
無茶はしないよ」
「そうじゃ無くて…」
ギルバートは真剣な表情で、セリアの方を見る。
「お前も心配だが、オレの…
オレ達の子供が…」
「ああ
この子の事?」
セリアはニコニコしながら、お腹を摩っている。
その見た目は変わっていないが、セリアが言うにはその中に二人の子供が居ると言うのだ。
「子供ですか…」
「人間とハイエルフにか?
珍しいな」
「そんなに珍しい事なのか?」
「うむ
人間とハイエルフでは、遺伝子が異なっておる」
「いで…?」
「遺伝子じゃ」
「人間…
いや、生き物を作り出す、設計図みたいな物かな?」
「人間と亜人では、なかなか子供が生まれない
それが人間と同等のハイエルフとなると…」
「まあ、必ずしも無理という訳でもない
ただし心配だな…」
「大丈夫
この子は少しずつ、大きくなっているよ」
「そうだな…」
セリアの言葉に、ギルバートは頷く。
そのまま優しい微笑みを浮かべて、セリアの肩を抱き締める。
「おっと
そんな場合では無さそうですよ」
不意にアスタロトが、片手を上げてみなを制する。
「また広間に出ました」
「敵が居るのか?」
「ええ
待ち構えていますよ」
広間を覗き込むと、そこには武装した巨人が複数待ち構えていた。
その巨人はオーガでは無く、ヒルギガースに似ていた。
巨人は大きな鉄の板金鎧を着て、広間で待ち構えて居る。
その手には大きな、人間の背丈に近い大剣が握られている。
しかし3m近くの大きさの巨人が持つと、ショートソードの様に見えた。
「厄介ですね
フロスト・ギガースですね」
「フロスト?」
「スノウ・ウルフやスノウ・ベアぼ巨人版だ」
「と言う事は…
吹雪を吐くのか?」
「ええ
それが厄介ですね」
「構わん
ワシが先ず突っ込んで、奴等の注意を引く」
「あ!
ルシフェル」
ルシフェルはアスタロトの制止を振り切り、そのまま広間に突入する。
そこで再び大きくなると、巨人と互角の大きさになる。
それから4本の腕を広げて、巨人に向けて咆哮を浴びせる。
「うおおおお」
グ…ガア…
ルシフェルの咆哮を受けて、巨人達がルシフェルの方へ向く。
広間に居た巨人は8体で、ルシフェルに向けて一斉に向かって行く。
その腕には剣を握り、無造作に振り被って切り付ける。
しかしルシフェルは、その攻撃を真正面から受け止める。
「ぐはははは
その程度か?
それでは鍛錬にもならんぞ」
グガアアア
ガギン!
ルシフェルは周りを囲む、巨人達の剣を弾き返す。
弾き返しながらも、彼等に向けて何度か切り付けた。
しかし頑丈な鎧を着ていて、その攻撃を受け付けない。
ルシフェル程の大男が切り付けても、傷一つ付かないのだ。
「むう?
なかなか良い鎧を着ておるな」
グオオオオ
ガイン!
「このままではルシフェルも危険だ
オレ達も向かうぞ」
「しかしギル
魔物は頑丈な鎧を着ているぞ」
「それに吹雪も危険です
女王よ…」
「うん」
セリアはアスタロトに促されて、精霊を呼び出す。
風の精霊のシルフが、セリアの横に現れる。
「シルフ
来てちょうだい」
「何でしょう?
女王様」
「あの魔物を見て」
「ギガース?
それにしては妙ですね?」
「吹雪を吐くらしいの」
「なるほど
では私が防ぎましょう」
「うん
お願い」
シルフはセリアの側から離れると、ギルバート達の前で呪文を唱える。
それは精霊が使う精霊魔法で、精霊しか扱えない特殊な魔法だ。
見えない空気の膜がギルバート達を包み、薄くその身体を覆って行く。
「これは?」
「全体を守るのは難しいし、あなた達を一人一人守るのは無理があるわ
素早く動き回るでしょうしね」
「精霊の加護の一つで、風の守りよ」
「これが…
精霊の加護?」
「うん」
「効果は少し弱くなるけど、何もしないよりわマシだと思うわ」
「身体の周りに…
これで吹雪が大丈夫なのか?」
「そこまでは…
だけど大分マシになる筈よ」
「そうか…」
シルフの加護を受けて、ギルバートも前に出て戦う事にする。
「アーネスト」
「分かっている
後方から援護をする」
「頼んだぞ」
ギルバートは走り出すと、先ずは手近なギガースに切り掛かる。
「うおおおお」
ガギン!
ギャリン!
グガオオオ
ギルバートの一撃は、しかし巨人の鎧で威力が押さえられる。
なんとか切り裂いたが、深手は負わせられていない。
身体が大きい事もあって、少々の攻撃では有効打にはならないのだ。
「もっと集中しろ」
「しかしこの大きさでは…」
「大きさでは無い
お前は魔力を剣に流せるんだろう?」
「え?」
「魔力の使い方が甘い
もっとこう…」
ギャリン!
ガアアア
ルシフェルはそう言って、剣で魔物に切り付ける。
剣はやはり、魔物の鎧に阻まれる。
しかし魔力を込めた剣は、それでもなんとか腕を切り飛ばす。
「こうやって集中すれば…
っと」
ガギン!
「無茶はするなよ」
「お前が不甲斐ないからじゃ
もっと効率良く…ふん」
ガギン!
ルシフェルはそう言って、ギルバートに指導しながら戦う。
話ながらなので、どうしても攻撃は雑になる。
その代わりに、ギルバートは少しづつコツを理解する。
数合も切り付ける内に、剣に魔力が込められる様になる。
「こ、こうか?」
「そうじゃ
そうやって切り付ける瞬間に、剣に魔力を通すんじゃ」
「あいつ等器用だな…」
「感心して無いで
あなたも魔法に集中しなさい
氷の微笑」
「こ、こうか?
氷の微笑」
「そう
そうです」
アスタロトの指導で、アーネストも新しい魔法に挑戦していた。
両腕から放った魔法が、凍り付きながら魔物に絡み付く。
それで氷の冷気によるダメージと、拘束をする事の出来る魔法だ。
しかし相手は氷属性の魔物なので、ダメージは大きく無かった。
「なあ
これってダメージは…」
「そうですね
恐らくはそんなに効いていません」
「駄目じゃないか」
「慌てないでください
これは練習ですから」
「練習って…」
「次を教えますよ」
「あ、おい!」
アスタロトはそう言うと、再び呪文を唱える。
「炎の槍」
「炎の槍」
アスタロトの呪文を復唱しながら、アーネストも片手を突き出す。
「そう
そうやってよく狙って」
「狙う?」
「炎の槍をイメージしながら、突き出した左手で狙いを合わせるんです」
「こ、こうか?」
「ええ
そのまま槍を飛ばすイメージで、右手を突き出してください」
「うおおお」
アスタロトの動作を真似て、アーネストも炎の槍を飛ばす。
二人の周りに現れた、数本の炎の槍が飛んで行く。
そのまま凍り付て身動きが取れない魔物の、背中に炎の槍が突き刺さる。
アーネストの方はイメージが固まっていなくて、少し大きな炎の矢の様な感じになる。
シュバババ!
ドスドシュッ!
グゴオオアアア
グオアアア
魔物は無数の槍に刺されて、苦悶の悲鳴を上げる。
普通の武器では効果が低いが、炎の槍は鎧を切り裂いていた。
そのまま魔物の身体に刺さり、そこから激しく燃え上がる。
氷の魔物らしく、炎の魔法には弱かったのだ。
「これは…」
「言ったでしょう
最初の氷の魔法は、拘束の為の魔法です」
「しかしそれなら、炎の拘束の方が…」
「そんな便利な魔法はありませんよ」
「無いのか?」
「ええ
ですからこうして、氷の魔法で拘束を…」
「イメージで何とかなるんだろう?」
「え?」
アーネストは目を瞑ると、両手を正面で合わせる。
それから何かをブツブツと呟き、両手を掲げてから突き出す。
「炎の拘束」
ゴウッ!
グゴアアアア
アーネストの掌から、炎の蛇の様な物が飛び出す。
そのまま宙を進んで、1体の魔物の後ろから絡み付く。
そしてそのまま、魔物の身体に絡み付いて縛り上げる。
それはまるで、茨の様に魔物を炎で縛り付けていた。
「これ…で
どうだ?」
「素晴らしい
この短時間で物にするとは」
アーネストはアスタロトの話を聞いて、自分で魔法を編み出したのだ。
もしかしたら、過去に同じ様な魔法を使った者は居るかも知れない。
しかし今は、この魔法を使える者はアーネストだけだった。
そのまま炎で縛り上げて、魔物の身体をじりじりと焼き上げる。
「ど、どうだ?」
「発想が素晴らしい
しかしこの魔法は、本当に縛るだけですね
追撃は同時に出来ません」
「それは…仕方が無いだろう
拘束に…集中しないと」
「効率が悪いですね」
アスタロトはそう言って、その魔物に炎の槍を投げ付けるのであった。
まだまだ続きます。
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