表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第三章 新たなる領主
64/800

第64話

使い魔は飛ぶ

夜の闇の中を飛び、ダーナの街へと向かって

国王からの密書を携えて、竜の背骨山脈超えて行く

その姿を見れた者は、闇夜に浮かぶ魔物の化身であった

ダーナの街が襲撃されてから、3日が経とうとしていた

崩れた城壁には石が積まれ、遠目には崩れた跡は見えなかった

しかし、近くで見ると石の大きさがバラバラで、漆喰も乾いていなかった

その近くに魔術師が集まり、地面に奇妙な図形を描いていた。


「違う!違う!

 そうじゃない!」

「え?

 ここに呪文を…」

「だから違うって

 呪文はその下だよ」


アーネストが大声で魔術師の一人を叱る。


「こうですか?」

「うーん

 もう少し綺麗に書けないかな?」


他の魔術師が図形を見せて、アーネストは返答に困る。


「そんなんじゃ城壁に書けないよ

 魔法人の触媒も多く無いんだから、失敗は許されないよ」


アーネストが魔法陣を等間隔で描かせる。

それはこれから城壁に描かれる物で、触媒の液が希少なので一発勝負になりそうだった。

地面に見本を描かせ、実際に城壁に登って壁に書くのだ。


この魔法陣は強化の効力が有り、城壁や建物に描いて強度を上げる物だ。

翻訳した魔導大全に書いてあったのだが、触媒の素材が足りなくて実行出来ないでいた。

それが、先ほどのオーガの牙と魔石で作れたので、急遽城壁から試す事となった。


ギルバートは遠くからこの光景を見ており、子供の落書きの様だと思った。

実際に、側ではセリアが真似て地面に何か描いている。

少し離れた場所で、フィオーナも木の枝と格闘していた。


それらをのんびりと眺め、ギルバートは欠伸をした。

涙目で空を見ると、小さな黒い点が見えた。

それは徐々に大きくなってくる。

ギルバートは思わず剣に手を掛けた。


図形の落書きに夢中になっていたアーネストも、ギルバートの様子を見て思わず上を向く。

それは小さな黒点から、徐々に大きくなり、やがて鳥が飛んで来ているのが見えた。


「ギル

 大丈夫だ!

 あれは使い魔だ!」


アーネストの言葉に、ギルバートは剣から手を放す。

見ると確かに鳥が飛んで来ている。

アーネストの飛ばした使い魔より一回り大きく、羽ばたく姿は力強かった。

実はヘイゼル氏、アーネストの使い魔に負けたく無くて、頑張って魔力を奮発したのだ。

その甲斐あって、使い魔は見事な大鷲の姿をしていた。

ヘイゼルは暫く魔力の枯渇で起きられなくなったが…。


「オレは重要な要件が有るから

 みんなはここで練習してください」


そう言って、アーネストはギルバートの所へ向かった。


「アーネストちゃん

 どう?」


セリアは不可思議な文様を指差して、ドヤ顔で胸を張る。


「お、おお

 なかなか…独創的だね」

「えっへん」

「あたしは?あたしは?」


フィオーナもアーネストの裾を引っ張り、見てくれと駄々を捏ねる。

こちらは何とも言えない抽象画の様であった。


「うんうん

 フィオーナは絵が上手だね」

「わーい」


最早図形でもなく、ただの絵だった様だ。


「さあ、お家に帰ろう

 お兄ちゃんは重要なお話があるんだ」

「ええ

 やだやだ」

「まだ遊ぶの」


二人は駄々を捏ねる。

その姿は可愛いのだが、今はやる事がある。


「いい子にしてないと、おやつは抜きだよ」

「え!」

「ひどい!」


二人は瞬時に泣きそうな顔になる。


「さあ

 帰ってクッキーでも貰おう」

「うん」

「分かった」


二人はギルバートと手を繋いで領主の邸宅に向かう。

あれから、アルベルトの容体は落ち着いてはいるが、未だ意識は戻っていない。

ジェニファーは連日遅くまで通い詰め、アルベルトの傍らに居た。

その間はギルバートが二人の面倒を看て、寂しく無い様に努めた。


「お兄ちゃん

 お母さんは居ないの?」

「ああ」

「母さんはどうしたの?

 クッキー、一緒に食べないの?」

「母上はね、父上のお手伝いをしてるんだよ

 父上が早く二人の所へ戻れるようにね」


「だから、二人は母上や父上が早く戻れる様に

 良い子で待って居ようね」

「うん」

「はい」


二人は素直に返事はするが、やはり寂しそうだった。

だが、ギルバートもアーネストも男の子だったので、どうすれば良いか分からなかった。

結局、頭を撫でたり、絵本を読んであげるぐらいしか出来なかった。


二人がお昼寝したのを見て、ギルバートはメイドに任せて部屋を出た。

アーネストと執務室に入り、書簡と手紙を取り出す。

尚、使い魔はアーネストの元へ着いた所で、魔力が切れて消えていた。


「先ずは手紙からだな」

「ああ」


手紙の封蝋は鷲の印章になっている。


「このお方が宮廷魔術師のヘイゼル様だよ

 オレの師匠の弟弟子に当たる人だよ」

「どんな人なんだ?」

「うーん」


「オレの師匠は知ってるかい?

 ガストン様って言って、アルベルト様に仕えていたんだ」

「名前はね」


「そうか?

 そうなんだ…

 ギルの病気を抑えていたのも師匠なんだよな…」

「え?」


「ギルの病気?

 確か5歳まで続いてたよな

 正体不明の高熱と出血」

「出血?

 高熱は覚えているけど、出血って何だ?」

「え?」


「ギルは…覚えていないのか?

 オレも見た事があるぞ

 全身から出血して、呪いがどうとか…

 本当に覚えていないのか?」

「呪い?

 オレは熱で朦朧とした事は覚えているけど、他は知らないぞ?

 それに呪いって何だ?」

「ん?

 何か変だぞ

 師匠はその呪いを払う代償に死んだんだぞ?」


ギルバートは困惑していた。

確かに子供の頃に、しょっちゅう高熱を出しては寝込んでいた。

しかし、身体から出血とか覚えが無いし、呪いなど聞いた事が無かった。


「その…

 ガストン老師?

 アーネストの師匠がオレを救ってくれたのか」

「そうだ」


「ギルが知らなかったのは、高熱で意識が無い時が多かったからかな?

 そう考えると、師匠を知らないのも無理もないか」

「すまない」

「良いんだよ

 それより、ギルに黙ってたのが気になる

 恐らく知っているのはオレと師匠、領主様、後は…国王」

「国王様が?」

「ああ

 オレが一人になるのを心配して、師匠の後を継いだ事にしてくれたんだ

 だからアルベルト様もオレの面倒を看てくれていた」

「そうだったんだ…

 オレはてっきり、魔法の才能が有るからだと思っていた」


「勿論それもあるぜ

 師匠に拾われたのは、オレの持つ魔力が大きいからだ

 将来を有望視されていたのは確かだな」


アーネストはドヤ顔を決める。


「ただ、ギルの治療で師匠が亡くなったのは誤算だったらしい

 それでオレは王宮まで連れて行かれた

 アルベルト様が後見人を買って出てくれて、師匠の後継者となれたんだ」

「そうか、そんな事があったのか」


「だけどオレは、この呪いにも裏がある気がしてきた」

「オレの出生の件か?」

「ああ」


「お前が本当にアルフリート様だってんなら、王子は呪いを受けていた事になる」

「そうだな

 王子に呪いなんてあり得ないだろ」

「だが、それなら身分を偽って預けたのも納得がいく

 王子は死んだ事にして、信頼する者に預けた

 在り得る話だ」

「そうだな…」


ギルバートはまだ、自分が王子だなんて信じられ無かった。


「お前が身体が弱かったのも幸いしたのかもな」

「?」

「病弱なら、母親にも会わせられない口実になる

 いきなり生まれた子供が育ってたら、母親は不審に思うだろ」

「え?」


「あれ?

 知らないのか

 アルフリート様なら今年で13歳になってるんだよ

 聖歴22年の10月13日生まれだからな」

「ええ!」


「つまり

 本当ならお前は2歳年上な訳だな」

「…」


急に2歳上と言われても、実感が湧かない。

どころか、それでは自分は7年近くも病に苦しみ、意識が無い日々を過ごしていたのか?

改めて呪いの恐ろしさを思い知る。


「敬語使おっか?」

「止めろ」

「アルフリート様」

キリッ

「似合わないから止めてくれ」

「わはははは」


アーネストは急に真面目な顔をして、ギルバートに貴族風の挨拶をした。

しかし、急にそんな事をされても、背中が痒くなる感じがするだけだ。

それこそ小さい頃から兄弟の様に育った二人だ、今さら敬語とか使われたくない。


「だけど、お前が王太子になれば、話は別だな

 こうして二人の時は良くても、公式の場では我慢しないとな」

「はあ

 実感湧かんよ」


「嫌でも慣れてもらわないとな

 ほら」


アーネストは書簡に入っていた書類を渡す。

そこには国王の直筆のサインが有り、指令が書かれていた。


「二人で王都へ来る事…か」

「ああ」


「父上はどうなるんだろう」

「このまま意識が戻らないなら…覚悟はしておいてくれ」

「ああ…」


アーネストはもう一枚の書類を読み、ギルバートに渡す。


「どの道、代行は手配して頂いた様だ

 補充の騎士も着いて来るらしい」

「例の騎士様か?」

「ああ」


「こっちでお前が活躍した様に

 王都でも活躍した騎士が居たらしい

 それが今回来る代行だって」

「元騎士の貴族か」

「子爵として来るから、実質お前の方が…

 あれ?

 どの道、王子様なら上か」

「そうだな」


「気に食わないって喧嘩はするなよ」

「相手次第だな」


「まあ、代行が来るまでは1月近く掛かる

 それまではお前が代行だ」

「なら、補佐を頼むぜ」

「任せろ」


アーネストは胸を張るが、気になる事があって尋ねた。


「オレは構わないが、ジェニファー様が嫌がるかも」

「母上が?」

「ああ

 オレはまだ叙勲を受けていない

 だから平民が嫡男と馴れ馴れしいのは嫌らしい」

「母上がそんな事を?」


「ああ

 今まではアルベルト様がいらしたから、あまり言われなかったが、どうもその様だ」

「そうか…

 オレから言っとこうか?」


「止めた方が良いよ

 なるべくジェニファー様の前には出ない様にする

 それで大丈夫だろう」

「分かった、オレも気を付けるよ」


二人はその後も書類の確認をして、当面の指針を立てた。

城壁の強化と兵士の装備の強化。

先ずはここから手を付ける事にする。

魔物がいつ来るか分からないからだ。


書類の整理をしている間に、気が付けば夕刻になっていた。

アーネストはジェニファーに会うのが気まずいので、夕食は辞退して帰って行った。

ギルバートは起きた妹達を連れ、入浴や食事の手伝いをしてあげる。

母が居ない間は、自分が面倒を看るんだ。

王都に向かうまでは、自分がこの二人の兄なのだから。

そう思って二人の面倒を看ていた。


そうして二人が眠った後に、ギルバートは私室で月を見上げていた。

当座の危険と言われた3日は過ぎたが、父の意識は回復していない。

母が戻らない辺りは、亡くなってもいないのだろうが、いつ容体が悪化するか分からない。


見上げた月に祈ってみる。

女神様が月に関係するとは思えないが、この際何でも良い。


父上が意識を取り戻せます様に

少しでも事態が改善します様に


ギルバートは祈ってみた。

そうする事で、本当に父が治るワケは無いだろうが、今は縋ってみたかった。

月は何も応える事も無く、ただ宙に浮いて輝いていた。


その祈りが届いたのか?

翌日の早朝から、兵士が駆けこんで来た。

領主が目を覚ましたと。

一応、覚ますのと覚まさないのと2卓で考えまして、後のストーリーを加味して目覚める事にしました

悲劇的な展開にするなら、目覚めない方が良いんでしょうね

こういうのは悩む展開です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ