第606話
ギルバート達は機械の置かれた広場で、アーネストの話を聞いていた
アーネストはこれまで見た資料から、女神の正体を推測していた
しかし肝心の正体は、未だに判明していない
それは資料を調べても、彼女に関わる様な情報が無かったからだ
アーネストが調べた、情報をまとめた物を開く
そこには資料に書かれていた内容が、箇条書きで記されていた
しかし肝心の、偽の女神に関する記述は無い
これだけ調べても、彼女の痕跡は見付からなかったのだ
「これだけ?」
「ああ
そうは言うがここまで調べるのに…」
「いや
だって肝心の偽者の女神に関しては…」
「ああ
一切出て来なかった」
「じゃあ、空振りだったって事か?」
「いや、そうじゃあ無い
見付からないという事が分かった」
「いやいや…
それは負け惜しみじゃあ…」
ギルバートの言葉に、アーネストはキッと睨む。
「負け惜しみじゃあ無い
出て来ないからある意味問題なんだぞ」
「へえ…」
「それはこの時にはまだ居なかったか…
あるいは潜伏していたって事だ」
「ちょっと待て!
それじゃあ偽者は…」
「ああ
恐らくはそんなに昔から居なかったんだろう
それが証拠に、彼女に操られた者は居なかった」
「それはそうだろうが…
しかしそれじゃあ…」
「依然正体は分からない
しかし明確な意思は判明しているだろう?」
「それは?」
「人間の抹殺だ」
アーネストの言葉に、全員が言葉を失う。
確かに彼女は、そう言っていた。
しかしそれでも、まだ間違っていて欲しいと願っていた。
しかしアーネストは、改めてそれが真相だと告げた。
「彼女の真意が、人間への警告や改心なら…
ここまでする必要が無いんだ」
「しかし…」
「それにな…
痕跡では無いが、彼女が関わったと思える事はあるんだ」
「え?」
「それはカイザートの死と、魔導王国の行動だ」
「いや、待て!
さっきお前は…」
「操ってはいない
しかしおかしいんだよ!
なんで女神が居ないのに、王国はあそこまで大きくなった?」
「え?」
「それにカイザートの時もだ!
何でカイザートを毒殺出来た?」
「それはカイザートが油断して…」
「それじゃあ毒は?」
「ん?」
「カイザートほどの者が、死ぬ様な毒はどこから来たのか?」
「え?」
それが一番の謎だった。
ガーディアンとして魔王と同等の力を持ち、その身体も頑丈になっていた筈なのだ。
しかしカイザートは、簡単に毒殺されている。
そんな毒がどうやって、帝都に作って持ち込まれたのか?
「あ…」
「分かったか?
そこからしておかしいんだ」
「しかしカイザートも人間なんだろう?
それなら…」
「あの時…
ギルもアモンもポイズン・サーヴァントの毒は効かなかったよな?」
「ポイズン・サーヴァント?
ああ、あの毒蛇の事か?」
「そうだ
お前もアモンも、毒を受けても平気だっただろう?」
「兵器じゃ無かったぞ
痺れるし苦しいし…」
「いや、そんな物じゃあ無いんだよ
兵士が何人も死んだんだぞ」
「あ…」
確かにギルバートも、多少の痺れや苦しさを感じていた。
しかし実際には、その毒が触れただけで死んでいる者も居る。
もっと言えば、地面すら腐食していたのだ。
それでその程度済んだのは、ギルバートやアモンの身体が頑丈だからだ。
「まさか…」
「ああ
当時のカイザートなら、並みの毒なんて平気だった筈だ」
「しかし少しは効くのでは?」
「効いたとしても、死ぬほどでは無かっただろう
そう思わないか?」
「ううむ…」
カイザートほどの者を殺す毒なら、そう簡単に作る事は出来ないだろう。
だからと言って、女神が関与していないのなら、一体誰がそれを調合したのか?
「魔王や使徒も、当時は女神と共に神殿に居たんだ
それに殺した本人が、何で悲しんで精神を病むんだ?」
「待て
精神を病むって?」
「ああ
お前はそこまで見て無いのか
女神が眠っていたのは、精神を病んでいたからだ」
「女神が?
だって彼女は…」
「だがその心は、我々人間の様に繊細だったんだ
例え作り物でもな」
人間を管理する為に、女神は別の世界で生み出された。
その心は恐らく、人間よりはしっかりとしているのだろう。
しかし彼女も、心が在ったのだ。
だからこそ人間の行いに心を痛め、あれほど悩み苦しんでいたのだ。
「女神にも心がある
それは見ていて分かっただろう?」
「しかし女神だぞ?」
「だから精神を病んだ程度で済んでいたんだろうな
そうでなければ、発狂して世界を滅ぼしているさ」
「あ…」
「だからオレは、最初は女神が狂ったんだと思っていた」
「なるほど…」
アーネストの言い分に、ギルバートも頷く。
確かに狂ってしまったのなら、今の行動も説明が付く。
全てを終わらす為に、この世界を破壊すれば良い。
しかし彼女は、狂う事も許されなかったのだろう。
「それで眠りに?」
「ああ
恐らくは心の傷を癒す為に…
正常になる為に眠ったのだろう」
「それで今も眠っていると?」
「ああ
だからその間に、何者かが女神に成り済ませたんだ
そいつが恐らく…」
「それじゃあカイザートの暗殺も?」
「そうだ
そいつの可能性が高い」
何者かが女神を苦しめようと、カイザートを人間の手によって暗殺させた。
アーネストはそう考えていた。
そしてその者は、王国にも関与していたと考えている。
「しかしそんな危険な存在が…」
「女神が眠っている時期にも、不自然に使徒が動いている時期がある」
「え?」
「女神は勇者イチロの件で、一時期眠っていた筈だ」
「ああ
そういえばそう言っていた…」
「しかし使徒が、その時期に動いている」
「ん?」
「女神が不在な筈なのに、王国に不自然な関与の痕跡があるんだ」
アーネストはそう言いながら、資料をメモした羊皮紙を差し出す。
そこには女神からの指示として、幾つかの記述が記されている。
ぱっと見では、それは女神が人間に知恵を授けた事になっている。
生活の為の知恵や、魔法に関しての教えだったりする。
「これがどうしたんだ?」
「いや、お前なあ…」
アーネストは呆れた表情で、映像にあった言葉を口にする。
「映像の中で、セロが言っていただろう?
久しぶりに目覚めたのに、まだ本調子じゃ無いのか?って」
「え?」
「カイザート達の前に現れた時に、女神は目覚めたばかりだった」
「何だかそんな事を言っていたな」
「それでそれまで、魔王や使徒も人間に関与していなかった」
「そんな事も言っていたな…」
「それじゃあこれは?」
「へ?
…ああ!」
ギルバートも漸く意味を理解して、思わず大きな声を上げる。
光の精霊セロは、確かに久しぶりに目覚めたと言っていた。
しかしここには、女神の神託として幾つかの記述が残されている。
そうなればこれは、一体誰の神託なのだろうか?
「女神は今も眠っている…
そういう話だったよな?」
「ああ」
「それなら今聞こえる世界の声は?」
「そういう事だ」
「それじゃあこれも…」
「そうだ
女神の告げた神託では無い」
それは恐ろしい事実だった。
アモンもその事に気が付いて、カイザートの時の記録を残したのだ。
自分の恥ずかしい過去を見せるのは嫌だったが、それを伝える必要があった。
だから記録を残したディスクを、アーネストに託したのだ。
「おいおい
それじゃあ…」
「ああ
恐らくはこの時から、彼女は存在していたのではと思う」
「それじゃあ…」
「ああ
もしかしたら、何代にも渡ってかも知れないが…
少なくとも、人間が道を踏み外す様に仕向ける存在が居た事は確かだ」
記録には確かに、人間が女神に選ばれたという言葉も記載されている。
これが神官が吐いた嘘で無いのなら、神託でそう告げられた事になる。
女神以外の何者かが、そう神託で告げたのだ。
「使徒が独断で行ったとか…」
「その辺も考えた
しかしエルリックの話では…」
「そうか
神託を告げた者を確認出来ても、神託自体は使徒は出来ないって…」
「そういう事だ」
これで何者かが、王国を扇動していた事が確認出来る。
そう考えてみれば、帝国の行動や六大神という新たな宗教も、何やらきな臭く感じる。
「なあ
六大神って…」
「ん?
そう言えばギルは、最後の一人は見ていないな」
「それは良いんだ
それよりも、そもそも何でそんな宗教が出来たか…」
「ああ、そこか
それは女神が眠りに着いたからな
信託も聞こえなくなったんだ
だから…」
「それって…
いや、そもそもが女神の権威を落とす為に…」
「ん?
それは…待てよ?」
アーネストもそこは、考えが及んでいなかった。
ギルバートも何となく、不自然に感じた程度だった。
しかし謎の存在が関与しているのなら、その可能性もあり得るだろう。
王国を導いた様に、帝国も操っていた可能性は十分にある。
「そうか!
魔導王国を腐敗させた様に…」
「ああ
それに神が女神で無いと錯覚させる為なら…」
「東の帝国も?」
「そうじゃ無いのか?」
東の中国の神も、同時期に女神の代わりに現れている。
そうして選民思想と、奴隷制を吹き込んでいた。
それで遊牧民の国も、すっかり価値観が変わっていた。
「そうだな
剣聖アランが興した国にしては、随分と思想が偏っていると思ったが…」
「それこそ人間を悪い方に導いたとしたら?」
「そうだな
あんなガチガチの選民思想じゃあ、女神も滅ぼしたくなるだろうな」
「だよな
その為に新たな神を作った…」
「そういう考えも出来るか
ギルにしては頭が回るな」
「一言余計だ!」
これで六大神や、東の帝国の神の誕生が分かった気がした。
共に人間を至上の存在として、選民思想を植え付ける為だったのだ。
しかし帝国の方は、まだマシな人間が多かったのだろう。
内部分裂をして内乱まで起こったが、そこで女神信仰も取り戻している。
それに帝国自体も、一部の貴族以外は選民思想を嫌っていた。
「東の中国は、選民思想に染まった国になった訳だ…」
「ああ
こっちの帝国だけでも、まともで良かったよ」
「一部の貴族は腐っているがな」
「それは仕方が無いだろう?
それを言うなら、女神信仰を取り戻した、我が王国も同じだ」
「そうか…
こっちにもそういう奴は居るか…」
王国にも、少なからず腐敗した貴族は居る。
それに商人や住民にも、選民思想を持つ者は居るのだ。
どこの国に於いても、その様な者は少なからず存在するのだ。
それこそ嘗て女神を生み出した世界に於いても、その様な者は居たのだから。
「選民思想か…
女神が生み出された世界にもあったんだよな?」
「ああ
それで二つの国に別れて、どっちが正しいかで争っていた」
「その果てが一つの嘘で、あんな事態に…」
「それも人間では無く、それを管理していた存在が…だ」
「人間を管理か…
恐ろしい世界だな」
「そうでも無いだろう?
管理さえしっかりしていれば…」
「そうじゃあ無い
お前だって気付いているだろう?」
ギルバートの言葉に、アーネストは躊躇っていた。
「しかしこの世界だって…
女神が管理しているから…」
「それもそうだが…」
「それに管理されていないと、オレ達は間違ってしまうだろ?」
「だが、間違えてもやり直せれば?」
「それはやり直せる事だろう?
オレはそのせいでギルやフィオーナ達が死ぬなんて…」
「それもそうか…」
どちらが正しいかなんて、今のギルバート達には答えが出せなかった。
それこそ過去の世界でも、何度も過ちを犯しているのだから。
しかしそれでも、ギルバートは管理という言葉に抵抗を覚える。
何でそんな事が必要なのかと。
「そんなに信用が無いのかな?」
「そうじゃあ無いだろう?
女神はこの世界を、直接的には管理していないだろう?」
「しかし何度か…」
「それはどうしようもない時だけだろう?」
アーネストはそう言ってから、周りを見回す。
「それに女神は…
主に生きやすい世界を保つ事に集中していたと思うぞ
例えば自然や生き物とか…」
「え?」
「放って置けば、世界は荒れ果てていたんじゃ無いか?
それこそ住めなくなるぐらい」
「それはどういう…」
「魔力災害や兵器…
それに浮遊大陸」
「ああ…
そういう事か」
確かに浮遊大陸は、厄介な存在だった。
それに魔力災害が起これば、そこには生き物が住めなくなる。
兵器という物も、世界を滅ぼす危険な存在だ。
しかし兵器に関しては、女神も関わっている事になる。
「でも、兵器って女神が…」
「ん?
どっちの女神なんだろう?」
「あ…
まさか?」
「ああ
偽物がいつから居るのか分からない
だったら兵器だって…」
「偽者の仕業?」
「ああ」
「しかし何が目的で?
それこそ人間を滅ぼすのなら、何も人間に教えなくても…」
「同士討ちを望んでいた?
それとも人間だけじゃあ無く…」
「まさか…なあ」
兵器を開発したのは、人間の仕業だった。
しかしどう考えても、いきなりあの様な物が作れるとは思えない。
そう考えると、それを教えた者が居る可能性が高い。
しかし兵器は他の種族と戦う為に作られていた。
そう考えれば、人間以外の種族を滅ぼす目的だったとしか思えない。
そう考えるなら、偽の女神の目的も変わって来る。
この世界から、人間種全てを駆逐しようとしている。
その様な恐ろしい考えが、ギルバートの脳裏に過った。
「まさか…
今も作られていないよな?」
「いや…
さすがに…」
「急がないとマズかもな」
「そうだな」
ギルバートは、女神が現れないのは魔物を生み出しているからだと思っていた。
しかしこうしている今も、何か暗躍しているかも知れない。
中国を動かした様に、何か画策しているかも知れない。
ギルバート達は、不意に浮かんだ嫌な予感に、旅を急ぐ必要があると感じていた。
まだまだ続きます。
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