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聖王伝  作者: 竜人
第十八章 北へ向けて
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第604話

カイザート達は、野営地を移動して立て直していた

王国は追い詰められたのか、なりふり構わず攻撃して来た

獣人を招き入れて、裏切りを画策したり

魔物の後を追って、侵攻したりしていた

カイザート達は、王国軍を追い返す事で結束を強めていた

今回の事で、裏切り者の獣人達は死んでいた

その事もあって、人種差別や奴隷を望む者も居なくなっていた

狼の獣人でさえ、仲間の行いを恥じて改心していた


「魔物が東に現れました」

「オレに任せておけ!」

「あ!

 アモン、待てよ」

「アラン

 私も行くわ」


王国の騎士を退けてから、数日は散発的な魔物の攻撃に悩まされていた。

しかしこの機に、カイザート達は野営地を強化させる事に成功していた。

仲間に加わっていたドワーフ達が、小さいながらも城壁を造っていたのだ。

そうして少しずつだが、そこは拠点として発展して行く。


「エルド

 建物をまだ増やすのか?」

「ああ

 この調子で行けば、ここに街を作る事も出来そうなんじゃ」

「そうか…

 街か…」

「ワシ等に任せてくれれば、そう簡単に壊せない城壁も築ける

 しかし問題は時間じゃな」

「そうだな…」


ドワーフ達は協力的で、ここに街を造ろうと提案していた。

王国に反攻する者が集まる街を築き、ゆくゆくは国にまで発展させよう。

そういう考えまで持っている者も居たのだ。


「しかしこんな場所に街を作っても…」

「大丈夫じゃ

 実はここの土壌はな…」


ドワーフ達には秘策があった。

それは草食獣の獣人達を集めて、畑を開墾するという物だった。

ここの土壌は魔物の血を吸って、周りの土壌よりも質が良いと言うのだ。


「しかし通常は…」

「ああ

 魔物の血は毒になる筈じゃ

 作物は枯れ、育たなくなる筈じゃ」

「それなら…」

「しかし何故かのう、ここは土が肥えておる

 この調子ならば、良い作物が採れそうじゃ」

「本当か?」

「はい

 私達も驚いています」


それは獣人達も同じだった。

土地が痩せると思っていたのに、予想以上に肥えていたのだ。

試しに飢えてみた小麦も、ここ数日で芽を伸ばしていた。

この調子で行けば、城壁が出来上がる頃には収穫出来そうだった。


「何故だ?」

「さあ…

 しかし食料が自給出来るのは良い事です

 これなら安心して…」

「ここで戦えるか?」

「ええ

 それに街作りも…」

「うむ」


ドワーフ達が率先して、周辺から石を集めて城壁を築いている。

羊や牛の獣人が協力して、そのペースは日毎増していた。

今では西側に、王国軍が迂闊に踏み込めない大きな城壁が築かれている。

そこから矢を放って、王国軍が近付けない様に牽制出来ていた。


「街作りにはどうすれば良い?」

「先ずは区画を作ってな、こうやって家の数の計算して…」


ドワーフ達は、故郷である鉱山を襲撃されていた。

それで半数が捕まり、残りがここまで逃れて来ていた。

捕まった家族は心配だが、ここに居る仲間を守る事が先決だった。

だから頑丈な城壁を築き、先ずは戦える体制を作っていた。


「この近くに鉱山も発見した

 出来ればそこで、真銀も掘りたいのじゃが…」

「真銀とは?」

「魔力を込め易い金属でな

 ワシ等はミスリルとか魔法鉱石と呼んでおる」

「魔力が込めやすい反面、物理的な力に弱い」

「じゃが、魔力を扱えればそこもカバー出来る」


この頃はまだ、ミスリルは未完成な金属であった。

魔法を鉱石に刻み付ける技術が、一部のドワーフにしか伝わっていなかったのだ。


「ワシの兄が居ればのう」

「兄上は何処へ?」

「王国に捕まってしまった

 無事ならば良いのじゃが…」

「そうか…」


この兄と言うのが、ガンドノフ事であった。

彼等はガンドノフが住んでいた、鉱山の仲間だったのだ。

王国に襲撃された際に、彼等は鉱山の中で採掘を行っていた。

まだ年若い彼は、炉での作業を許されていなかったのだ。

その事が逆に、彼等を救う事になったのは皮肉であった。


「ワシ等はまだ若くてなあ」

「採掘や石組は任されても、真銀の炉は使わせてもらっておらんかった」

「若いって…」


カイザートから見ても、エルド達は壮年に見えていた。

しかし50歳程度では、ドワーフではまだまだ未熟なのだ。

ミスリルを扱える様になるには、20年以上の炉の作業を熟す必要があった。

そうして認められた者が、ミスリルを扱う炉を使用する事を許される。

それほどミスリルを扱うには、熟練した技術が必要だった。


「ワシでもまだ、20年経ったばかりなんじゃ」

「20年って…」

「お前さん方人間にとっては、長く感じるかも知れんのう」

「しかしワシらドワーフからしたら、20年なんぞそんなに長い時間じゃ無いんじゃ」

「こっちのアーサーが、やっと炉を使い始めたところじゃった」

「しかし肝心の炉が…のう」

「あれを作るには、色々材料が足りん」

「それに技術ものう」


こうして鋼までは扱えるが、それ以上はまだ扱えていなかった。

しかし鋼だけでも、王国軍の武器に比べれば上質だった。

彼等は奴隷に働かせて、大量生産を行っている。

しかし無理矢理作らせているので、その質は決して良く無かったのだ。


「まあ、向こうは奴隷に無理矢理作らせた物じゃ」

「同じドワーフが作ったとしても、気合の入ってない半端な物なんぞ…」

「そうじゃ

 疲れ果てて嫌々作った武器なんぞ怖くも無いわ」


そう言ってドワーフ達は、ニカリと笑うのであった。


それから映像は、暫く拠点の発展を映して行く。

最初は小さな町だったが、そこに少しずつ人が集まって行く。

途中に何度か襲撃されて、城壁が崩される事もあった。

しかしドワーフや獣人が協力して、再び強化された城壁が築かれる。

そうして2年ほど、時は進んで行った。


「そこだ!

 右から回り込め!」

「うおおおお」

「アモン!

 前に出過ぎるな」

「承知!」


「追加のキマイラが来たぞ!」

「アラン!」

「無茶を言うな

 こっちも手一杯だ!」


そこには信じられない様な光景が映し出されていた。

あれだけ苦戦したキマイラを、カイザート達は少数の騎士で倒していた。

よく連係された騎士は、キマイラの攻撃を躱しながら的確に攻撃する。

そうする事によって、危険な蛇の猛毒や、魔獣の牙の攻撃を躱していた。


魔物の攻撃によって崩されても、新たに加わった魔族の部隊が後方から支援する。

それは支援魔法だけでは無く、攻撃の魔法の支援も行われていた。

しかし魔族の人数は少なく、魔法だけで倒すのは無理がある。

人数は増えても、戦える者ばかりでは無いのだ。


激しい戦いを終えると、カイザート達は城壁から街に帰還する。

この頃には既に、王国軍は攻め込んでいなかった。

最早魔獣の脅威にさらされて、カイザート達を攻撃している余裕は無かった。

彼等も守りを固めて、魔物と戦っていたのだ。


「ふう

 なんとか退けれたな」

「ええ

 しかしこう連日ですと…」

「兵士がもたないか…」

「ええ…」


カイザートの言葉に、士官達が疲れた表情を見せる。

戦いもいよいよ大詰めに近付き、王国の方では被害が大きくなっていた。

ここで王国側も、魔物の脅威を国内で認め始めていた。

しかしカイザート達に勝てない事で、どうしても和平交渉に乗り出せなかった。


「後は王国の降服を待って、魔物の主と戦うか…」

「ええ

 しかし…」


王国は負けを認めれず、なおも執拗に派兵を唱えていた。

しかし国内でも、停戦の機運は高まっていた。

そうして映像は、大規模な戦いを映し出す。

王国最後の、国内での戦いである。


カイザート達は獣人と騎士が先頭に立ち、王国の王都まで攻め込む。

そうして最終的に、王都での決戦が行われる。

この時は女神も、魔物を外に出さない様に指示を出していた。

ここで魔物まで加わると、本当に人間達は滅びてしまうだろう。

さすがに女神も、そこまでは望んでいなかったのだ。


そして映像は切り替わり、再びカイザート達の街を映し出す。

そこには王国の重臣も集まり、和平会談が行われる。

そして共に魔獣を倒す事を、その場で誓い合った。


アーネストは映像を一旦止めると、ギルバートの方に向き直る。


「これがカイザートの戦った、魔導王国との戦いだ」

「なあ

 この後もあるんだよな?」

「ああ

 ドラゴンの討伐だな」

「それも…」

「それは後だ

 ここまでで何か、気が付いた事はあるか?」

「え?

 ううん…」


アーネストの質問に、ギルバートは色々聞きたかった事を思い出す。


「アモンが居たな…」

「ああ

 ちょっと雰囲気が違ったがな」

「そうだな

 あいつ…

 あんなにカイザートを慕って…」

「そうだ

 そして恥ずかしいから、ここは映すなと書いてあった」

「え?」

「だけどな…

 重要な場面じゃないか」

「そうだよな

 ここには色んな事が映されていた」


アモンとしては、この世界の歴史とガーディアンの意味を示したかった。

だから英雄達の、活躍を纏めていたのだろう。

しかしそこには、同時に人間の愚かさも収められていた。

欲望に駆られて、人間は愚かな過ちを犯す。

ここにはその様な意味も、込められている気がした。


「人間は…」

「ん?」

「何度も過ちを繰り返しているんだな」

「いや、獣人や翼人だって…」

「だから人間だって!

 翼人とか獣人とか…

 それは人種でしか無いだろう?」

「あ…」

「アーネスト

 お前もそういう考えに染まりかけているぞ?」

「そうだな…

 彼等も人間か…」


ギルバートの言葉に、アーネストは驚いていた。

しかし同時に、彼がそこまで考えていると嬉しくなっていた。

いつの間にかギルバートは、カイザートと同じ様に獣人とか翼人とか区別しなくなっていた。

いや、イチロも同じだったのだろう。

だから彼は、全ての種族と敵対する道を選んでいた。


「翼人だとか人間だとか…

 そんなのはどうでもいい

 大事なのは個人の生きる事を守る事だ」

「そ、そうだな…」

「難しい言葉は分からない

 分からないけど…生きる事を奪ってはいけない

 例えそれが、神だったとしても」

「ああ

 それを生きる権利って言うんだ」

「権利?」

「ああ

 個人の尊厳…

 人間らしく生きる権利を守る、それが大事なんだ」

「尊厳…

 権利…」


「ああ

 だから例え女神であっても…」

「そうだな

 それを奪う事は許されないな」


ギルバートは頷いてから、停まった映像を見る。

そこには人間とか獣人とか関係無く、みんなが笑っている生活が映されている。

これこそが女神が、いや、元になった世界の住人が描いた理想なのだろう。

しかしそれも、長くは続かないのだ。

結局どこかで、誰かが道を踏み外すのだ。


「誰かが…

 必ず…」

「ん?」

「こんな平和な日々は、長く続かないのかな?」

「そうか?

 オレは…」

「だってそうだろ?

 これだけ苦しんだのに、僅か数年でカイザートは殺されて…」

「あ、いや…

 それは…」

「その前もそうだろ?

 常にどこかで、誰かが道を誤るんだ」

「そうかも知れないが…」

「それで女神は、苦しんでいたんだろうな…

 それならいっそと…」

「おい!

 ギル?」


アーネストは一瞬、ギルバートの目を覗き込む。

そこには深い絶望と、計り知れない悲しみが宿っている気がした。

しかし暗く淀んだ様に見えたのは、一瞬だった。

すぐにギルバートは顔を上げて、何でも無い様な表情に戻った。

それでアーネストは、今のは自分の勘違いだと思っていた。


「それで?

 映像はこの後はドラゴン退治か?」

「そうだな…」

「さっきの映像も…」


ギルバートが視線を移すと、騎兵達は映像の続きを待っていた。


「どうやらキマイラとの戦いも、今度は大丈夫そうだな」

「え?」

「今のを見てたんだろう?」

「いや、殿下」

「あれはさすがに…」

「そうですよ

 オレ達には無理ですよ」

「そうか?

 彼等は金属鎧でやってたぞ?」

「それはそうですが…」

「学ぶ事は多かっただろ?」

「ですが…」

「期待してるぞ」

「むぐ…」

「は、はい…」


ギルバートの悪戯っぽい笑みに、騎兵達はそれ以上不満を言わない。

難しい事は、ギルバートだって承知しているのだ。

それでも相応の魔獣が現れて、危険な事には変わりが無いのだ。

この先生き延びるには、それほどの覚悟が要るという事なのだろう。


「あの通りにやれとは言わない

 だが…死なない様にな」

「はい」


ギルバートの言葉に、騎兵達は頷いていた。


「それで?

 続きは見せてくれるのか?」

「そうだな

 その前に…」


気が付けば、お腹を空かせたセリアが来ていた。

目を潤ませて、ギルバート達の方を見ている。


「先に食事の準備をしよう」

「え?

 もうそんなに時間が?」

「ああ

 半日ぐらいぶっ通しで見てるぞ」


ギルバートは映像に集中していて、時間の経過を忘れていた。

しかしあれだけの物語を見ていたのだ、相応の時間は経過していた。

そしてカイザートのパートだけで、8時間ぐらい経過している。

アーネストも気が付けば、すっかりお腹が空いていた。


「このまま見てたら、終わる頃には空腹で倒れてるぞ」

「そんなにか?」

「ああ

 セリアを見て見ろ」

「ふみゅう…」

「あ!

 しまった…」

「お兄ちゃん…

 お腹空いた…」


ギルバートは慌てて、食事の指示を出すのだった。

その後は暫く、セリアは頬を膨らませていた。

本当は既に、空腹になって3時間ほど我慢していたらしい。

それでもみんなが映像に夢中で、今まで我慢していたのだ。


「ごめんって」

「ふんだ

 どうせセリアより、あの動く絵の方が大事なんだ」

「だから悪かったって

 これもあげるから」

「むう!」

「分かった

 こっちの木の実も…」


ギルバートは必死に頭を下げながら、セリアの機嫌を取るのであった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

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