表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十八章 北へ向けて
602/800

第602話

獣人達の戦場で、一人の黒い狼の獣人が暴れていた

彼は同族からも蔑まれて、奴隷として盾にされていた

女神が止めていた奴隷制を、獣人達は行っていたのだ

カイザートは大いに怒り、獣人の士官達を捕らえた

数人の士官を残して、獣人達の士官は取り押さえられる

その事で益々混乱するが、アランが何とか黒い獣人を取り押さえる

しかしその事で戦場は混乱して、幾人かの獣人が捕らえられていた

カイザートは取り押さえた獣人を連れて、野営地に引き返した


「カイザート

 こいつはどうする?」

「縄は解けないが、彼も被害者だ

 叱責だけで済まそう」

「何故なんだ!

 元はと言えばこいつが…」

「貴様等が彼を責められるのか?

 奴隷などと非道な行いをして」

「何を言う!

 これは元々獣人の問題で…」

「選民思想に奴隷制

 女神は警告をしていたよな?」

「うぐっ」

「しかしそれは人間の事で…」

「お前達は人間で無いと?

 それならその様に扱うが?」

「何だと!」

「貴様等の行いは、過去に滅びた翼人と同じだと分からんのか?

 それとも自分達は、許されると勘違いしているのか?」

「何を…

 ひっ!」


なおも言い訳をしようとする、獣人達にカイザートは剣を抜く。


「オレ達を脅す気か?」

「ふん

 気に食わないなら出て行くが良い」

「な…」

「くそっ!」


しかし獣人達は、文句こそ言えども出て行こうとはしなかった。

彼等もここで引いては、今度は自分達の身が危ないと承知しているのだ。

それに問題を起こしているのは、狼の獣人達だけだった。

他の獣人達は、特に草食獣の獣人はカイザートの味方だった。


「お、オレ達は奴隷じゃ無いぞ」

「そ、そうだ

 め、女神様が守ってくださる」

「それに…

 カイザート様も…」


「くそっ

 人間風情が…」

「その人間に負けて、尻尾を巻いたのは誰だ?」


熊の獣人達も、カイザートの側に回った。

彼等も狼の獣人の態度には、我慢が出来なかった。

だからこの機会に、彼等の考えを正そうと思っていた。

しかし問題は、暴れていた獣人の方だった。


「グルルル

 こ、殺せえ!」

「意識が戻った様だな?」

「オレは呪われた忌み子だ

 さっさと殺せ!」

「何で殺さないとならない?」


「カイザート殿

 彼には呪いが掛かっております」

「呪いだと?

 そんな物が本当にあるのか?」

「ええ

 彼はこれまでにも、戦場で暴走しています

 それは彼が生まれた…」

「出自が問題だと?」

「ええ」

「しかしそれなら、他の混血児も呪われるだろう?

 何で彼だけが呪われる?」

「それは…」

「こいつが魔族との混血だからだ!

 不浄な血を引いているからな

 それで呪われているのさ」


狼の獣人達は、吐き捨てる様にそう言った。

彼が幼少の時から、魔族の混血として忌み子として扱われた。

そして何か悪い事があれば、全て彼が呪われているからとされていた。

それで彼の全身には、無数の古傷が刻み込まれていた。


「馬鹿らしい」

「しかし実際に、彼は暴走を…」

「それだって他の理由があるんだろう?

 そもそも呪いだなんて」

「離せ!

 オレをさっさと殺せ!」


なおも必死に抵抗する、アモンの前にカイザートは腰を下ろす。

それからアモンの傷を見て、顔を顰めていた。


「こんなに傷付いて」

「可哀想に…」


いつの間にかアルサードも隣に来ていて、同情して傷を見る。


「イシュタル

 あなたならこの傷を…」

「そうですね

 最近の物は治せるでしょう

 しかし古い傷は…」

「無理なのか?」

「ええ

 彼の中には多くの魔力が流れています

 それが身体強化を与えていますが、逆に傷を癒す事を…」

「阻害すると?」

「ええ…」


イシュタルも隣に来て、アモンの傷を癒そうとする。


「ヒーリング・ライト」

「止せ!

 このまま殺してくれ」

「どうしてだ?」

「オレは生きていてはいけないんだ

 この呪われた血が…」

「違う!

 そんな物があるものか!」

「え?」


カイザートは声を荒らげると、アモンの胸倉を掴む。


「何が呪われているだ

 そんな物があるのなら、ワシも呪ってみせろ」

「何を馬鹿な…」

「お前こそ…

 名は何と言う?」

「必要無い

 オレは呪われた忌み子

 それで良い…」

「馬鹿な事を言うな」

「放って置いてくれ

 どうせあんたも、オレを盾に使いたいだけだろ?」

「何?」


アモンは不貞腐れて、カイザートから視線を逸らす。

いくらカイザートが話し掛けても、彼の心には響いていないのだ。

また気紛れに同情したふりをして、すぐに捨てられる

彼はそう思って視線を逸らしていた。

彼を興味本位で拾っては、その様に扱う者ばかりだったのだ。

だからカイザートに対しても、その心を開いていなかった。


「ふむ

 今は時間が必要かな…」

「ですね…」

「その者を拘束しておけ

 ただし危害は加えるな」

「ですが…」

「そうだぜ、カイザート

 また暴れるかも…」

「その時はワシが居るし、アランも押さえれるだろ?」

「いや、実際骨が折れるぜ?」

「ふむ?

 それはそうだな…」


アランの姿を見ると、何ヶ所か切り傷を負っている。

アランは今では、カイザートの次に強い戦士であった。

そのアランが手傷を負うほどの戦士だ、並みの騎士では勝てないだろう。

実際に王国の騎士も、何人か命を落としている。


「しかしその者…」

「え?」

「我が軍の被害を見て見ろ?」

「ん?」


王国の騎士は殺していたが、彼は獣人や騎士は殺していなかった。


「寸での所で留まっておる」

「ああ

 なるほど…」

「どういう事だ?」

「まだ救われる道は残されておる

 そういう事じゃ」


カイザートはそう言って、騎士達にアモンを軟禁させる。

それから数日、アモンは大人しく天幕の中で過ごしていた。

特段暴れる事も無く、むしろ戸惑っている様にも見えた。

そしてカイザートが尋ねた時に、彼はカイザートの足元に縋り付く。


「何故だ!

 何故殺してくれない」

「ふむ

 どうして死にたい?」

「お、オレは呪われた忌み子だ

 このままでは、また誰かを殺そうとする」

「ふむ

 しかし先日の戦いでも、お前は誰も殺そうとしなかった

 味方を傷付けようとする王国の騎士以外はな…」

「それは…」


アモンが暴走した経緯を、カイザートは獣人達に聞いていた。

すると奴隷として盾にされていた獣人から、有力な情報を聞き出せた。


「彼は私を助けてくれました」

「恐ろしい騎士達から、その身を挺して」

「その時なんです

 彼から黒い靄が現れて…」


それからカイザートは、他の獣人達にも確認をする。

すると熊の獣人からも、似た様な話を聞く事が出来た。

狼の獣人が、羊の獣人を八つ当たりで切り殺そうとしていた。

それを庇った彼が、黒い靄に包まれて暴れ出したと。


「アモンと言ったな」

「あ、ああ…」

「お前は本当は、誰も殺したく無いんだろ?」

「違う!

 オレは母や姉を殺した、あいつ等が憎くて…」

「違うだろ?

 確かに憎んでいるが、お前はそれは自分のせいだと思い込んでいる

 違うか?」

「ぐうっ…」


アモンは俯き、苦しそうに拳を握り締める。


「そうだ!

 全部オレのせいだ!

 オレが産まれたばっかりに、母は裏切り者として殺された

 そしてまだ幼かった姉も、辱められて、嬲られ…」

「止せ!

 自分を責めるな!」

「オレ…ガ

 アクマノコ…」

「お前は悪くない!

 悪いのはお前達を…」

「ウルサイ…

 ウルサイウルサイウルサイ…

 グゴアアアアア…」


アモンから黒い靄が立ち込め、どす黒い魔力の流れを感じる。

騎士達は身構えて、剣を手に取ろうとする。

カイザートはその前に立ちはだかると、騎士達を制してアモンに近付く。

黒い靄はアモンを囲み、かれの身体を蝕んで行く。


「グ、オオオオ…」

「カイザート様!」

「これは思ったより厄介よ」

「分かっておる

 その為に確認に来たんじゃ

 しかし…」


アモンは何とか、理性を保とうとする。

しかし黒い瞳は紅く明滅し、全身の筋肉が脈打つ様に肥大して行く。

そうしてカイザートよりも、二回り大きな狼の魔物の様な姿になる。

それは既に理性を失い、凶悪に暴れ出しそうだった。


「グガア…」

「やっぱり!

 これは負の魔力による汚染

 狂戦士(バーサーカー)です」

「イシュタル

 何とか治せないのか?」

「無理ですよ!

 根底を治療しないと

 それでも感情の爆発には耐えられ無いのですよ?」


神聖魔法を使えるイシュタルでも、この病の根治は無理だった。

そもそも心の病が、精神を汚染して発症させる。

心の傷が癒えても、負の感情の爆発で容易に再発するのだ。

だからこそ病と扱われて、魔導王国では兵器扱いをされていた。


「それでは抑える方法は?」

「負の魔力が原因なので、それを除けば…

 しかし彼は獣人です」

「むう…

 魔石持ちも珍しいが…

 獣人なら取り出せば死ぬか」

「ええ

 ですから…

 普通は殺して…」


イシュタルはそれしか無いと、悲しそうに頭を振った。

魔石を持つ人間自体が珍しく、相当に魔法の鍛錬をしないと身に着けれない。

そして魔石を持った者が、負の魔力の影響を受けるとこういう意識障害を起こす。

多くの者が廃人になったり、精神を病んでしまう。

狂戦士(バーサーカー)化する事自体が珍しいのだ。


そして今回のケースが、獣人である事が問題をより大きくさせていた。

元々獣人は、魔石を持って産まれる者が多かった。

それは獣人の身体が、魔石によって維持されているからだ。

女神が獣人を生み出す時に、どうしても避けられなかった事。

それは獣の要素が大きい者は、魔石で維持しなければ生きられないという事だった。


「カイザートさん

 獣人は魔石が無いと、獣の部分を維持出来ないです

 だから彼から魔石を取り除くという事は…」

「死を意味するという事か?」

「ええ

 先ず間違い無く、死んでしまうでしょう」

「だったらどうすれば!」

ガン!


カイザートは怒りに任せて、地面を殴り付ける。

それは無責任な盲信で彼を、ここまで追い込んだ者達への怒りだった。

彼は決して悪く無いのに、迷信でここまで追い込んだのだ。

しかしカイザートの怒りに、アモンが反応してしまう。


「グガルルル」

「危ない!」

「止せ!」

ガブリ!


騎士が思わず、剣を構えて飛び出そうとする。

それから庇う様に、カイザートはアモンの前に立った。

それで左肩を、アモンの鋭い牙に噛み砕かれる。


「ぐ、があっ」

「カイザート!」

「く、来るな…」

「グガルル…」

「だ、いじょ…」

「何が大丈夫だ!

 肩の骨が…」

「これ…ぐらい

 こいつの…痛みに…」

「ガルルル…」

「だいじょ…

 これ以上…傷付け…」


カイザートは懸命に痛みに堪え、アモンの頭を優しく撫でる。

アモンは最初、ビクリと恐れる様に耳を動かす。

しかしカイザートの優しい手が触れると、少しずつ目の赤みが薄らいで行く。


「グルル…」

「大丈夫…

 お前は…守る…」

「ガル…

 かあさ…」


アモンの身体は震えて、その身を包んでいた靄が霧散する。

身体は徐々に縮んで、元の姿に戻っていた。

そうして噛み付いていた牙も外れて、ドサリとアモンは倒れる。

カイザートもふらふらとよろめくと、何とかアルサードが支えた。


「カイザート

 何て無茶を…」

「はは…

 何でかな?」

「もう!

 肩の骨が…うわっ!

 ヒーリング・ライト」

「うえっ!

 骨まで見てるじゃないか

 危なかったぞ」


イシュタルが治癒魔法を掛けるが、その傷口は想像以上に深かった。

何とか傷口は塞がったが、そこには大きな歯形が残っていた。


「うわあ…

 治んないのか?」

「ふう…

 すぐには無理でしょう

 傷は塞がっても、痕は残りそうですね」

「カイザート…」

「気にするな

 こいつの傷に比べれば…

 ごほっ、ごほっ」

「ほら!

 無茶しないの」


カイザートは何とか笑おうとするが、その口元からは血が滲んでいる。

噛まれた時に負の魔力が、カイザートにも影響を与えていた。

それでイシュタルの神聖魔法も、効果が鈍っていた。

暫く安静にして、魔力の影響が抜けるのを待つしか無かった。


「負の魔力の影響が残っています

 カイザートさんも暫く安静にしてください」

「しかし指揮が…」

「無理すんな

 それぐらい…オレが何とかする」

「アランじゃ心配だわ

 私も一緒に行くわ」


アランが難しい顔をして、カイザートに無理をするなと言う。

彼なりに親友を、気遣っていたのだろう。

そしてアランを気遣って、エリスがその後を追い掛ける。

外では今も、魔物との戦いが続いていた。


「しかしワシが…」

「だったら何で、こんな馬鹿な事をしたの!」

「いや、馬鹿だなんて…」

「馬鹿でしょう!

 あなたに何かあっては…」

「アルサード…」

「はいはい

 コボルトも食いませんから

 そのぐらいにして」

「な!

 イシュタル!」

「にゃ、にゃにを…」


残されたイシュタルや騎士達も、いい加減くっ付けよ生暖かい笑顔を見せる。


「さあ

 私は負傷者の手当てに向かいます」

「あ、私達も一緒に」

「怪我に障りますから、カイザート様はアルサードに任せます」

「おい

 それって悪化しないか?」

「おい

 今は二人っきりにしてやれ」

「あ!

 おい」


騎士達はそそくさと、イシュタルの後を追って天幕から出る。


「もう!」

「いや

 二人っきりじゃ無いんだが…」


カイザートは困った様な顔をして、倒れているアモンを抱き抱える。

そうして寝台に寝かせてやると、その瞳から涙を拭ってやる。


「それじゃあ

 看病を頼もうか?」

「え?

 そうね…」

「アルサード?」

「ううん

 何でも無い」


アルサードは天幕から出る前に、もう一度だけアモンを見ていた。

その顔からは険も取れていて、穏やかになっている気がした。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ