第601話
映像の中で、カイザート達は魔王の訓練を受ける
それはギルバートの訓練が、生易しく見える内容だった
毎日の様にズダボロにされては、アシュタロトの回復魔法で傷を治される
そうこうする内に、自身の魔法で治せる者も増えて行く
そうして彼等は、王国の騎士団を退ける様になっていた
王国の騎士団を退けた事は、瞬く間に噂となっていた
それだけ王国の騎士に、不満を持つ者が多かったのだろう
そして保護や共闘を求めて、彼等の元へ遊牧民達が集まる
それはやがて、獣人の集落にも届いていた
「我等狼の獣人族でございます」
「ワシ等は熊の獣人族じゃ」
「あんた等の話は聞いている」
「共に戦わせてくれ」
最初に訪れたのは、狼と熊の獣人達だった。
彼等は血気盛んで、何度も王国の騎士と戦って来ていた。
しかし魔導士の魔法にやられて、少なからぬ被害を受けていた。
だから騎士を退けたカイザート達に、共闘を持ち掛けてきたのだ。
「あなた達の話は聞いている
一緒に戦ってくれるのなら心強い」
「任せてくれ」
「ああ
共に王国に一泡吹かせてやろうぜ」
「その事なんだが…」
カイザートは合流した者達に、これから起こる事を伝えた。
この地に魔物が現れる事は決定事項なのだ。
しかも既に、半分の二週間を過ぎていた。
だからこそここに残るのなら、その覚悟が必要だと伝えたのだ。
「なるほど
魔物の氾濫か…」
「しかしそうなれば、奴等も迂闊に来れなくなるな」
「ああ
だがそれだけでは無い
最終的には、5体のドラゴンが現れるらしい」
「何じゃと?」
「それは本当か?」
「ああ
女神が現れて、そう仰られていた」
カイザートは気を使って、女神の威厳を損ねる情報は伏せていた。
それに獣人達は、人間よりも長生きな者が多かった。
それで過去の神魔大戦の、話を聞いている者も少なく無かった。
「ドラゴンか」
「腕が鳴るな」
「え?
いや、ドラゴンだぞ?」
「だからこそじゃ」
「そうじゃぞ
爺様の代にも、ドラゴンが現れたそうじゃ
それと戦えるとなると…うう!」
「武者震いが止まらんのう」
「はははは…」
獣人達の中でも、肉食獣の獣人は闘争本能が高い。
だからドラゴンと聞いても、怖じ気付くどころか奮い立っていた。
昔話に出て来るドラゴンと戦えるのなら、命など惜しく無いという考えなのだ。
これにはさすがに、カイザートも笑うしか無かった。
「それにここには、嘗ての魔王軍を率いた魔王が居るのじゃろう?」
「そのお方に稽古を付けてもらえるなんて…」
そして魔王の事も、当然彼等は知っていた。
恐ろしい魔物の軍勢を率いた、強力無慈悲な魔王の存在は、彼等にとっては憧れだったのだ。
そんな魔王に実際に会えて、稽古まで付けてもらえると、獣人達は喜んでいた。
「はははは…
そんなに有名なんだ」
「カイザートは知らないの?」
「ああ
物語には聞いた事があるが…
その程度だな」
「私達は先祖がそこに居たから、もっと詳しく聞いているわ」
アルサードはそう言って、遊牧民に伝わる伝承を教えてくれた。
魔王ルシフェルは、元は翼人の守護者として生まれた。
しかしその身に魔族の血が流れている事から、翼人から不当な差別を受けていた。
この事からも、彼は選民思想や奴隷制に対しては強く反発していた。
そして彼が女神に出会った事も、その差別が原因だった。
「魔王は翼人の地を追われたわ
それも翼をもがれた状態でね」
「翼を?」
「ええ
今も彼の背には、翼を奪われた時の傷が残っているの
傷を癒す事も出来るのに…」
「何故だ?」
「その痛みを忘れない為だそうよ
魔族と翼人の間に産まれた為に、両種族から忌避された
その痛みを忘れない為に…」
「え?
だって魔王は…」
「違うわよ
魔物や魔獣の王様なの
だから魔族の王では無いわ
魔族の王である魔王は、もう一人のアシュタロトの方」
アシュタロトは魔族の王として産まれた。
しかし生まれつき身体が弱く、何度も王家の争いで殺されかけていた。
今はその任を全うして、使徒として魔族を率いている。
その為彼は、もう一人の魔王であるルシフェルとはあまり仲が良く無かった。
「ルシフェルは翼人の国を追放された後、暫く魔族の国に身を寄せていたわ
だけどそこでも…」
「翼人との混血だからか?」
「そうね
アシュタロトはそれを善しとしなかったけれど
結局は他の魔族が認めなくて…」
「それで両方の種族から追われたのか
よくある話だな」
「ええ」
アシュタロトは庇っていたが、それでも虐めや嫌がらせは続いた。
結局ルシフェルは幼くして、両種族から放逐される。
それからはあちこちを流転して、苦しい生活を続ける。
そして居り悪くも、翼人の他種族への侵攻が始まってしまった。
「翼人と呼ばれる存在自体、物語でしか聞いた事が無いな」
「ええ
空に浮かぶ城から、人間や他の種族を襲っていたそうよ
その辺は物語通りらしいわ
それでルシフェルが狙われる事になったそうよ」
「何でだ?
彼は翼人から追放されたんだろう?」
「それでも翼人の血を受けているわ
それで魔族からも執拗に狙われて…」
「そんなのおかしいだろう?」
「そうね
だけど当時は、それが当たり前だと思われていたわ
翼人に対する恨みを、飛べないルシフェルに向けていたのね」
だからと言って、翼人がルシフェルを助ける事は無かった。
元より飛べなくなった彼を、地虫と見下していた。
それに人間達が彼を追う様を、翼人達は楽し気に見てもいた。
その事がルシフェルに、翼人に対する憎しみを植え付けた。
「ルシフェルはそれでも、必死に戦い続けたわ
そうして力を身に着けて、魔物を従える様になったそうよ」
「なるほど
それで他の種族にも当たりが強いのか」
「そうね
だけど私達の様に、差別される側には優しいわよ」
「優しい?
あれが?」
「ぐへあっ」
「おらおら!
そんなんじゃあ娘っ子一人も守れんぞ」
ルシフェルは獣人だけで無く、人間達もまとめて扱いていた。
それは力尽くで技量を叩き込む、荒っぽい教え方だ。
しかも怪我が簡単に癒されるので、本当に容赦が無い。
兵士達は何度も死にかけては、再び傷を癒されて蘇生されていた。
「あれだってそうよ
あのルシフェルの怖さを知った後なら、王国の騎士なんて怖く無いでしょう?」
「え?
あ…うん」
ルシフェルの暴力的な指導に比べれば、騎士と戦う方がマシだった。
それで騎士や遊牧民達も、必死に生き残ろうと戦う力を身に着けていた。
今では戦略的魔法でも使われない限り、王国の騎士に敗ける事は無かった。
その噂を聞いたからこそ、獣人までこの地に訪れたのだ。
こうして獣人と肩を並べて、カイザート達はさらに勢いを増して行く。
ドワーフやエルフを攫った街を、そのまま急襲する事もあった。
助けられた奴隷達は、本人の意思で戦いに加わるか選べた。
しかしほとんどの者達が、戦う事を選んでいた。
それほど彼等は、王国に対して恨みを抱いていたのだ。
助け出された者の中でも、ドワーフだけが扱いが違っていた。
彼等は先頭に立って戦う事は無いが、武具を作る事で貢献する。
彼等の作った武具を見に纏う事で、カイザート達はさらに力を着けて行った。
そうした解放を続ける中で、幾つかの出会いもあった。
王国を出奔した魔導士の中に、異彩を放つ者が居た。
彼はアシュタロトを信奉していて、魔導の神髄を求めていた。
名をイシュタルと名乗って、カイザートの右腕として活躍する。
彼も六大神の一人として、後に神格化される。
他にも騎士の中からエリスと呼ばれる女性も現れる。
彼女は魔導王国の貴族であったが、最初は捕虜として捕らわれた。
しかしカイザート達の姿を見て、自身の考えを見詰め直す。
彼女もまた、六大神の一人として名を残す剣士だった。
そして一番異彩を放っていたのは、奴隷の中に混じっていた男だろう。
彼は激しく抵抗して、カイザート達を苦しめる。
しかし遂に捕まり、その身を拘束される事となった。
その全身は黒い毛に覆われた、狼族の戦士アモンである。
アモンを除く彼等と、カイザート、アルサードとアランが反抗勢力の代表となって戦っていた。
そうして一月が過ぎて、いよいよ魔物がその姿を現せ始める。
最初はゴブリンやコボルトが、王国の騎士達を襲い始める。
しかし下級の魔物なので、騎士達によって難なく倒されて行った。
「魔物が…」
「ああ
遂に現れたな」
「ですが王国側を襲っています
これは好機ですね」
「そうだな
追撃するぞ」
「おう!」
カイザートはこれを好機と見て、王国に攻撃を加える。
当然王国も反撃して、三軍が入り乱れての戦いとなった。
しかしこの時、予期せぬ出来事が起こる。
元奴隷の獣人達の軍の中で、激しく暴れ回る者が居たのだ。
その者は敵味方関係無く、近くに居る者に次々と襲い掛かった。
「大変です!
味方の中で同士討ちをする者が居ます」
「何だって?」
「獣人です
黒い獣人が敵味方関係無く襲い掛かって…」
アモンは最初は、獣人族の軍に配属されていた。
しかしカイザートは、彼がそこで虐げられている事を知らなかった。
アモンの毛並みと、混血が原因となっていたのだ。
その事でアモンは、獣人達から食事も碌に与えられず働かされていた。
そして戦闘になったところで、魔法避けに前線に送られたのだ。
「あの獣人は誰なんだ?」
「分かりません
元奴隷だと思われますが…」
「それじゃあ敵軍の中に居たのか?」
「いいえ
それが我が軍の側から現れた様で…」
「それなのに名前も分からないのか?」
「はい」
「兎も角、一旦取り押さえるぞ」
「はい」
カイザートは騎士を引き連れて、その暴れる獣人の元へ向かった。
彼は王国の騎士だけでなく、味方の獣人にも襲い掛かっていた。
その周りには既に、傷だらけの獣人達が倒れていた。
カイザートは剣を引き抜くと、素早く馬で近付く。
「カイザート殿?
危険です」
「そんな事を言っている場合か?
一体何が起こったんだ?」
「それが…」
「奴隷の奴が暴れて…」
「奴隷?」
「あ!
おい、馬鹿!」
カイザートは奴隷と聞いて、怪訝そうに獣人達の方を見る。
「使えない奴等を集めましてね
それで魔法避けにと…」
「何だと!」
「どういう事だ!」
「いや
こいつら戦う事が出来ないクズ共ですよ?
せめて魔法避けぐらいにはなってもらわないと…」
カイザートはそう自慢気に話す、獣人の兵士を睨む。
それから獣人を率いる、兵士長を睨んだ。
「どういう事だ?」
「あ、いやあ…」
「この事はルシフェルやアシュタロトは?」
「さあ?
知らないんじゃ無いですか?
彼等はもう、女神様の下に戻られたんでしょう?」
魔物が現れたところで、約束通りルシフェル達は帰って行ってた。
元より魔物と戦える様に、魔物が現れるまで鍛えるという約束だったのだ。
しかしルシフェル達が居なくなったところで、獣人達は奴隷を作り始めていた。
戦闘に向かない獣人を、魔法避けにする為に。
「ふむ
確かに戦闘には向かない、兎や羊の獣人達だな」
「でしょう?
こいつ等てんで使えないから…」
「だが農作業や、他の仕事が出来るだろう?」
「それは当然させますよ
だって奴隷ですから」
「おい!
いい加減に黙れよ」
「へ?」
「それで?
働かせた上に弾避けか?
食事や休息は?」
「そんなの必要無いでしょう?
どうせこれで死ねば片付くし」
「よく分かった」
「へへっ
良い考えでしょう?」
「へ?
あれ?」
「それで?
あの獣人は何で奴隷に?」
「ああ
あれは駄目です
魔物ですから?」
「魔物?」
「ええっと…
カイザート殿
そのう…彼は魔族の血が混じっていて…」
「魔族の血?」
「そうなんですよ
汚らわしいったら…
だから薄汚い黒い毛並みなんですよ
オレ達の様な高貴な白毛と違って…」
獣人族の中でも、狼族は白毛が高貴な出とされている。
神に選ばれた種族として、美しい毛並みを自慢にしていた。
逆に黒毛は悪魔の烙印として、魔物扱いされていたのだ。
そしてアモンも、魔族の血が混じった事で黒毛となっていた。
その事で幼少の頃から、不当な責め苦に合わされていた。
それは奴隷になっていた時の方が、マシだと言える差別であった。
「そういう事か」
「は、はい」
「黒毛なんて死ぬべきなんですよ
それが神の僕たるオレ達の為に死ねるんです
素晴らしい事でしょう?」
「おい
いい加減にしろ」
「何を慌てているんです?
こいつら人間でしょう?」
「よく分かったよ」
「そうですか?
それならあんた等も弾避けに…」
「おい!」
「貴様等が救うに値しない、クズ共だって事がな」
カイザートは憤怒を宿した目で、獣人の士官達を睨み付ける。
「アラン
すまないが…」
「ああ
あの黒いのを押さえるんだろう?」
「ああ
怪我しない様に頼む」
「分かった
お前も殺さない様にな」
「ああ
善処するよ」
「何だ?
その反抗的な目は?
たかだか人間如きが…」
「おい!
止せって!」
「うるさい
大体気に食わなかったんだ
人間が偉そうに指図するなんて」
獣人の士官達は、侮蔑の表情を浮かべる。
そして剣を抜くと、カイザートを睨み付けた。
「愚かな事だ
女神の言葉を忘れたのか?」
「うるせえ!」
「オレ達が一番なんだ」
「そうだ
生意気な人間共が!」
「短命でひ弱な貴様等が、我等に敵うと思ってか!」
獣人達が剣を振り被り、カイザートに切り掛かる。
「死ねえ!」
「止せ!
そいつは…
そのお方は…」
「遅いな…」」
ギャリン!
ガキン!
カイザートは剣を弾くと、他の剣も叩き折る。
そして向かって来た獣人達を、拳で殴りつけた。
「ふん!」
「ぐぎゃん」
「ぎゃふん」
こうして獣人達の士官は、そのほとんどが取り押さえられた。
まだまだ続きます。
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