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聖王伝  作者: 竜人
第十八章 北へ向けて
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第600話

遊牧民達の住処である集落の側に、突如巨人が姿を現す

女神はカイザートの方を見ながら、その力を見せろと呟く

どうやらここに残りたいのならば、この巨人を倒せという事らしい

カイザードは畏怖を感じながら、目の前の巨人を見上げるのだった

遊牧民も騎士達も、その巨人の姿に圧倒されていた

無理も無いだろう、それは身の丈5ⅿはあろうかという巨人なのだ

しかしこの地に残るのならば、このぐらいは倒せなければならない

何せこれから、この地には魔物が解き放たれるのだから


「ぐ…むうっ」

「カイザート」


カイザートは巨人を見上げると、唸る様な声を上げる。

それはあまりにも恐ろしく、強大な存在だった。

その大きさもさる事ながら、腕や足の太さも恐ろしかった。

あんな太くて頑丈そうな物が当たれば、人間なんて一溜りも無いだろう。


カイザートも王国の騎士である。

叙勲の前には訓練で鍛えて、それなりに戦えるつもりだった。

しかしそれは、馬に乗って人間の軍に対してだった。

こんな巨大な化け物と、戦う事すら想定されていない。


「はは…

 こんな生き物が現実に居ようとは…」

「カイザート!

 逃げて!」

「そ、そうだな

 出来ればそうしたいさ」


カイザートはそう言いながら、チラリと遊牧民や騎士達の姿を見る。

彼等はまだ、魔王の威圧で震えて立てないで居る。

そんなところにこんな魔物が襲って来たら、たちまち殺されてしまうだろう。

それにそこには、麗しのアルサードも居るのだ。


カイザートは覚悟を決めると、巨人を睨む様に見上げる。

しかしカイザートは気付いていなかった。

女神は元より、彼を試そうとしていたのだ。

だから女神が側に居る以上、巨人が彼等に襲い掛かる事は無かった。


また、巨人には知られていない事があった。

彼等は意外に臆病で、元は心優しい種族なのだ。

魔物にしては大人しく、自分から襲い掛かる事は無いのだ。

しかし今は、女神が人間の近くに立っていた。

それで呼ばれたと勘違いして、女神を守ろうと必死に勇気を振り絞っていたのだ。


「くっ

 い、行くぞ!」

「カイザート!」

グ、グガアアア

ビリビリ!


巨人はカイザートの形相を見て、思わずビビッていた。

それで女神の前だというのに、威圧の咆哮を放つ。

当然女神も魔王も平気なのだが、巨人は思わずしまったと考えていた。

女神様が居るのに、咆哮を放ってしまったからだ。


「ぐ、ぬう…

 があ…」

ズザッ!


巨人に向かっていたカイザートは、そのまま咆哮で跳ね飛ばされる。

何とか体制は整えたが、それだけで膝が笑っていた。

ガクガク震える足を見ながら、カイザートは己を叱咤する。

何をしているんだ、惚れた女の前で何と無様なと…。


「カイザート」

「だ、大丈夫…だ」

「でも…」

「来るな!

 これはワシの試練じゃ

 ぬ、うおおおお…」

グ、グゴアアア


カイザートが人間なのに、巨人の咆哮を受けても何とも無かった。

巨人はそう見えていて、さらにカイザートを警戒する。


「おおおお」

グガアア


「む!

 いかん!」

「おいおい!」

「手加減して無い?」

ドギャッ!


向かって来るカイザートに、巨人は思いっ切り拳を振り抜く。

カイザートを怖いと思っていたので、手加減無しの全力だった。

当然拳は唸りを上げて、カイザート目掛けて真っ直ぐに振るわれる。

その一撃で彼は、粉々に砕けると思われて。


「なんという事じゃ

 巨人が恐れて手加減を出来なかったか?」

「あちゃあ…

 これは流石に…」

「ひき肉かな?」

「カイザート…」


巨人の腕は、しかし振り抜かれていなかった。

何か硬い物に当たったかの様に、そのまま途中で止まっていた。


「カイザート!」

「く、来るな!

 げほっ」


カイザートは鎧を砕かれながらも、何とかその命を繋いでいた。

しかし巨人の拳をまともに受けたのだ、骨が折れて内臓を傷付けていた。


「生きている…だと?」

「はは…

 信じられん」

「さすがはマーテリアルね

 半覚醒でここまでとは

 それに…」


「勝手に…ワシを

 ひき肉にするな…

 ワシはひき肉が…」

「しょうが無いねえ

 女神

 一つ貸しだよ」


そこには光り輝く、一体の精霊が舞っていた。


「セロか…」

「精霊だと?」

「何であの小僧に精霊が?」


「あれって…」

「精霊様?」

「きれい…」


「カイザート様?」

「公爵様

 ご、ご無事で?」


「無事じゃあ…無いさ

 骨が…

 あれ?」

「私が治したよ

 はあ…

 全く無茶をする…」


光の精霊はそう言うと、女神の前に飛んで行った。


「それで?

 一体何を考えている?」

「それはそのう…

 彼の覚悟を試そうと…」

「はあ?

 まだ目覚めていない人間に、巨人に殴らせるのが試しか?

 何を考えてるんだ!」

「そのう…

 このままじゃあいけないって思って」


光の精霊に詰め寄られて、女神の様子は明らかに変わっていた。

それは幼い少女の様に、半べそで言い訳を始める。


「だって今までだって、人間は色々問題を起こしたの

 だから少しでも問題を…」

「だからって、何も巨人に殴らせる事も無いだろう」

「でも…

 ジェニファーちゃんが怖がって…

 それで、あのう…

 そのう…」

「あん?

 巨人が…って、そうか…」

「セロの旦那

 女神様を叱らないでやってくれ」

「ここでは人間に…そのう…

 威厳ってやつを示さないと」

「馬鹿か!

 そもそも威厳もへったくれも無い引き籠りが…」

「わあっ!」

「それはちょっと!」

「な、何よ

 私も女神らしくしようと頑張って…

 うわああああん」


光の精霊セロの出現で、女神は急に子供の様になってしまった。

そして暫く、彼女が泣き止むまで気まずい雰囲気が流れる。

女神は少女の様に泣きじゃくり、可哀想に感じたアルサードが抱き締めて慰める。

その間にカイザートは、困った表情で巨人と向き合っていた。


「それで?

 何がどうしたらこうなったんだ?」

「セロだって見てたんでしょう?」

「私が見てたのは途中からさ

 何をしようとしてたんだ?」

「いや

 それは私から話します」


アシュタロトが前に出て、もじもじする女神の代わりに説明をする。

その間女神は、顔を赤らめてアルスサードに抱き着いていた。

こうして見ると、その姿は幼い少女の様にしか見えない。

しかし人間離れした美しさと、何とも言えぬ気品が女神だと物語っていた。


「…それで魔物を解き放つ事になり…」

「そんな事をすれば、この辺一帯が大変な事になるよね?」

「はい」

「どうして側近のお前達が、それを止めなかった?」

「それは女神様が大変にお怒りで」

「それでファクトリーの稼働を…」

「はあ?

 既に動かしているのか?」

「ええ

 遅くても一月ぐらいで…」

「何て事を…」


「あのお…

 ファクトリーって何です?」

「魔物を生み出す場所さ

 そこで今、魔物がどんどん生み出されている」

「え?

 そんな場所が?」

「ああ

 そしてそれは…

 恐らく…はあ…」


セロは溜息を吐きながら、遠くに見える山を見詰める。


「え?

 聖なる山?」

「ああ

 あそこは禁足地に定められているだろう?

 それは魔物を生み出す危険な場所だからだ」

「そんな…」

「そして既に稼働しているのなら

 一月後には魔物が溢れて来るだろう」

「一月…」

「たったそれだけの期間で?」

「ここに魔物が溢れるんですか?」

「ああ

 間違い無くな」


セロは苦々しく呟き、その山を見詰める。

一月後にはそこから、魔物の群れが溢れ出すのだろう。

そうなってしまえば、最早人間には何も出来ない。

魔物から逃げ回って、生き延びるしか無いだろう。


「最初はゴブリンやコボルトといった、弱い魔物が出て来る筈だ

 しかし…

 おい!

 設定はどうなっている?」

「それは…」

「おい!

 駄女神!」

「女神様」

「こうなっては正直に話しましょう

 今さら威厳も何も無いでしょう?」

「っ!

 …ゴンです…」

「あん?」

「最終的には5体のドラゴンが出ます

 それを倒せれば…」

「馬鹿か!

 またあの戦争を繰り返す気か?」

「ひいっ」


セロの恫喝に、女神は少女の様に怯える。

しかしセロが怒るのも無理からぬだろう。

何せドラゴンが5体も出ると言うのだ。


「でもでも

 設定を直している暇が無くて…」

「先に調整しておけば良かっただろう?

 何でそのまま動かした?」

「それが私達が止めに入って…」

「それで女神様が怒ってスイッチを…」

「ああ

 何となく想像が付いた

 それで押したのか?」

「いえ

 思わず叩いてしまって…」

「それが押したと言うんだろう!」

「ふみゃあ…」

「ああ!」

「また泣いてしまいます

 セロ殿、もう少し優しく」

「これが優しく出来る状況か?」


セロは苛立ちながら、その辺を暫く飛んで回る。


「ううん…

 おい!

 そこの人間」

「はい?」


セロは考えるのを諦めたのか、カイザートの前に移動する。


「お前、名は何と言う?」

「カイザートです」

「カイザートか

 うむ」


「カイザート

 お前に精霊から使命を言い渡す」

「へ?」

「そんな

 それは私のお仕事…」

「うるさい!

 駄女神は黙ってろ」


セロは女神に一喝すると、カイザートに使命の説明を始める。


「カイザートよ

 聞いた通り、お前達は非常~に危険な状況にある」

「はい」

「理不尽だと思うだろうがな

 あれの失敗もある」

「え、ええ…」


セロはあれと言って、女神の方を指差す。

女神はセロに叱られて、再びアルサードに泣き付いていた。


「しかしお前達人間にも、責任の一端がある」

「と仰いますと?」

「私がお前達の、愚行を知らんと?」

「あー…

 王国の事でしょうか?」

「ああ

 何やら魔導王国などと大層な名前をだしておるが…

 その中身はあまりにも幼いな」

「はあ…」


「人間同士の争いで収まっておれば…

 あるいは女神も黙っていただろう

 しかし最近では、獣人だけに飽き足らずエルフやドワーフまで狙っておる」

「ええ

 彼等に非道な行いをするのを目にしました」

「それなら何故?

 いや、それを聞くのは酷か…」

「いえ、ワシは逃げていました

 家族や仲間の為と言い訳をして、その行いを止めようとしませんでした」

「いや、それが正解じゃろう

 お前はそこまで心が腐っておらん

 だからこうして戦う決心も着いた」

「いえ、それだって私的な…」

「きっかけはどうでも良い

 問題はどう行動するかじゃ

 ここで死んでいては、犬死じゃからな」

「はあ…」

「全く

 後先考えんから…」

「あの?

 セロ殿?」

「何だか年寄りの説教みたいになってますぞ」

「分かっておる」


セロは魔王達の突っ込みに、容赦なく怒る。


「こほん

 それで使命じゃが…」

「ええ

 ワシは何をすれば…」

「このままではこの辺一帯だけじゃ無く、多くの者が死ぬじゃろう

 それで女神も焦ったんじゃろうな」


セロが女神の方を見ると、コクコクと頷いていた。


「お前に…

 あちらの娘」

「え?

 アルサードですか?」

「ああ

 それと…

 あっちの小僧もじゃな」

「アランですか?」

「ああ

 今はまだ目覚めておらんが、鍛えれば力を発揮できるじゃろう」

「力…ですか?」

「ああ

 魔物を倒せる力じゃ」

「その力があれば…」

「じゃが、それでもドラゴンはちと…のう」


セロの視線に、女神は慌ててアルサードの陰に隠れる。

何せドラゴン1体だけでも、国を滅ぼすと言われている。

そんな物が5体も現れると言うのだ。

とてもどうにか出来そうな事では無かった。


「先ずは力を身に着けながら、仲間を募るのじゃ」

「仲間…ですか?」

「ああ

 と言っても、普通の人間なら限界がある

 お前達の様な、女神に認められた者が必要じゃ」

「そんな者が何処に?」

「それは自分で見つけるのじゃな

 人が集まって来れば、自然と現れるじゃろう」

「しかし、それでは使命には…」

「使命は別じゃ」


セロは一旦言葉を切り、カイザートを正面から見詰める。


「汝カイザートよ

 我等精霊はお前に使命を課す」

「はい」

「ここで魔物と戦い、世界に平穏を取り戻せ」

「はい

 って?」

「それだけじゃ」

「ですが…」

「その為の手助けが必要じゃろう

 手始めにまともに戦える様にならんとな」

「え?

 あのお…」


セロは魔王達の下に向かうと、二人に指差して命令する。


「アシュタロト

 お前はこいつ等に魔法を教えろ」

「うえ?

 それは難しいんじゃないかと…」

「うるさい

 つべこべ言わずに教えろ」

「は、はい

 しかし女神様の…」


「それからルシフェル」

「おう

 こいつ等を鍛えろって事だな?」

「ああ

 じゃがやり過ぎるなよ

 また神魔大戦なんぞ起こされては…」

「がははは

 分かっておる」


しかしセロは、後にこの人選を後悔する事になる。

彼等は結局やり過ぎて、カイザートの軍勢を強くし過ぎた。

その事が後に災いして、彼は命を落とす事になる。


「女神よ

 これで良いな?」

「え?

 でも…」

「他に良い考えがあるのか?」

「えっと…」

「久しぶりに目覚めたのに、まだ本調子じゃ無いのか?

 それならば…」

「分かった、分かったから

 それで良いです」


女神は頬を膨らませて、セロを睨んでいた。


「お前の威厳を損ねた事は申し訳無かった

 しかしあのままでは…」

「分かったから

 私はもう帰ります!」


女神はそう言うと、顔を赤らめながら消えてしまった。


「はあ…

 数千年を生きても、まだまだ子供じゃのう」

「あのう…」

「何じゃ?」

「それでどうすれば…」

「はあ…」


「言ったじゃろ?

 あの二人に教えを乞うのじゃ

 そうすれば、少なくとも魔物と戦えるぐらいには強くなれる」

「魔法もですか?」

「ああ

 じゃから精々、魔物にやられん様にな」

「はい

 ありがとうございます」

「うむ

 私も行くとしよう」

「あ!」

「さらばじゃ」


セロも姿を消し、気まずい空気が流れる。


「それじゃあ…」

「気が進まないが、女神様の為だ

 魔法を教えるとするか」


こうして魔王から、カイザート達は鍛えられる事になる。

勿論その間にも、王国の追撃は繰り返される。

しかし魔王に鍛えれた軍勢は、次第に力を着け始める。

そうしてその噂を聞き付け、彼等の下に人々が集まり始めた。

打倒王国を旗印にして…。

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