表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十八章 北へ向けて
598/800

第598話

カイザートは遊牧民達に、降服の勧告をする使者として赴いていた

しかしそこで、彼等を率いるアルサードに出会った

彼は彼女に出会った事で、一目で恋に落ちてしまった

カイザートは彼等を守る為に、祖国を裏切る決断をする

カイザートが祖国を裏切ったのは、何もアルサードに惚れただけでは無かった

彼は以前から、自分の住む王国と、魔導王国に疑問を持っていた

他の国を襲っては、奴隷として連れ去る行為に疑問を持っていたのだ

そしてその疑問は、アルサードに出会った事で確信に変わっていた


「彼等を蛮族と呼ぶな!」

「黙れ!

 裏切り者が!」

「叩き切ってやる」

「死ねえ!」

「こんな所で死ねるか!」

ガキン!

ザシュッ!


カイザートは囲みを抜けると、騎士達の後方から突っ込む。

そして槍を振り回すと、一気に数人の騎士を叩き落す。


カイザートは元々、そこまでの有能な騎士では無かった。

彼はロマノフ王国の国王の従弟に当たり、その縁もあって騎士団に配属されていた。

今回の件も、彼はあまり危険の無い辺境で、遊牧民を捕らえる任務であった。

それは危険も少なく、簡単な仕事の筈だった。


「くそっ!

 何で裏切った」

「何を言っている

 こんな不当な真似が、本当に許されると思っているのか?」

「当たり前だ

 我らは王国に選ばれた騎士だ

 神の名の下に、その正当性は認められている」

「そうだ!

 蛮族も我らに使われた方が幸せなのだ」

「何を言う!

 家族を引き離し、罪の無い者を拘束して働かせる

 そんな事が認められると思っているのか」


しかしカイザートの言葉も、彼等の気持ちを動かす事は出来なかった。

彼等は神の名を免罪符にして、自らの欲望に忠実に従っていた。

だからこそどんな正当性を説こうとも、彼等は聞く事すらしなかった。


「我らの神の聖名に於いて」

「神に徒名す蛮族共と、それに与するカイザートを殺すのだ」

「行けえええ」


騎士は集団で、カイザートを囲もうとする。

カイザートはアルサードを巻き込まない様に、騎士達を引き付けて戦場を駆ける。


「か、カイザート!」

「こっちに来るな!

 こいつ等はワシに任せてくれ」

「しかしそれでは…」

「構わん

 それで其方を守れるのならば」


魔導士達の数は、遊牧民達の活躍で少なくなっていた。

しかし魔導士達は、まだ諦めていなかった。

数人で集まって詠唱して、大きな魔法を使おうとしていた。

それで戦局を立て直し、遊牧民を倒そうとしていた。


「な!

 気を付けろ!」

「何だ?」

「魔導士共だ!

 何か狙っているぞ」

「むっ!」


遊牧民達も、彼等が集まっている事に気が付く。

そして集団で呪文を唱えている事に、警戒を強める。


「何か狙っているのか?」

「気を付けろ」


「ふん!

 蛮族めが、気付くのが遅いわ!」

「食らえ!

 猛毒の風を」

虚飾の暴風デッドリー・テンペスト


魔導士達が声を合わせて、その手を遊牧民達の方へ向ける。

そこから紫色の風が、猛烈に吹き出し始める。


「むっ!」

「いかん!

 逃げるぞ」


それは猛毒を含んだ、強烈な風の魔法だった。

魔導士が集団で発動させる、戦略的魔法だった。

その風自体も危険だが、猛毒と麻痺の効果もあるので厄介なのだ。

風に触れた者は痺れて、そのまま毒の風に巻き込まれてしまう。

しかし魔導士達は、遊牧民達の機動力を侮っていた。


「風の向きに気を付けろ!」

「このまま左に向かうぞ」

「何?

 どうする気だ?」

「なあに

 奴等に一泡吹かせてやる」


遊牧民達は魔法を引き付けながら、騎士達の集団に向かって行った。

魔導士は慌てて、遊牧民達に魔法が当たる様に位置を調整する。

しかし慌てていたので、味方の騎士達の位置を確認していなかった。


「くそっ

 ちょこまかと…」

「マズい!

 このままでは…」

「何?

 何であいつ等がここに…」

「避けろ!

 早くそこから…」

「ああ…」


「何だ?」

「魔導士共は何を騒いで…」

「んな!

 何を考えているんだ」

「ぐわあっ」

「オレ達は味方…」

「げはっ」


猛毒の風は騎士達を包み込み、カイザートの目の前まで迫っていた。


「くそっ!

 はいやっ」


カイザートは馬を操ると、何とか風の影響が少ない位置に移動する。

そうして騎士達を風除けにして、何とか魔法の影響から身を躱した。


「魔導士達か…

 何と拙い戦術を…」


魔導士の暴走が功を奏して、騎士達の半数が戦闘不能に陥る。

残りの騎士達も、味方を救出する為に手が放せなかった。

カイザートはその隙に、戦場から離脱する。

そうして再び、アルサードの元へ戻って来た。


「カイザート

 無事で良かった」

「言っただろ?

 ワシは其方を守ると」

「しかし見た事も無い魔法が…」

「ああ

 毒の風だな

 戦略的魔法と聞いていたが、こんな場所で使うなど…」


その魔導士の浅慮が、カイザート達を救ってくれた。

本来は戦場で使う魔法を、少ない敵に向けて使ったのだ。

それも狙いの付けにくい、機動力のある集団に向けてだ。

よほど追い込んで使わなければ、効果を現わす事も無いだろう。

彼等は戦果を焦り、判断を誤ったのだ。


「兎も角、奴等が賢く無くて良かった」

「賢く無いって…

 仮にも王国の魔導士だろう?」

「如何な魔法でも、その使い手が未熟ではな…

 こんな少ない集団に…

 ましては馬を扱う集団に使う物では無いだろう」

「そういう物なのか?」

「ああ

 アルサードは魔法は?」

「私達はそのう…」

「そうか…」


遊牧民達は、魔道具の恩恵は受けていた。

しかし魔法に関しては、それほど詳しくは無かった。

そもそもが識字率も低く、文字の読み書きが出来る者も少ないのだ。

だから使える魔法も、ごく簡単な限られた物だった。


「私達に魔法が使えたら…」

「そうだな

 しかし先ずは…」


騎士達は倒れた者達を回収し始める。

その数は200名近くに上っていた。

カイザートが倒したのは、精々が20名ほどだった。

残りは魔導士が放った、魔法に当たって為に倒れていた。


「くそっ

 体制を立て直して…」

「しかし麻痺だけでは無く毒までも…

 ポーションが足りませんぞ?」

「だったらどうするのだ?

 あ奴等をこのまま…」

「しかしこのままでは…」


指揮官達が騒いでいる間に、遊牧民達の方では動きがあった。

カイザート達が戻ったところで、他の部族の応援が駆け付けたのだ。


「アルサード!」

「アラン」


アルサードの元へ、若い遊牧民の青年が駆け付ける。

その後方には、遊牧民の戦士が50名も集まっていた。

これでこの場で戦える人数が、一気に100名を超える事になる。

その様子を見て、指揮官達も決断するしか無かった。


「くそっ

 向こうに増援が来たか」

「ここは引きましょう」

「分かった

 しかし責任は貴国にあるのだからな

 あの裏切り者が居なければ…」

「分かっております」


カイザートが裏切った事で、他の属国の士官が責められていた。

彼等からすれば、王国以外の者はみな駒でしか無いのだ。

そして属国の内の一国が裏切ったので、連帯責任として押し付けたのだ。

勿論魔導士の失態や、彼等自身の指揮の責任も押し付けらえた形だ。


「くそっ!

 王国の奴らめ…」

「しっ

 聞かれたらマズい」

「しかし騎士団が敗退したのも…」

「ああ

 しかし私達は従うしか無いのだ

 カイザート殿が羨ましいよ」

「ならば我が国も…」

「今は無理だろう…

 今は…な」


騎士達は仲間を回収すると、そのまま戦場を立ち去った。

奴隷を載せる為に用意した馬車が、負傷した騎士を載せる事に使われる。

そうして屈辱に顔を歪ませながら、騎士達はその場を立ち去った。


「何とか帰ってくれたか…」

「良かった

 アランが来てくれたとは言え、このままでは勝てたか…」

「それで?

 こちらの騎士達は何なんだ?」


アランと呼ばれた青年が、不審そうにカイザート達を見る。

彼等からすれば、カイザート達も王国の騎士である。

その騎士達が、こうしてアルサードの元で一緒に戦っていた。

だからアランも、すぐには合流する事を躊躇ったのだ。


「ワシはロマノフ王国の騎士だった、カイザートという者だ」

「そんな事を聞いているんじゃねえ

 何でその騎士様がここに居るんだ?」

「それは…」

「それはワシが、この方の騎士になったからじゃ」

「っ!

 カイザート」

「アルサードの騎士にねえ…」


カイザートの言葉に、アランの後ろに並ぶ遊牧民達が騒ぎ始める。


「おい

 アルサードに騎士だって?」

「あのお転婆にか?」

「何がどうなっているんだ?」

「静まれ!」


アランが声を上げて、その場の騒ぎを収める。


「それではあんたは…

 ええっと?」

「カイザートじゃ」

「カイザートね

 あんたはアルサード姉さんの騎士になったと?」

「そういう事じゃ」

「ふうん…」


「おい!

 王国の騎士なんかが何で…」

「黙れ!

 オレが話しているんだ」

「しかしアラン…」

「分かっている」


アランはカイザートの前に来ると、短い片手用の槍を突き出す。


「な!

 アラン!」

「姉さんは黙っててくれ

 これは男の問題だ」

「ふむ

 どうやら信用してくれない様だな」

「そうだな

 これで決着を着けよう」

「分かった」

「アラン!

 カイザート!」


アランはカイザートを連れて、少し離れた場所に移動する。

その際に意味あり気に、片目を閉じて合図を送っていた。


「アラン?

 一体何を…」

「大丈夫さ

 あれはあの男を試そうって腹だ」

「それにこのままでは…」


王国の騎士と聞いて、少なからぬ者が苛立ちを感じている。

彼等は家族や仲間を、王国の騎士に殺されているのだ。

だから信用出来ない騎士を、このまま見過ごす事は出来なかった。

アランは彼等にも、カイザートがどんな男か示したかったのだ。


「姉さんは気に入った様子だが…

 オレはそうは行かんぞ」

「どうすれば信用してくれる?」

「そうだな

 姉さんの騎士になるって言うんだ

 その腕前を見せてくれないとな」

「分かった

 一応確認するが、参ったと降参させれば良いのか?」

「ほう?

 もうオレを打ち負かした気でいるのか?」

「そうでは無い

 アルサード様の弟なら、怪我をさせたくは無いからな」

「なら安心しても良いよ

 オレは弟では無い」

「そうか

 それなら…」


カイザートは槍を握ると、鋭くアランを睨む。

カイザートが並みの騎士と言っても、それは王国に於いてだ。

遊牧民の戦士と比べれば、それなりに勝てるだけの自信はあった。

しかしアランも、並みの戦士では無かった。


彼はここから少し離れた、別の部族の族長だった。

父である族長が討たれて、若くして部族を預かる身となった。

その日から槍術に研鑽して、ここまで部族を守って来たのだ。

彼がアルサードを姉さんと呼ぶのは、アルサードが彼よりも年上だったからだ。

彼はアルサードを姉と呼び、慕っていたのだ。


その姉さんが…

あんなに嬉しそうに男と話しているのは初めて見た

この男なら姉さんと…


「さあ!

 行くぞ!」

「うむ

 掛かって来い!」

「はああああ」

「うりゃあああ」

カン!

カキン!


二人は唸り声を上げると、猛然と槍を繰り出す。

奇しくも互いに槍に自信があり、その腕前は確かに強かった。

そして彼等は、そのまま互角の戦いを繰り広げる。


「ひゅう…」

「あのアランと互角とは…」

「騎士と言うだけあるな」


「しかしアルサードの騎士だと?」

「王国の者など信用なるか」

「しかし一緒に戦ってくれたぞ?」

「何か考えているのかも知れん

 油断出来んぞ」


しかしながら、彼等はそのまま互角に突きと振り払いを繰り返す。

互いの技量が近いので、純粋な技量の比べとなっていた。

そして実力が拮抗しているので、簡単なフェイントにも引っ掛からない。

そうして互いの突きを躱しながら、数十合も打ち合い続けた。


「はあ、はあ…

 やるな…」

「貴殿こそ

 年に、見合わぬ凄腕…」

「へへっ

 その割には息が上がっていないな

 はあ、はあ…」

「それは、日頃の訓練の賜物

 ふう…」


アランは息が上がって、肩で息をしていた。

一方でカイザートは、まだ少し余裕を見せていた。

それはカイザートの方が、アランよりも長く戦場で生きていたからだろう。

その経験の分、カイザートの方が僅かに勝っていた。


「負けたよ

 姉さんの事は任せる」

「ああ

 任された」

「あ!

 ちょっと!

 アラン?」


アランはそう言うと、槍を肩に担いでその場を下がった。


「良いのか?」

「あいつは王国の…」

「その王国の怖さを知っているのに、あいつは姉さんの為に戦うんだ」

「それは…」


アランが仲間に言った言葉を聞いて、カイザートは自分の鎧を見る。

そこには王国をでる時、魔導王国の騎士として与えられた勲章が光っていた。

彼はそれを掴むと、引き千切って地面に叩き付ける。

そしてそれを踏みしだくと、彼等の前で宣言した。


「ワシは今日ここで、王国の騎士を辞める

 これからは彼等の為に…」


そう言ってカイザートは遊牧民達の顔を見回す。


「このアルサードの為に戦う」

「え?

 カイザート?」


「アルサードが旗頭か?」

「そりゃあ良い」

「アルサード

 今日からお前がオレ達の長だ」

「ちょっと待って」


カイザートの宣言を見て、他の騎士達も紋章を投げ捨てる。

そうして彼等も、カイザートを倣って宣言する。


「我らはカイザード様の騎士」

「そうしてこの遊牧民達を守る騎士」

「我等カイザード様と共に」

「この地を護る為に戦う」

「おお…」

「我等はこの地を護る騎士だ!」

「おう!」


騎士の言葉に、遊牧民達も歓声を上げる。

最初は不審がっていた者達も、彼等の覚悟を聞いて頷く。


「オレ達も戦うぞ」

「そうだ!

 いつまでも王国の自由にはさせねえ」

「そうだ

 アルサードと共に」

「カイザートと共に」


騎士や遊牧民達が歓声を上げる中で、長老が静かにカイザートに近付いた。


「騎士殿

 少し良いかの?」

「は、はあ?」

「話がある

 アランとアルサードもじゃ」

「は、はい」

「何だよ、爺」

「良いから着いて来い」

「あ痛っ」


アランは長老に杖で叩かれ、頭を擦りながら着いて行った。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ