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聖王伝  作者: 竜人
第十八章 北へ向けて
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第597話

それは激戦と呼ぶに相応しい、激しい戦いだった

長く続く戦いを、映像は重要な戦局だけ選んで映し出す

しかしそれだけでも、十分に見応えのある戦いだった

いつしかギルバートは、声も上げられずその戦いに見入っていた

最初は遊牧民達が、集団を集めて戦っていた

そこに獣人達が加わり、やがてドワーフ達も集まって来る

そうした中に、白旗を掲げた人間の集団が向かって来る

彼等は武器を収めて、遊牧民達の中に入って行った


「この集団を纏め上げる者は誰だ?」

「私が族長の代理、アルサードだ」


その女性は精悍な身体付きをした、まだ若い女性だった。

彼女は紅い髪を長く伸ばし、ハシバミ色の美しい瞳をしていた。

その女性を一目見て、先頭に立っていた男が跪く。


「あなたの様なお美しい女性が…」

「世辞など良い!

 何の目的があってここに来た?」

「それは…」


男は暫し苦悶の表情を浮かべる。

どう説明しようか迷っている様子だった。


「公爵様

 こんな無礼な蛮族を…」

「失礼な事を言うな!

 彼女のどこが蛮族かね?

 蛮族と言うのなら、一方的に奴隷狩りをしている、ワシ等の方が蛮族じゃろう」

「そんな…」

「我らは王国に選ばれた騎士ですぞ?」

「神に選ばれた我らに、従順に従うべきでしょう?」

「それが出来ない者なんぞ、蛮族と呼ぶに相応しいでしょう」

「貴様はそれでも、王国の騎士か?

 騎士とは弱き民の為に、悪しき者共と戦う剣じゃ!

 この者達を見よ!」


男はそう言って、戦いに疲弊した遊牧民達を示す。


「彼等は同族を救う為に、その身を投げ出して戦っておる

 貴様等にその様な事が、出来ると言うのか?」

「それは…」

「しかし王国の命令は?」

「こ奴等を降伏させて、奴隷として持ち帰れと…」

「ぐうっ…

 それが間違っておると言うのに…」


男は悔しそうに、拳を握り締めていた。

彼の住む国もまた、王国の圧政に苦しんでいた。

逆らえば国が滅ぶとあって、こうして降伏勧告の使者として名乗りを上げた。

しかしここに来て、彼はその決断を悔やんでいた。

彼女達もまた、王国の圧政に苦しむ者達だった。


「神よ!

 こんなオレにどうしろと?」

「公爵様?」

「苦しんでいるのは、彼等も同じだ」

「しかし命令に従わなければ…」

「ぐうっ…」


男の様子を見て、アルサードは彼の前に出る。


「貴様は降伏勧告の使者なのか?」

「そうだ

 お前達を奴隷として、差し出す様に言われて来た」

「そうか…

 しかし我らはそれには、従う事は出来んぞ」

「そうだな…

 見れば分かる」


遊牧民達は、子供達を移動式の天幕の中に匿っていた。

そこから数名の、痩せ細った子供達が顔を見せている。

不安に圧し潰されて、泣きそうな顔をしていた。

その姿を目にして、彼は激しく後悔をしていた。


白旗など挙げずに、そのまま攻め込めば良かった

そうすれば、こんなに悩む事も無かっただろう

しかしそうしていれば、彼女に出会う事も無かった

この燃える炎の様な、美しい乙女に…


男は目を瞑ると、暫し悩んでいた。

そうして嘆息を吐くと、部下達に命令を下す。


「ワシはこのまま…

 彼等を守る為に戦って果てる」

「な!」

「何を仰いますか?」

「そうですぞ

 そうなればお国の家族や同胞達が…」

「そうじゃな

 じゃからお前達は、これから向こうに戻れ

 ワシだけが裏切り者の誹りを受けよう」

「何ですと?」

「ご乱心されたか?

 蛮族の為に命を捨てると?」

「蛮族では無い!

 彼等は家族を救う為に、勇敢に戦う戦士だ!」


男はそう言い放つと、アルサードの前に再び跪く。


「美しい乙女よ

 どうかワシを、其方を守る為の騎士にしてくれないか」

「な、なな…」


アルサードは男に言われて、顔を赤くして狼狽えた。


「わ、私が美しいだと?

 其方の目は節穴か?

 こんなごつく可愛げの無い…」

「そうでは無い

 まるで一枚の絵画の様な…

 その燃える様な髪と美しい瞳」

「な…」

「ワシはどうやら、其方に恋をした様じゃ」

「な、な!

 何を言っておる!」


男の告白に、アルサードは眼を白黒して動揺する。

そんな様子を見て、後ろから一人の老人が姿を現す。


「お若いの

 それで良いのか?」

「ん?」

「其方のその選択は、哀しい結末を迎えるかも知れんぞ?」

「哀しい結末ですか?

 そうですな

 ここで討ち果てるのでしょうからな」

「うむ…」

「長老

 何で出て来た」


アルサードは慌てて、男と老人の間に割って入る。

どうやら指揮は彼女がしているが、指導者はこの老人の様だった。

老人はじっと男の目を見て、静かに頷く。


「其方の名は何と言う?」

「カイザート

 西方ロマノフ王国が騎士、カイザートです」

「ふむ

 カイザートか

 良い名じゃ」


老人は満足そうに頷くと、今度はアルサードの方を見る。


「な、何じゃ?」

「アルサード

 この男をどう思う?」

「な、にゃにを…」

「そう慌てるでない

 ありのままの気持ちを言うのじゃ」

「そ、そりゃあ…」


アルサードは男を見て、それから上から下へと何度も見回す。

青黒い髪に蒼い神秘的な瞳、そして精悍な顔付きをしている。

その辺の男に比べても、美丈夫と言うに相応しい男だろう。

しかしアルサードは、この男の事をよく知らなかった。


「わ、私の事を…」

「何じゃ?

 よく聴こえんぞ?」

「私の事を!

 こんな私を、綺麗と言ってくれた

 それは嬉しい!」

「ほっほっほっ」

「だけど…

 こいつはあの敵の仲間なんだろう?」

「そうじゃな

 しかしそれも少し前の事じゃ」

「え?」

「さっき言っておったじゃろう?

 この男はお前を、守る騎士になると」

「それは…

 しかし口だけだろ?

 こいつら口先だけで、すぐに裏切って…」

「そうなのか?」


老人は今度は、カイザートの方を見る。


「いえ

 ワシはそんな事は…」

「信じて良いのか?」

「はい

 この剣に誓って」


カイザートが剣を引き抜き、その場は騒然とする。

しかし彼はそれを気にせず、その場で跪きながら剣の先を自分に向ける。

そしてその剣の柄を、アルサードの方へ差し出した。


「ワシの事が信用ならんなら、そのままこの剣で突き殺してくれ

 しかしそうで無いのなら、ワシの剣に祝福しておくれ」

「な…」

「ふむ

 騎士の誓いじゃな」

「騎士の誓い?」

「ああ

 ワシは一生涯、お前だけの騎士になる

 これはその意思表明だ」

「な、何だかよく分からんぞ?」


アルサードは老人に振り返り、救いを乞う様に見詰める。


「それは騎士が立てる神聖な誓いじゃ

 受けぬのなら、そのまま剣を持って首に刺せば良い」

「そんな事をしたら…」

「じゃが、受けるつもりならその柄に祝福のキスをするのじゃ」

「な!」

「そうすればその男は一生涯を賭けて、お前を守る騎士になる

 どうする?」

「どうするって…」


アルサードは眼を白黒させて、男と剣を交互に見る。

そして男の顔を暫く見詰めると、その顔を真っ赤に染めていた。

周囲に集まる遊牧民の男達は、どうなるか固唾を飲んで見守る。

いつの間にか子供達も出て来て、その様子を見守っていた。


「あれなあに?」

「あの人がアルサードの騎士になるんだって」

「騎士ってなあに?」

「アルサードを守ってくれる強い人だよ」

「強い人なの?」

「守ってくれるの?」

「ああ

 アルサードの事が好きなんだって」

「へえ…」


子供達の声に、アルサードはますます顔を赤くする。

彼女は男達を率いて、これまで勇敢に戦って来た。

しかしそんな彼女の事を、好きだなんて言う男は居なかった。

いや、そもそもが美しいなどと言う男すら居なかったのだ。

初めての事にアルサードは、顔を真っ赤にして思考が停止していた。


そして一方では、騎士達がカイザートに訴え掛ける。


「公爵様」

「お止しください」

「そうですよ、蛮族の娘にだなんて」

「うるさい!

 彼女は蛮族などでは無い

 心美しき、勇敢な戦士だ」

「ですが私達は…」

「お前達は好きにして良い

 このまま立ち去るが良い」

「そんな事は出来ませんよ」

「そうですよ

 我らはあなた様を守る為に…」

「ワシの剣は、この方に捧げると決めたのだ

 王国の腐りきった王では無く、この美しい乙女に…」

「ですからそんな女に…」

「ああ、どうしたら良いんだ?」


「よし!」


騎士達の嘆きを他所に、アルサードは決心を決めた。

元々深く考える様な性格では無かった。

彼女は自分の気持ちに正直に従って、その手を剣の柄に伸ばした。

周りは声を上げて、その光景を見守る。


「おお…」

「どうするんだ?」

「分っかんねえ…」

「しかしアルサードの決めた事だ」


「アルサード、受けるの?」

「結婚するの?」

「馬鹿

 騎士ってそういう事じゃねえだろ?」

「でも、嬉しそうだよ」


「ああ!」

「そんな…」


アルサードは剣を取り上げると、その柄にそっと口付けをする。

そうして剣をカイザートに返すと、溜息を吐きながら立ち上がる様に促す。


「こ、これで良いのか?」

「ああ

 我が主よ」

「何だかくすぐったいな」


何とも言えない感覚が、ゾワゾワとアルサードの身体を駆け巡る。

アルサードは顔を赤らめながら、カイザートを見詰める。


「ほっほっほっ

 良かったのう」

「それで?

 どうするんだ?」

「そうだな…」


騎士のほとんどが、その場に残ると言い出していた。

彼等は王国に従っていたが、それもカイザートの騎士だったからだ。

カイザートが残るのなら、自分達も残って戦うと言い出していた。


「お前等

 好きにして良いんだぞ?」

「いいえ

 我らはあなた様の騎士です」

「そうですよ

 あなた様を守って討ち死にするのなら…」

「ふん

 馬鹿らしい」

「オレ達は帰るぜ」

「あんたが死ねば、こいつ等は好きに出来る」

「たんまり奴隷として連れて行って、報酬をもらうさ」

「ああ

 好きにしろ」


数名の騎士は、そう吐き捨てる様に言って立ち去った。


「すまない

 彼等もすっかり王国に毒されて…」

「構わんさ

 で、残った奴はまともなのか?」

「それは何とも…」


残った騎士達も、半数以上は選民思想の影響を受けている。

だからこそ主であるカイザートを守ろうと、この場に残っているのだ。

しかし引き上げた騎士に比べると、まだマシな方だと言えた。

彼等はそこまで、心根が腐ってはいなかった。


「うむ

 して騎士殿よ」

「カイザートで良い」

「うむ

 カイザート殿

 如何にして退けるつもりかな?」

「それは…」


視線を向けると、そこには騎士達が迫っていた。

彼等は降伏に従わないので、力尽くで奪おうと向かって来ている。

その数は実に、騎士だけで500名は超えていた。

その後ろには魔導士も控えていて、恐らく勝ち目は無いだろう。

しかしカイザートは、それでも勇敢に立ち向かおうとしていた。


「最期の時まで、ワシはあなたを守る騎士です」

「えっと…」

「カイザートと呼んでくれ」

「カイザート…」

「ああ

 アルサード様」

「わ、私もアルサードで構わん」


「あ、アルサード照れてる」

「はははは」

「顔が真っ赤だよ」

「う、うるさい!

 攻撃に備えるぞ」

「そうだな

 子供らは隠れてろ」

「はーい」

「アルサード

 負けないでね」

「ああ」

「騎士様も、アルサードを守ってね」

「ああ

 約束する」


アルサードとカイザートが、先頭に立って騎士達を睨み付ける。

その後ろに騎士達と、遊牧民達が武器を構えていた。

騎士は槍を手にして、突撃の構えをしている。

遊牧民達は小さい弓を手に、援護射撃の準備をしていた。


「うおおおお」

「蛮族共を殺せ」

「女子供は殺すな

 男だけを殺せ」

「全てを奪い尽くせ」


「来るな…」

「ああ」

「あなたを守る為に、この命を費やす」

「頼んだぞ」

「任せろ!

 行くぞ!」

「おう!」


カイザートを先頭にして、騎士達が敵軍に向かって進んで行く。

魔導士が魔法の矢を放つが、騎士達はそれを盾や槍で弾き飛ばす。

その後方から、アルサードや遊牧民達が矢を続け様に放った。

騎士は十鎧を着ているが、馬はそこまでの装備をしていなかった。

矢の斉射を受けて、先ずは敵の騎士達が崩れ始める。


「うおおおおお!

 命の惜しくない奴から掛かって来い!」

「カイザートだ!」

「裏切り者め!」

「先ずは貴様から殺してやる」


カイザートの読み通り、敵軍の騎士達はカイザートに向かって来た。

それに釣られる様に、魔導士との間が開いて行く。


「騎士共め!」

「あの単細胞共めが!」

「このままでは魔法で狙えんぞ」


カイザートに釣られた事で、騎士達の防御壁が薄くなっていた。

そこを狙って、遊牧民達が矢を斉射する。


「くそっ!」

「騎士共は何をしている」

「ぐわっ」

「我らを守らんか」

「ぎゃあっ」


魔導士達を狙って、矢の雨が降り注ぐ。

たかだか数十名の射手だが、それでも彼等は連射能力に長けていた。

次々と矢を番えては、馬上から魔導士達に矢を放つ。

魔導士達は馬に乗っていないので、ほとんど動く事が出来ない。

動かない的となれば、射手も狙い易かった。


「くそっ!

 被害が大きいぞ」

「あっちを狙うんだ」

「蛮族共に目に物見せてくれる」


魔導士達は、狙いをカイザート達から射手である遊牧民達に切り替えた。

しかし馬上から射ているので、なかなか狙いが定まらない。

魔導士達が狙っている間に、遊牧民達は移動しながら矢を射かけた。

その僅かな差が、カイザート達に優位を与えていた。


「くそっ!

 斯くなる上は…」

「危険ですぞ?」

「構わん

 騎士共々打ち砕いてくれる

 魔導盾を展開しろ」

「は、はい」


魔導士達は大きな魔法に備えて、複数人で詠唱を始める。

その間に周りの魔導士達が、魔法の盾を展開して必死に矢の雨を防いでいた。

しかし盾を作る者の数が、あまりにも少ない。

矢は少しずつではあったが、周りの魔導士達を倒して行った。

まだまだ続きます。

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