第595話
ギルバート達が見ている前で、エルフや魔族が浮遊大陸に挑もうとしていた
その映像の中では、空に浮き上がる魔法まで使われていた
しかし翼人達の方が有利で、なかなか浮遊大陸には登れない
そんな光景を、ギルバートはもどかしく見つめていた
魔法も獣人達の力でも、浮遊大陸には登れなかった
その間にも、翼人達は人間の国を襲っていた
多くの人間が連れ去られて、翼人達の気紛れで殺されていた
中には崖から落として、どのぐらい生きれるか競っている光景も映し出されていた
「くそっ!
やりたい放題だな」
「ああ
こうして翼人達は、他の種族達から嫌われていった
そこへ女神が目覚めるんだ」
「え?
しかし女神でも…」
「そうでも無いぞ」
女神が目覚めた事で、事態は大きく動いた。
翼人達の行いを見て、女神は大いに。怒っていた
そして神殿から出ると、数体のドラゴンを呼び出す。
ハイエルフの時とは違って、今回はドラゴンが空を飛ぶ。
「おお!
これなら翼人達も…」
「そう思っただろう?
しかし彼等もな…」
翼人達が浮遊大陸に逃げ帰ると、そこから金属で出来たドラゴンが現れる。
それはソルスの輝きを反射させながら、大空を飛んで行った。
「な!」
「これだよ
これが後に、神魔大戦が大きな戦だと言われる所以だ
彼等は魔導兵器を完成させていたんだ」
金属のドラゴンが、女神の呼び出したドラゴンを切り割く。
吐き出す炎は大地を焼き払い、多くの者が焼き殺される。
その光景を見て、翼人達は喜んで拍手喝采をする。
大地は惨たらしく焼かれ、女神の神殿にまで迫っていた。
「何だ…
これは?」
「これこそが地下にあった、魔導兵器の原型さ
金属のドラゴンは強力で、さしもの女神も梃子摺っていたのさ」
「地下のって…
あの爆発した?」
「ああ
あれはこれを真似した物だったんだ
しかし使われている鉱石からして違っている
だから空を飛ぶし、暴発して爆発する事も無かった」
魔導兵器は圧倒的な火力で、魔族の魔法をも打ち破る。
そして強力なドラゴンですら、その金属の爪で引き裂かれていた。
気が付けば魔導兵器は、女神の神殿の目の前まで迫っていた。
「おい!
このままでは女神が…」
「そうだな
ここで女神が負けていれば、世界は翼人の支配下に置かれていただろうな」
女神は巨人を呼び出して、彼等に神殿を守らせた。
巨人は大岩を持ち上げては、魔導兵器に向けて投げ付ける。
最初は躱していたが、次々と投げ付ける岩に、魔導兵器は撃ち落とされて行った。
金属が頑丈でも、岩のぶつかる衝撃は防げなかったのだ。
「え?」
「予想外だろう?
こんな事で、あの兵器が壊れるとは思っていなかったんだ」
魔導兵器を失った事で、今度は翼人達が追い込まれる。
巨人はゆっくりと侵攻して、浮遊大陸の下まで近付く。
そして再び岩を持ち上げると、それを浮遊大陸に向けて投げ付けた。
「はあ?」
「オレも最初は驚いたよ
しかしこれが、シャンバラが落ちた原因なんだ」
岩が次々と命中して、浮遊大陸に激しい振動が加わる。
そして衝撃で魔道具が壊れて、大陸を浮かせる力が失われる。
力を失った浮遊大陸は、そのまま地面に墜落した。
その衝撃で、中に逃げ込んでいた翼人達は死んでしまった。
「こうしてシャンバラは地に落ちて、翼人達は再び滅びてしまった」
「そんな馬鹿な事が…」
「あまりにも馬鹿らしいだろ?
しかしこれが、シャンバラが滅びた原因なんだ
そして女神は…」
先ほどのドラゴンより大きなドラゴンが、シャンバラの入り口から入って行く。
それから女神は、シャンバラの入り口を巨人達に塞がせる。
投げていた岩を集めて、それを入り口に積み上げたのだ。
こうしてシャンバラは封じられて、誰も立ち入れなくなった。
「何だか…」
「とても馬鹿らしいが、結局物理的な力が一番強いんだ
魔法は見た目も派手だが、あんな風に岩を飛ばす事は出来ない」
「そりゃそうだろうが…
何だか気の毒だな…」
翼人達は、岩に叩き落されるか圧し潰されていた。
生き残って城に籠った者達も、大陸が墜落した衝撃で亡くなっただろう。
それにもし生き残っていても、最後に見たドラゴンが相手では勝てないだろう。
驕り高ぶっていた翼人達も、こうして最後は滅びてしまった。
「女神はこの事を重く見て、その後は翼人を生み出さなかったそうだ
まあ、あれだけの事をしてはな…」
「そうだろうな
しかし…」
この幕切れは、ギルバートの予想を大きく裏切っていた。
まさかこんな方法で、あんなに強かった翼人が滅びるとは思わなかったのだ。
「なあ…
これって参考になるのか?」
「ん?」
「却って女神の力を、思い知っただけじゃ無いのか?」
「そうでも無いぞ
巨人の恐ろしさが分かっただろ?
王都では勝てたが、あんな岩を投げ付けられたら…
どんな相手も勝てないだろう」
「いや、それは参考にならんだろう?」
「そうでも無いさ
要は岩を投げさせなければ良いのさ」
「そりゃそうだが…
何か策があるのか?」
「ああ
だからこれを見て、良かったと思っているぞ」
「そ、そうか…」
何だか分からないが、アーネストは策を思い付いたらしい。
しかしギルバートは、巨人とは二度と戦いたくないと思っていた。
あんな大きな岩を投げられては、例え切り付けても無事では済まないだろう。
岩が砕ければ良いが、そのまま当たったらギルバートでも即死するだろう。
そんな物は戦いとは呼べない。
「これが第二次神魔大戦だ」
「確か第四次まであるんだったな?」
「ああ
カイザートの戦いが、第四次と呼ばれている」
「第三次は?」
「この後だな」
それから映像は変わり、再び女神が治める世界が映される。
人間の国は復興を果たし、ドワーフやハイエルフも訪れていた。
それから300年ほどは、特に何事も無く過ぎて行く。
人間は魔道具を開発して、文明を発展させて行く。
時にはドワーフが、人間と競って開発を行っていた。
そして人間とハイエルフの間には、エルフ達が生まれていた。
獣人達も人間と協力して、荒れ地を開拓して行った。
そうして穏やかな日々が過ぎて行った。
「何だ?
やけに平穏なんだな?」
「ああ
暫くはこうして、何事も無かったんだ」
「へえ…」
しかしアーネストが言った様に、この後に第三次神魔大戦が起こっている。
それはこの穏やかな日々が、いずれ崩れ去るという事だ。
ギルバートは映像を見て、それが信じられないと思っていた。
それほどこの光景は、平穏で穏やかな映像だったのだ。
「信じられないな
ここからまた戦争が起こるだなんて…」
「ああ
しかし人間は…」
「また人間が原因なのか?」
「ああ
残念ながらな
人間の愚かさを象徴しているかの様だよ」
それは思わぬ形で始まっていた。
最初は数名のエルフの少女が、人間に捕らえられた事だった。
人間が欲望の捌け口に、見目の良いエルフを求めたのだ。
そんな下らない事だった。
「えっと…」
「結局奴隷か選民思想なんだよな」
「これもか?」
「ああ
エルフは美しい見た目だからな」
「それは…」
ギルバートは思わず、少し離れた場所に居るセリアを見る。
確かにあれだけ可愛いのだ、好きになる気持ちも分からなくは無い。
しかしだからと言って、無理矢理捕らえて従わせるのはどうなんだ?
ギルバートはそう考えるが、それを当たり前だと思う者は少なからず居るのだ。
だからこそ奴隷制は無くならないし、未だに囚われたエルフやドワーフが居るのだ。
「信じられないな…」
「それはお前が、セリアと結婚出来たからだろう?
世の中にはそういう願いが…
いや、そもそも異性に好かれない者も居るんだ」
「そうなのか?」
「お前…
そう奴等に殺されるぞ」
ギルバートは理解出来ていなかったが、アーネストは知っていた。
現にそういう者達が、ギルバートを害しようとしていたのを阻止もしている。
そしてそういう者達が、貴族の様な権限を持った時の恐ろしさも知っていた。
だからこの映像で行われている事も、いずれ起こる出来事だと納得もしていた。
「全ての人間が好かれる訳でも無いし
嫌われる者はそれなりの理由があるんだ」
「そうなのか?」
「ああ
だから好かれない事を、こうして解消しようとするんだ」
「ううむ
何だかそんな人間だから、好かれないんじゃないか?」
「そうかも知れないな」
ともあれ、人間はエルフも少女達を誘拐した。
そして無理矢理関係を持とうとして、拒まれていた。
その事で立腹した人間は、そのエルフの少女達を殺してしまう。
それからが悲惨だった。
最初は少女の親と、人間が言い争っていた。
その内収まらなくなり、人間の町へとエルフが奇襲を仕掛ける。
それで死人が出て、人間側も収まらなくなる。
「人間はそうやって、他の種族を見下している」
「それはエルフも同じだろう」
「そもそも人間が最初に…」
「だったら何で、その事を相談しなかった?」
「相談したら、何かしてくれたのか?」
「少なくとも殺しを行った者には、明確な罰則を…」
「そんな甘い事を…
身内だから庇うのか!」
「庇ってはいない
だが殺すだけが…」
「こっちは子供達を殺されたんだぞ!」
「だからと言って関係無い者達まで殺すなんて…」
両者の主張はぶつかり合って、やがて激しい対立となる。
そうこうする内に、今度は人間がエルフの集落に襲撃する。
そこからは泥沼だった。
「人間を殺せ!」
「エルフを生かして置くな!」
双方が激しくぶつかり、次第に抗争が激化する。
そうなれば当然、他の種族の者達も巻き込まれる。
最初は獣人が殺され、その内ドワーフにも死人が出る。
そうなってくれば、当然彼等も黙っていなかった。
「これは短期間では無く、数年でこうなって行ったんだ」
「時間の問題じゃ無いだろう?
どうしてこうなったんだ
あんなに仲良く暮らしていたのに…」
「所詮は他種族だからな
どこか他人だったのだろう?
だから何か起こっても、他人の事だと無関心だったんだ」
「そうなのか?」
「ああ
例えば…
目の前で魔物が、人間に殺されている
ギルはそれで憤りを感じるか?」
「それは…」
「難しいだろう?」
「例えが悪く無いか?」
「そうでも無いさ
それぐらい関心が無かったんだ」
人間が同族の犯罪に対して、迅速な対処をしていれば違ったかも知れない。
しかし被害者がエルフだった事から、どこか他人事様に感じていたのだ。
その結果が報復に繋がり、今度は同族の被害に変わった。
その時になって、同族の為に激しい怒りを覚える。
しかしそれは、最初の被害者であるエルフも同じなのだ。
最初に起こった時に、周りが何もしなかった。
それが恐らくは原因なのだろう。
しかし一度火が付けば、もうそんな事はどうでも良いのだ。
後は激しく憎しみが燃え上がり、行き付く所まで行くしか無かった。
「戦争の始まりか…」
「ああ
最初は人間と、他種族の同盟軍だ」
「何でまた…」
数で言えば人間の方が多かったが、力では他種族の同盟軍の方が上だった。
やがて人間の軍が押され始める。
その段になって、他種族の同盟軍の中に亀裂が入った。
戦後の人間の賠償を巡って、意見が対立したのだ。
「人間に賠償を求める
それで十分だろう」
「いや
人間は再び過ちを犯した
今後起こさせない為にも、厳重に管理すべきだろう」
「管理するって…
どすするつもりだ?」
「我々で人間を奴隷にして、管理をするのだ」
「それは間違っていないか?
女神様は奴隷はいけない事だと…」
「最初に我々を奴隷にしようとしたのは、人間の方だぞ?」
「しかしそんな事は…」
エルフ達は人間を、奴隷にする様に主張した。
しかし魔族やドワーフ達は、それを良くない事だと反対する。
ここでエルフとドワーフが戦う事となる。
魔族はその様子を見て、女神にお伺いを立てる為に一旦引き上げた。
「今度はエルフとドワーフか?」
「ああ
人間を奴隷にすべきだと…」
「何だかややこしくなって来たな」
「ああ
さらにややこしくなるぞ」
それから女神の指示で、魔族が仲裁に入ろうとする。
その事に腹を立てたエルフが、魔族にまで戦争を仕掛ける。
側面からはドワーフが迫り、それを見兼ねた獣人まで戦争に加わる。
最早どことどこが戦っているのか、分からない状況になっていた。
「おい!
何だかゴチャゴチャして来たぞ?」
「ああ
お互いが攻撃し合って、今では人間だけが蚊帳の外だ」
「ああ!
エルフが獣人も攻撃している?
それにドワーフが魔族の城を破壊してるぞ」
「そうなんだよ
それで泥沼の戦争とも呼ばれている
これが本当に収まるまで、実に20年以上掛かっているんだ」
「そんなにか?」
「ああ
結局女神が仲裁に入るんだが
それでも収まらなかったんだ」
「それじゃあどうやって?」
「最終的には魔物が放たれたんだ
それで戦争どころでは無くなって…」
「え?」
映像の中では、オーガや巨人が戦争の間に割って入る。
そして力尽くで抑えると、そのまま国境に見張りとして立っていた。
これで魔物を倒さない限り、どちらも攻め入る事が出来なくなった。
彼等は和平を結ぶ事も無く、物理的に停戦を余儀なくされたのだ。
「随分と力尽くだな…」
「ああ
その事が裏目に出るんだ
それが魔導王国の誕生に関係している」
「へえ…
ところでこれは、どのぐらい昔なんだ?」
「この辺りで700年ぐらい前かな?」
「そうか…」
「この状況で100年以上、睨み合いが続くんだ」
「え?
100年もか?」
「ああ
エルフやドワーフ達からすれば、100年なんてそんなに長くは無いんだ」
「そうか
長命種からすれば100年ぐらいは…」
「ああ
そんなに長く感じ無いんだ」
映像の場面が、再び人間の国に戻った。
そこではこれから、新たな国が生まれようとしていた。
魔法文明に秀でた、魔導王国の誕生する時が来たのだ。
まだまだ続きます。
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