第593話
ギルバートはアーネストの解説を受けながら、過去の英雄達の戦いを見ていた
時々うるさいと怒るが、アーネストはギルバートに色々説明してくれた
それはそうする事で、自分自身でも確認していたからだ
残された記録とは、内容が異なっているからだ
二代目の勇者と言われたイチロは、人間を守る為に魔物の群れと戦った
しかし人間達は、魔物に勝った事で増長してしまう
そして今度は、亜人や獣人達を狙って侵攻して来た
そしてそれは、女神の神殿にまで及んでいた
「そもそも勇者が、人間に手を貸さなければ…」
獣人や亜人達は、そう言って勇者達を責めた。
それで勇者は、自分達だけで人間を防ぐと宣言する。
彼と共に残ったのは、彼の妻達であった。
さすがに最期の戦いでは、勇者に従う者は居なかった。
「女神様」
「良いのじゃな?」
「はい」
「お願いします」
女神は勇者の妻達から、小さな包みを受け取って抱き抱える。
それは彼女達の子供達で、彼女達が死を覚悟していた証だった。
「な!
そんな事は!」
「良いんです」
「予め分かっていた事です」
「そうですよ
こうなる事は分かっていました」
彼女達は、勇者の言葉を押し留める。
彼女達はこうなる事を、事前に予期していたのだろう。
こうして勇者とその妻達を残して、女神は神殿の奥へと下がった。
獣人や亜人達もそれに従って、神殿の中で外の戦いの音に怯えていた。
そしてその映像の後に、場面は再び変わる。
そこでは勇者の遺した子供達を巡り、各種族が争っていた。
「どうするんだ?」
「勇者の遺した子供だと?」
「そんな呪われた子なんぞ…」
彼等は勇者によって救われたのに、既にその事を忘れている様子だった。
最初こそ責任を擦り合う様に、勇者が亡くなった原因を互いに非難していた。
しかし子供達の話になると、みな視線を逸らして誤魔化そうとしていた。
そんな彼等の態度に、女神は哀しそうに目を伏せる。
そうして女神は、子供達を抱いたまま神殿の奥へと向かって行く。
「何なんだよ、これは!
これが助けられた者の取る態度か?」
「そう言うなよ
最近でも見ただろう?
帝国の兵士達がこうだったじゃないか」
「あ…」
「選民思想…とまでは行かんが…
大概の者はこうやって、自己責任から逃れようとするものだ」
「そんな事…」
「それが事実なんだ
責任を取ろうと思うなら、最初から違った決断をしていたさ」
「ぐう…」
それはアーネストの言う通りだっただろう。
彼等がもう少し責任感があれば、勇者だけを向かわせる事は無かった。
いや、そもそもがこの様な選択自体、行わなかっただろう。
この戦いは人間にも非があるが、彼等にも問題があったのだ。
結果として、勇者達がその責任を肩代わりしたのだ。
「これで終わりだ
女神はここから、最初の眠りに着いた」
「え?
最初の眠りって?」
「あのなあ…
エルリックの話にも出てただろ?
女神は深く悲しみ傷付き、暫く姿を見せなかった」
「それは…」
それから映像は、使徒達が集まって相談する光景に切り替わる。
「ワシがあ奴をもっと鍛えていれば…」
「そこは否定しませんが…」
「アシュタロト
貴様が魔術をもっと教えていれば…」
「それは無いでしょう?
彼は私よりも、優れた魔術師でしたよ?」
「そうか?」
「ええ
彼の居た世界では、魔術は無かったんですよ?
それがああまで出来る様になったのは…」
「それを言うなら、ワシも随分と鍛えたんじゃぞ」
「それですよ
ですからこの事は…」
アシュタロトと呼ばれた男は、勇者の力を十分評価していた。
そしてこうなった原因を、彼の力不足では無いと判断していた。
「こうなるのは予見出来ていました」
「それなら…」
「そして防ぎようも無い事も、あの娘から言われていたでしょう?」
「じゃが…」
アシュタロトの言葉に、大柄な男は不満そうに口籠る。
「彼の居た世界は、こことは大きく異なった発展を遂げていました
ですからこうなるのは…」
「女神様の責任だと?」
「いえ
人間やその他の種族を導けなかった、我々の責任でしょう…」
「あいつ等か…
しかしのう…」
「ミカエル
アシュタロトの言う通りじゃ
ワシ等がしっかりしておれば…」
「ルシフェルは間違っちゃいないだろう?
人間が問題なんだ」
「しかしその人間を作られたのは…」
「ああ
女神様も悩んでおられた」
「こうなると事前に予測されておられたからのう…」
女神自身は、人間が誤った道を進む事を懸念していた。
それは人間が、元の世界の人間を基にしているからだ。
それで彼等が、同じ過ちを犯す可能性は常々予測していた。
だからこそ、この世界とは異なる世界から、指導すべき勇者を呼び入れたのだ。
「女神様は人間を導く為に、あの小僧を招いたんだ
それが失敗だったんだろう?」
「ミカエル!
それは無礼だぞ!」
「しかしなあ
実際に小僧のせいで…」
「イチロのせいでは無いじゃろう?
ワシ等が全てを、あ奴に押し付けたからじゃ」
「そうじゃ無いだろう
兄者も…
ルシフェルもあの小僧に言われただろうが
全て任せてくれと」
「それはそうじゃが…」
それから暫く、使徒達の言い争う声が聞こえる。
彼等は互いの意見を主張して、これからどうするべきかも話し合う。
しかし女神が居なくなった今、彼等を導く者は居なかった。
彼等だけでは、良い考えが纏まらなかったのだ。
「こいつ等は使徒だと言っていたよな?」
「ああ
この大男が魔王で、こっちは翼人を纏めているな」
「あれ?
翼人って滅んだって…」
「ああ
一度は滅亡して…それから再び生み出されたんだ
尤もその後に、シャンバラでもやらかすんだが…」
「え?
この話って…」
「今から千年以上も昔の話だ
正確な歴史は…」
「ああ
言わなくても良いぞ」
「あん?」
「どうせオレじゃあ分からないからな」
「少しは覚えようとしろよ!」
ギルバートの態度に、アーネストは苛つきながら睨む。
しかし怒ったところで、彼が覚えられ無いのは事実だった。
だからこそアーネストが、そういう事を覚える必要があった。
アーネストは溜息を吐いて、映像に視線を戻す。
「それで?
こいつ等は今は居ないのか?」
「だろうな
何せ千年以上も前の使徒だ
さすがに生きてはいないだろう」
「そうか…」
アシュタロトと呼ばれた男は、病弱そうな蒼い顔をした痩せた男だった。
しかしミカエルと呼ばれた背中に翼を持った男は、ガッシリとした体躯をしている。
そしてルシフェルと呼ばれた男は、さらに一回り大きくて力強そうだった。
そんな彼でも、長い年月は生きられ無いのだと、ギルバートは感慨深く頷いた。
「それじゃあこの後に?」
「ああ
生き残った指導者に従って、各種族はそれぞれの安住の地を探す旅に出る」
「へえ…」
「獣人達と翼人は、一先ずは南東に向かって移住した
それが後の理想郷という訳だ」
「そうか…
そこでシャンバラとかいう富裕大陸だっけ?」
「浮遊大陸だ!
それはもう少し後だな」
それからアーネストは、各種族の動向を説明し始めた。
「エルフやハイエルフは精霊の森に引き籠った
そしてドワーフは火山や鉱山に隠れ住んで居た」
「他の種族はどうなった?」
「他か?
そう言えば魔物は、この後暫く見られていない筈だな」
「魔物か…」
「魔物とは別だけど、魔族はこの頃に居たらしいな」
「魔族?」
「ああ
ベヘモットなんかが魔族だな
この後に起こった、第三次神魔大戦で女神と戦った者達だ」
「そんな者達が居たのか?」
「そうだな…」
アーネストは映像を少し戻して、アシュタロトと呼ばれる男を指差す。
「この魔王も魔族だな
人間に似ているが少し違うそうだ」
「え?
この顔色が悪いのが魔族か?」
「魔族は人間に似ているが、肌の色とか違うみたいだ
よく見れば牙も生えている」
魔族は人間に、魔物の因子が加わった存在だ。
だから特徴としては、見た目は肌の色や牙、角が生えているといった違いだ。
そして一番大きな特徴は、魔力が生まれつき大きい。
体内に魔石を持って産まれるからだ。
「一番の特徴は見た目もだが、魔石を持って産まれる事だ」
「魔石?
それじゃあアーネストも?」
「馬鹿
オレは人間だろうが
だが確かに、オレも似た様な物なのか?」
「魔石があるって事は?」
「そうだな
魔法が得意という事になる」
「それでこの会話も…」
会話の中で、確かに男は勇者に魔法を教えている様子だった。
しかし勇者の方が、魔法の内容では上だったらしい。
この事は勇者が、魔法の無い世界から来た事に影響していた。
彼は魔法に可能性を見出し、この世界とは異なる使い方をしていた。
その事が彼に、大きな力を与えていた。
「元々は身体強化は、獣人達の得意な魔法だった
彼はそれを、人間でも使える様に改良したんだ」
「へえ…
それじゃあアーネストが言っていたのは…」
「ああ
この時考えられた使い方だな
それまでは身体強化は、生まれ持った者しか使えないと思われていたんだ」
彼はその他にも、魔石を使った魔道具なども開発していた。
彼の住んでいた世界では、魔法という概念が無かった。
その世界では魔法の代わりになる、様々な技術が発展していた。
彼はそれを応用して、様々な魔道具を開発していた。
「どうやらここの機械とやらも、その世界の影響らしい」
「へえ…
そんなに凄い勇者だったんだ」
「ああ
しかしそんな勇者でも…」
「そうだな
女神に逆らって…」
「ああ
正確には、女神自身も自分の主義に反していたんだが…」
彼が女神に反攻したのも、女神が人間を滅ぼそうとしたからだ。
全てでは無いものの、多くの人間が犠牲になる。
それが許せなくて、彼は女神に逆らい事となる。
結果は多くの人間が犠牲となり、女神と対立する事になる。
それが正しい判断とは思えない。
しかし彼は、それでも何とかしようと全力を傾けていた。
「人間の味方をしようとして、結果は人間に裏切られる
そして女神を守る為に、さらに多くの人間を殺す事になる」
「それだけ聞いたら、その勇者の方が悪く聞こえるな」
「ああ
だが実際には、一番悪いのは人間だ
結果は勇者も死んでいるしな」
「ああ
後味の悪い結果だよな」
それでも勇者は戦い、最期は神殿を守って死んでいる。
それだけを見ても、彼の最期はあまりにも悲しい結末だ。
しかも救おうとした人間だけでなく、仲間だった獣人や亜人達からも見捨てられている。
子供達ですら、最後は女神が引き取っていた。
「子供達はどうなったんだ?」
「さあ?
そこは映されていないな
女神が眠ってしまったからか…」
「映したく無かったか?」
「どうだろうな?
どこかに記録はあるかも知れないが…」
少なくとも子供達に関しては、記録された物が無かった。
だからその後にどうなったかは、アーネストにも分からなかった。
幸せになってれば良いのだがと、アーネストは思っていた。
しかし映像を見る限りでは、それも叶わないだろうと思われる。
「恐らくは仲間の獣人や亜人達からも…」
「受け入れられなかったか?」
「そうだな
もし一緒に居たとしても、迫害されたりしていただろうな
何せ勇者の子供達だからな…」
「そうか
勇者は最後には…」
映像の場面は変わって、新たな勇者が誕生しようとしていた。
しかしそこには女神の姿は無く、男は翼人の前で宣誓を行っていた。
翼人の前には使徒のミカエルが立ち、男に剣を授けていた。
その剣を見て、ギルバートは首を傾げていた。
「あれ?
あの剣は…」
「ああ
先の勇者が最期の戦いで使っていた物だ
回収されて、人間の国で国宝となっていたらしい
勇者に授かる剣として」
「変だな?
人間と戦った剣なんだろ?」
「それがその事は無かった事にされて、魔物と戦った事だけ伝わっているんだ
それは古代魔導王国の伝承でも同じだ」
「え?
人間と戦ったのに?」
「ああ
都合が悪いから伏せたんだろう?
女神に反攻していたし、人間側は敗けているからな」
「はあ?」
剣は伝説の勇者の、ドラゴン退治の剣として伝わっていた。
そしてこの剣を授かる者は、英雄として人間を導くとされていた。
今度の英雄は、この剣を掲げて人間の国を纏め上げる。
それで国が出来上がり、古代魔導王国が誕生していた。
「これが古代魔導王国、バビロニア王朝の誕生だ
後にシャンバラを作った国の元にもなっている」
「ん?
バベロニアにシャンバラ?」
既にギルバートの頭は、パンク寸前だった。
「バビロニア王朝は古代魔導王国の別名な
複数国家の集合が古代魔導王国だから」
「そうなのか?」
「ああ
合わせて魔導王国と呼んでいるから、単独の国名じゃ無いんだ
そしてシャンバラは、その中の一つの国が作った物だと思われる」
「思われる?」
「ああ
話には聞いているが、確実な事は分かっていないんだ
この中に出て来れば分かるんだが…」
「出て来ないのか?」
「まだ見てる途中だと言っただろ?」
バビロニア王朝が生まれるところである。
シャンバラという浮遊大陸が現れるのも、この後の出来事である。
そう考えれば、まだシャンバラについては何も分かっていないのも当然だった。
「これから出るかも知れないな」
「興味あるな…」
「そうだな
浮遊大陸って言うぐらいだ
地面が浮いているんだろうな
どんな原理で…」
「お?
場面が変わるぞ?」
ギルバートの言葉で、アーネストも慌てて映像を見始める。
映像は戴冠式を終えた、先ほどの英雄王の姿を映していた。
まだまだ続きます。
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