第592話
ギルバート達は、ファクトリーらしき施設の中で野営をしていた
この中は温度は一定で、焚火をしても煙は何処かへ流れ出て行った
それで快適だったので、食事を作った後は焚火は消されていた
中は魔道具のランタンの灯りもあるので、焚火が無くても問題無かったのだ
アーネストは食事以外では、機械の前に座り続けていた
そんなに熱心に、調べる事柄も無いだろうとギルバートは思っていた
しかしアーネストは、その後も熱心に見続けていた
そして気が付くと、昼間に見ていたのとは違うディスクを再生していた
「…ですから気にせずに封印を…」
「…かしそれでは!」
「…せん、これで救われるのなら」
アーネストの方から微かに声が聞こえる。
ギルバートはその声が気になり、アーネストが見ている映像を見に向かった。
「何を見ているんだ?」
「興味が無いんじゃ無かったか?」
「それは文字ばかりで頭痛がするから…
じゃ無くて
さっきのとは違うよな」
「ああ」
「他にもあったのか?」
「そうだ
これは過去の英雄や勇者の記録だ」
「へえ…
活躍の記録か?」
「うーん…
どうだろう?」
「ん?」
「どちらかと言うと、日常の風景を女神が記録していたみたいな?」
「へえ…
それじゃあカイザートの知られざる一面が見られるとか?」
英雄と聞いて思い浮かべるのは、先ずは初代皇帝カイザートだろう。
しかしアーネストは、予想外の人物の名前を挙げた。
それはギルバートの知らない、嘗ての英雄の名前だった。
「違うな
これは二代目の勇者
女神と初めて戦ったイチロという名の勇者だ」
「誰だ?」
「もう記録も残されていないな
しかし女神に真っ向から反抗した、数少ない勇者の一人だ」
「へえ…」
「名前だけならお前も聞いていた筈なんだが?」
「そうなのか?」
「ああ」
そこは何処かの居城らしくて、若い男と数人の少女が映されていた。
「何者なんだ?」
「そうだな…
女神にこの世界に呼ばれた、異界の戦士らしい」
「異界?」
「ああ
この世界以外の…」
「待て!
この世界以外って…
他にもここみたいな世界が…」
「あるだろ?
さっきの映像を忘れたのか?」
「まさか?」
「そうだ
恐らくはここ以外の…
他の女神の作った世界だろう」
「そんな物が存在するのか?」
「みたいだな
少なくとも、打ち上げに成功したシャトルは108はあったそうだ
その内のどれぐらいが成功したかは分からないんだが…」
「そんなに女神が居るのか…」
「全ての女神が成功しているとは、限らんだろうがな…」
アーネストは何度も映像を見て、打ち上げたシャトルの記録も確認していた。
そこには少なくとも、この映像が撮られた時点で用意されたシャトルの数が記されていた。
この世界の女神は初期のシャトルで、打ち上げられた時期も早かった様だった。
もしかしたら、その後にも追加が用意されていたかも知れない。
「あくまでもこの記録に残された物だからな
もっと増えているかも知れないぞ」
「え?
もっと増えてるって…
女神がそんなに居るのか?」
「あくまでも女神というのはその存在の名前らしいからな
オレやお前が人間と呼ばれるのと同じと思えば良い」
「女神って神じゃ無いのか?
それに…
そんなに沢山の世界が存在するのか?」
「あくまでこの世界を創ったって意味だからな
まあ、実質神様みたいな物なんだろう
しかし…
どのぐらいの数の世界が在るかは…」
アーネストの説明では、あの映像に出ていた物が少なくとも108は飛んで行ったらしい。
それの全てが女神として、世界を創ったとは限らない。
しかし少なくとも、二つ以上は世界を創造していたと考えられる。
そうで無ければその内の一つから、この世界に勇者が渡って来る事は無かっただろう。
「その勇者ってどうなったんだ?」
「それを見ているんだよ
今は勇者が、女神に逆らおうとしているところだ」
「女神に逆らうか…
オレ達の前にも居たんだな…」
「ああ
女神はこの時に、一部の者を残して人間を滅ぼそうとしていた」
「一部か…
全ての人間じゃあ無いんだな」
「ああ
選民思想に囚われた人間だけを、国ごと滅ぼそうとしたらしい
それで魔物と勇者を呼び出して、人間の国を滅ぼそうとしたんだ」
「え?
その勇者は魔物と共に戦ったのか?」
「そうだ
正確に言えば、人間以外の種族と協力してな」
勇者イチロという人物は、獣人やエルフ達も率いていた。
そして彼等を差別していた人間達を、滅ぼす様に女神に指示されていた。
しかしその途中で、彼は人間も生きる資格があると言い出した。
結局その事が原因で、彼は女神と対峙する事になっていた。
「…確かにあなたの言う通りです
人間は救い様が無いのでしょうね」
「ならば何故?
あなたはそこに立っているのです?」
「オレも人間だからです」
その映像の中で、イチロと呼ばれる青年は大人に育っていた。
そして人間達の前に立って、魔物や魔王と戦っていた。
そうする間に、他の種族達は勇者の元から去って行った。
彼の周りに残されたのは、僅かな供回りだけだった。
「こんな事は間違っている」
「そうかも知れませんね
ですが私は女神として、この世界を導く必要があるのです」
「何であなたがそんな苦しみを…背負う必要があるんです」
「仕方が無いのよ
私が女神なのだから…」
女神は哀しそうに俯くと、魔王達に指示を出す。
「者共!
勇者イチロとその仲間を、全て討ち取りなさい!」
「よろしいのですか?」
「これが最期の機会ですよ?」
「構いません
私も覚悟を決めました」
女神の指示に従って、魔王達が魔物の軍勢を進める。
それは巨人の軍勢や、ドラゴンの群れで構成されている。
それ以外にも、見た事も無い大きな魔獣の姿も見えていた。
それらがゆっくりと、人間の軍勢に向かって行く。
「何て数だ…
これが本気の女神の軍勢か?」
「しっ
ここからが重要なんだ」
人間達は魔法を使って、次々と魔物を打ち倒す。
巨人に雷を落とし、魔獣の群れに巨岩や吹雪をぶつける。
しかしその数は多く、次第に押されて行く。
如何に優れた魔法を持ってしても、数の力は脅威だった。
そして勇者とその仲間達は、ドラゴンの群れと戦っていた。
それは互角な戦いで、彼等は人間達を助けに向かう事も出来なかった。
そして次第に、彼等もドラゴンの群れに押され始める。
人間の軍が瓦解したところで、彼等も戦場から逃げ出すしか無かった。
「負けたのか?」
「正確には、機を見て撤退したと言う方が正しいな」
「え?
しかし勝てなかったんだろう?」
「まあ、静かに見てろ」
アーネストは意味深な態度で、映像の方を指差す。
そこには場面が変わって、人間の軍勢がドラゴンの群れを倒していた。
どうやら撤退と見せて、ドラゴンの群れを狭い場所に誘い込んでいたのだ。
そこでは人間達が、集団でドラゴンを囲んで戦っていた。
「このドラゴンって、オレが倒した魔獣だよな?」
「そうだ
あれの成獣を倒しているんだ
参考になるだろ?」
「そうだな…」
人間で倒せるという事なら、騎兵達でも勝ち目があるという事だ。
苦戦していたギルバートとしては、複雑な心境だった。
アーネストはこの戦いを参考にして、今後ドラゴンに遭遇した時の事を考えているのだろう。
兵士達はミスリルの鎧に身を固めて、魔法でブレスを防いでいた。
その様子を見て、アーネストは唸り声を上げる。
「ううむ…」
「どうした?」
「どうやらブレスは、魔法でどうにか出来るみたいだ」
「あの時もそうだっただろう?」
「それはそうなんだが…
あれは精霊魔法なんだ
これは普通の魔法なんだよ」
「どう違うんだ?」
「それが知りたくて、こうして見てるんじゃないか」
どうやらアーネストは、この戦いの結果を知っているらしい。
そして人間の軍が、ドラゴンの群れを倒す事も知っている様だった。
だからドラゴンの倒し方を、こうして見て研究しているのだ。
しかし肝心の、ドラゴンのブレスを防ぐ魔法が分からなかった。
「ううん…
どんな魔法を使っているんだ?」
「それが知りたかったのか?」
「ああ
この戦いの結果は知っているんだ」
「そうなのか?」
「ああ
ここでは人間の軍が、魔物を打ち破るんだ」
「へえ…
ん?
それじゃあ…」
「でも、ここまでなんだ」
「え?」
人間がドラゴンを倒して、再び人間の国に平和が訪れる。
それで終わりなら良かったのだ。
しかしここで、勇者は国を追われる事になる。
人間は勇者を敵とみなし、他の種族の隷属を求めた。
「お前は化け物との共存を望むのか?」
「こいつは魔物の仲間だ!」
「魔物は我々、人間に従うべきだ」
「こいつが居ては、我らの世界が滅ぼされるぞ」
「そうだ!
女神のお怒りも、こいつのせいだ!」
「何を言ってるんだ?
こいつ等は馬鹿なのか?」
「うるさいなあ
黙れよ」
「しかしこいつ等…」
「今も昔も変わらないだろう?
選民思想の考え方は、変わらないんだ」
「しかし…」
「うるさい!
お前の方が馬鹿だろうが!」
アーネストに叱られて、ギルバートは黙って見る事にした。
しかし人間達の横暴ぶりには、怒りを堪えながら見ていた。
人間達は勇者を追いやって、さらに獣人や亜人の国を襲い始める。
彼等は人間から逃げて、女神の神殿へと逃げ込んで行く。
「これが…」
「そうだ
これから向かう、女神の神殿だ」
それは大理石で築かれた、白く荘厳な建造物だった。
まるで城か宮殿の様な建物は、多くの種族が逃げ込む避難所となっていた。
元々がそれを想定していたのか、中には多くの者が住める様になっている。
そこで様々な種族が、共同で生活をしていた。
「だから言ったのです
人間は害悪だと」
「それなら何故、あなたは人間を作られたのです?」
「それは…」
「人間に期待していたんでしょう?
オレ達の神と同じだ」
「そうではありません
しかし…」
「少しは期待してたんでしょ?」
「ですから私達をイチロ様に…」
「そうね
でも、それも過ちだった…」
「ん?
この女の人達は?」
「ああ
勇者の奥さん達だ」
「へえ…
え?
奥さん達?」
「ああ
各種族を代表して、勇者との婚姻を結んだんだ」
「それって各種族との結び付きを強める為とか?」
「だろうな
種族の代表が結婚する事で、仲違いをしない様にしたんだろう
しかしそれでも…」
「戦争は起こった?」
「ああ
人間も悪いが、各種族も互いを認められなかったんだろうな…」
映像の中で、各種族が戦争に関して議論をしている。
大体が人間の我儘を罵っているが、中には他種族を貶す発言も含まれている。
ここに来て、仲間内で争うのは悪手でしか無かった。
しかし今まで溜まっていた不満が爆発して、仲間内で掴み合いも発生していた。
「争っている場合では無いの」
「そうですよ
ここは協力して…」
「うるせえ!
そもそも勇者が、人間に手を貸さなければ…」
「そうしなければ、人間は滅んでいたでしょう?」
「あなた達もそれは納得していたでしょう?」
「だから人間が戦っている時、何も手出しはしないって…」
「それが間違いだったんだ!」
他の亜人や獣人達は、人間が魔物と戦っている時に傍観していた。
人間側は、それが我慢ならなかった。
それで魔物を退けた今、他の種族に責任を追及していた。
それが拗れたからこそ、こうして戦争が続いていた。
彼等が人間と並んでいたら、状況は違っていたかも知れない。
しかしそれも、今さら後の祭りだった。
「それでどうするのです?
まだ人間に味方をしますか?」
「それは出来ません
オレはあくまでも、全ての種族に平等に接したいんだ」
「そんな我儘が通るとでも?」
「そうだ!」
「勇者は責任を取れ!」
「人間をどうにかしろ!」
各種族達から、今度は勇者を糾弾する声が上がる。
勇者の周りでは、彼の奥さんである種族の代表が困惑した表情を浮かべる。
彼等は人間だけでは無く、勇者も滅ぼすべきだと叫んでいた。
そしてそれを制する様に、勇者は手を挙げて宣言する。
「それではオレが、ここで人間の軍勢と戦う」
「無茶です!」
「イチロ様!
そんな事は認めませんよ」
「考え直してくれ」
「私達も戦いますよ!」
「しかしそれでは…
子供達はどうする?」
「子供達は…」
彼女達は女神の方を見て、覚悟を決めた様に頷く。
「女神様」
「良いのじゃな?」
「はい」
「お願いします」
「な!
そんな事は!」
「良いんです」
「予め分かっていた事です」
「そうですよ
こうなる事は分かっていました」
勇者とその妻達を残して、女神は神殿の奥へと下がる。
その時にその妻達から、女神に小さな包みが手渡されていた。
「これは?」
「勇者の最期の戦いだ」
「え?」
「これから勇者は、人間の軍勢を5日間防ぎ切るんだ」
「それって…」
「ああ
最後は死んだ事になっている…」
場面は変わって、神殿の中の様子が映されていた。
激しい爆音が鳴り響き、外で壮絶な戦いが繰り広げられている事が想像出来る。
そして女神は、七つの包みを抱いて祈っていた。
それは勇者と、各種族との間に産まれた子供達であった。
「そんな…
どうなったんだ?」
「分からない
映像に記録されていないのか…
女神が意図して記録を隠しているのか…
どちらにしろ記録が無いんだ」
「肝心なところが?」
「そうだ
だから…」
場面は再び変わり、女神が各種族に糾弾される場面に変わっていた。
「何で勇者を見捨てたんです?」
「イチロ様は我々を…」
「黙れ!
その勇者を人間達の前に、差し出したのは誰だ!」
「そうだぞ!
あの時別の選択をしていれば…」
女神の脇に立った男達が、女神を庇う様に立ちはだかる。
彼等は威圧する様に、獣人や亜人達を睥睨する。
「彼等がこの当時の、魔王と呼ばれていた者達だ」
「女神の使徒か?」
「ああ
勇者を鍛え、勇者と共に戦って来た者達だ
だから彼等は…」
「イチロは死んだ
お前達によって、人間に差し出されてな」
「人間達の多くを道連れにしてな」
「満足だろう?
お前達の思惑通りになったんだ」
「これで女神様の寵愛は、お前達に向くわけだな」
「勇者が死んで嬉しいだろう?」
魔王達はそう言って、獣人や亜人達を睨み付ける。
彼等は疚しかったのか、必死に声を上げて反論していた。
それはこんな結果を望んでいなかったとか、勇者が原因だという物だった。
そして不満は、残された子供達にも向けられていた。
「どうするんだ?」
「勇者の遺した子供だと?」
「そんな呪われた子なんぞ…」
彼等はそう言って、その子供達の引き取りを拒否した。
そうして女神は、哀しそうに子供達を抱いて奥へと向かって行った。
これが最初の、女神が眠りに着いた瞬間だった。
まだまだ続きます。
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