第590話
ギルバート達は、ファクトリーらしき施設の中を探索していた
そして遂に、ディスクを使える機械らしき物を見付ける
そしてアーネストがディスクを入れると、機械は動き始める
しかしそれは、謎の文字を映し出していた
Readingという文字が出て、棒の様な物が色を変えて行く
そして全ての色が変わったところで、再び文字が浮かび上がる
それから壁面には、何かの文字が映し出される
暫く待つと文字は消えて、代わりに音と絵が浮かび上がっていた
「何だ?
これは?」
「音と文字?」
「いや、まだ何か映し出されるぞ?」
「宙に絵が映し出される
これがディスクとやらの情報という物か?」
「みたいだな…」
「しっ!
何か聞こえる」
それは空中に、何かの絵を浮かび上がらせていた。
音はどうやら、その絵と共に流されている様子だった。
しかし肝心の絵が、彼等には理解出来なかった。
それは何か、世界の一部を切り取った様な精巧な絵だった。
不意に音がハッキリと聞こえ、何者かが喋っていると気付く。
そして絵は、星空を描いた物に変わっていた。
星歴2514年
我々は二つの勢力に別れていた…
「何だ?」
「しいっ
よく聞くんだ
これに何の意味があるのか」
アーネストは小声で注意して、聞こえて来る声に耳を傾ける。
二つの勢力は、互いのマザーコンピューターに従って生きていた
国は西と東に別れて、ちょうど大陸で二分されていた…
それは精巧な絵を映し出し、何処かの国の説明を始める。
そこには人間が映し出されて、金属で出来た人間と共存していた。
どうやらそれは一方の国の様子で、その国の生活を映し出していた。
私達はマザーコンピューターに従い、日々の労働を行っていた
それは機械に管理された、理想の生活だった
統制の取れた国民に、秩序ある生活
我々は遂に、理想郷を手に入れていた
いや、理想郷だと信じようとしていた
それが過ちの始まりだと気付かずに…
「何だこれ?
何処かの国なのか?」
「しいっ
聞こえないだろう」
「でも、アーネスト…」
「良いから黙ってろ」
ちょうど声が一旦停まって、ギルバートは感想を述べる。
しかしアーネストは、集中してその映像を眺めていた。
東の合衆国は、我が帝国を疑っていた
それはそうだろう
彼の国とはこれまでも、何度も思想や経済問題で対立して来た
しかしそれも、過去の些細な行き違いだと思っていた
彼の国もマザーコンピューターを設置して、同じ様な暮らしを始めたからだ
これからは機械が管理した、理想的な世界になる
私達はそう信じて、全てを手放していた
そう、全てを…
生きる為に必要な、感情や思考までも手放したのだ
それが争いの元凶だと、そう信じていたから…
言葉が流れる様に聞こえる中で、世界の情景が映し出される。
機械人間に支配された、統一された世界が映し出される。
そこでは争いは無く、人々は機械を整備して、日々の暮らしを行っていた。
そこには喜びも悲しみも無く、ただ淡々と日々を過ごしている。
そんな世界が映し出されていた。
世界は光に溢れて、人々は誰一人食事に困っていない。
機械人間が街を見回り、人間がその機械人間に奉仕する。
そんな世界の情景が、暫く映し出されていた。
「何なんだ?
これは?」
「静かにしろよ」
「しかし…
これは異常だろ?
あんな人間が生きる世界が…」
「しっ!」
再び映像が変わって、声が聞こえ始めた。
最初は些細な事だった
この世界に疑問を持ち、反抗する者は少なからず居た
何処の世界にも居るものだ
世界の理に反して、自身の思想を誇示する者達は…
映像には機械人間に対して、反抗する者達が映し出される。
彼等は金属を見に纏い、光や金属を飛ばして戦っていた。
しかし一人、また一人と機械人間に捕まって行く。
そうしてその姿は、映像の中から消えて行った。
彼等がどうなったのか?
我々は興味が無かった
いや、既に生きて行く事にすら、興味を失っていたのだ
だからかれらこそが、最期の人間だとは気が付かなかった
我々はこの時、全てを失っていたのかも知れない…
映像は変わって、地上から上へと上がって行く。
そして星の海に出たところで、世界が小さな土の玉だと分からされた。
今見ていた世界は、星の海に浮かぶ小さな泥団子だったのだ。
それを見て、ギルバートやマクツースは口を開けて驚いていた。
いや、正確にはアーネスト以外の、その場に居た全員が驚いていただろう。
世界は再び、平和という静寂をもたらされていた
そこには反抗する者も無く、ただ盲目的に従うだけだった
我々は従う事で、幸せになっていると錯覚していた
再び映し出される日々。
何も無い日常。
それは本当に何も無くて、毎日淡々と繰り返される日々。
機械人間に従って動き、機械人間を整備する日々。
それ以外には何も無かった。
「何だよこれ…
これじゃあまるで…」
「言うな!
分かっている」
「しかし…」
「これが本来、女神が望んでいた世界なのかもな」
「そんな…」
再び情景が変わっていた。
しかしそこには、何か異質な物が映されていた。
それはあり得ない、ほんの小さな綻びだった
しかし彼等にとっては、あってはならない物であった
生産能力は十分にあった
機械も予定通り動いている筈だった
それを整備する者も、整備する機材にも、何の不都合も無かった筈だった
言葉と共に、映像は何かの数字とそれを現わす絵に変わっていた。
ギルバート達には馴染みが無かったが、それはグラフで収支を示していた。
そして予定の数値と、結果の数値に僅かの差が出ていた。
それこそがあり得ない事だったのだ。
彼等は計算を始めた
そして責任者を処分する
言葉と共に、数人の人間が機械人間に連れて行かれる。
しかし彼等は、逆らう事も無く連れて行かれた。
そう、彼等にはその感情すら無かったのだ。
そうして感情を手放す事で、彼等はあたかも機械の部品の様に生きていたのだ。
それで全てを委ねて、従う事で生きていたのだ。
しかし彼等は考えた
どうやっても計算が合わないのだ
そうして出した答えに、歪みが生じた
再び数字とグラフが映し出される。
そこには数値のズレが、僅かながらに出ている。
その数値のズレを、横線が引かれて消される。
そしてその上に、enemiという文字とattackという文字が書き込まれる。
彼等は無かった事にする為に、偽りの結果を上書きにした
これが最初の、彼等の過ちだった
「何だ?
どういう意味なんだ?」
「数値のズレを、何者かの仕業にしたんだ
自分達が間違える筈が無いとな」
「はあ?
それって…」
「ああ
嘘を吐かない筈の者が吐いた、最初の嘘だったんだろう」
「いや、バレるだろう?」
「何でだ?
彼等は全て、この存在に従って生きていたんだ
だからどんな嘘も、真実として受け入れるしか無いんだ
選民思想者みたいにな」
「あ…」
それは正に、正鵠を射ていた。
機械に支配された者達は、機械の嘘を真実だと信じていた。
だからこそ、それから嘘が繰り返される事になる。
彼等は辻褄を合わせる為に、更なる嘘を繰り返す
やがてそれが、取り返しの付かない事になるとしても
嘘を繰り返してでも、真実にするしか無かった…
「馬鹿な!
そんな事をすれば…」
「ああ
やがては破綻するだろう
それでもこの機械って奴等は…」
「誤魔化せなかったんじゃろうな…」
「そんな…」
彼等は東の合衆国が、攻撃して来た事にした
そうしてデータに狂いが生じて、数値にズレが出た事にした
そこからは早かった
彼等は合衆国に対して、宣戦布告を行った
我々はそれを信じて、二国に別れて戦った
それは果てしなき戦いへの、第一歩だった
映像は俄かに切り替わり、機械人間が武装して行く。
そうして武装した機械人間が、次々と生み出されて行った。
機械人間は戦い、互いを壊しながら進んで行く。
もう、戦争は止められなかった。
「何だよ
何だって嘘を吐いてまで…」
「誤魔化すしか無かったんだろう?
間違いの起こる筈無い者が、間違いを犯した
それを誤魔化すしか無かったんだ」
「だからと言って…」
「そうだな
人間なら兎も角…」
彼等は間違いを犯さない、機械という存在だった。
しかし間違いを犯した為、それを他者に擦り付けるしか無かった。
だがそれは、まるで人間の様な行いだった。
人間こそ間違いを犯し、誤魔化そうとする者だから。
戦争は激しさを増し、少しずつだが本土にも影響が出て来る
そして狂った数値を正す為に、彼等は嘘を重ね続けた
それが悪化する事を分かっていながら
再び数値が並び、そこに線が引かれて行く。
そうしてenemiや、attackという文字が書き加えられる。
そんな事をしても、無駄な事なのに。
数字のズレは、戦いで益々大きくなる。
それを正す為に、さらに戦いは大きくなっていった。
「何だこれ…
何なんだよ?」
「ふむ
これは何処かの世界なんだろうな」
「え?
だってダーナや帝国も…」
「違うだろ?
もしこれが、このアースシーの事なら
今居る世界にこんな物が存在する事になるぞ」
「え?
でも…」
確かにギルバートの言う通り、映像に出る世界はこの世界に似ていた。
土の玉に映された地面の形も、確かに地図の形に酷似していた。
しかしこの世界には、あんな機械人間などは存在しない。
マザーコンピューターという存在も、見た事も聞いた事も無かった。
「それじゃあ、この世界は何なんだ?」
「分からない
分からないが…」
アーネストには、何となく確信があった。
それは精霊達が、女神について話していた言葉に関してだ。
アーネストはそれを聞いた時から、何となく確信していた。
「とは言え、まだ続きがあるぞ」
「まだ終わらないのか?」
「ああ
あそこの数字があるだろ?
恐らくあれが時間を現わしている」
「え?
それじゃあもう2時間ぐらい?」
「ああ
だからまだ、半分も終わっていないだろう」
そこには数字が示されていて、少しずつ数字が増えて来る。
その横にも数字が並んでいて、そこに全体の時間と思われる数字が出ていた。
それと見比べると、まだ半分ぐらいしか映されていない。
そして恐らく、もう2時間以上は掛かりそうだった。
「はあ…」
「しっ」
彼等は戦いを優勢にする為に、禁じられた兵器を作り始めた
それは彼等だけでなく、我々も破壊する兵器だった
星の寿命を縮めて、世界を破壊する兵器だった
やがて我々は、部隊を宇宙へと移す事になる
大量破壊兵器が、地上を破壊してしまったからだ
地上に金属の鳥が飛び回り、金属の管を振り撒いて行く。
その直後に地面が燃え上がり、地上は地獄絵図に変わって行く。
それは地面の上だけでは無く、やがて海上や空にまで広がって行く。
空や海の上まで、燃え盛る炎に埋め尽くされて行った。
空は焼け焦げた臭いに覆われ、海はその姿を変えて行く
死んだ生き物が無数に浮かび、腐った悪臭が地上にまで広がった
こうまでしてようやく、人間は異常に気が付き始めた
しかし既に、全てが遅かった
映像は地上や海を現わす、線の様な模様で映し出される。
そこに光が明滅しては、その線が歪に形を変えて行った。
それはその世界の、形が大きく崩れる様を現わしていた。
そうして海が失われて行き、地上の形もすっかりと変わっていた。
「これが…
この世界の戦いなのか?」
「そうだな
恐ろしい力だ
魔導兵器の力が玩具に見えて来るな」
魔導兵器ですら、地面を焼いて穴を開けた程度だ。
それに比べれば、ここに映された兵器はどれも異常だった。
最初こそはただ地面を焼くだけだったのに、途中からは海のうえも焼いていた。
そして都市だけでは無く、地上の形まで変えてしまっていた。
そんな兵器が当たり前の様に使われたのだ。
当然地上に残っていた、人間や機械人間は絶滅していた。
いや、その世界に生きていた、生き物達は全て滅びていただろう。
宇宙に逃げた者達を除いて。
こうして我々は、母なる大地を失ってしまった
考える事を止めた時、我々は滅びに向かっていたのだろう
そしてそれに気付けないほど、我々は愚かになっていたのだ
その結果が、こうして世界の終わりに向かう事になろうとは
この時に、真剣に考えるべきだったのだ
映像には、大地の上に浮かぶ金属の塊が映される
それが拡大されると、そこに人間や機械人間が入っているのが見える。
しかし彼等は、そこでも争いを止めていなかった。
いや、今度はその中ででも争い始めていた。
僅かに残った資源を巡って、我々は同族間でも争い始めた
こうなってしまったのは、我々も共和国だったからだろう
向こうの合衆国でも、互いの利権を求めて争いが始まっていた
そしてそれは、星の船の上だけでは無かった
別の船を襲って、利権得ようとする者まで現れた
そんな事をすれば、全てが終わるとも考えずに…
映像は金属の塊の中で、激しく争う人間や機械人間を映し出す。
互いに殺し合い、何かを奪い合っていた。
そうして僅かに残った者達が、今度は他の金属の塊に向かって行く。
金属の塊同士がぶつかり、激しい爆発を起こしながら燃え上がる。
そうしてお互いに、燃えながら炎の海へと落ちて行った。
そうした醜い争いが、何度か映像に流されて行った。
折角生き延びたのに、人間は再び争いを起こしたのだ。
そして最後には、誰かを道連れにして死んで行く。
それは何とも醜い姿だった。
ギルバート達は息を飲んで、その光景に見入っていた。
目を逸らせようとしても、出来なかったのだ。
それほど恐ろしく、凄惨な光景が暫く続いた。
そうして大地と海の火が消える頃には、星の船は僅かな数になっていた。
まだまだ続きます。
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