第59話
ギルバートの誕生日を祝うパーティー
その祝賀ムードを嘲笑うかの様に、魔物の群れが襲い掛かって来た
その魔物達は、嘗て無い規模で侵攻して来て、ダーナの街は危機を迎えていた
ギルバートはアルベルトとアーネストと共に領主邸宅を出て、守備隊の宿舎に向かった
宿舎に向けて街中を走る内に、東の城門から大きな音がして兵士が駆けて行くのが見えた
ギルバートは兵士の一人を捕まえると、状況を聞こうとした。
「すまない
君は東の城門に向かっているのか?」
「はい」
「戦闘は東の城門で起こっているのか?」
「そうです
既に騎士団も出ています」
「分かった
ありがとう」
兵士は礼をすると、慌てて城門に向かった。
「どうしますか?」
「うむ
騎士団も出ているなら、既に討伐しているのでは?」
「魔物は大型のもいるらしいです
兎に角城門に行きましょう」
三人は行き先を変更して、東の城門に向かった。
城門の前の広場に到着すると、既に魔物は城門に取り付いており、城門は魔物の攻撃で軋んでいた。
アーネストは駆け出し、城門の上に身を乗り出した。
そこには3mにも達する大型の魔物が多数居て、城門に攻撃を加えていた。
城門の外では、騎士団がコボルトの群れに突撃を仕掛け、混戦していた。
その周りでは、オークが大きな棍棒を振り回し、歩兵が必死に抵抗していた。
「うわあ…
これはマズい」
アーネストはすぐに杖を取り出し、眼前に構える。
「我、大いなる盟約に於いて、汝に乞う
火の聖霊よ、我が声が聞こえるなら、汝が力を行使し、我が望みを果たしたまえ
大いなる火よ、敵を焼き尽くせ
フレイムウオール」
高位の魔法なので、アーネストは詠唱をして魔法を行使する。
魔物の攻撃で、城壁の一部が破壊され、崩れ掛けた場所も出て来た。
揺れる城壁にバランスを崩しそうになりながら、アーネストは必死に呪文を完成させた。
振るわれた杖に沿って、城壁の周りに火の壁が出現する。
「ぐ、ぐうう…」
大きな魔法の行使は、アーネストでも多大な魔力を消費する。
アーネストの魔力でも、魔法の効果は30秒程度しか続かなかった。
それでも、城壁を攻撃していた魔物は火に巻かれ、その周辺の魔物も巻き込んだ。
「く、はあはあ…」
「アーネスト
大丈夫か?」
アーネストが肩で息をしているのを見て、ギルバートが心配して駆け付ける。
ふらつくアーネストを支え、ギルバートは城壁の外を見る。
今の魔法の効果で、8匹の大型の魔物が炎を上げてのたうち回る。
これで城門を攻撃していた魔物は居なくなった。
しかし公道の先には、同じ魔物が20匹ほどこちらに向かって来ていた。
「くっ
大丈夫だ、単なる魔力切れだ
休めば回復する」
「しかし、そんな強力な魔法が必要なのか?」
「ああ
こいつは、Fランクの魔物、トロールだ
火には弱いが、お前が思うよりもタフだ」
「Fランク
では、オークよりも…」
「当然強いし、なかなか死なない
おまけに力や大きさもデカい」
確かに、2m程度のオークに比べれば、3mを超える様なトロールは脅威だろう。
しかし、そいつはまだまだ向かって来る。
「アルベルト様!
油と火の用意をしてください
それと、魔術師ギルドに応援を」
「分かった
至急手配する」
アルベルトは近くに居た兵士を呼び、手早く指示を出す。
その間も、魔物が近付く音がして、その巨体が迫る地響きが伝わる。
「おい…
どうする?」
「すまない
次を撃つには魔力が足りない
2…3分時間をくれ」
「分かった、3分だな」
ギルバートは叫ぶ様に返事をして、城壁の向こうへ飛び降りる。
「あ!
おい!ギルバート!」
アルベルトはそれに気付き、慌てて城壁に向かう。
しかし、アーネストがポーションを飲みながら立ちはだかる。
「行かせてやってください」
「ふざけるな!
どういうつもりだ!」
「どういうもこういうもない!
時間が無いんです
魔物が来るのに、間に合わないんです」
「だからと言って、ギルが…」
「今ここが破られたら、ギルだけでは無い
この街そのものが無くなるんです!」
「な…」
アーネストは魔力回復ポーションを飲み干したが、効果が出るまでまだ時間が掛かる。
ふらつく足で立つと、城壁から向こう、公道の先を指差す。
「アレを見てください
トロールの増援とオーガが来ます」
「そんな!」
「騎士団は、もう少しでコボルトを打ち破れるでしょう
しかし、それからでは間に合いません」
「だが、お前でもこの数では…」
「ですから、その為の油と火です
それに…魔術師達が来れば、少しは立て直せるでしょう」
「むう…」
「兎に角、今はここを守らなければ」
「分かった…」
アルベルトは振り返ると、急いで城壁を下りて指揮へ戻る。
それを見ながら、アーネストは再び呪文を詠唱し始める。
アーネストの下では、ギルバートが2匹目のトロールを倒していた。
「うりゃあああ…
ブレイザー!」
ズバババ…ズバシュ!
走り込んでから跳躍し、胸から袈裟懸けに切り裂く。
一旦足元まで切り裂き、そこから切り返しながら跳躍する。
大きなV字の軌跡が描かれ、トロールは倒れる。
いくらトロールがタフでも、肩と足を切り裂かれては立っていられないだろう。
「ふう…
次だ!」
ギルバートは3匹目に向けて走り出す。
2匹目の仲間のやられ方を見ていたので、トロールは跳躍を警戒して身構える。
ウガアアア
「甘い!
スラーッシュ」
ザシューッ!
ギルバートは踏み込みながらスキルを発動し、そのまま滑る様に切り裂きながら抜ける。
左に構えた剣が、トロールの右足を膝から切り裂いて落とす。
右足を失ったトロールが倒れ、低くなった頭目掛けてギルバートが飛ぶ。
「うおおおお!
バスター!」
ザン!
大きく振りかぶった剣が、弧を描くように首を切り落とす。
跳躍から叩き付ける様に剣を振り下ろす、スキルのバスターだ。
最初の1匹目も、城壁からこの技で脳天から真っ二つにされている。
流石に、連続のスキルでギルバートも肩で息をする。
そこへアーネストが声を掛ける。
「ギル!
準備が出来た!
下がれ!」
見上げると、杖を構えたアーネストの周りに、大きな火の玉が5つ浮いていた。
「おう!」
ギルバートは城壁に向かって駆け出す。
その後方に、仲間の仇を討とうと10匹のトロールが迫る。
そのトロールに向けて、アーネストが杖を振るう。
「喰らええ!
ファイヤーボール!」
ドゴーン!
アーネストの叫びに合わせて、5つの火の玉が次々と放たれる。
爆音を轟かし、着弾した火の玉が弾ける。
その弾けた火が周りの魔物も巻き込み、大きな火柱を上げる。
ドゴーン!
グガアア
ガアアア
ドゴーン!
グオオオ
魔物の断末魔が響き、爆音が容赦なく悲鳴をかき消す。
「よし、はあはあ
上手く、いったぞ、はあはあ」
「そうだな!
っと」
座り込んだアーネストの隣に、ギルバートが跳躍して城壁を登って来る。
「ふう
疲れた…」
ギルバートも息が上がっていて、アーネストの隣に寝転がる。
「お疲れさん
助かったよ」
「そっちもな
これで少しは警戒…」
ギルバートが顔を上げて戦場を見るが、残りの数匹のトロールは、仲間の死体を蹴飛ばして道を作り、そのまま城壁に向かって来る。
「うそ…だろ?」
「おいおい、勘弁してくれよ…」
騎士団の方を見るが、こちらはコボルトが逃げ出し、代わりにオーガが迫っていた。
歩兵はまだ、オークと交戦していて、こちらも戦況は思わしくない。
「マズいな…」
城壁の中を見ると、アルベルトが手配した油が運ばれているが、魔術師はまだ到着していない。
「トロールは、油と火で何とかするしかない
問題は…」
「向こうのオーガか」
「ああ」
騎士団が号令に従い、オーガの群れに突撃を掛ける。
新たに発見されたスキルのチャージがあるが、これは長柄の武器で馬と共に突撃する技だ。
武器の先端を蒼い光が覆い、攻撃力と範囲が上がる必殺の技だ。
しかし、これでもオーガには効果が低い様で、突進中に数機が落とされていた。
「くっ
騎士団は一度退かないと、このままでは全滅するぞ」
「しかし、騎士が退いては城門が守れないだろう
ここは将軍を信じるしかない」
アルベルトが城壁に上がって来て、兵士に油を撒く準備をさせる。
「それで
アーネスト、ここから撒けば良いのか?」
「はい
ただ、どうせなら引き付けてから撒きましょう
魔物に掛けてから燃やした方が効果的です」
「しかし、それでは危険ではないか?
もし城壁が破られたら、魔物が中に雪崩れ込むぞ」
「そうなんですよね
それで魔術師達の協力が欲しかったんですが…」
「魔術師達なら、あそこに見えるぞ」
遥か遠方、街の中心部辺りを走る姿が見える。
しかし、体力の無い魔術師では、ここまでまだ数分は掛かるだろう。
「それでは待てないんですよ…」
「困ったな
魔物はすぐそこだぞ」
もう1分も経たずに、魔物は再び城壁に攻撃を加えるだろう。
しかし、アーネストは魔力が切れている。
例えポーションを飲んでも、続けざまに飲んだらポーションの効果は落ちる。
回復させるには、時間を置くしか無かった。
かと言って、ギルバートが出るのも無理があった。
先ほどはアーネストの魔法で何とかなるという条件があったから、多少の無理が出来た。
これが数分とか無理だし、油と火で燃やすのも危険であった。
ファイヤーボールの爆発と、油で燃やすのでは威力が違うのだ。
「となれば
結局引き付けて油で燃やすしか無いか」
「ええ
それが一番効果的です」
「危険だが止むを得ん
お前達は下へ下がってなさい」
「しかし、何かあっては…」
「何かあった時、お前達が必要なんだ
だから下で待機していなさい
なあに、私もまだまだ戦える」
アルベルトは腰の剣に手をやり、安心させる様に笑った。
それを見せられては、二人は従うしかなかった。
胸騒ぎを覚えつつも、二人は信じて下へ降りた。
「さあ
二人に負けてはおれんぞ
ワシ等も活躍せねばな」
「はい
任せてください」
「ここで良いところ見せて
彼女の両親に会いに行きます」
「お、おう
頑張れよ」
「はい」
アルベルトは士気を上げようとしたが、妙な事聞いてしまった。
ハルが確か言ってたな、兵士が結婚とか言ってると、大体碌な事にならないって
何て言ってたかな?
フラ…フラなんだったっけ?
「アルベルト様、もう目の前です」
「あ、ああ
構えろ」
「はい」
「今だ!」
ゴガア…ア?
バシャーッ!
近付いた魔物に、次々と油が掛けられる。
そして、松明が投げられた。
ボッ!
グガアアアア
ゴアアアア
7匹の魔物に火が付き、苦悶の声を上げてのたうち回る。
しかし、1匹の魔物が棍棒を振り翳して向かって来た。
掛かった油が少なかったのか?
それとも思ったより火が弱かったからか?
魔物は手にした棍棒を振り下ろすと、城壁に叩き付けた。
砕けた城壁の岩が、彼女の両親に会うと言っていた兵士に直撃する。
「ああ!
リック!」
奇しくも、ハルバート国王が言っていた事が起こってしまった。
アルベルトは思わず唖然とし、頭の砕けた兵士を見ていた。
「領主様!
ここは危ないです
早く逃げてください」
「あ、ああ」
アルベルトは慌てて避難する。
その間も、魔物は城壁を激しく叩く。
それは熱さで怒り狂っているかの様に、城壁の壁を叩き崩した。
そして、飛散する城壁の向こうに、アルベルトは魔物の怒り狂った顔を見た。
よくあるフラグが発動して、危機を迎えるアルベルト
そして、城壁も崩されてしまいます
果たして、この危機を乗り切れるのでしょうか
予約掲載をミスしてしまいました
2時に改めて掲載にしました




