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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
584/800

第584話

帝国の兵士達は、その後は一応大人しくなった

頼みの綱の勇者もおかしくなり、すっかり意気消沈していた

何よりも強いと思っていた、勇者が騎兵に押さえられたのが効いていた

それだけ力量に差があると、彼等は見せ付けられたのだ

傷の手当てを受けてから2日目には、兵士達の中にも動ける者は増えていた

自分達で薬草を集めて、仲間の傷を手当てする

それで重傷者も、少なからず持ち直していた

しかし腕や足を失った者も多く、戦うにはまだ不十分だった


「ぐわっ!」

「助けてくれ!」

「大人しく隠れていろ!」

「くそっ

 急に魔獣が増えたな」

ザシュッ!

ギャイン


今日もグレイ・ウルフが現れて、兵士達を襲っていた。

彼等の武器では傷も与えられず、逃げ惑うしか無かった。

騎兵達が見周り、近付くグレイ・ウルフを倒して行く。

しかしここ数日で、その頻度は上がっていた。


「どうやら近くに、グレイ・ウルフの群れが集まっています」

「そうか

 まあ、狼だから何とかなるが…」

「そうですね

 グレイ・ベアだと…」


グレイ・ウルフなら、何とか騎兵でも倒せた。

しかしグレイ・ベアでは、騎兵でも負傷者が出るだろう。

幸いまだ現れていなかったが、このままではいつ現れてもおかしくない。

そう思いながら、ギルバートは騎兵達の報告を聞いていた。


「兵士達はどうだ?」

「まだ動けませんね」

「負傷していない者は100名も居ません」

「軽傷にまで持ち直したのが120名ほどで

 重傷者はまだ300名近く居ます」

「そうか…

 それが治るまでは…」

「ええ

 迂闊には動けないでしょう」

「しかし食料が…」


彼等の野営地は、魔獣に襲われて食料も駄目になっている。

今が春なので、その辺にある野草や木の実も採れる。

しかしそれだけでは、十分な食事にはならない。

肉が欲しいところだが、グレイ・ウルフの肉は硬くて食べられなかった。


「狼の肉が、食べられたら良かったんだが」

「そうですね

 この辺で食べられるのは、アーマード・ライノかウォーター・サーペントぐらいです」

「蜥蜴は兎も角、蛇は水場にしか居ないんだろう?」

「ええ

 それもここ数日は見掛けていません」


帝国兵が近付いた辺りから、ばったりと魔獣は姿を消していた。

それは女神が、兵士達に魔獣を近付けさせない様にしたためだ。

そのせいで、戦いが終わった後も魔獣はグレイ・ウルフぐらいしか現れなかった。

その事が、兵士達の食料不足に拍車を掛けていた。


「肉が無ければ、傷の治りも遅いだろう」

「そうですね

 しかしこの近くとなると…」

「以前にアモンと立ち寄った泉はどうだ?」

「あそこはポイズン・サーヴァントの影響で…」

「毒を流しましたからね

 泉は暫くは使えないかと」

「そうか

 あの毒の影響か…」


少し離れた場所に、小さな泉があった。

しかしそこは、今ではポイズン・サーヴァントが流した毒が残っている。

水で薄まっているが、生き物は近付こうとしないのだ。

そのせいで、余計に魔獣が近寄って来なくなっていた。


「それじゃあその手前の川は?」

「離れ過ぎていますよ」

「あそこに行くには、片道2日ですよ」

「そうか

 その間が手薄になるか」

「それに何か居ても、彼等ではとても…」

「オレ達が狩るしか無いですよ?」

「そこも問題だな…」


ギルバートとしては、なるべく彼等には手助けはしたく無かった。

それは敵対したからでは無く、下手に手助けするのが良く無いと言われたからだ。

アーネストは、ギルバートに手出しするなと念入りに注意していた。

下手に助けると、国に戻るまで面倒を見る必要が出て来るからだ。

今はなるべく距離を取り、最低限の助けだけに留めていた。


「ギル

 またグレイ・ウルフが出たのか?」

「ああ

 仕方が無いよ

 血の匂いが残っているからな」

「だからと言って、いつまでも助ける訳には…」

「分かっている

 分かっているが、しかし…

 目の前で死なれるのもな」

「それもそうだが…」


予想通り、アーネストが来て魔物を倒した事に不満を漏らす。

しかし目の前に居るので、そのまま放置する訳にも行かない。

それに放って置けば、こちらにも向かって来る。

やはり目の前に来たら、倒しておくしか無いのだ。


「それより、武器が欲しいとか言っているのか?」

「ん?

 ああ…」


兵士達は、アーネストに武器を要求して来ていた。

今の武器では魔物に歯が立たず、戦えないからだ。

しかしこちらには、彼等に武器を提供する必要性は無かった。

そもそも、彼等は敵対していたのだから。


「丁重に断っておいたよ」

「おいおい

 武器ぐらい…」

「馬鹿を言うな

 何でくれてやらないといけない?」

「それは魔獣と戦えないから…」

「武器が良くなっても、あれでは戦力にならんだろ?

 お前なら、その辺も分かっているだろ?」

「それはそうなんだが…」


兵士達の中には、武器さえ良ければ戦えると思っている者も居る。

しかし実際の彼等の技量は、王都の衛兵にも劣るだろう。

ここまで来れたのも、魔獣が出なかったからだ。

その辺が分かって無い兵士が、武器を寄越せと騒いでいた。


「あれに渡しても、武器が無駄になるだけだ」

「しかし少しぐらいは…」

「それでまた襲って来たら?」

「その時は倒すさ

 そんな恥知らずの奴等ならな」

「それもそうだが…」


アーネストは、そんな無駄な事はする必要も無いと思っていた。

しかしドワーフ達は、こっそりとグレイ・ウルフの解体をして素材を集めていた。

アーマード・ライノほどでは無いが、それなりの武具が作れる。

それで怪我していない者は、嬉しそうに何かこしらえていた。

彼等は物造りが、死ぬほど好きなのだ。


「ドワーフ達が何か作っているだろ?

 それを渡すぐらいは…」

「はあ…

 あいつ等もそんな事を言っていたな

 作った物が使われないのは悲しいって」

「だったら…」

「だからって何も…」

「それを渡して、早々に立ち去ってもらう

 それならどうだ?」

「むう…」


ギルバートの言う事も、尤もだった。

今より良い武具を渡すから、後は自分達で何とかしろ。

そういう事なら、武具を渡す理由にもなるだろう。

それに、それで立ち去ってくれれば、こちらも出発出来る。


「そうだな

 奴等が居なくなれば、安心してここを離れられる」

「そうだろう?

 あいつ等が再び、ここを襲うとは思えない

 しかし近くに居られては、オレ達も安心して出発出来ないからな」

「ううむ…」


ギルバートの案に、アーネストは真剣に悩む。

確かに良い案だが、問題もあった。

肝心の武具が、数十名程度しか用意出来ない事だ。

負傷者が多いとはいえ、彼等はまだ500名以上生き残っていた。

その半数が戦うにしても、武具の数は少なかった。


「数が少ないだろう?」

「ん?

 そうなのか?」

「あのなあ…

 狩って来たグレイ・ウルフも、まだ20体ぐらいだぞ

 それからどれぐらい作れるか…」

「そうか

 まだそのぐらいしか無いのか

 それなら…」

「おい!

 言っておくが、狩りに行こうとか言うなよ」

「え?」

「良いから大人しくしてろ

 お前が動くと、また魔獣が来そうで怖いんだ」

「オレを魔物を誘き寄せるみたいに言うなよ」

「事実だろうが!

 女神が狙っているんだぞ」

「あ…」


ギルバートが動けば、また女神が何かして来そうだった。

アーネストはそれを懸念して、ここ数日ギルバートに大人しくしている様に言っていた。

しかしギルバートも、そろそろじっとして居られなくなっていた。

元々が、大人しくしていられる様な性格では無いのだ。


「しかし…

 ここで大人しくしているのは…」

「退屈だろうが、今出たらまた何かして来るぞ

 今は負傷者も居るんだ

 頼むから大人しくしていてくれ」

「分かったよ…」


ギルバートは不満そうに、ぶつぶつ言いながら頷く。


「そんなに退屈なら、セリアの相手をしてやれ

 寂しそうにしてたぞ」

「セリアが?」

「ああ

 精霊達も帰ったしな」

「そうか

 それで昨晩も…」

「ん?」

「何でも無い!

 それよりも、どうするかだ」


兵士に関しては、取り敢えずは手に入った素材で、武器や防具を作る事にする。

数はそんなに揃えられないが、それで納得する様にアーネストが説明した。

彼等は不満を述べたが、それは仕方が無い事である。

そもそもギルバート達には関係無い事だし、彼等を守る責任も無いのだ。


「オレ達は、お前の国とは関係は無い」

「ですが…」

「せめて人数分の武器を…」

「何でそこまでしないといけないんだ?

 そもそもお前達は、オレ達に敵対して来たんだぞ」

「オレ達は帝国の民なんだぞ

 貴様等は奉仕する…」

「良いから黙れ!」

「そうだぞ!

 彼等は敵対していた我々を、助けてくれたんだぞ」

「それもオレ達が帝国の…」

「うるさい!

 黙れ!」


兵士達は反抗的な者を追い出して、真剣な表情で懇願する。


「どうにか用意出来ませんか?」

「無理だな

 素材が足りないんだ」

「素材ですか?

 何を用意すれば…」

「鉄鉱石や魔獣の遺骸だ

 それから武器や防具を作っているんだ」

「それは…」


「鉄鉱石もですが、魔獣ですか?

 あの狼では、我々では倒せません」

「そういう事だ

 ここでお前達が集めるまで、オレ達が長居する訳には行かない」

「でしたら私達が…」

「魔物を…

 魔獣を倒せないだろう?」

「あ…」

「それに、お前達にその気は無くとも、あいつ等はまだ諦めていないだろう?」

「奴等ですか?」

「そうだ

 ドワーフ達を任せる訳にはいかん」

「そうですね…」


まだ一部の兵士達は、ドワーフを捕らえようと狙っている。

そんな者達を残して、ここから離れる事は出来なかった。

だからアーネストも、彼等に離れる事で交換に、武器の提供を持ち掛けていた。

だから渡せる武具も、今出来上がっている物しか渡せなかった。


「分かりました

 それでも十分です」

「そうか

 納得してもらえて良かった

 明日にでも持って来させる」

「はい

 よろしくお願いします」


アーネストは説明を終えて、洞窟に戻って行った。

その後も2回、グレイ・ウルフが野営地に現れた。

それでドワーフ達は、さらに防具を作っていた。

ミスリルの鎧に、追加で革素材を継ぎ足す。

その上でマントも、毛皮を鞣して作り始めた。


「あいつ等に渡すのは、この改良した魔鉱石の剣で良かろう」

「改良したのか?」

「ああ

 切れ味と強度を上げておいた

 これで力があれば、グレイ・ウルフも切れるじゃろう」

「問題は力が無い事じゃろう」

「そうだな」

「あいつ等は身体強化も使えん

 このままでは宝の持ち腐れじゃな」

「オレもそう思う」


「どうじゃ?

 ワシ等が鍛えてやっても…」

「それも考えたが…

 まだあんた達を狙っているんだぞ?」

「ううむ…」

「あの程度の雑兵なら…」

「それは弱ければだろ?

 力を身に着ければ…」

「そう簡単には負けんぞ?」

「いや、それでも危険だろう」


彼等にドワーフ達を、奴隷にしようなどという考えが無ければ、もう少し違っていただろう。

ドワーフ達を狙っている以上、彼等だけでここに居させる訳にはいかない。

だからアーネストも、彼等を追い返したかった。



「それで?

 武器や防具を渡すだけで良いのか?」

「取り敢えずは…

 それで納得しないなら、また考えるしか無いかもな」

「いい加減じゃな」

「仕方が無いだろう

 オレ達の国の民では無いし

 言う事を素直に聞く様な奴等じゃ無いだろう?」

「それはそうじゃが…」


「せめて素直に帰国してくれればな…」

「それも難しいのか?」

「ああ

 素直に帰ろうとする者も居るが、中にはまだ…」

「ワシ等を狙っておると?

 そんなにワシ等が魅力的かのう?」

「どうなんだろう?

 確かに鍛冶や建築技術が高いからな

 それに奴隷というのは…」

「単純に使い潰すのが目的か?」

「ああ

 魔導王国もそんなだったんだろう?」

「うむ

 確かに最悪な奴等じゃった」


魔導王国も、ドワーフを死ぬまで働かせていた。

それはドワーフが、なかなか死なない頑丈な体質であるのもあった。

それで幾らでも働かせると、重労働を押し付けていたのだ。

ここに居たドワーフ達は、まだマシな扱いだったと言える。


「ワシ等は研究と、兵器開発が主じゃったからのう」

「それでも他の地域では…」

「ああ

 よく死んでいる話を聞いておった

 じゃからお前さん達が来た時も、最初は警戒しておった」


アモンが居なければ、彼等もまともに話を出来なかっただろう。

敵対していた事もあったが、アモンの事は信用していたのだ。

だからドワーフ達は、ギルバート達の話を聞いてみる事にした。

そうして信頼関係を築けたので、こうして今も話をしている。


「せめて彼等が、もう少し信用出来ればな」

「それは難しいじゃろう

 最初が最初じゃったからのう」

「ああ

 今さらそんな気は無いと言っても、信用は出来ないだろう」

「難しいのう…」


結局兵士達には、50名分の武具が渡された。

その上で1週間を待って、彼等は帰還する事になる。

最期までドワーフを、引き渡せと言う兵士も居た。

しかし最終的には、新しい武具を渡す事で納得させたのだ。


「帰って行ったな…」

「ああ

 このまま素直に、帰ってくれれば良いのだが」

「そこは信じるしか無いさ」


アーネストとギルバートは、兵士達が去った野営地の跡を見ていた。

そしてギルバート達も、出発の準備を始めるのであった。

まだまだ続きます。

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