第582話
帝国の兵士達は、アーネストと精霊の話を聞いていた
その中で彼等は、改めて自分達が操られていたと納得する
そして信じていた神が、偽者だと突き付けられていた
本当に神が居るのなら、確かにそう考えるしか無かったのだ
中国の中に、竜の巣と呼ばれる場所がある
そこは禁足地となっており、危険な龍が住んで居ると言われている
嘗てはその地は、宙に浮いていた場所であった
精霊はその地で起こった、昔の戦いの話をしていた
その話の中で、帝国が信奉する選民思想が、否定されていた
「神魔大戦と呼ばれる理由は、その後半の戦いからなの
ハイエルフ達は翼人達を、羽虫と蔑んで扱ったわ
当然女神は、その行いを叱ったわ」
「だろうな
それでワイバーンを与えて、翼人と戦わせたんだもんな」
「ええ
そしてそのワイバーンが問題だったの
ハイエルフはワイバーンを駆って、翼人やドワーフ達を退けたわ」
「なるほどね…
女神が懸念していた事が、実際に起こった訳だ」
「ええ
思った以上に、ワイバーンは厄介な物だったの
それにハイエルフの弓や精霊魔法があったからね」
上空から翼竜に乗って、魔法や弓矢で攻撃する。
それだけでも、圧倒的に優位だっただろう。
そう考えれば、ハイエルフは当時最強の種族だったに違いない。
少なくとも、彼等に敵う者は居なかっただろう。
「ワイバーンの機動力と、ハイエルフの弓矢
それに精霊魔法か…」
「そうです
尤も当時は、そこまでの精霊魔法では無かったんですがね…」
「え?」
「まだ精霊との契約は曖昧だったんですよ
初めての事でしたからね」
「なるほど
確かに精霊魔法自体が、新しい物だったのか」
「そうです
ですからその頃に、今の精霊魔法の基礎が生まれました」
今でこそ精霊魔法は、精霊との契約次第で色々と行使出来る。
しかし当時は、まだ精霊自体は高位の存在であった。
今の様な子供の精霊も居らず、その力を扱うのは至難の業だった。
だから大きな一撃を放てるが、それに見合う魔力と集中が必要だった。
「それに…」
「それに?」
「女神との約束をふいにしましたからね
私達もハイエルフ達を、見限って手を引きました」
「そうなるとハイエルフ達は…」
「ええ
ワイバーンから矢を放つだけでした
まあ、それでも十分に強力でしたが」
「そうだよな
上空から矢を放たれては、どうしようも無いからな」
それでもハイエルフ達は、十分に強かった。
それで女神は、ドワーフや翼人に協力する。
それで後半では、翼人とドワーフが神の側に立つ事になる。
それで魔物を従えたハイエルフと、神に従う翼人とドワーフの戦いになった。
その戦いは激しく、神魔大戦と呼ばれる事になる。
「女神はドワーフに、神の造りし武器を与えました
彼等はそれを研究して、強力な武器を作りました」
「まさか古代兵器の?」
「いえ
それは後の王国の作成した物でしょう
ドワーフ達が作ったのは、あくまでも武器です」
「そうか
それでは兵器は…」
「そうです
それは人間が作り上げた物です
ドワーフ達は、簡単な武器や防具しか作りません
兵器の様な危険な物は、人間が作り出す物です」
「なるほど…
しかしドワーフも、武器を作ったんだよね?」
「ええ
そしてそれを持って、翼人がハイエルフと戦いました」
ドワーフが神の作る武器を、真似て作り出す。
翼人がそれを手に、翼竜に乗ったハイエルフと戦う。
それは神と魔物が、初めて戦った事になる。
そして戦いは、7日7晩続く事になる。
「翼人とハイエルフの戦いは、7日7晩続きました
そして最後には、多くのハイエルフが倒れ、全ての翼人が亡くなりました」
「え?
ちょっと待て
ハイエルフが勝利したのか?」
「正確には、ハイエルフもほとんどの者が亡くなりました
しかし生き残りは、そのまま魔物を失って森に逃げ込みました
そこからハイエルフの、引き籠り生活が始まりました」
「あ…
何となく分かったよ」
ハイエルフは、気高く孤高の存在であった。
しかしそれは、敗けて森に引き籠った事が始まりであった。
自らを神に選ばれた種族として、森に結界を築いて籠ったのだ。
それから暫く、彼等は表の世界から姿を消す事になる。
「待てよ
それなら生き残ったのは?」
「そうです
ドワーフだけでした
翼人もほとんど死に絶え、数名が高山に逃げ込みました
それで地上には、誰も居なくなりました」
「え?
そんな事が?」
「はい」
ドワーフも地下や洞窟に籠り、地上には人間が居なくなった。
そこで女神は、再び人間を造り出す事になる。
今度は翼人やハイエルフの様な、勘違いした者は欲しく無かった。
そこであまり力を持たない、非力な種族を作った。
「女神は再び、ファクトリーを動かしました
そこで人間を作りましたが、当時は女神も人間を警戒してまして…」
「何でそんなに人間を?」
「女神が元居た世界では、人間は争いばかりしていました
そこで上位のハイエルフや翼人から作ったそうなんですが…
結果は争ってしまいました」
「上位?
それはどういう事ですか?」
「翼人は人間に、翼の生えた種族です
ハイエルフも魔法や弓矢が得意な、人間よりも上の種族です」
「なるほど
人間よりも強い種族なのか」
「ええ
ですがここで、人間を作りました
女神としては、人間には争いをして欲しく無かった」
「そうですね
争いをしない様に、力を持たせなかったんですね」
「そうです
ですがそれが徒になって…」
女神が元居た世界では、人間は争ってばかりだった。
それでハイエルフや翼人を作ったが、結果は同じだった。
そこで今度は、弱く作られた人間を生み出した。
しかし人間は、それでも変わらなかった。
「ハイエルフ達は、新たに産み出された人間を毛嫌いしました
力を持たないのに、女神に愛されていると思ったのでしょう
それで度々、人間の国を攻めました」
「そんな事が…」
「ええ
代わりにドワーフは、当時は人間と仲良くしていました
共に力を持たない種族で、ハイエルフに嫌われていましたから」
「ハイエルフは何だって、そんなに人間を嫌ったんですか?」
「それは人間もドワーフも、何も大した力を持たなかったからです
ですがそれで、彼等は辛い生活を続けていました」
「力ですか…」
「ええ
当時は魔法もスキルもありませんでした
ですから力でも劣る人間は、生きて行くのがやっとでした」
「そうなんだ…」
何もスキルを持たず、魔法も存在していない。
そんな中で人間は、ドワーフ達と暮らしていた。
それをハイエルフ達は、気に食わないと思っていた。
「ハイエルフ達は、その頃には精霊魔法も失い、ワイバーンも失っていました
しかしそれでも、弓矢の力は強力でした
度々人間は、ハイエルフ達に狩られていました」
「それは女神に守られていたからか?」
「そうですね
それでハイエルフは嫉妬して…
ですが女神は、そんな人間を不憫に感じて…」
「でしょうね
しかしそれで魔法を?」
「そうです
まだ基礎では有りますが、魔法が人間に授けられました」
精霊の言葉に、アーネストも頷く。
帝国にとっては、魔法は妖術と呼ばれて忌むべき物と考えられていた。
しかし元々は、弱い人間を救う為に、女神から授かった物だった。
今ほどの魔法は開発されておらず、基礎の魔法の矢等が授けられていた。
「アーネストは魔術師だから、その辺の話は詳しいでしょうね」
「そうだな
魔導王国の資料や、古代王国の資料も見付けた
しかしそれでも、古代王国の魔法は理解出来ていない」
「でしょうね
あれは人間の力が一番強かった頃ですから
それで浮遊大陸や、危険な古代兵器が作られました」
「浮遊大陸って、シャンバラの事だよな」
「そうです
古代王国の初期は、シャンバラから始まりました
まあ、この辺は長くなりますから…」
精霊はここで、話を戻す事にしたらしい。
気が付けば、兵士達の治療もある程度の目途が立っていた。
あまり話を長くするのもよろしく無いと、精霊は話の核心に戻る事にしたのだ。
「それで話を戻すけど…」
「え?
そこから魔導王国の礎が出来るんだろう?」
「そうだけど…
長くなるわよ?
彼等がもたないわよ?」
見ると治療を受けた兵士達も、そろそろ疲れが見えていた。
話しには興味があるが、中には船を漕いでいる者も居る。
戦いの緊張と治療で、体力を使い切っているのだろう。
「分かったよ
それはまたの機会なんだな?」
「ええ
私もそうそうは現世には出れないから
それで話を戻すわよ」
「ああ」
「女神は人間に、色々と力を授けたり、便宜を図って来たわ
でもそれはね、あくまでも愛する子供達の一人だから
決して人間を特別視した訳では無いのよ」
「そういう事だ
だからお前達が神と信じていた者は…」
「信じられない」
「それじゃあ本当に女神が居て、私達はそれに逆らっていたと?」
「そういう事になるな」
「それじゃあ、何で女神は何も仰らないんだ?」
「それは…」
「女神が眠っているからよ」
精霊がその答えを告げた。
「それが人間が犯した、罪の一つ」
「罪?」
「人間って私達がですか?」
「いいえ
それはあなた達の先祖
魔導王国よりも昔の人間が犯した罪」
「それが今も続くと?」
「そうね
彼等はそうしたいと思っていなかったでしょうね
しかしその罪は重く、今でも女神を蝕んでいる」
「ん?
それはどういう事だ?」
その言葉は意外だった。
アーネストは女神が、今も眠りに着いているとは聞いていた。
しかしそれが、人間の何の罪に関わっているのか?
「それはですね、人間が起こした罪が今も女神の心を苦しめている
それで女神は、不具合を起こして眠りに着いているの」
「え?
ただ眠っている訳では無いのか?」
「そうです
過去に人間が起こして来た罪
それが暗く女神の心を苦しめ続けている
それで女神は、今も眠りを繰り返しているのです」
それは予想外の事実だった。
女神は人間の犯した罪に嘆き、今も心を縛られている。
それで心を乱して、深い眠りに着いているのだ。
「そして女神が眠りに着いている今、何者かが彼女のふりをしている
それが何を意図しているのか…」
「女神が眠っているから、そいつが自由に動けるのか?」
「そうね
女神が起きていれば、こんな事にはならなかったでしょう
そういう意味でも、人間の罪がここまで影響しているの」
「その罪って?」
「一体何なんですか?」
「それこそが選民思想と、他の種族を奴隷にしている事だ」
「そうね
事の起こりはそこでしょう」
「ん?
違ったのか?」
「いえ
根底はそこよ
しかしそれが続いたのも原因よね
そのせいで多くの者が亡くなってしまったわ」
女神が苦しんでいる理由は、一番大きいのは彼女が愛した者達が亡くなった事だ。
それも彼女が愛した、人間達が原因であった。
それが彼女の心を苦しめ、壊してしまった。
「女神は…
何度も悩んで後悔していたわ
人間を愛しているけど、同時に生み出した事を後悔していたわ」
「それは人間が争うからか?」
「そうね
そして争いを収める為に、また命が失われる
それが彼女の心を壊して行ったわ
守りたいのに、守る為に他の子を殺さないといけない
それが苦しかったのね…」
精霊はそう言って、哀しそうに頭を振った。
「カイザートの時もそうよ
あの子を失った事も嘆いていたけど、何よりもその後の事も…
帝都の焼失も苦しんでいたわ」
「何で?
そもそも帝国の貴族が悪しき考えを持たなければ…」
「そうね
でも、彼女にとってはその貴族達も、可愛い子供なのよ」
「まさか?
それで帝都の焼失で?」
「ええ
あれで完全に心が壊れていたわ
あの直後は人間を滅ぼすって大変だったわ」
「それは…」
女神はカイザートとアルサードを立て続けに失い、悲嘆にくれていた。
それに加えて帝都の焼失で、多くの貴族と住民が亡くなった。
それで女神は、人間を滅ぼそうとまで考えていた。
「私達や使徒が説得して、何とか女神は眠りに着いたわ
しかしこの有様を見れば…」
「そうだな
再び荒れて、人間を滅ぼそうと言うだろうな」
「まだ眠っていて良かったわ」
偽の女神が原因とはいえ、再び多く人間が亡くなっている。
この光景を見れば、女神は大いに怒っただろう。
「それは我々が原因で?」
「そうね
でも、あなた達は操られていた
それを考えれば、まだ猶予はあるでしょうね」
「問題はこの後だな」
「そうよ
あなた達はこの後、どうするつもりなの?」
「それは…」
「国に帰りますが…」
問題はその後だろう。
このまま帰っても、彼等には粛清が待っているだろう。
任務であるドワーフの捕獲は失敗して、その上貴族も亡くなっている。
そんな状況で帰っても、彼等は処刑されるだけだ。
「私達には…」
「我々は帰っても、責任を取らされて処刑されるでしょう」
「何でだ?」
「貴族様が殺され、任務にも失敗しました」
「そうだ!
このままおめおめと帰れるか!」
「何だ?
まだやろうって言うのか?」
ギルバートの周りに居る、兵士達が騒ぎ始める。
彼等はこのままでは、自分達が殺されると分かっている。
それで何とかして、ドワーフだけでも連れ帰ろうと考えていた。
しかしそれは、ドワーフを奴隷にするという事だ。
「そんな事が許されると思っているのか?」
「アーネスト?」
「こいつ等はまだ、ドワーフを奴隷にしようとしている」
「何だって?
まだ諦めていないのか?」
「ああ
それが女神が怒っている原因だと言うのにな」
「ですがそうしなければ…」
「我々が処刑されます」
「それでドワーフが、奴隷にされて家畜同然に扱われても良いと?」
「それは…」
「当たり前だ!
オレ達は選ばれた民なんだぞ!」
「まだ言っているのか!
この分らず屋め!」
アーネストはそう言って、兵士達を睨んでいた。
まだまだ続きます。
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