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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
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第579話

ギルバートとアーネストは、地下への階段を駆け下りた

そこではドワーフ達が駆け回り、騎兵達も負傷者の手当てを手伝っていた

先ほどの爆発は、ここにも被害を及ぼしていたのだ

二人はガンドノフを探して、周囲を見回していた

ギルバートとアーネストが掛け下りたのを見て、精霊の一人が近付いて来る

風の精霊のシルフだった

彼女は二人に近付くと、怪我をしていない様子に安心する

地下(した)に居た彼女にも、地上に向けた爆発は聞こえていたのだ


「大丈夫だった様ね?」

「何だって?」

「耳鳴りが酷いんだ

 良く聞こえないぞ?」

「ああ そうだったわね

 セロ!」

「何だよ!

 こっちも忙しいんだ」

「彼等にも回復の魔法を!」

「回復?

 元気そうじゃ無いか?」

「爆発の衝撃で耳鳴りを起こしているわ」

「しょうがねえな…」


光の精霊のセロが呼ばれて、二人の前に来る。

そうして軽い異常を癒す魔法を掛ける。


「それぐらい自分で治せよな」

「え?」

癒しの光(ヒール・ライト)があるだろう?」

「あれで治せるのか?」

「ああ

 その程度ならな」

「そうなのか…」

「それじゃあ、オレも忙しいからな」

「あ!

 おい!」

「皇女が…

 マリアーナが治療で忙しいんだ

 後にしてくれ」


セロはそう言うと、忙しそうに飛んで行った。


「それで?

 どういう状況なんだ?」


アーネストは仕方なく、シルフに状況を確認しようとする。


「あなた達、何考えてるのよ!

 あんな危険な物を使って…」

「どうなったんだ?」

「魔力に金属が耐えられなかったわ

 詳しい事は分からないけど…」

「魔力に?

 それじゃあ爆発は…」

「ええ

 溜めていた魔力で金属が溶け出し、魔石の魔力を押さえられなくて…

 危うく魔力災害を起こすところだったわよ」

「魔力災害だと?」

「ああ

 そもそもミスリルじゃなくて、魔鉱石だったんだ

 それも試運転も無しでいきなりだろう?」

「何だって?

 何だってそんな無茶を…」

「それは魔獣が来たからだろう

 ガンドノフも、あれは最終手段だと言っていた」

「だからって…」


古の魔導兵器は、元々はミスリルより強力な魔法鉱石で作られていた。

今ではそれが、何で作られているのかも分からない。

魔導王国の兵士達は、見よう見真似でそれを魔鉱石で作った。

しかし魔鉱石では、強度が十分では無かったのだ。


その点は、ガンドノフも危険だと何度も具申したらしい。

しかし魔導王国の兵士達は、大丈夫だとそのまま続けた。

結果はこの通り、魔鉱石は耐えられなくて崩壊した。

そして魔石に無理矢理溜められた魔力が、暴走して爆発したのだ。

あの光の柱を放った後にすぐに、魔導兵器は大爆発を起こしたのだ。


「イーセリア様が…

 女王様が私達を呼んでいて良かったわ

 私達が協力して、何とか押さえこんだから」

「そうなのか…

 セリアが…」

「私達にも感謝してよね

 私も風の防壁で、何とか爆風を押さえたんだから」

「すまない

 助かったよ」

「どういたしまして」


「しかし

 抑えてこの状況か?」

「ああ

 とんでもない威力だな

 洞窟のあちこちが崩落している」

「そうね

 今はノームが押さえているけど

 ここは諦めた方が良いわね」


幸い洞窟は、完全には崩落していない。

これもノームが、地盤を固めて押さえているからだ。

しかしそれでも、長続きはしないだろう。

大きな穴が開いたし、余熱で穴の周りは溶けている。

このままでは、崩落も避けられないだろう。


「怪我人を治療したら、ここを出るしか無いか」

「そうね

 数日中には出ないと、ノームがもたないわよ」

「ああ

 そうしよう」


ドワーフ達が住んで居る場所は、まだそこまで崩れていない。

しかしその先の、地下への階段は半分埋まっていた。


「それで?

 ガンドノフは?」

「さあ?

 あれだけの爆発よ?

 それに地下に向かおうにも…」

「そうだな

 あれじゃあなあ…」


何とか空いている穴は、人間ではとても入れそうに無かった。

ドワーフなら、何とかしゃがんで入れそうだった。

しかし試した者は、火傷を負って逃げ帰って来た。

この下は高熱で溶けて、あちこちが燃えている様に熱かったのだ。


「行くのはお勧め出来ないわ

 死にに行く様な物よ?」

「しかしそれでは…」

「残念ながら、そのドワーフは死んでおる」

「え?」


いつの間にか、階段の上から精霊が降りて来ていた。

二人は分体なので、子供ぐらいの大きさで宙に浮いていた。

本隊を送り込めば、そこに精霊力が大きく干渉してしまう。

だからその場に居る精霊の子供達を使って、分体を生み出していたのだ。


「イフリーテ?」

「それにウンディーネも?」

「さっきの水球

 私が来てたから出来たのよ」

「ありがとう

 助かったよ」

「ふふ

 あなたも頑張れば、精霊魔法を使えそうね」


ウンディーネはそう言って、アーネストに微笑み掛ける。

しかしイフリーテは、複雑そうな表情でギルバートを見詰めていた。


「死んでいるって…」

「ああ

 正確には、死ぬよりも早く蒸発した

 あれでは苦痛も無く、一瞬じゃったろう…」

「そんな…」

「ギル

 あれだけの熱量だったんだ

 むしろ焼かれて苦しむより、そのまま消え去っただけ…」

「しかし!

 何でだよ!」


ギルバートは、また助けられなかったと自分を責めていた。

アモンやムルムル、そしてガンドノフまで死んでしまった。

いや、思えばその前から、国王やアルベルトも亡くなっている。

どうして自分の周りの者が、次々と亡くなるのか?


「自分をせめているのか?」

「そうだ!

 また助けられなかった!」

「甘ったれるな!」

「え?」


イフリーテは、周りに響くくらいの声で叱った。


「助けられなかっただと?

 何であのドワーフが死んだのか?

 貴様は考えていないのか?」

「オレに力が無いから…」

「違うだろうが!」


イフリーテはギルバートと同じぐらいの大きさになると、その胸倉を掴む。


「何が助けるだと?

 貴様がマーテリアルだと言っても、その力には限界があるんだぞ?

 それにマーテリアルにすら、まだ覚醒しておらんだろうが!」

「そうだよ!

 だから力が無いから…」

「そうじゃあ無いだろう!

 あの男が!

 あのドワーフが何て言っていたと…」

「イフリーテ

 そのぐらいにしなさい

 その者は女王様の伴侶よ」

「そうだが…

 ふん!」


イフリーテは、不満そうな表情でギルバートから手を放す。

そして片手を出すと、そこから宙に何かを出した。


「もう!

 そんな事をしたら…」

「うるさい!

 少し話させるだけだ

 そのぐらいの権利はあるだろう?」

「そうね…

 でも、少しだけよ?」

「ああ」


「何をしてるんだ?」


イフリーテが出した物は、半透明な白い火の玉だった。

それは丸くゆらゆらと、ゆっくりと燃えていた。


「ギル…バート…」

「ガンドノフ?」

「何だって?」


その白い火の玉から聞こえたのは、確かにガンドノフの声に似ていた。

しかしガンドノフは、確かに死んでいる筈だった。

あの高熱に焼かれて、一瞬の内に蒸発した。

イフリーテが先ほど、そう言っていたのだ。


「よく…聞け」

「あ、ああ…」

「ワシは…後悔しておら…

 お前…孫の様に…

 嬉しかった…」

「ガンドノフ…」


その声は切れ切れで、何とか振り絞る様に話している様だった。


「アモン…時

 お前…泣いて…

 じゃからワシ…配じゃ…」

「馬鹿野郎!

 泣いてなんか…」

「ワシ…で…なら…

 この命…

 後を…む…」

「ガンドノフ!」

「時間切れか…」


それで力を使い果たしたのか、炎は揺らめいてから消えた。


「今のは?」

「あの男の、最期の命の炎…

 その燃えカスじゃ」

「燃えカス…」

「それじゃあ…」

「ああ

 魂も完全に消滅した

 いずれ輪廻の環に還るじゃろう…」

「そ…んな…」

「くっ…」


気が付くとウンディーネが、イフリーテの手を優しく包んでいた。


「もう…

 無理しちゃって」

「大丈夫じゃ

 それよりもお前の方が…」

「あなたの火も弱まっているのよ?

 消えやしないわ」


ウンディーネは精霊力を注ぎ込んで、イフリーテの腕を治してやる。

どうやら先ほどの炎は、イフリーテにも負担を強いる様だった。


「魂を呼び戻す…」

「正確には、まだ彷徨っていた魂の残滓を、無理矢理掻き集めたに過ぎんがな」

「そんな事が?」

「無茶をしたのよ?

 だから腕が砕けかけていた…」

「え?

 そんな事を…」

「ふん

 あの男の無念が…

 あの思いが無駄になるからな」


イフリーテは照れたのか、そっぽを向いてしまった。


「ふふふ

 ごめんなさいね」

「いや

 オレの方こそすまなかった…」

「そうだな

 ガンドノフの声を聞いたか?

 後を任せたと言っていたぞ」

「そう…だな」


ガンドノフの事を守れなかったのは悔しかった。

そして彼まで喪った事は、とても悲しい事だった。

しかし今は、ここで泣いている場合では無いのだ。

怪我人を治療して、早目にここから避難しなければならない。


「そういえば…

 向こうの兵士達はどうなったんだ?」

「さあな

 近くの者達は、ほとんどが爆発に巻き込まれて死んだだろう

 しかし遠くに居た者は…」

「そうだな

 野営地も悲惨だったが、まだ生き残った者達が居る筈だ」

「どうする?」

「治療ぐらいはしてやるさ

 気に食わないけど、全員見殺しってのはさすがに…」

「そうだな…」


アーネストも不満だったが、さすがに全ての兵士が選民思想という訳ではないだろう。

それに生き残りが、これからどうするかも問題だ。

恐らく国に戻るだろうが、このままでは魔獣に食い殺されるだけだ。

最低限の治療ぐらいは、してやっても良いだろう。


「上に上がってみるか?」

「そうだな

 そういえば騎兵達は?」


騎兵達は先程の戦いから、下には降りていなかった。

ギルバートはアーネストを連れて、騎兵達の様子を見に行く。

彼等は帝国の兵士達の、生存者を探して辺りを見回っていた。

魔獣は結局、先ほどの爆発でほとんど息絶えていた。

中には瀕死のグレイ・ウルフも居たが、騎兵達の手で止めが刺されていた。


「お前達、無事か?」

「殿下

 どうされました?」

「姿が見られなくなって、心配してたんですよ」

「すまない

 ガンドノフの事が心配でな…」

「ガンドノフさんですか?

 どうされたんですか?」

「それが…」


ギルバートが言い淀んでいたので、代わりにアーネストが答える。


「先ほどの爆発を見ただろう?

 あれで彼は…」

「まさか?」

「そんな…」


「彼は爆発に直接巻き込まれた

 精霊達の話では、苦しむ間もなく蒸発したらしい」

「蒸発?」

「それはあの爆発で?」

「ああ

 土をも溶かす高温だ、まともに浴びれば生きてはいられないだろう」

「そんな…」

「もっと話したかった…」

「あの人のお陰で、オレ達は生き残れたんですよ」

「そうだな

 お前達は色々と指導されていたからな」


騎兵達はガンドノフに、ドワーフ流の防御術を教わっていた。

それで魔物の攻撃にも、耐えられる事が出来ていた。

ガンドノフが居なければ、彼等は魔物の攻撃に屈していただろう。

だからこそ、彼等はガンドノフを尊敬していた。


「それで?

 お前達は何をしているんだ?」

「生存者を探していまして…」

「ここには居ないだろう?」

「そうだぞ

 こっちは精霊の加護があったが、向こうはそんな物は無かったからな」

「ええ」

「この辺りは全滅ですね」

「ほとんどが炭になっています」

「だろうな…」


騎兵を連れて、ギルバートは穴の向こう側も調べる。

洞窟に近い場所では、ほとんどが炭になっている。

そこから1㎞以上離れると、ようやく焼けていない死体が見付かる。

しかし焼けていないだけで、ほとんどが全身に衝撃を受けて死んでいた。


「ここも駄目か?」

「そうですね

 凄い衝撃だったんでしょう」

「この通り骨が…

 うわあ…」


騎兵達は丁寧に、死体を運んで集める。

このまま放置するのはあまりにも可哀想なので、焼いて埋葬してやるのだ。

もしかしたら、彼等の国では土葬かも知れない。

しかしこの場では、焼かなければ死霊になる可能性が高いのだ。


「どうします?

 骨が砕けているので動けないとは思いますが…」

「だからと言って油断は出来んだろう?

 骨が砕けていても、動けるかも知れない?」

「うげえ…

 それは不気味ですね」

「ああ

 死霊に関しては、正直詳しく分かっていないんだ」

「そうだぞ

 もしかしたらだが、死霊になった時に骨が元に戻るかも知れない」

「そうなんですか?」

「ああ

 よく分かっていないからこそ、その可能性もあるって事だ」

「なるほど…」


死霊に関しては、魔導王国の資料にも詳しくは載っていなかった。

ただ死んだ者が、生前に無念を抱えていると死霊になり易いとしか書かれていない。

だからどの様な死霊が現れるか、それすらも分かっていなかった。

だからこの死体が、どの様な死霊になるか分からないのだ。


「野営地の近くは、さすがに生き残りは多いな」

「それでも、全体の何割か…」

「恐らく500人も居ませんよ?」

「そいだな

 そこからどれだけ生き残れるか…」


まともに動けているのは、僅かに300名ほどだった。

他にも火傷を負ったり、重傷で動けない者も多数居る様子だった。

しかし治療しようにも、物資もほとんどが魔獣に荒らされていた。

それに彼等は、治癒の魔法もポーションも持っていない。

それでは傷を癒そうにも、薬草ぐらいしか無いのだ。


「どうする?

 また皇女に頼むか?」

「そうだな

 しかし先にこちらの負傷者の治療からだな」

「それでも何もしないよりマシだろう?」

「ああ」


ギルバート達は、治療の申し出の為に生き残りに近付いて行った。

彼等が何を考えて、どう思っているのかも知らずに。

まだまだ続きます。

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