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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
577/800

第577話

帝国の兵士達は、魔獣の群れに襲われていた。

魔力の反応から、アーネストはグレイ・ウルフ以上の魔獣がいると判断していた

その魔力の強さから、グレイ・ベアかアーマード・ライノだろうと判断する

それを倒すとなると、騎兵だけでは厳しいだろう

アーネストはどうするべきか、判断に迷っていた

アーネストが悩んでいる間に、防壁に向かって兵士達が集まって来る

しかし防壁は、兵士の背丈ほどの高さがある

それを乗り越えて、こちらに向かう事は出来ない

それを超えられるのは、魔獣であるグレイ・ウルフぐらいだろう


「アーネスト様

 どうされますか?」

「このままでは、魔獣が入って来ますよ」

「そうだな

 兵士は無理でも、グレイ・ウルフは入って来そうだ」

「どうします?

 迎撃に出ても良いですか?」

「馬鹿な事を言うな

 あっちにはそれ以上の魔獣が居るんだぞ?」

「ですがこのままでは…」


騎兵達は、兵士達が上げる悲鳴を聞いていた。

それでアーネストに、助けに向かって良いか許可を求めていた。

しかしアーネストは、彼等に許可を出さなかった。

いや、危険を察知していたので、許可出来なかったのだ。


「アーネスト様」

「分かっている

 しかしお前達まで…」


「アーネスト!

 何が起こっている!」


アーネストが悩んでいると、下からギルバートが上がって来た。

騎兵達が呼びに向かったので、慌てて戻って来たのだ。


「ギル!

 魔獣だ!」

「何だと?

 どこに…って

 これは何だ?」


ギルバートは目の前に広がる、土の防壁に驚く。

彼が下に向かった時には、こんな物は無かったのだ。


「何が起こっているんだ?」

「奴等の野営地に、魔獣が襲い掛かったんだ」

「何だって?

 それじゃあこれは?」

「これはオレが、奴等が入って来れない様にしたんだ」

「何だって?

 そのまま逃げ込ませれば…」

「馬鹿な事を言うな

 そうしたら奴等に、ドワーフ達が見付かるだろうが」

「え?

 それぐらい…」

「マズいだろうが

 ドワーフ達が見付かったら、どうなると思っているんだ」

「しかし…」


ギルバートはそう言いながら、防壁の隙間を覗き込む。


「おい!

 そこに膝まで埋まった奴が居るぞ」

「ああ

 入れない様にしてるんだ」

「どうしてだ?

 そんな事をすれば…」

「そうだが、奴等はドワーフを奴隷にしようと狙っているんだぞ」

「だからって…

 くそっ!」

「どうする気だ?」

「助けるに決まってるだろう」


ギルバートは、助けに向かおうと防壁に向かう。

しかしその前に、アーネストが立ちはだかった。


「アーネスト?」

「助けに?

 行くのは構わないが、それでどうする気だ?

 彼等の中に混じって、魔獣と戦う気か?」

「そうだが?

 それが何か問題があるか?」

「ああ

 大問題だ

 生命力探知で、どうなっているか見てみろ」

「え?」


ギルバートはアーネストに言われて、魔力を集中して防壁の向こうを確認する。

そこには1000名近くの兵士達が、必死になってこちらに向かっている。

そしてその向こうには、魔獣達の動く気配も感じられた。

それは大きな力で、兵士達を次々と殺していた。


「何だ?

 この大きな魔獣は?」

「恐らく先日戦った、アーマード・ライノか…

 ひょっとしたらグレイ・ベアかも知れない」

「グレイ・ベア?」

「熊の魔獣だ

 ワイルド・ベアとは比べ物にならないぞ」

「そんな魔獣が?

 それなら助けに向かわなければ…」

「この状況にか?」

「え?」

「生命力探知で分かっただろ?

 あれだけの兵士が向かって来ているんだぞ

 まともに戦えると思うのか?」

「しかし助けなければ…」


アーネストが言う通り、あれだけ人が集まっている状況だ。

身動きするのも難しいだろう。

そんな場所に出て行けば、兵士に囲まれて身動きが取れない状況で、魔獣に襲われてしまうだろう。


「それにな、奴等がここに入って来たら…

 どうなると思う?」

「どうなるって…」

「あれだけの人数が一度に来れば、洞窟の入り口は塞がるぞ?

 そうしたら、オレ達は中に入れなくなるぞ」

「え?」

「あんなに逃げ惑っているんだ

 まともな判断が出来ると思うか?」


そのままの勢いで殺到して、下手をすれば入り口で大きな混乱を起こすだろう。

我先に地下に向かおうとして、入り口で詰まる事も予想出来る。

洞窟の入り口は、そこまで大きく無いのだ。


「そんな馬鹿な事を…」

「していただろう?

 あいつ等は選民思想に拘っているんだぞ」

「むう…

 それは…」


「だからオレは、ここに入れない様にしてるんだ」

「それじゃあ見殺しにするのか?」

「そうだな

 救助には向かいたいが、迂闊には出れないぞ」

「それはそうだが…

 何とかならないのか?」

「そうだな…

 しかし騎兵達を出すのは危険だぞ

 お前だって、アーマード・ライノやグレイ・ベアに勝てるのか?」

「それは…」


ギルバートがアーネストと議論をしていると、ガンドノフも下から上がって来た。


「何をしておる?

 魔獣が迫っておるんじゃろう?」

「そうなんだが…

 帝国の兵士達が追われているんだ」

「何じゃと?」

「それでアーネストが、奴等が入って来れない様に防壁を…」

「ふむ

 土の精霊力で作ったのか

 ちょうど良さそうな場所じゃな」

「え?」

「どういう事だ?」


「あの場所に…

 防壁の向こう側に魔獣を集めろ」

「どうする気だ?」

「あの下に、ちょうど例の兵器がある

 あそこに集めれられたら、一撃で葬れるじゃろう」

「何だって?

 あの危険な兵器の上なのか?」

「ああ、そうじゃ

 じゃからあそこに、魔獣を集めろ」


ガンドノフはそう言うと、アーネストに小さな箱を手渡す。


「これは魔力を通すと、離れた、場所でも話せる道具じゃ」

「へえ…」

「準備が出来たら、それで連絡しろ

 ワシが下から、魔導兵器で攻撃する」

「しかし危険じゃあ…」

「そんな議論をしとる場合か?

 魔獣が迫っておるんじゃろうが」

「それはそうだが…」

「ワシは準備に向かう

 上手く誘導しろ」

「分かった

 アーネスト」

「やるしか無いか…」


騎兵やギルバートを、危険な防壁の外には出せれない。

だからと言って、このままではいずれは魔獣も入って来るだろう。

何とか魔獣が入って来る前に、防壁の向こう側で倒すしか無いのだ。

その為には、ガンドノフの作戦が一番危険が少なさそうだった。


「アーネスト

 防壁の上に登るぞ」

「気を付けろ

 そんなに丈夫じゃ無いからな」

「構わん

 向こうの状況が分からないからな」


二人は騎兵達に捕まって、防壁の上によじ登る。

そこから外を見ると、多くの兵士が血を流しながら逃げ惑っていた。

グレイ・ウルフは防壁の近くまで迫っていて、今は逃げる兵士を襲っていた。

その向こう側には、遠くに熊の魔獣の姿が見えた。


「やはり居たか…」

「熊の様だな…

 グレイ・ベアか?」

「ああ

 体高も5mぐらいの大きさだ

 先ず間違い無いだろう」

「そうすると…」

「こっちに誘き寄せるしか無いな」

「そうなんだが…」


ギルバートそこまでに、多くの兵士が居る事を確認する。

確かにこれでは、外に出ても満足に戦えないだろう。


「下に降りるなよ

 身動きが取れなくなるぞ」

「そうだな

 しかしどうする?」

「さすがにあそこまでは…」


アーネストの魔法でも、そこは範囲外だった。

マジック・アローを放っても、魔獣に当てる事すら難しいだろう。

それだけ魔獣との間には、距離が開いていた。


「このまま様子を見るか?」

「しかしそれでは…

 彼等が死ぬばかりだぞ?」

「とは言え、このままでは魔獣も近付けないだろう?」

「それもそうだな」


ギルバート達の足元では、兵士達が何とかよじ登ろうとしていた。

しかし土で出来た防壁なので、よじ登ろうとしても崩れてしまう。

少しずつだが、防壁は兵士達の手で崩されていた。


「このままでは魔獣が近付くのが先か、ここが崩れるのが先か…」

「それは無いだろ

 幅があるから、よじ登られるのが先かもな」


「助けてくれ」

「妖魔が

 妖魔が襲って来る」


「助けて欲しいだと?

 貴様等はその妖魔を捕らえに来たんだろう?」

「違う

 オレ達は土妖精の妖魔を捕らえに来たんだ

 こんな化け物なんか捕まえに来てはいない」

「殺される

 助けてくれ」

「何て図々しい奴等だ

 さっきまで殺そうとしていた相手に、救いを求めるのか?」

「許してくれ

 助けてくれ

 死にたくないんだ」

「死にたくない」

「助けてくれ」


兵士達は必死になって、足元から救いを求める。

しかしアーネストは、それを冷やかに見下ろしていた。


「アーネスト

 彼等は何と言ってるんだ?」

「助けてくれだとさ」

「助けてやらないのか?」

「殺そうとしてた奴等だぞ?」

「それはそうだが…

 この有様ではな…」

「気持ちは分からんでも無いが、どの道この状況ではな…」

「魔獣をどうにかしないと無理か」

「ああ」


目の前では兵士達は、魔獣に追い込まれて防壁に縋っている。

しかし魔獣は、彼等を嬲る様に攻撃していた。

そのまま殺すのでは無く、爪で切り裂いてじわじわと甚振っている。

それを見てアーネストも、さすがに気分が良く無かったのだろう。


「仕方が無い

 マジック・アロー

 パラライズ」

シュババッ!

ギャイン!

キャン!


麻痺の魔法を加えた、魔法の矢が魔獣に命中する。

それでグレイ・ウルフは、その場で痺れて動きが鈍る。


「今の内にこの場を離れろ!」

「そんな

 助けてくれないのか?」

「妖魔を

 妖魔を倒してくれ」

「お前達で何とかするんだな

 オレ達が手を出す必要は無いだろう」


「何でだ!

 オレ達は神に選ばれた帝国の兵士なんだぞ!」

「そういう考えだから、助ける気にならないんだよ

 精々足掻くんだな」

「そんな…」

「くそっ!

 この蛮族共が!」

「その蛮族共に、救いを求めるのか?」

「ぐぬぬぬ…」


「アーネスト?」

「蛮族と呼びながら…

 そんなオレ達に助けろだってさ」

「何?

 まだそんな事を言っているのか?」

「ああ

 それも助けてくださいじゃ無くて、助けろだからな…」

「ううん

 微妙に助けたく無くなるな…」

「だろ?

 だからオレもこうしているんだ」


「何やってるんだ!

 さっさと助けろ!」

「この蛮族共が!

 早く助けろよ!」


「やっぱり駄目だな」

「アーネスト?」

「全然反省して無い」

「そうか…

 しかしこれでは…」


そうしている間にも、他の場所で兵士達は殺されている。

特に遠くの野営地の方では、熊の魔獣に兵士が次々と殺されていた。

振るう爪に切り裂かれ、肉片になって弾き飛ばされている。

そしてそこに向かうには、魔獣や兵士の間を抜けて行かなければならない。

この状況では、アーネストの言う様に辿り着く事すら困難であった。


「このままでは、あの熊の魔獣に殺されるな」

「ああ

 しかしあれだけ離れていては…」

「魔法でも届かないか?」

「ああ

 距離が離れ過ぎている」

「そうか

 それなら威圧でも…」

「止めておけ

 気が付いても来るとは限らない

 それに足元のこいつ等も…」

「そうか

 威圧で動けなくなるか」

「ああ」


グレイ・ベアは遠くに微かに見えるので、ここからでは攻撃も届かない。

そして魔法で狙うにしても、遠過ぎて狙う事は出来なかった。

これではガンドノフが言っていた、土の防壁の前に魔獣を誘導する事も出来ない。

ギルバートがどうするか考えていると、騎兵の一人が防壁に上って来た。


「殿下

 どうすれば良いですか?

 出て攻め込んだ方が良いですか?」

「いや

 この状況を見てみろ

 足元に集まり過ぎている」

「そうですね

 ですがどうすれば…」

「そうだな…

 あれを…

 グレイ・ベアを引き付けれれば…」

「グレイ・ベア?

 あれですか?」

「ああ

 あの熊の魔獣だ」

「熊ですか

 狙ってみましょうか?」

「届くのか?」


ここから少なくとも、1㎞は離れているだろう。

ギリギリ視界に捉えれるぐらいの距離がある。

幾ら弓の腕があっても、ここからでは当たらないだろう。

そうは思ったが、他に手段が思い付かなかった。

ギルバートは思い切って、騎兵に狙わせてみる事にする。


「試してみるか?」

「はい

 では…」

シュバッ!


騎兵は思いっきり引き絞ると、熊の上めに狙って思い切って放った。

矢は弓なりに飛んで行き、そのまま熊の頭目掛けて飛んで行った。


「おっ?」

「当たるのか?」

「当たれ!」


矢はそのまま、グレイ・ベアの頭に向かって行った。

しかしここからでは、当たったかどうかは分からなかった。

もし当たったとしても、この距離なので刺さらないだろう。

上手く熊の意識を、こちらに向けられるかどうかだ。


「どうだ?」


しかし当たったのか分からないが、グレイ・ベアは唸り声を上げた。

そうしてギルバート達の方を、確かに目視していた。


「やったか?」

「こっちを向いたぞ?」

「後はここまで、あの魔獣が来るかどうかだ」


ギルバート達が見ている先で、グレイ・ベアはこちらを向いていた。

そして兵士達を殺すのを止めて、熊はこちらに向かって駆け出し始めた。

それに釣られて、残りの2体のグレイ・ベアも移動を開始した。

魔獣は唸り声を上げながら、ギルバート達の方に向かって来る。

その道中に居た兵士達は、熊に跳ね飛ばされて吹き飛ばされていた。


「こっちに向かって来たな」

「ああ

 しかしこれでは…」

「大丈夫だ

 オレが魔法で何とかする

 ガンドノフ!」

「聞こえておるぞ!

 準備は出来ておる」

「分かった

 魔獣を捕らえたら伝える」

「頼んだぞ」


アーネストが持った箱から、ガンドノフの声が聞こえる。

このままグレイ・ベアを引き付けて、魔法で拘束する。

そしてガンドノフに声を掛けると、魔導兵器で攻撃する。

しかしそれまでは、兵士達には犠牲になってもらうしか無かった。

迫る魔獣に引き裂かれ、跳ね飛ばされて、兵士達は次々と倒れて行った。


「くそっ!

 これで上手く行かないと…」

「ああ

 必ず決めるぞ」


アーネストは杖を振り被ると、魔力を込め始める。

そして長い呪文を唱えて、魔獣が来るのを待ち構えて居た。

まだまだ続きます。

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