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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
575/800

第575話

ギルバート達は、敵軍の大将である男を捕らえた

その男アムゼンは、余りにも尊大だった

自身が神に選ばれたと信じて疑わず、ギルバート達に楽勝で勝てると思っていたのだ

しかし彼自身も、あまりに弱過ぎた

騎兵達に囲まれると、簡単に捕らえられた

アムゼンは神の事を知らず、神殿の守護者という者が神の代弁者だと言っている

今回の襲撃も、その神殿の守護者からの命令らしい

しかし詳しい事は分からず、話もまともに出来ない相手だった

アーネストは溜息を吐くと、部隊長の一人に手招きをした


「そこのあんた

 こいつよりはまともに話が出来そうだな」

「わ、私が?」

「ああ

 あんたは選民思想に懐疑的な様だ

 神が全てを操るという事に、不信感を持っているな?」

「い、いや

 私は…」

「おい!

 本当か?」

「何と罰当たりな…」

「隠さなくても良い

 あんたはこいつを、必死に止めようとしていただろう?

 それは神の力に、疑いを感じていた

 違うか?」

「それは…」


部隊長は冷静に、敵との力量の差を感じていた。

それで勝てないと判断して、必死にアムゼンを止めようとしていた。

大将を失っては、軍の機能を維持出来なくなるからだ。

しかしアムゼンは、そんな彼の言葉を無視していた。


家格の違いから、彼は部下達を蔑んで見ていた。

自分の事を優先して、文字通り使い潰していた。

気に入らない事が起これば、兵士達を平気で殺していた

彼等を同じ人間と思わず、物の様に扱って来たのだ。

その結果が、今の状況を生み出している。


彼が捕まっても、誰も助け出そうとしないのだ。

今まで好き勝手やって来たのだ、当然の結果だろう。

勿論それは、騎兵達が強い事も関係している。

敵が強いからこそ、彼等は無力化されたからだ。


「どうする?

 このままここで睨み合うのが良いのか?」

「いや、でも私は…」

「それとも戦闘を継続したいのか?」

「そうじゃ無い

 そうじゃ無いけど…」

「だったら何だ?」


アーネストは呆れると同時に、うんざりとした表情を浮かべる。

彼等は長く、支配される事に慣れ過ぎていた。

それで自発的に、自分の考えを口する事が出来ない。

選民思想による弊害の一つだろう。


「言いたい事があるなら言えよ」

「私は平民だ

 平民の出なんだ」

「だから?」

「こちらの方々は、地方とはいえ貴族の出やその関係者たちだ」

「だからどうした?」

「そんな方々を差し置いて…」

「そうだ!

 ワシ等の方が偉いのだぞ」

「蛮族との話し合いに、応じてやっても…」

「お前等も馬鹿か?」

「な!」

「何だと!」

「ふざけるな」


他の部隊長達は、怒りも露わに身構える。

しかしアーネストは、侮蔑した表情でそれを見る。


「貴様等が何なのか知らんが、そのせいでこうなったんだろうが」

「何だと?」

「貴様等がまともなら、こうしてこの男が突出する事も無かっただろうが」

「それは…」

「ぬう…」


「貴様等はどうせ、この男のご機嫌取りだったのだろう?

 それでそこまでの地位を得て来た

 しかし、その結果はどうだ?」


アーネストは負傷して、倒れている兵士達を見る。


「貴様等がまともに判断していれば、こんな事にはならなかっただろうが

 違うのか?」

「いや、ワシ等は…」

「アムゼン様の命に従って…」

「アムゼン、アムゼン

 そうやってこの男に取り入って、まともに戦おうともしない

 その結果簡単に、力ある者の前に屈している」

「いや、だがしかし…」

「そうだ

 神がワシ等に力を…」

「その力とやらは、どこに?

 どうやってこの苦境を乗り越えるつもりだ?」

「ぐう…」


アーネストの言葉に、部隊長達は何も言い返せない。

そもそも彼等は、まともに部隊を率いる教育を受けていない。

貴族の子息や従者の親族というだけで、取り立てて有能でも無い。

ただ家柄があって、そのコネで部隊長になっているだけだ。


「そこの男は、平民の出だと言ったな?」

「え?

 あ、はい」

「だから戦場に立つ機会もあって、戦況を見る事が出来ていた

 違うか?」

「戦場はありませんが…

 座学で学んだり、訓練で経験していましたから…」

「何だと?

 戦った事も無いのか?」

「ええ

 永らく我らの帝国は、外地に睨みを利かせて…」

「いや、相手にされていないだけだろ?

 存在すら知らなかったぞ」

「う…」

「何だと?

 ワシ等中国(なかつこく)を知らないだと?」

「これだから蛮族は…」

「その蛮族に、貴様等は簡単に屈したがな」

「な…」

「ぐぬう…」


アーネストは懐のポーチから、魔石を取り出す。


「この魔石は、便利な灯りを灯す魔道具だ」


アーネストはそう言いながら、魔石に魔力を通す。

それだけで魔石は、明るい光を放った。


「な!」

「妖術か!」

「ふん

 その妖術と侮る物が、どの様に便利か知らないだろう」

「そんな不気味な力を…」

「これは貴様等が、妖魔と呼ぶ生き物から取れる物だ

 これに魔力を…

 貴様等が妖術と呼ぶ力を加えると使える」

「何だと?」

「そしてな、貴様等が妖術と呼ぶ力は、本来なら誰しも持っている力だ

 彼等の力が強いのは、その力で強化しているからだ」

「そんな…」

「妖術がワシ等にも?」

「そうだ

 貴様等でも使える

 いや、使っていたんだよ

 魔導王国と呼ばれていた頃にはな」


彼等の住む帝国は、ミッドガルド帝国の東側に存在する。

嘗ては遊牧民の国であったが、魔導王国の頃には簡単な魔道具を使っていた。

灯りの魔道具以外にも、火を出す杖などもつかわれていたのだ。

それが使われなくなったのは、恐らく魔導王国が原因だろう。


ミッドガルド帝国が魔法に忌避感を抱いた様に、彼等の帝国も魔法に忌避感を持ったのだ。

それで魔法を妖魔などと呼び、日常から遠ざけたのだ。

それが身体強化の様な、便利で必要な魔法をも放棄させていた。

彼等がそれを使っていたら、もう少し戦況は違っていただろう。


「貴様等の帝国が、魔法にどの様な思いがあるのか…

 正直なところ今はどうでもいい

 問題は選民思想だな」

「何だ?

 さっきから言っている、その選民思想と言うのは?」

「それはな、貴様等の言っている神に選ばれた…とかいう思想だ」

「な!」

「馬鹿な!」

「ワシ等は神に選ばれた崇高な…」

「その神とやらは、どこに居る?」

「え?」

「はあ?」

「神は天上に住まわれて、いつでもワシ等を…」

「だったら、何でこうなった?」

「な!」

「ぐう…」


彼等には、その答え無かった。

彼等を護る筈の、神の力は発揮されていない。

正確に言えば、元から無かったのだ。

そうで無ければ、これまでの旅ももっと楽だっただろう。


「誰が勧めたか分からないが、貴様等はその思想で上手く操られていた

 領主や国主?

 支配する者達に都合の良い様にな」

「何だと?」

「そんな馬鹿な事が…」

「思い当たる事があるだろう?」


アーネストはそう言いながら、押え付けられた男に視線を向ける。


「こいつに好き勝手されて…

 それを神の意思だと思い込んでいた」

「いや、まさか?」

「そんな馬鹿な!」

「だってそうだろ?

 こいつが好き勝手出来たのは、神が後ろに居ると思っていたからだ

 しかし実際にはどうだ?

 こいつには力も無いし、従うべき物も何も無い」

「確かにそうだが…」

「ううむ…

 俄かには信じがたい」

「しかしアムゼン様は…

 いや、アムゼンには何も力が無いではないか?

 本当に神に選ばれていたのか?」


「それは貴様等も同じだろうが!

 貴様等のどこに、神に選ばれたという力がある?」

「う…」

「それは…」


アーネストの恫喝に、部隊長達は言葉を失う。

確かに今までは、神に選ばれたという自負があった。

そしてそのお陰で、好き勝手やって来れたのだ。

しかし今では、蛮族と思っていた相手に良い様にされている。

それなのに神は、何も示してくれてはいなかった。


「まあ、貴様等がどうなろうと、オレには関係無い

 好きにすれば良いさ

 問題はここに攻め込んだ事だ」

「そうだ!

 貴様等は妖魔と通じて…」

「そうじゃぞ!

 ここで悪しき行いを…」

「悪しき行いって何だ?」

「え?」

「はあ?」


アーネストの言葉に、部隊長達は鳩が豆鉄砲を食った様な表情を浮かべる。


「それは悪しき行いで…」

「だから!

 その悪しき行いって何だ?」

「それは貴様等が行っている…」

「だから何を言っているんだ?

 本当に頭が悪いのか?

 何をしているかも分からず、神?

 神殿の守護者とやらに言われたから来たのか?」

「う…」

「それは…」


まさにその通りだったのだろう。

彼等は答える言葉を失い、そもそも何の為に来たのか話し合い始めた。


「どういう事だ?」

「いや、だって神が…」

「その神は何と言っていたのじゃ?」

「さあ?

 神殿の守護者様からなので」

「で?

 それは何だと?」

「ですから悪しき行いとしか…」

「それでは分からんでは無いか!」

「しかしあなた方も、それで従軍されたんでしょう?」

「それは神の使命として…」

「それも神殿の守護者様からですよね?

 それで何と?」

「うるさい!」

「うるさいとは何ですか!

 あなた方も分からないんですよね?

 それで私が、何をどう分れと?」

「うるさいぞ」

ガキン!


部隊長の一人が、不意に抜刀して斬り掛かる。

しかしそれは、見えない防壁に防がれた。


「へ?」

「何をやっている

 仲間内で殺し合いか?」

「うるさい!

 こいつは平民で…」

「それが選民思想の問題点だな

 何でも家柄が高い者が、好き勝手やって良いと勘違いしている」

「何だと?」

「それは貴様等が、妖術と呼んでいる物だ

 身に着けれれば、平民だろうと身を守れる」

「ぐう…」

「口先だけの貴族には、扱う事の出来ない力だ」

「妖術師風情が…」

「その妖術師に、手も足も出せない者が言うか?」

「くそっ!」


「殺し合いをするのは構わんが…

 どうするつもりだ?」

「何だと?」

「ここでずっと、こうしているつもりか?」

「それは貴様等が!」

「お前達が襲って来る、蛮族の様な輩だからだ

 オレ達は身を守る為に、こうするしか無かった」

「それは貴様等が、悪しき行いをするから…」

「その悪しき行いってのは何だ?

 堂々巡りの質問か?」

「ぐう…」


彼等は結局、神殿の守護者から命じられた駒でしか無い。

だから考える頭も、どうすべきか判断する意思も持てなかった。


「結局貴様等は、その神殿の守護者とやらに操られているだけだ

 選ばれたとか言っても、道具に選ばれただけだ」

「何だと!」

「ワシ等は崇高な…」

「そんな物は存在しない!

 神殿の守護者とやらが、都合良く操る為の口実だ」

「ぐう…」


「貴様等が判断出来ないなら、オレが命じてやろう

 さっさとここから立ち去れ!」

「それは…」

「出来る訳が無かろう

 アムゼン様が囚われて…」

「立ち去るというのなら、こいつも解放しよう」

「本当か?」

「ああ

 こんな奴、オレ達には必要無いからな」


「本当なのか?」

「しかし目的を果たさなければ…」

「いや、今はアムゼン様の方が大事だ」

「そうじゃな」


部隊長達は相談して、一先ずは引く事を決断する。

アムゼンの事は、内心ではどうでも良かった。

本音はここで、殺されて欲しかった。

しかし本国に無事に連れ帰らなければ、それこそ何をされるか分からない。

自分達の保身の為にも、アムゼンの身柄は重要なのだ。


「分かった

 ここから立ち去ろう」

「しかし本当に、貴様等は悪しき行いを…」

「あのなあ…

 そもそも、その悪しき行いってのが分からないんだろう?」

「それはそうだが…」

「しかしワシ等は、その悪しき行を止める様に神に命じられて…」

「その神の存在だって、今では眉唾物だろうが」

「ぐう…」


「これ以上は、話す必要も無いだろう

 おい、あんた」

「へ?

 私ですか?」

「ああ

 さっさとこいつを連れて行け」

「あ、はい」


アーネストが最初に話し掛けた、部隊長が呼ばれる。

そしてアムゼンが解放されて、その男に引き渡されようとした。

部隊長は近付き、アムゼンの目の前に来た。

彼はアーネスト達を信用して、完全に油断をしていた。


「この役立たずの平民が!」

「へ?」

ザシュッ!


アムゼンは部隊長に近付くと、いきなり腰の剣を奪い取った。

そしてそのまま、部隊長の首筋を切り付ける。


「がふっ…」

「貴様等も貴様等だ!

 どいつもこいつも、役立たずのクズが!」


「な!」

「何て事を…」


突然の凶行に、他の部隊長達は呆然とする。

しかし騎兵達は身構えると、アーネスト達を守る様に移動する。

そしてアーネストは、その男を侮蔑の籠った視線で見る。

何と身勝手で、浅慮な男だろう。

アーネストは殺された部隊長を、憐みの籠った目で見詰める。


「はははは

 神はワシを見捨てておらん

 この距離ならば…」


アムゼンはアーネストを狙って、切り掛かろうと向かって来る。

しかし持っている剣は、部隊長の予備の小剣だった。

それはあまりに小さく、貧弱な武器だった。

アーネストは他の部隊長達に視線を送り、どうするか促した。

そして彼等も、仕方ないと頷いていた。


「切り殺せ」

「はい」

「うがあああ…」

「遅いな」

ドシュッ!


「が…は…

 ばか…」

「そんな物で、どうにか出来ると思ったのか?」

「思っていたんだろう?

 何せ神に選ばれていたんだ」

ドサッ!

カラン!


アムゼンが倒れると、その兜も頭から零れ落ちた。

兜の脱げた頭は、年の割に随分と後退していた。


「神には選ばれたつもりだったが

 髪には選ばれていなかったな」

「ぷっ…」

「おい!

 くくく…」


騎兵が思わず呟いた言葉に、両陣営で笑いを堪えていた。

不謹慎ではあったが、彼の頭が髪に選ばれていなかったと物語っていた。

まだまだ続きます。

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