表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
574/800

第574話

洞窟の入り口での舌戦は、アーネストに優位に進んでいた

アーネストは相手の大将を挑発して、こちらに優位になる様に進める

周りの部隊長は、大将の男よりは冷静であった

しかし激昂する大将を押さえながら、隙を見るのに苦戦していた

彼等は神に選ばれた、至上の存在だと信じていた

それこそが彼等の驕りであり、大きな隙である

それに気付かず、男は激昂して前に出ようとしていた

アーネストはそれを見て、ますます男を挑発する


「何だ?

 自分が強いと思い込んだ、自殺志願者か?」

「な…」

「おいおい

 ぷるぷる震えて、まるで生まれたての子羊の様だな

 そんなにオレ達が怖いのか?」

「ぐうぬうう

 もう許せん!」

「アムゼン様

 先ずは我等が前に出ますから」

「うるさい!

 あの小生意気な蛮族共を…」

「くそっ!

 止むを得ん」


部隊長が片手を上げて、騎兵達に合図を送る。

それに合わせて、騎兵達は面倒臭そうに弓を構える。


「おい!

 アーネスト!」

「大丈夫だ

 既に風の防壁(エアリアル・カーテン)は張ってある」

「しかし攻撃して来るぞ?

 話し合いのつもりじゃあ…」

「それは無いな

 あれは馬鹿の代表みたいだから、こちらを簡単に殲滅出来ると思っているらしい」

「はあ?

 それじゃあ追い払うのは…」

「先ずはこちらの力を見せ付ける」


「撃て!」

「はいはい」

「くそっ!

 何だってこんな面倒な事を…」

シュバッ!


騎兵達は不満を漏らしながら、面倒臭そうに矢を放った。

しかし狙いは正確に、しっかりと引き絞っていた。

下手に逆らえば、自分達が殺されるからだ。

しかし放たれた矢は、ギルバート達には届かなかった。

見えない風の防壁が、矢を弾き飛ばしたからだ。


「な!」

「何だ?」

「妖術か?」


「下手くそな矢だな

 それでは当たらないぞ?」

「くそっ!」

「ふざけやがって」

バシュッ!


騎兵達は矢を番えると、今度は本気で頭を狙って放つ。

しかし矢は、再び見えない風の防壁に防がれる。


「な!」

「間違い無い

 これは妖術だ」

「矢が効かないだと?」


「やれやれ

 矢もまともに撃てないのか?

 こうするんだよ!

 マジック・アロー」

ドシュッ!

カシン!


アーネストが大将に向かって、マジック・アローを放つ。

それは真っ直ぐに飛んで、正確に大将の兜に命中する。


「な!」

「ぐぬぬぬ

 舐めおって!」

「いけません

 アムゼン様」

「敵の矢は届きます」

「貴様等!

 すぐにあの妖術を何とかしろ!」

「何とかしろと申されましても…」

「そうですよ

 我々は妖術はまるで知りませんんで…」

「うるさい!

 何とかしろと言ったら、何とかしろ」

「がふっ」


「あ~あ…

 また殺してる」

「何なんだ?

 あの男は?」

「あれが敵の将軍なんだろう」

「あれがか?」

「ああ

 そして馬鹿だ」


ギルバートは呆れて、アーネストは冷やかに小馬鹿にしていた。

そもそも主な攻撃の手段の、矢が効かない事が問題なのだ。

それなのにそれを、どうにか出来ないか騒いでいる。

頭の切れる仕官が居れば、すぐさま切り込んでいただろう。

しかし彼等は、妖術と恐れて何も出来なかった。


「どうした?

 その頭はお飾りか?」

「ぐぬぬぬ…」

「あ!

 すまない

 中身が入って無いのか」

「くそおっ!」

「ぷっ」

「くすくす」

「笑うな!」

「ぐはっ」

「げはっ」

「アムゼン様!」


敵の大将は、笑われてると気付いて手近な兵士を切り殺す。

しかしそれは、笑っていた兵士達では無かった。

そもそも近くに居た兵士は、とても笑える状況では無かった。

いつ自分が切り殺されるか、恐怖で震え上がっていた。


「これ以上味方を殺さないでください」

「だったら、貴様がどうにかして来い!」

「はあ?」

「あの妖術を打ち破って来い!」

「いえ、我々では…」

「ああん?」


返答に窮する部隊長に、アムゼンは剣を振り上げる。


「くそ!

 こうなったら…」

「全軍、突撃!」

「え?」

「ぐずぐずするな!」

「あ、はい」


部隊長の指示が、騎兵達に突撃を命じる。

しかし矢が効かなかった為に、騎兵達も尻込みをしていた。

それで部隊長の一人が、勇気を振り絞って前に出る。


「私に続け!」

「え?」

「う、うおおお」

「わあああ」


「来るか?」

「そうだな

 騎兵隊は前に!」

「はい」

「なるべく殺さない様に

 力の差を見せてやれ」

「はい」

「突撃!」

「うおおお!」

「うりゃあああ!」


騎兵達は前に出ると、一気に敵兵の前に進み出る。

そして士気が十分に上がって無い敵兵を、いとも容易く馬上から叩き落す。

それも殺さない様に、鎌の柄の部分でぶん殴ってだ。

それでも戦意が著しく低いので、敵兵は易々と叩き落されて行った。


「な!」

「馬鹿な

 こっちは馬の扱いには慣れているんだぞ?」

「しかし…」


確かに彼等は、馬の扱い自体は上手いのだろう。

しかし戦意が無い上に、先の矢を防いだ妖術が気になっていた。

それで易々と懐に入られて、鎌の柄で殴り落とされて行く。

それに驚いた後続は、さらに尻込みをしていた。


「何故じゃ?

 何故ワシの部隊が負けておる?」

「アムゼン様

 ここは危ないです」

「うるさい!

 こうなれば神に選ばれたワシが…」


アムゼンという男は、確かに神に選ばれていた。

そこそこの膂力も持ち、訓練場では負けなしであった。

しかし騎兵達に比べても、実戦経験が少な過ぎた。

前に出たものの、すぐに囲まれて叩き落される。


「うおお…げはっ」

「こいつが大将か?」

「随分と弱いな?」

「ああ

 これじゃあ、ゴブリンやコボルトの方がマシだぞ?」

「比べるのも可哀想だな」

「ぐうっ

 このっ!」

ガキン!

カシャン!


アムゼンは腰の剣を引き抜き、さらに馬に切り付けようとした。

しかし騎兵の一人に、軽々と剣を弾き飛ばされる。

彼はそこまで、弱い訳では無かった。

しかし騎兵達は、これまで何度も視線を潜って来ている。

その力量の差は、簡単に崩せる物では無かった。


「ありゃ?

 これは想像以上に…」

「ああ

 あんなに弱いのか?」


それは人間の基準では無かった。

ギルバート達は気が付かない内に、相当な強さになっていたのだ。

人間同士の戦いなら、それこそオークを倒せるぐらいで十分なのだ。

騎兵達は、いつの間にか精鋭部隊となっていたのだ。


「ぐうっ…」

「よし

 敵将は押さえたぞ」


「くそっ!」

「アムゼン様が押さえられた今、逆らう事は出来ん」

「武器を収めろ」

「引け!

 引けー!」


部隊長の指示で、敵兵は速やかに引き下がる。

元々戦う気が無いので、その行動は素早かった。


「アーネスト様

 どうしますか?」

「そのまま連れて来い

 それから縄も用意しろ」

「はい」


「おい!

 離せ!

 この無礼者が!」

「何て言っているか分かるか?」

「さあ?」

「兎に角拘束だな」

「くそ!

 離せ!」


アムゼンは暴れるが、騎兵達の力には敵わなかった。

騎兵達の膂力は、今ではオーガと戦えるぐらいになっている。

いや、既にランクDの魔獣と戦えるのだ、それ以上かも知れないだろう。

そんな力の差があるので、アムゼンは勘単に引き摺られて行った。


「まさかな…

 こうも容易く捕まるとは…」

「アーネスト様

 考えてみれば当然かと」

「ん?」

「我々だけで、既にランクDの魔獣と戦えます」

「いや、しかし苦戦してただろ?」

「ええ

 ですがそれに比べると…」

「あ!

 そうか、そこまでの強さの訳が無いのか」

「ええ」


彼等はこれまで、魔物と戦った事が無いと言っていた。

そんな彼等が、魔物を退治しているギルバート達に勝てる訳が無いのだ。

それもただの魔物では無く、ランクの高い魔獣と戦って勝っているのだ。

力量の差は大きかった。


「勇者はそれなりに強かったが…」

「ですがその他は…」

「そうだな

 こんなに簡単に勝てるとは思わなかったが…」


アーネストは、なんだか彼等が哀れに見えて来た。

碌に戦う力も身に着けず、ただ数だけ揃えて向かって来たのだ。

女神は何を思って、彼等をここに差し向けたのか?

その意図が分からず、アーネストは男に視線を向ける。


「さて

 貴様は神に選ばれたと言っていたな」

「ぐぬう…

 何故だ!

 何故神は、ワシをこんな目に…」

「ふむ

 その様子では、大した事は知らない様だな」

「何?」


「貴様等が神と思っているのは、恐らくは偽の女神だろう」

「何だと?

 我等の神が偽者だと?

 何を…」

「良いから聞け」


アーネストは男の言葉を遮ると、そのまま彼に質問する。


「お前等の神は、何を要求した?」

「はあ?」

「だから、神は何だと言っていたのだ?」

「そんな物、ワシ等に指示を出しただけだ

 ここに妖魔が住んで居るから、捕まえて奴隷にしろと…」

「本当か?」

「何だと?」


男の様子から、彼等は本当にそう信じて来ている様に見えた。

しかしそれなら、何でこんな弱い者達を差し向けたのか?

勇者が強いと言っても、騎兵達なら数人で何とか出来そうな程度だった。

まだまだ強くなる可能性はあったが、あまりにも戦闘経験が少ない。

そんな者達を差し向けて、女神は何をしたかったのか?


「お前はそれを、直接神とやらから聞いたのか?」

「何だと?

 いくらワシが神に選ばれていると言っても、そんな不遜な事は…」

「はあ?

 それじゃあ、誰がお前に神託を下したんだ?」

「それは神殿の守護者達が…」

「おい!

 それじゃあお前達は、その神殿の守護者とか言う奴の指示に従ったのか?」

「あ、ああ

 当たり前だろ、彼等は神の代弁者だ」

「はあ…」


アーネストは頭を抱えると、憐れむ様に男を見る。


「それじゃあ、貴様も良い様に使われたという事か」

「何だと?」

「だってそうだろ?

 本物の神が居るかどうかも怪しいのに…」

「居る!

 神は絶対に居るんだ

 我々が選ばれた事こそ、その証明だ」

「あのなあ…

 本当に選ばれたのなら、何でこんな簡単に負けるんだ?」

「それは…

 え?

 どういう事だ?」」

「本当に頭が悪いのか?

 神なんて居ないんだよ

 お前等は体よく使われて、ここに差し向けられたんだ」

「馬鹿な!

 そんな筈は無い!

 現に神は存在して…」


男はアーネストの言葉に、反論しようと喚き立てる。

しかしアーネストは、そんな男を憐れみの籠った目で見て、哀しそうに首を振った。


「おい

 アーネスト

 奴は何と言っているんだ?」

「ああ

 神が存在していると、本気で信じているんだろう」

「いや、女神は存在しているだろう?」

「そうじゃない

 彼等にとって、都合の良い神だ

 そんな物は存在していない」

「そりゃそうだろうが…

 それじゃあこいつ等の言っている神は?」

「ああ

 女神が…

 いや、偽の女神が都合良く、こいつ等を操る為にでっち上げた神だろう」

「そんな物が…」

「ああ

 恐らくは女神が眠りに着いたのを見て、架空の神をでっち上げたのだろう」


ミッドガルド帝国も、六大神という新たな神を祀っていた。

しかしそれは、亡くなった初代皇帝を英雄視して祀られた物だった。

一歩間違えれば、それもこの様な偽りの神になっていたかも知れない。

彼等はそういう意味では、不幸な存在であった。


「それじゃあ偽の神に命じられて?」

「さあな?

 偽の神は居るだろうが…

 これは政治闘争の為の派兵の可能性もある」

「偽の女神の仕業じゃ無いのか?」

「どうだろう?

 そうだとしたら、何の為の派兵なんだ?」


「ううむ…

 時間稼ぎ?」

「そうだな

 オレも最初はそう思ったよ

 しかしそれなら、何でこの程度なんだ?」

「それは…

 他に居なかったとか?」

「魔物や魔獣が居るだろ?」

「しかしムルムルも、オレ達が倒しただろう?

 それで動かせる手駒が無かったとか?」

「そうだな…

 その可能性もあるが…」


しかし肝心の、時間稼ぎの意図が分からない。

彼女は確かに、神殿に来る様に言っていた。

その前のアモンに関しては、時間稼ぎの意図はあったかも知れない。

しかしその後の行動には、どうも整合性を欠いていた。


「よく分からんが…

 それで、こいつ等はどうする?」

「そうだな

 差し当たっては、これ以上ここに攻め込むなと釘を刺すか」

「出来るのか?」

「ああ

 やってみるさ」


アーネストは男に振り返ると、再び帝国語で語り掛けた。


「お前達も、そういう意味では被害者だな」

「何だと?」

「居もしない神を信じ込まされ、こんな所まで攻めに来たんだ」

「神は居る!

 ワシ等は選ばれて…」

「だからな、そんな都合の良い物は存在しないって

 お前等が簡単に負けたのが、何よりの証拠だろう?」

「ふざけるな

 何が負けただ」

「いや、現に負けているだろう?」

「いいや、ワシはまだ死んでおらん

 それにワシの兵士達が…」

「あれが助けようという者の視線か?」


アーネストに言われて、アムゼンは騎兵達の方に視線を向ける。

しかしそこには、侮蔑と嘲りの視線しか無かった。

散々大きな口を叩いて、あっさりと敗けて捕まったのだ。

しかもそれまでに、味方である彼等にして来た振る舞いもある。

見放す事はあっても、助けようという気持ちにはなれなかった。


「あ…」

「散々好き勝手やって来たんだな

 誰も救おうとは思って無いだろう」

「そんな馬鹿な事があるか!

 ワシは神に選ばれた…」

「だったら、自力でどうにかしてみろよ?

 神に選ばれたんだろう?」

「ぐぬう…」


男は項垂れると、既に逆らう気力を失っていた。

しかし問題は、残された敵の兵士達だろう。

幾分かは負傷させて、戦力は削っている。

しかしその数は、依然として数倍と大きかった。


「やれやれ

 これは交渉に骨が折れそうだ」


アーネストは呟くと、比較的まともそうな部隊長に視線を移す。

これから話し合いにするにしても、出来れば選民思想に侵されていない、まともな人間とすべきだ。

それを考えた上で、アーネストはその部隊長に手招きをする。

彼等を納得させて、帰還させる話し合いをする為に。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ