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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
573/800

第573話

ギルバート達が見張る洞窟から、少し離れた場所に焚火の灯りが見える

数から見ても、かなりの人数が集まっているのが分かる

まともに戦えば、さすがにこの人数では勝ち目は無い

しかしギルバートは、焦りもせずに落ち着いて見ていた

敵の主力の数は、恐らくは2000名前後だろう

焚かれている焚火の数からも、そのぐらいは居ると推測できる

何よりもここで培った生命力の探知が、それぐらいの数を把握している

人数だけならば、おおよそ10倍以上であった


「あっちが2000人で、こっちは約150名といったところか」

「ああ

 しかしこっちは、騎兵が30名のハイランドオークが40名だ」

「怪我が治ったのが良かったな」

「ああ

 しかし戦力は依然少ないぞ」


アモンと一緒に戦った時に、多くの騎兵やハイランドオークが亡くなった。

そして怪我人も多く出て、一時は戦える者は50名程度にまで減っていた。

しかし新しいポーションは、切断されていなければ傷も癒せた。

その事が怪我人を、戦えるまでに癒す事に繋がる。


「皇女の魔法が強化された事も助かったな」

「ああ

 まさか小さな欠損部位なら、修復するとはな」


何よりも大きかったのは、皇女が新しい神聖魔法を覚えた事だろう。

傷の具合によっては、瀕死の者も癒す事が出来た。

これによって、戦線に復帰出来る者が大幅に増えた。

しかしそれでも、戦える者は少なかった。


「それでも76名だ

 この人数で追い返せるか?」

「難しいな…」

「なら、今の内に奇襲を掛けるか」

「それは良くないだろう?

 余計に戦意を煽る事になるぞ」

「しかし指揮官を倒せば、戦意は無くなるんじゃないか?」

「それは最期の賭けだな」


今までの様子からして、兵士のほとんどがいやいや従っている。

しかし奇襲を掛ければ、こちらが襲っている事になる。

今は追い返せても、後々の禍根を残す事になるだろう。

一番望ましいのは、こちらに戦意が無い事を示して、丁重にお帰りいただく事だ。


「素直に帰ってくれればな…」

「そうだな…

 しかしあれほど選民思想を剥き出しにしているんだ」

「そうだな

 オレ達の事を蛮族とか抜かしていたからな」


これが戦場で無ければ、こちらの文明の力を見せ付けただろう。

しかし遠征中なので、そこまでの魔道具などは持ち合わせてはいない。

これが野営地を覗いていれば、状況は違っただろう。

彼等の野営の道具は、ギルバート達に比べてあまりにも粗末だった。


「どう思う?」

「何がだ?」

「明日まで待つべきか?」

「それはそうだろう?」

「でも早目に手を打たないと…」

「それでもだ」


ギルバートとしては、少しでも被害が出ない様にしたい。

しかしアーネストは、先の事を考えて迂闊な行動を避けようとしていた。

二人が相談していると、セリアが退屈そうに隣に座る。

そろそろ夜も更けて来たので、ギルバートと一緒に寝たいのだ。


「お兄ちゃん

 まだ掛かるの?」

「ん?

 ああ、あれが気になってな」

「向こうの人達?」

「ああ

 明日にも攻め込んで来るだろう」

「でも、こっちの方が強いんだよ?」

「それでもだ

 こっちは人数が少ない」


ギルバートは、ドワーフ達を戦力に数えていない。

確かに弩弓(バリスタ)は扱えるが、いざという時には守るべき対象だ。

それにセリアや皇女も守らなければならない。

そう考えると、なるべく戦力は削っておきたかった。


「でも、お爺ちゃん達も戦えるよ?」

「それはそうだが、危険な事はさせられない」

「そう?」

「ああ

 お前や皇女も守らないとな」

「おい

 皇女は戦えるだろう?」

「それでもだ

 なるべくなら、同じ人間を殺させる事は避けたい」

「ふっ

 優しいな」

「そうか?」


「ああ

 冒険者や魔術師だったら、女でも戦わせただろう?」

「そうでもないぞ

 出来れば女性には、血生臭い事はさせたく無いな」

「そういう考えは良く無いぞ

 戦える者なら、平等に戦わせるべきだ」

「何を…

 女性は守るべき対象だろう?」

「それは違うだろう?

 女性でも強い者は強い

 そういう考えだから、皇女に訓練をさせないんだろ」

「むう!

 喧嘩はしないの!」

「あ…」

「ぬう…」


セリアが頬っぺたを膨らませて、二人の間に割り込んだ。


「向こうの人達は悪い人達なの?」

「いや

 ほとんどは無理矢理従わされているだろう…」

「そうだな

 中には戦いたがらない者も…」

「だったら問題は無いんじゃ無いの?

 寒そうにしてるし、みんな弱っているよ?」

「寒そうに?」

「弱っているとは?」


「んとね

 向こうはよく眠れないみたい

 寒くて震えてるみたいだよ」

「寒いって…」

「いや、気候が違うのかもな

 それで寒さに耐えられなくて、あまり眠れていないのかも」

「そうなのか?」

「ああ

 あくまでセリアの妄想が当たっているならだが」

「むう!

 妄想じゃ無いもん

 シルフに聞いたんだもん」


セリアはシルフに、敵の野営地の様子を探ってもらっていた。

それはシルフが、近くで野営をしている集団を警戒したからだ。

それでシルフから、彼等が寒くて震えている事を聞いていた。

それに寝不足で、体調も崩している事まで調べていた。


「シルフ?

 精霊に聞いたのか?」

「うん

 シルフが変な人が集まってるって

 それで見て来てもらったの」

「へえ…」

「それで寒さで寝不足と分かったのか」

「うん♪」


ギルバートはセリアの、頭を撫でてやる。


「でかしたぞ」

「にゅふふふ」


「しかしこれで、不安要素は少なくなったな」

「そうだな

 寝不足なら、戦意も下がっているだろう」

「ああ

 人数だけ多くても、それではまともに戦えないだろう」

「そうなってくると、また入り口に待ち構えるか」

「そうだな

 それが無難だろう」


二人が頷き合っていると、セリアはギルバートの手を引っ張る。


「むう!

 もう決まった?」

「ああ

 多分これで、問題は無いと思う」

「それじゃあセリアと…」

「おい!」

「むう

 昨日もしてもらって無いもん」

「いや、それは…」

「はあ…

 行って来い」

「いや、アーネスト?」

「音は外に漏れない様にしといてやる」

「そういう問題じゃあ…」


アーネストはニヤニヤ笑うと、セリアの顔を覗き込む。


「さすがにギルが足腰立てないのは困る

 ほどほどにな」

「うん♪」

「おい!」

「無事に済むとは限らない

 悔いは残すな」

「どういう意味だ!」

「はははは」


アーネストは笑うと、二人の天幕の側に向かって呪文を唱える。

空気の層を作って、周囲に音が漏れなくする魔法だ。


「ほどほどにしろよ」

「うにゅっ!

 でも、お兄ちゃんが離してくれないと思うよ」

「それは困った事だな」

「お前等…」

「はははは

 早くお前達の子供が見たいな」

「うるさい!」

「うみゅう…

 お兄ちゃん、頑張ろうね」

「くっ…」


ギルバートは顔を赤くしながら、セリアに手を引かれて天幕に入る。

それを見送ってから、アーネストは騎兵達に声を掛ける。

魔法が効いている間は、外の音も中には聞こえないのだ。


「お前達…」

「分かっています」

「二人の邪魔はしませんよ」

「どうせ向こうは、このまま何もしてきませんし」


騎兵達も、敵兵が戦意を失っている事は確信していた。

昼間に戦った時も、彼等はいやいや戦っていた。

しかしあれから、半日ほどで戻って来た事には驚いていた。

恐らく本隊は、そんなに離れた場所では無かったのだろう。


「人数は多いですが…」

「問題は無いだろう

 寒さで震えているらしい」

「寒さでですか?」

「ああ

 ここよりは暖かい場所から来たんだろう」

「そうですか…」

「そうなれば装備も…」

「そうだな

 そろそろ春とはいえ、まだ朝晩は寒い筈だ

 慣れない環境で体調も崩しているだろう

 それに…」

「昼の装備から見ても、貧弱でしたね」

「ああ

 本隊もあの程度なら、苦も無く追い返せれそうだな」


アーネストは騎兵達に見張りを任せて、自分も休む事にする。

相手を侮る訳では無いが、寒さに震えているぐらいだ。

このまま夜襲をする気力は無いだろう。

それなら少しでも休んで、翌日に万全にすべきだろう。


「お前達も、交代でしっかりと休んでおけ」

「はい」

「魔物が近くに出ても、奴等が騒いで気付くだろう」

「そうですね」

「それでは見張りは最低限で?」

「ああ

 それで事足りるだろう」


近くに野営をしているのだ、何かあれば彼等の方が先に騒ぐだろう。

アーネストはそう判断して、兵士をなるべく休ませる事にした。

事実アーネストの考えは、正鵠を射ていた。

朝になるまで彼等は、そのまま静かに過ごしていた。

そして魔物や魔獣も、それを邪魔しない様に近付かなかった。


「予想通りかな?」

「はあ…」

「アーネスト様はここまで考えて?」

「ああ

 そうだろうなとは予測してたさ」


敵の兵士達は、朝になってもすぐには動かなかった。

いや、動けなかったのだ。

寒さに震えながら、朝になって再び焚火に薪をくべる。

そうして十分に暖まるまで、その場から動こうとはしなかった。


「頭の悪い奴が上に居るんだろう

 そうで無ければ、早目に夜襲を行っているさ」

「しかし昨晩は…」

「ああ

 夜襲はしてこないと確信はあったよ

 何せ寒さに震えているんだ、とてもそんな余裕は無いだろう」


敵が寒さに弱いと考えて、朝日が昇って暖かくなるまでは動かないと判断する。

それは一歩間違えれば、敵に先制する余裕を与えてしまう。

しかしアーネストは、そうならないと自信を持っていた。

結果として、十分に余裕を持って準備が出来る。


「戦闘に備えつつ、十分な朝食を取ってくれ」

「え?」

「しかし敵は…」

「まだ起きたばかりだ

 今暫くは来ないさ」


アーネストはそう言って、自分ものんびりと寛ぎながら食事をする。

敵が動き始める頃には、騎兵達も十分な食事をした後だった。

そしてその余裕が、そのまま士気にも差を見せている。

敵兵は冷えた身体に、冷えた固いパンしか食べていなかった。


「アーネスト

 敵が動き始めたって?」

「ああ

 先ずは半数の、1000名が進んで来ている

 残りは野営地に居るな」

「何でだ?

 そのまま2000名で向かえば…」

「そうだよな

 しかし敵の大将は、余程の自信家か頭が弱いのか…」

「どっちなんだろうな?」

「多分両方なんだろう?

 選民思想にどっぷりと浸かっているからな」

「強いと過信しているのか?」

「いや、思い込んでいるんだろう

 でないと勇者を使うだろう?」


アーネストが指差す先には、昨日の勇者の姿は無かった。

そのまま更迭されたか、あるいは責任を問うて殺されたか。

いずれにせよ、あの中で唯一まともに戦えていた、勇者の若者の姿は無かった。


「これで楽勝だろう」

「そうなのか?

 もしかしたらもっと強い奴が…」

「そんな奴が居れば、昨日の内に使うさ」

「そうか?」

「ああ

 昨日の先遣隊に、強い奴を着けない訳が無い」


それなりの地位にある者を、頭にしていたのだ。

それを守る為にも、相応の戦力は着けていた筈だ。

それがあの程度なら、今日の敵部隊は大した事は無いだろう。

むしろ昨日よりは、戦力は落ちている可能性が高い。


「ぐはははは

 貴様等が蛮族か

 大人しく降伏するのなら、苦しまない様に殺してやる」

「はあ…

 また分り易い馬鹿が…」

「なあ

 何て言ってるんだ?」

「大人しく降伏しろって

 苦しませない様に殺してやるとか言ってるよ」

「分り易い悪人面だな」

「ぷっ

 それは可哀想だろう」

「殿下…」

「顔は選べませんから…くっ」


ギルバートの言葉に、騎兵達は笑いを堪えていた。

向こうからは、騎兵の先頭しか見えていない。

しかし騎兵達が、彼等を見ながら笑いを堪えているのは見えていた。


「何だ?

 奴等は何と言っておる?」

「さあ?

 蛮族の言葉は分かりませんので」

「しかし、何か不愉快だな

 先ずは先頭の二人を切り殺すか?」

「あ?

 待ってください

 大将が出るのは危険です」


アムゼンはそのまま、前に出ようとしていた。

その事からも、彼があまり賢く無い事は目に見えて分かる。

大将が自ら殺されに出て来るなど、普通ではあり得ないからだ。

ギルバートが先頭に立つのは、彼が負けないと判断しているからだ。

そうでなければ、ギルバートも迂闊には前に出るような真似はしなかった。


「うーむ

 本当に賢く無さそうだ

 自分から殺されに出ようとしている」

「殿下!」

「いや、普段の殿下があれですよ?」

「馬鹿言うな

 オレは力量の差を見てから出ているぞ

 相手の力が分からない時は、慎重に様子を見てるぞ」

「え?」

「そうですか?」

「あれえ?」

「おい!」


騎兵達はまたもや、クスクスと失笑していた。

その事が気に入らないのか、大将の男は顔を赤くしていた。


「貴様等!

 蛮族風情が舐めた事を…」

「どっちが蛮族かな?」

「むう?

 言葉が通じる様だな

 貴様は奴隷か?」

「はあ?

 お前は馬鹿か?」

「な!」

「ぷっ」

「くっくっくっくっ…」


アーネストの言葉に、思わず数人が笑いを堪えていた。


「貴様!」

「がふっ」

ザシュッ!


男は怒りに任せて、手近な兵士を切り殺した。

しかしその男は、失笑を堪えていた兵士では無い。


「おいおい

 笑われたからって八つ当たりか?

 本当に頭が悪いんだな」

「な!

 貴様…」

「自分で兵士を殺して、戦力を削るとは…

 ああ!

 それが蛮族の戦い方なのか?」

「ぐぬぬぬ…」

「何だ?

 あの男は?」

「アムゼン様を恐れていないぞ?」

「しかし蛮族なんだろ?

 その恐ろしさを理解出来ないとか…」


憤怒に顔を赤くした、アムゼンの周りで兵士達がひそひそと呟く。

彼等にとっては、アムゼンは神に選ばれた戦士であった。

だからそれを小馬鹿にする、アーネストの行為は理解出来なかった。


「どうやら苦しんで死にたいらしいな…」

「え?

 何だって?

 オレを殺せると思っているのか?」

「貴様!」

「アムゼン様」

「迂闊に敵の挑発に乗らないでください!」

「は、離せ!」

「危険ですよ」


戦いの前の舌戦は、こうしてアーネストが優位に進めていた。

まだまだ続きます。

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