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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
571/800

第571話

ドワーフの郷を襲う者との戦闘は、予想に反して簡単に決着が着いた

彼等を指揮していた隊長を、ギルバートが殺したのだ

それで戦闘は終わったが、まだ問題が残っていた

そもそも彼等が、何処から来たか分かっていなかった

アーネストは彼等との会話で、彼等が東から来たと確信していた

しかしそうなると、別の問題が浮かんで来る

彼等は神の加護で、ここまで魔物に襲われていないと語っていた

しかし女神は、彼等の様な選民思想や奴隷制を嫌っているのだ

それなのに、彼等を護ってここまで攻め込ませた事になるのだ


「お前達の神は、女神様か?」

「女神?

 さあな?

 オレ達は見た事も無い」

「はあ?」

「神と言葉を交わせるのは、神に選ばれた高位の巫女様だけだ」

「巫女?

 それが神と話せる者か?」

「軽々しく言うな!

 巫女様は神に選ばれた尊きお方だ」

「そうだ

 貴様等が軽々しく、口に出しても良いお方では無い」

「ふうん

 その割には、オレは何ともないがな?」

「な…」

「このっ!」


アーネストはヘラヘラと笑って、軽く挑発してみる。

確かにアーネストは、これだけ不遜な態度を取っても何も起きていない。

むしろ何も起こらない事で、その巫女や神の存在に疑念が生まれていた。

そんなに素晴らしい存在が、馬鹿にされても何も起こらないのだ。


「馬鹿な!」

「しかし本当に…」

「いや、しかし神に仇成す行為だぞ?」

「だが実際に、何も起こらないぞ?」

「しかしビルグシャの父親は…」

「そうだな

 天罰で死んだ者も居るんだぞ?」


騎兵達はアーネストの行為に、最初は顔色を変えて非難していた。

しかしアーネストに、何も起こらない事で困惑していた。

彼等の国では、神に仇成す者には天罰が与えられていた。

少なくとも、そう言われる者が出ているのだ。


「天罰ねえ

 大方誰かに殺されて、それで神のせいにしてるんだろう?」

「何て不遜な!」

「いや、そう言えば以前に…

 ビルグシャの父親は領主に逆らったって…」

「だからって…」

「だが、こいつは死なないぞ?」

「そうだ!

 あれだけ神の事を口にしてるのに…」


「そもそも

 本当にそんな神なら、お前達も死ぬんじゃないのか?」

「え?」

「あ…」


アーネストに突っ込まれて、騎兵達は狼狽える。

知らず知らずにだが、彼等も神の威光を疑い、疑問の声を発していた。

本当にそんな力を持つ神なら、彼等にも何某かの天罰が下っている筈だ。

それなのに彼等には、未だに何も起こっていなかった。


「そんな…」

「勇者様?」


アーネストが言う様に、神の天罰とやらは落ちて来ない。

それを指摘されて、勇者達は明らかに狼狽えていた。

自分達が絶対と信じていた、神の威光が揺らいだのだ。

そこでアーネストは、さらに追及をする。


「お前達が信じている神は、どんな者なんだ?」

「な!」

「神の事を…」

「お前達には聞いていない

 そこの勇者と呼ばれている者に聞いている」


「おい!

 アーネスト!」

「大丈夫だ

 彼等の情報を聞いている」

「本当に大丈夫なのか?」

「ああ

 何も知らないみたいだからな

 ここで色々と教えておいてやる」

「女神の事か?」

「ああ」


ギルバートは帝国語は少しか分からない。

だから敵の騎兵達の様子を見て、危険では無いかと心配していた。

確かに彼等の信じる神を愚弄する事になる。

だから彼等も、剣呑では無い表情になる。

しかし事情を知れば、それどころでは無くなるだろう。


「お前達の知っている神は、女神では無いのか?」

「女神?

 それはこの辺りを昔、治めていた王国の神の事か?」

「ん?

 どういう事だ?」


「我々の帝国は、その女神を打倒した帝国だ」

「女神を?

 そんな話は聞いた事が無いぞ?」

「それはそうだろう

 我等の帝国は、カイザートという英雄の力で王国を滅ぼした

 その後に我々の皇帝は、我々の帝国をお造りになられた

 その時に女神も、打ち倒されて居なくなった」

「ん?

 カイザートを知っているのか?」

「ああ

 我々の初代皇帝、アラン様と共に戦われたというお話だ」

「な…

 六大神の一人か?

 生きていたのか?」

「六大神?

 それは何だ?」


その勇者の話には、カイザートと共に戦った英雄のアランが出ていた。

アランは帝国の歴史では、アルサードと共に亡くなった事になっている。

帝都が一度焼失した際に、六人の英雄は亡くなった事になっている。

剣聖と呼ばれたアランも、その時に亡くなった事になっているのだ。


「ふん

 そっちの国ではどうか知らんが…

 カイザートは殺されたそうじゃ無いか」

「確かにそうだ

 それでミッドガルドは、一旦帝都を焼失している」

「ああ

 その時に、英雄は帝国を見限った

 我々の皇帝も、その際に故国に戻ったのだ」

「故国…

 そうか!

 お前達の帝国と言うのは、東の平原の国か?」


勇者を送り出した国は、東にある平原に存在すると言われる、遊牧民の集まった国だった。

そこは帝国とも交易が滅多に行われず、その詳細は王国には伝わっていなかった。

彼の話から察するに、そこも帝国と名乗っているらしい。

それも亡くなったとされていた、六大神の一人が皇帝となっていたのだ。


「そうか…

 帝都が焼失したどさくさに、彼は故国に戻っていたのか…」

「何の話だ?」

「ああ

 ミッドガルド帝国の帝都が焼失したのは、そっちも知っているんだな?」

「そうだ」

「しかしこっちでは、英雄は6名とも亡くなった事になっている

 それで六大神と呼ばれて、神として崇められているんだ」

「へえ…

 貴様等の国では神なのか?」

「いや

 オレの国は違う

 それは帝国の話だ」

「ん?」

「ここはクリサリス聖教王国

 帝国と戦って独立した国だ」


「おい

 帝都は焼失したと…」

「帝都は焼け落ちたが、その後も帝国は存続している

 お前達の国とも交易をしていただろうが」

「何だと?

 帝国は滅びたと聞いたが?

 それで女神とやらも滅びたと…」

「ふむ為政者によって作り変えられた歴史か

 初代皇帝はどうだか知らないが…

 どっちの帝国も歴史が歪められていたな」

「何だと?」

「カイザート皇帝とアルサード皇妃は亡くなられた

 しかし帝国も女神も、そのまま存続していた

 少なくとも、女神はそのまま存在している」

「馬鹿な!

 我々の神が…」

「その神とやらが、本物だという証拠は?」

「証拠だと?」


神を証明しようとなどと、あまりにも不遜であろう。

勇者は狼狽えていたが、騎兵達は黙っていなかった。

彼等はアーネストに、激しく噛み付いた。


「ふざけるな!」

「神は我々帝国の神だぞ!」

「そもそも女神などというものと…」

「その女神が、世界の声の主だとしても?」

「な…」

「何だと?」


「ああ

 スキルや称号を得た者の中には、声を聞いた者も居るだろう

 まあ、中には聞いていない者も居るかも知れないが」

「しかしあれは神が与えた力で…」

「だが、声は女の声だっただろ?」

「ぐっ…」


世界の声(ワールド・アナウンス)は、確かに女性の声だった。

正確には、女神の声には似ているが、もっと無機質な声ではあった。

しかし今までアーネストが見て来た、女神も偽者の可能性があった。

それにあの声は、女神が直接語っている訳では無かった。

しかし彼等には、明確に説得力のある話だった。


「だったら我々が崇めていた神は?」

「お前達の為政者が、都合が良く語っている神だろうな」

「そんな…」

「それじゃあ神が我々を選んだと言うのは…」


「そもそもが神に…

 女神にとっては、人間も魔物も自分が作り出した子供達なんだ

 それに優劣なんぞ無いんだよ」

「魔物も?」

「ああ

 それにお前達が蔑んでいる、ドワーフの様な亜人もな」

「馬鹿な!

 あれは我々崇高な人間を生み出す時に造られた、出来損無いの…」

「その考えの方が不遜だぞ?

 神とやらがお前達の考える様な素晴らしい者なら…

 そもそも、そんな失敗をするのか?」

「え?」

「あ…」


「そんな筈は無い!」

「そうだ!

 神は素晴らしい存在で…」

「そんな存在が、あんな奴を隊長に選んだのか?

 そして選ばれたお前等が、オレ達に簡単に負けるのか?」

「う…」

「しかし…」


アーネストの言葉が、敵兵達の言葉を打ち砕く。

そして彼等に、根本的な間違いがあると指摘する。


「そもそも選ばれた者が、そんな選民思想を広めるのか?」

「選民思想って何だ?」

「魔導王国が滅びた理由は、人間が至上の存在として、女神に選ばれたと増長したからだ」

「馬鹿な!

 王国が滅びたのは、悪しき王が国主として着いたからだろう?」

「いいや

 確かに愚かな国王が、王位に着いていたのもあるだろう

 しかし王国が滅びた一番の理由は、そんな人間が至上だという考えが原因なんだ」

「何を馬鹿な事を…

 人間こそが神がその分身として造られた、至上の存在と…」

「それはマーテリアルの事だろう?

 普通の人間は、その存在には遠く及ばないぞ?」

「マーテリアル?

 何だ?

 それは」

「ギル!」

「あん?」


ギルバートは言葉よく分からなかったので、近くで退屈そうに眺めていた。

急に声を掛けられて、不機嫌そうに返事をする。

すっかり蚊帳の外だったので、少し機嫌を損ねていた。


「何だ?」

「お前の魔力を見せてやれ」

「魔力?」

「ああ

 身体強化を使って、全身に力を加えるだけで良い」

「こうか?」


「え?」

「な、何だ!」

「ひ、ひいっ」


敵の騎兵達は、ギルバートの魔力に圧せられて震えていた。

普通ならば、こちらの騎兵にも影響が出ただろう。

しかし彼等は、最初にアーネストが魔法を掛けていたのが効果を見せていた。

それで魔力には、敵の騎兵だけが震えていた。


「これは…」

「ギルはまだ、マーテリアルに完全に覚醒していない

 しかしそれでも、お前達とは格が違うと分るだろう?」

「ああ

 こんな力があるのなら…

 私を殺すなんて…」

「ああ

 オレ達は何も、お前等を殺す気は無かった

 お前達がドワーフ達を奴隷にして、オレ達を皆殺しにしようとしていたからな」

「馬鹿な!

 私達は貴様等が、ここで妖魔と悪しき行いをしていると聞いて…」

「そう命じられていたんだろう?

 それを碌に考えずに、鵜呑みにするのもどうかと思うがな」

「ぐうっ…」

「どうせあの男に…

 いや、その上の領主や国主もそうなのか?」

「…」


勇者は何も答えない。

いや、何も反論が出来なかったのだ。

領主どころか、国主もその様な命令を下していた。

それは確かに、彼等が妖魔と手を組んでいると思っていたからだ。

そう信じて、何も考えずに従っていた。


「そもそも、その妖魔って言葉も便利だな」

「何?」

「魔物や魔獣は分かる

 女神が人間を、襲わせる為に生み出しているからな」

「ならば間違っては…」

「しかし亜人は違う」

「何?」


「そもそもな、ドワーフやハイエルフは人間と一緒に作り出された」

「馬鹿な!

 亜人は人間より劣る存在で、王国が造った…」

「そこから嘘だな

 元々王国が生まれる前から、彼等は存在していた

 それこそ人間の一種としてな」

「馬鹿な!

 人間の一種だと?」

「ああ

 彼等も人間だ

 これが証拠だ」


アーネストはそう言って、魔導王国よりも前の時代の記録の写本を差し出す。

それは魔導王国が、人間に関して記した記録だった。

そこにはドワーフ達も、人間と共に生み出されたと記されている。

そして獣人やエルフは、その後に他の種族との間に生まれたと記されている。

少なくとも、魔導王国の初期ではその様に認識されていた。


「何だ?

 これは?」

「お前達が言う王国が、初期に昔の記録を書き写した物だ」

「馬鹿な!

 それでは土妖精も人間だと?」

「ああ

 その眼で見てみるか?

 おい!」

「しょうが無いのう」

「え?

 あ!

 おい!」


アーネストの言葉で、奥から一人のドワーフが出て来る。

ギルバートは後ろからドワーフが出て来て、慌てて隠そうとする。


「ギル

 良いんだ」

「そうじゃ

 最早ここまで来れば、却って隠す方が問題じゃ」

「な…」

「これは?」

「彼がドワーフだ」

「これが?」

「土妖精?」

「ほとんど人間と変わらないじゃ無いか」


現れたドワーフを見て、騎兵達も動揺を隠せなかった。

これが最初に見られていたら、どうなっていたか分からない。

しかし彼等が人間と聞いた今、彼等を色眼鏡を掛けて見る事は無かった。

その事が敵兵達にも、ドワーフを素直に見る事に繋がった。


「妖魔だと聞いていたから…」

「いや、見た目がこうだからと言って…」

「しかしどう見ても…」

「ああ

 人間を少し小さくしただけだ

 そして彼等は、物造りが得意なだけの種族だ」

「物造り?

 それが危険な事を…」

「そうじゃ無いだろ!

 貴様等の国主は、彼等を奴隷として欲していた

 その意味が分からないのか?」

「え?

 いや…」

「簡単な事だ

 彼等を奴隷にして、死ぬまで武器や道具を作らせる

 妖魔だからな、死んでも問題は無いだろう?」

「え?

 でも死ぬまで?

 え?」

「そうだろう?

 その為にはオレ達が、邪魔になるからな」

「いや、そんな…

 まさか?」

「まだ分からないのか?

 なら試しに、そのまま戻ってみろ」

「え?」


アーネストは気付いていないが、彼等も非常に危険な状況だった。

だから敢えて、アーネストは彼等を引き留めたのだ。

しかし彼等は、その事に気付いていなかった。

アーネストは呆れて、勇者達を救う事を諦めていた。

この程度なら、救っても意味が無いだろう。


「どういう事だ?」

「戻れば分かるさ」

「それは…」


「オレからはもう、これ以上は言えないな」

「そ、そうか?

 しかし何故?

 何でここまで話してくれたんだ?」

「みすみす勇者とやらを、殺したくないと思ったからな?」

「え?」


「お前達はこのまま戻っても、殺されるだけだぞ」

「え?」

「何で?」

「はははは…

 そんな馬鹿な事が…」

「そう思うなら、戻ってみれば良い」

「分かった

 そうさせてもらう」


勇者達は、そう言って本隊に向かって戻って行った。

彼等はアーネストの言葉を、最後まで信じきれなかったのだ。

まだまだ続きます。

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