第569話
ドワーフの郷の入り口で、人間の軍勢がギルバートに襲い掛かる
若い男が先頭に出て、ギルバートに切り付ける
周りの騎兵達は、それを追う様に後ろから追従する
そしてアーネストを守る為に、ギルバート側の騎兵も慌てて洞窟から出て来る
男は槍を振るって、ギルバートに向かって来る
追従する騎兵達は、彼の行動に驚いて遅れていた
騎兵達自身は、丁寧に並べられた遺体に注意を引かれていたのだ
まさか殺された仲間が、丁重に扱われているとは思っていなかったのだ
「うおおおお」
「くそっ!」
「ギル!
気を付けろ!
そいつの槍は危険だ!」
「何の!」
ガギン!
今までのギルバートなら、そのまま回避していただろう。
しかし彼の槍捌きは、想像以上に鋭かった。
最初にアーネストが受けていなければ、ギルバートも油断していただろう。
しかし強烈な斬撃を警戒して、力を抜いて受け止める。
ガンドノフに教わった、ドワーフ流防御術が活かされていた。
「な!
くそっ…」
「へっ
軌道が分かっていれば、それぐらいは受け止めれる」
「くそ…
こいつが勇者だな」
アーネストは後ろに下がりながら、騎兵の陰から勇者を睨む。
彼が何らかのスキルを、女神から授かっている筈だ。
それを警戒して、何らかの魔法を掛けるべきと判断していた。
しかし騎兵も迫っているので、なかなか有効的な呪文が思い浮かばない。
「うおおおお」
「アルタイ殿に続け」
敵の騎兵達が、勇者の後方から迫って来る。
「させるか!」
「ドワーフ達を守るぞ」
「おう!」
こちらの騎兵達は、先の男の言葉を聞いている。
このままドワーフの元に向かわせては、奴隷として連れ去られるだろう。
そんな事は、世話になったドワーフ達にさせたくなかった。
だから騎兵達は、懸命に馬を駆って前に出る。
「うおおおお」
「掛かって来い」
「こなくそ」
ガキャン!
ギャリン!
互いに言葉は分からないが、激しく正面からぶつかる。
しかしこちらの騎兵は、鎌を器用に振って攻撃を往なす。
相手の人数が多いので、迂闊な攻撃は不意を突かれる事になる。
先ずは勢いを殺して、鎌で複数人に切り付ける。
「な、何?」
「受け止めただと?」
「せりゃあああ」
「これでも食らえ」
ザシュッ!
ズバッ!
「ぐわあああ」
「げはっ」
「くそっ
近付き過ぎた」
「おい!
後続は…ぐはっ」
敵の騎兵は勢いに任せて、固まって前に出過ぎていた。
その為に固まり過ぎて、槍を振るう隙が無かった。
その上で後続が詰めていて、逃げる隙間も無い。
こちらの騎兵が振るう鎌に、無慈悲に切り倒されて行く。
「おい!
前に出過ぎだ!」
「後ろに下がれ」
「くそっ
このままでは切り殺されるだけだ」
「何なんだ!
あの切れ味は…」
敵からすれば、その鎌は奇妙で危険な物に感じられた。
その見た目もだが、何よりも切れ味が異常だった。
敵の騎兵も皮鎧に板金を当てているが、それごとぶった切っているのだ。
「攻撃を押さえて、その隙に切り付けろ」
「こっちの攻撃は通っている」
「鎧は大丈夫そうだが、相手は槍だ
防具の隙を突かれるな」
こちらの鎧はミスリルの板金なので、槍もさすがに貫けない。
しかし腕や肩の継ぎ目を狙われれば、さすがに革の部分では耐えられない。
騎兵達はそこだけ気を付けて、慎重に攻撃を防いでは切り付ける。
それで一気に向かって来た100名ほどの敵の騎兵も、既に30名ほどが切り倒されていた。
「ぬおおおお」
「ぬおおじゃない!
お前等の仲間が倒されているだろうが!」
「くそっ!
何で切れないんだ!
オレの槍は神槍なんだぞ!」
ギルバートが心配して、勇者に語り掛けようとする。
しかしお互いに言葉が違うので、上手く伝わっていなかった。
「神槍…
そうか!
それも特殊な武器なんだな」
「アーネスト?」
ギルバートはアーネストの呟きが聞こえて、思わず聞き返す。
「前に集中しろ
恐らく光の欠片と同じ、特殊な武器みたいだ」
「そうなのか?
それは厄介だな」
アーネストはギルバートに、注意する様に促す。
アーネストの考えに間違いが無ければ、これは恐らく女神が与えた武器だ。
そして何らかの、特殊な力が秘められている筈だ。
それが何か分からぬ以上、迂闊な攻撃は命取りになり兼ねない。
「くそっ!
くそっ!
何故だ!
何故殺せない!」
「それはギルが、お前と同じ勇者みたいな存在だからだ」
「何!
そんな筈は無い!」
若い男は、アーネストの声が聞こえて狼狽える。
明らかにそれが、彼にとっては予想外な出来事だったらしい。
「オレは神様に、勇者として選ばれたんだ」
「だから?
お前以外にそんな者が、居ないと言っていたのか?」
「な…」
男は面食らった様に、ギルバートに攻撃する手を止めていた。
アーネストの言葉が、それだけ彼の心に刺さったのだ。
ギルバートも言葉の意味は分からなかったが、彼の言っている事は何となく分かった。
それで武器を降ろして、事の成り行きを見守る事にした。
「オレは選ばれた…」
「だからどうした?
お前のしている事が正しいと?」
「何!
貴様等こそオレの仲間を…」
「いきなり襲って来たからな
しかも死ぬまで向かって来た」
「何だと?
我々は誇り高い…」
「その誇り高いのは、ドワーフを奴隷にするのか?」
「はあ?」
男は振り返って、指揮官である隊長を探す。
しかし隊長は、既に姿を晦ましていた。
「おい!
テムゼンは何処に行った!」
しかし騎兵達は、戦いに夢中になって気が付かない。
しかも間が悪い事に、さらに後続の騎兵が向かっていた。
「くそっ!
どういう事だ?」
「その男だろうが…
ドワーフ達を汚らわしい土妖精と言っていたな」
「事実だろうが?
あれは人間を誑かす、魔性の妖魔だ!」
「はあ?
本気か?」
「何を言っている!
そもそも貴様も、怪しげな妖術を使っているでは無いか」
「な…
魔法を知らないのか?」
「ふん!
妖術を使う様な者は、怪しくてならん
貴様の話も、果たして真実か…」
男はそう言うと、唾を吐き捨てて侮蔑の視線でアーネストを見る。
ギルバートはその態度に、怒りを覚えて鎌を構えようとする。
しかしアーネストは、それを制して話を続ける。
「それじゃあ何か?
大人しく出て来るのなら、ワシの鉱山の穴掘りに使ってやる
逆らうつもりなら、害虫として駆除してやる
なんて言っていたのも当たり前だと?」
「むう?
そんな事を言っていたと?」
「ああ
あいつはドワーフ達の事を、人間と思っては…」
「はははは
それはそうだろう
土妖精は妖魔だ
人間と同じでは無い」
「何を馬鹿な事を…」
男はドワーフ達の事を、あくまで土妖精と侮蔑していた。
その上で、妖魔と呼んで敵視している様子でもあった。
これに関しては、アーネストも理解出来なかった。
だからこの思想が、どこの国の思想家も判断出来なかった。
「何なんだ?
お前達のその考えは?」
「あん?
邪悪な妖魔を、生かそうとする貴様等こそ何なんだ?」
「邪悪なんかじゃない!
ドワーフは善良な、人間と変わらない存在だぞ」
「ふん!
妖術師は、妖魔と通じていると聞いたが本当だな
他に言う事はあるか?」
「くそっ!
選民思想者め…」
「それが遺言か?
なら死ね!」
「させるか!」
ガギン!
男は今度は、アーネストを切り殺そうと槍を振るう。
しかしギルバートが、それを阻止すべく前に出る。
そして鎌の刃先で、槍の穂先を打ち返した。
刃先が打ち合った瞬間、バチバチと魔力が弾け合う。
「ぐうっ…」
「くっ
アーネストを狙うとはな
丸腰の相手を狙うのが、お前達のやり方か?」
「何を言っているのか分からんが…
貴様等の様な危険な奴等は皆殺しだ!」
「急に襲い掛かったり…
何て卑怯な奴等だ」
「ああ
言葉が通じないから!
お前達が戦う事が、女神の狙いなんだぞ」
「うるさい!
黙れ!」
「アーネストは下がってろ!」
二人は再び向き合うと、激しくぶつかり合う。
一見すると、馬上で槍を振るう勇者の方が有利だった。
しかしギルバートは、鎌を器用に振るって攻撃を弾く。
そうする事で、相手に優位に立たせない様にしていた。
「くそっ!
この妖魔に与する者め!
何で死なない」
「何を言ってるか分からんが、簡単に倒せると思うなよ」
ガギン!
二人が戦うすぐ側で、騎兵達も戦っている。
しかしこちらは、ギルバートの側の騎兵が圧勝していた。
次々と向かって来る騎兵を、押さえながら切り倒す。
切り倒された騎兵達は、既に100名を越えていた。
そしてその向こうでは、先ほどの騎兵隊長が金切り声を上げていた。
「貴様等!
何でその程度の敵を倒せん!」
「しかし…」
「敵は寡兵ですが、なかなかの手練ればかりですよ?」
「良いから数で押して、擂り潰してしまえ!」
「しかしこのまま攻めても…」
既に洞窟の前は、無数の死体が転がっている。
その為に足場が悪くなって、後続の騎兵も攻めあぐねていた。
その上で勇者が、槍を振るっている事もある。
その周囲では、危険なので近付けなくなっていた。
「良いから行け!
行って殺して来い!」
「しかし足元に仲間の死体が…」
「そんなの踏み潰してしまえ
どうせ役立たず共の死体だ!」
「な!」
「何だ?
私に逆らう気か?」
男の強気な言葉に、騎兵達は何も言い返せなかった。
彼が隊長を務めるのも、その父親の権力の影響なのだろう。
彼の一睨みで、騎兵達は逆らえずに黙ってしまう。
「良いからあのクズの死体を踏み潰してでも、あの生意気な奴等を殺して来い!」
「ぐう…」
「何だ?
私の命令が聞けないのか?」
「は、はい」
騎兵達は渋々、ギルバート達に向かって進んで行く。
しかし仲間が戦っているので、それ以上前に進めない。
「きいっ!
さっさと殺せ!」
「まだ喚いているよ」
「どうする?」
「どうするって言ったって…
これじゃあ」
殺された端から、順番に前に出るしかない。
しかしそれでは、密集したままなので槍が振り回せなくなる。
それで尚更、戦闘が難しくなっているのだ。
周りでは戦い難くて、仲間が次々と倒されている。
碌に槍を振るえないので、鎌に切り倒されるのも仕方が無いだろう。
「このまま…
切り殺されるだけなのか?」
「ふざけるなよ
そんな事の為に、ここに来たんじゃ無いぞ」
「そうだよ
生き残って帰って、家族を解放してもらうんだ」
「なのにこんな…」
騎兵達は、後ろで喚き散らす男を振り返る。
あんな無能に使われて、こんな場所で死にたく無かった。
しかし彼を生かして、活躍させて帰らなければ、彼等の家族は解放されない。
そういう約束で、彼等はここに来ているからだ。
そしてその会話の一部は、アーネストにも聞こえていた。
これでアーネストは、彼等の国の内情を知ってしまった。
選民思想で先導した上で、平民たちを人質で縛っている。
この戦いも、彼等を無理矢理従わせて、あの男が手柄を収める為の物なのだ。
「何が勇者だ!
あの男の手柄の為の戦いでは無いか!」
「何だと?」
男は再び、構えていた槍を降ろす。
「何が言いたい?」
「人質を取って、兵士にして戦わせる
それがお前達の遣り方だな?」
「何の事だ?」
「彼等の言葉を聞けよ」
アーネストは戦っている、騎兵達の方を指差す。
そこで男は、初めて騎兵達の必死な表情に気が付く。
それは生き残る為と言うよりは、何かの為に必死になっている表情だった。
そこで男は、槍を構えて騎兵の方へ向かう。
アーネストも騎兵達に、一旦戦いを収める様に声を掛けた。
「お前達!
一旦武器を仕舞え!」
「え?
アーネスト様?」
「お前等も武器を仕舞え
どうもおかしいな?」
「勇者様?」
「どうされたんですか?」
「妖魔とその仲間を、殺さなければ…」
「それが変だと言うんだ
その妖魔とやらは何処へ居る?」
ここでドワーフ達が、戦場に出ていない事が幸いした。
男は騎兵達と、ギルバートやアーネストしか見ていなかった。
隊長が言う様な、妖魔の姿を見ていなかったのだ。
「しかしアルタイ様
隊長からは妖魔を殺せと…」
「その妖魔が居ないだろう?
どういう事なんだ?」
「え?」
「いやあ…
我々も隊長からしか聞いてませんで…」
騎兵達も困惑して、後ろで金切り声を上げる隊長を見る。
ここでその隊長は、致命的なミスを犯していた。
興奮していたのか、勇者が戦っていない事に気が付いていなかった。
そして興奮して、騎兵達を詰る言葉を放っていた。
「どうした!
何であの者共を殺さない!」
「しかしアルタイ様が…」
「アルタイがどうした!
この部隊は私の物だ
良いからあの妖魔共を…」
「ですが味方も…」
「クズ共の心配をするな
なんなら貴様等も、家族共々処刑されたいのか?」
「処刑とは何だ?」
「な!
アルタイ?」
ここで隊長は、アルタイが近付いて来ている事に気が付いた。
「何で貴様がこっちに?」
「どうもおかしいと思ってな
それより処刑とは?」
「うるさい!
貴様はさっさと、あの妖魔共を…」
ザン!
アルタイは黙って、隊長の馬の側に槍を投げ付ける。
それに驚いて、隊長の馬が嘶きを上げる。
ヒヒーン
「うわっ!
何をする!」
アルタイはゆっくりと近付くと、そのまま槍を引き抜く。
「どういう事だ?」
「どうもこうも無い!
貴様は黙って…」
「妖魔など居ないではないか?
どういう事だ?」
「それは奴等が隠して…」
「それなら、あいつ等がいきなり襲ったというのは?」
「それは私が来たら、突然襲われて…」
「本当なのか?」
アルタイはそう言って、隊長を睨みつける。
隊長からは、いきなり襲われて仲間が殺されたと聞いていた。
しかしギルバート達の様子を見て、彼も違和感を感じていた。
本当にそうなら、先ほども奇襲を仕掛けた筈だ。
しかしギルバート達は、最初から会話をしようとしていた。
「どうなんだ?」
「ぐうっ…」
隊長は額に汗を浮かべて、アルタイの顔を睨んでいた。
まだまだ続きます。
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