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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
568/800

第568話

ドワーフの郷は、人間の軍に襲われていた

謎の騎兵部隊が、ギルバートに突然襲い掛かって来た

彼等は隊長に指示されて、ギルバートに向かって来る

しかし隊長は、そのまま逃げ出そうとしていた

騎兵達は何故か、必死になってギルバートに向かって来る

肝心の隊長は、既に逃げ出しているのに

彼等は恐怖の表情を浮かべて、懸命に向かって来る

ギルバートは止むを得ず、騎兵達を切り倒した


「止せ!

 お前達の隊長は、既に逃げ出したぞ」

「うわあああ」

「死ねえええ」

「くそっ!」

ガキン!

ドシュッ!


ギルバートは説得しようとするが、彼等は馬を駆って向かって来る。

槍は何とか切り飛ばせるが、それでも剣を引き抜いて向かって来る。

言葉が通じないからか、彼等は戦いを止めようとはしない。


「止せ!

 これ以上の戦いは無駄だ」

「うるさい!」

「オレ達に帰る場所は無いんだ」

「何!

 どういう事だ?」

「うわあああ」


アーネストが何とか、帝国語で訴える。

しかし彼等は、それでも我武者羅に向かって来た。

そうしてギルバートに、切り倒されるまで必死に向かって来た。


「はあ、はあ…

 奴等は何だって…」

「さあ?

 帰る場所が無いって言っていた

 もしかしてだが、奴隷の様な存在なのかも?」

「奴隷?

 それにしてはしっかりとした…」


そう、奴隷だとしては、彼等の装備はしっかりとした物だ。

何らかの理由で、逆らえ無いのかも知れない。

しかしそれにしては、あまりにも無謀な突撃だった。

武器を壊されても、死ぬまで向かって来たからだ。


「何だって言うんだ?

 死ぬまで戦わないといけない?」

「ああ

 恐らくだが、家族や仲間が人質なのかもな」

「何て卑劣な…」


先ほどの隊長とやらの発言を考えても、とてもまともな軍とは言えなかった。


「人質を取られて、それで戦っていると?」

「ああ

 魔導王国でも、そうやって奴隷の兵士を使っていた

 同じ様な考えの国なら…」

「それもあり得ると?」

「ああ

 考えたく無いがな」

「くそっ!

 ふざけやがって…」


ギルバートは切り倒されて、虫の息の騎兵達に止めを刺す。

止む無く切り倒したが、出来れば殺したくは無かった。

しかし彼等は、武器を破壊しても向かって来た。

殺さなければ、止める事は出来なかった。


「馬を回収してくれ」

「はい」


奥に隠れていた、騎兵達に馬を回収させる。

こちらに被害は無かったが、騎兵達は複雑な表情を浮かべていた。

同じ様な騎兵をしているが、立場が違えばこうも違うものだ。

自分達は信頼されているが、彼等は捨て駒に使われていた。

それが騎兵達には、とても嫌な物に映って見えた。


「殿下

 彼等の死体は…」

「ああ

 丁重に扱ってやってくれ

 だが、出来れば…」

「そうですね

 回収に来るでしょうか?」

「来て欲しいが…

 あの様子ではな」


出来れば遺体は、彼等の仲間に返したかった。

しかし隊長は、さっさと逃げ出して戻って来る様子も無い。

ギルバートはどうすべきかと、思案をする。


「ギル

 こっちに纏めて置いてやれ

 分り易い様に、仰向けにして並べよう」

「それで良いのか?」

「それしか無いだろう?

 出来れば早目に、火葬した方が良いのだが…」


クリサリス聖教王国では、遺体は死霊にならない様に火葬する。

出来ない時には、手足や首を切断してから埋める。

これは死体が、死霊に取り付かれても暴れない様にする為だ。

しかし国によっては、未だに土葬をする国もある。

相手が何者か分からないので、迂闊な処分が出来ないのだ。


「燃やす訳にはいかんだろ?

 向こうがそれで、反発する恐れもある」

「しかし死霊に…」

「その前に取りに来る

 それぐらいはして欲しいがな」


アーネストが指示を出して、遺体は洞窟の入り口から離れた場所に並べられる。

そこなら敵が来ても、そのまま踏み潰す事も無いだろう。

騎兵達は同情して、遺体を綺麗に並べてやった。


「可哀想に…」

「完全に捨て駒だったぞ!」

「あんな指揮官も居るんだな」

「いや

 王国にも居るらしいぞ

 我々は恵まれている方だ」

「おい!」

「はい

 すいません」


アーネストは一応、騎兵達に注意をする。

確かに王国でも、未だに悪い領主という者は居る。

そしてそうした領主の元では、兵士は使い捨てで殺されている。

しかしそういう醜聞は、出来ればギルバートに聞かせたく無かった。


「アーネスト

 オレだって分かっている」

「ああ

 だが、聞く必要は無いだろ?」

「それは…そうだが」

「それよりも、どうするかだな」


今来たのは、本来なら宣戦布告の兵士だった筈だ。

そこで攻める意思を示してから、翌日にでも攻め込む。

帝国などで、正しい戦争の所作として広まった遣り方だ。

しかし敵の指揮官は、それを逆手に取って奇襲を目論んでいた様子だ。

だからわざわざ、騎兵を20名も率いていたのだろう。


「宣戦布告

 そう判断しても良いのか?」

「そうだな

 しかしそこで、いきなり撃って来るとはな…」

「ああ

 殺す気満々だったな…」


ややもすれば、奇声を上げたり奇妙な行動を取っていた。

あんな男が隊長とは、貴族か何か地位のある者なのかも知れない。

そうで無ければ、あんな危険な男を使者には立てないだろう。


「いや…

 わざとなのか?」

「アーネスト?」

「いや、何でも無い」


アーネストは嫌な考えを、胸の奥に仕舞った。

その可能性が高い事に、今さらながら気が付いたのだ。

そうなると、この先は厄介な戦いになりそうだった。


アーネストはギルバートから離れて、騎兵達にこっそりと指示を出す。


「お前達

 ちょっと来い」

「アーネスト様?」

「どうされました?」

「ちょっとな」


アーネストは騎兵達に、これから起こりそうな事を説明する。


「さっきのあれ、偶然だと思うか?」

「騎兵隊長の暴走ですか?」

「選民思想でしたからね

 貴族の仕官ならあり得そうですが…」


「あれが戦争の理由なら?」

「え?」

「まさか?」

「あの隊長の事だ、帰ってどう説明すると思う?」

「あ!」

「確かにそうですね

 しかしだからと言って…」

「その上官が、それを狙って送り出したとしたら?」

「あり得ますが…」

「その場合は、そいつ等も同じ思想って事ですね?」

「ああ

 それが考えられる」


アーネストの予想に、騎兵達も頷く。

しかしそうなると、これから報復の軍が向かって来る事になる。


「どうします?」

「元より、ここを棄てるつもりだ

 だが、奴等は人数を揃えている可能性が高くなった」

「そうですね

 これで単なる偵察では無く、攻め落とそうとしていると判断出来ますね」


最初は500名と聞いて、向かって来るには微妙だと思った。

しかしそれすらも、餌にしている可能性が高くなった。

どこの国か分からないが、ここを攻め落とそうとしているのは間違いない。

そして500名の騎兵の向こうには、恐らく倍以上の軍が控えているだろう。


「中に入って、この事をガンドノフに話してくれ

 それから逃走ルートも、考える様に伝えてくれ」

「逃走ですか?

 しかし今の我々なら…」

「500名の方はどうにかなるだろう

 しかしその後方に、どれぐらい軍が居るか分からない

 それに…」

「それに?」

「お前達は帝国語は分かるか?」

「いえ…」

「オレは少しだけ…」


「さっきの奴が何と言っていたか?」

「確か奴隷とか皆殺しとか…」

「そこもだが、勇者と言っていただろ?」

「あ!

 そういえば…」

「勇者?」

「あれがか?」

「いや、勇者に知られるのがどうとか…」

「そうだ

 内容はよく分からなかったが、勇者が近くに居るのは間違いない」


その勇者というのが、どの様な人物か分からない。

しかし騎兵の様子からは、相当な手練れだと予想出来た。


「どこまでの力を持つか分からないが…」

「そうですね

 殿下の様な力を持つなら…」

「ああ

 厄介な事になりそうだ」


どれほどの力か分からないが、強い事は間違いない。

そんな人物が、向こうの軍には少なくとも一人は居るのだ。

そんな危険な者が居ては、騎兵達も無事では済まないだろう。


「ギルが居るから、そうそうは負けないとは思う

 しかし何が起こるか分からない」

「そうですね

 相当な手練れが居ると考えた方が良いですね」

「そうなってくると、弩弓(バリスタ)があっても油断できませんね」

「ああ

 だから緊急の際に、逃げ道があるか確認してくれ」

「はい」


騎兵達は指示を受けて、下のガンドノフの元へ向かった。


「頼んだぞ

 杞憂なら良いのだが…」


アーネストはそう言って、念の為に魔導書を開く。

勇者などと呼ばれる者が来るのだ。

念の為に、事前に魔法を行使しておいた方が良いだろう。

ギルバートもだが、騎兵達の生死にも関わって来る。

慎重に魔法を選んで、騎兵やギルバートに掛けておく。


風の防壁(エアリアル・カーテン)

 英雄の凱歌(ブレイブ・クライ)

「何だ?

 それは?」

「簡単な風の魔法だよ

 多少でも矢避けになるだろう

 それと士気を上げる魔法だ」

「へえ…」


「少しの間、お前の威圧みたいなスキルの効果を下げる」

「何だってそんな…」

「良いか、ギル

 向こうにもお前みたいなのが居る可能性がある」

「え?」

「どんな奴か分からないが、相当な技量の持ち主だ」

「何だってそんな…」


アーネストは問題が無い程度に、ギルバートにも情報を提起する。

勇者とは言わないのは、相手の素性が分からないからだ。


「恐らく相当な強さだろう

 彼等はそう言っていた」

「さっきの帝国語での会話か?

 確かに何か言っていたが…」

「ああ

 だから念の為に、騎兵達の士気が崩れない様に注意しろ」

「分かった」


恐らく勇者なら、何らかのスキルは持っている筈だ。

それが純粋な戦闘スキルなら、そこまで苦戦しないだろう。

しかしそれが、戦場に影響のあるスキルだと問題だ。

最悪戦意を挫かれて、敗走する原因にも成り兼ねない。


「強い奴が居るのか」

「何を嬉しそうに…」

「いや、だって強敵が居るんだろ?」

「おい!」


「なるべく戦わなくて済むのなら、その方が良いんだぞ」

「ええ!」

「当たり前だろ

 お前だけじゃ無いんだぞ」

「だって…」

「脳筋なら魔物とだけにしてくれ

 ここは生き残る事を、優先にするぞ」

「そ、そうか…」


戦いを避ける様にと聞いて、明らかにギルバートのやる気が落ちる。

しかし騎兵だけでは無く、セリアや皇女も居るのだ。

彼女達に危険が及ばない様に、上手く追い返す算段をする方が重要だ。


「セリアに危険が及んでも…

 良いのか?」

「いかん!

 それだけは…」

「だったら戦いを楽しむんじゃ無くて、守る事を第一に考えろ!」

「分かったよ…」


ギルバートは不満を溢しながらも、ドワーフの達の方に向かう。

そして弩弓の準備と、足止めの為に投石の準備もお願いする。

ドワーフ達は投石は、あまり上手いとは言えない。

しかし石は入り口に沢山転がっているので、弩弓以外にも使えるのだ。


「当てる必要は無いから、馬を狙ってくれ」

「良いのか?」

「ああ

 石が飛んで来れば、馬も警戒して動きが鈍る筈だ」

「なるほど

 投石か…

 考えたな」


アーネストも投石には賛成で、騎兵達が戻って来るまでに集めさせる事にする。

その辺を崩せば、いくらでも手頃な石は見付かる。

投石器(スリング)は無いが、馬に向けて投げるぐらいは出来るだろう。


1時間ほど石を集めていると、向こうから何かが近付く音が聞こえる。


「来たぞ!

 物陰に隠れて、迎え撃つ準備をしろ」

「はい」

「任せておけ」


「ギル

 今度は最初から出ておくぞ」

「何でだ?」

「隠れていては、そのまま踏み込まれるぞ」

「そうか?

 分かった」


アーネストはギルバートと並んで、洞窟の入り口で待ち構える。

そこへ砂埃を上げながら、騎兵の群れが殺到する。


「はあっ!

 貴様等か!」

「うおおお!」


騎兵の先頭には、頑丈そうな革鎧に身を固めた若者が立っている。

そのまま殺気立って、大きな槍を振り回しながら進んで来る。


「ぶっ殺してやる!」

「勇者様!

 お止めください」

「そのままでは危険です」

「何を言うか!

 お前等の友が、仲間が殺されたんだぞ!」


若者が突出するのを、何とか騎兵達が宥めようとする。

それを振り切る様に、若者は向かって行った。


「止まれ!

 そこの者達!」

ビリビリ!


ギルバートの咆哮が、馬の勢いを殺す。

咆哮に込められた威圧が、馬を怯えさせたのだ。


ブヒヒーン

「ぬおっ!」

「こ、これは!」

「どうどう!

 抑えろ」


突然の咆哮にも驚いたが、馬が暴れ出して騎馬の群れが乱れる。

ギルバートはそれを、腕を組んで見ていた。

このまま切り込んでも良いが、アーネストからの注意が効いていた。

だからそのまま、相手が落ち着くのを待っていた。


「ぐぬう…

 小癪な」

「勇者様

 先ずは落ち着いて」

「くそっ」

ヒヒーン


彼等は懸命になって、何とか馬を押さえる。

しかし馬は、完全にギルバートを恐れていた。

それだけ威圧の咆哮が、馬を恐れさせていた。


「ここに何しに来た!」

「何しに来ただと?

 我等の仲間を殺した罪!

 それを贖わせる為だ!」


アーネストの言葉に、先頭の若者が吠える様に答える。

その眼は兜の下からも、爛々と憎しみに燃えていた。


「我等の仲間を一方的に蹂躙してくれたそうだな!

 その報いをくれてやる!」

「仲間とは、そちらの者達か?」

「むう!

 ハン!

 ホラン!」


若者はアーネストが、指差した先に視線を向ける。

そこに見知った者の遺体があったのか、思わず声を上げていた。


「おい

 アーネスト?」

「ああ

 どうやら仲間らしいな」

「帝国語なんだな?

 それじゃあ帝国の?」

「いや、そうじゃ無さそうだ」


騎兵達が馬から飛び降りると、そのまま遺体の周りに集まる。

しかし若者は、そのまま馬上で槍を振り上げる。


「…くも…

 よくもこいつ等を!」

「危ない!」

「何!」


若者は馬を駆ると、一気にギルバートの前に踏み込む。

しかし咄嗟に、アーネストがマジック・シールドでそれを防ぐ。


「殺す…

 殺してやる!」

「アーネスト!」

「ああ

 どうやら問答無用の様だな」


若者は踵を返すと、一旦後ろに下がった。

そこで槍を振り上げると、全軍に突撃の号令を掛ける。


「殺せ!

 仲間の仇を取るのだ!

 全軍突撃!」


「やるしか無いか」

「くそっ!」


若者の号令で、騎兵が一気に向かって行った。

激しい戦いが始まったのだ。

まだまだ続きます。

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