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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
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第567話

ドワーフの郷に向かって、人間の軍が近付いていた

郷では攻撃に備えて、弩弓(バリスタ)の準備もされていた

そしてガンドノフは、いざという時の為に準備を始める

さすがにこの郷では、軍を相手に戦うのは難しいからだ

ギルバートは騎兵に指示を出し、徒歩で戦う準備をする

騎兵なので、本来は馬に乗った攻撃の方が得意だ

しかし郷の周りには、何も遮蔽物が無いのだ

こんな状況で馬で出れば、弓や魔法で攻撃されるだろう


「殿下

 本当に入り口で良いんですか?」

「命令されれば、ここに来る前に殲滅も…」

「いや、それはマズいだろう

 あちらが何を考えているか分からない」

「そうい事だ

 向こうが皆殺しのつもりなら、容赦なく倒すさ」


人間の軍勢としか分かっていないので、迂闊に攻める事が出来ない。

攻撃する為には、それだけの大義名分が必要なのだ。

ここは辺境になるので、黙っていればバレる事も無いだろう。

しかしギルバートは、あくまで対話を求める事にしていた。


「ハイランドオーク達は、新しく支給された真銀の盾を持ってここで待機してくれ」

「はい」

「いざとなったら、彼等を守ってくれ」

「分かりました」

「我々の力を見せる、絶好の機会ですね」

「ああ

 頼んだぞ」


ハイランドオークは、新たに真銀(ミスリル)の盾を渡されていた。

これは防御の魔法が刻まれていて、通常の魔鉱石の盾よりも性能が上だった。

それに魔力を流せば、多少の魔法や炎を防げる。

まさに防御に特化した作りになっていた。


弩弓(バリスタ)は入り口の陰に配置してくれ

 先ずは交渉からしてみる」

「なるほど

 弩弓が見えてはマズいんじゃな」

「ああ

 武力で脅すんじゃ無くて、話し合いで引いてもらいたい」

「そう上手く行くかのう?」


ドワーフ達の考えも分かっている。

こんな場所にわざわざ、軍を率いて来ているのだ。

最初から殺すつもりなのだろう。

しかしだからと言って、こちらから攻撃しては駄目なのだ。

そうすれば向こうに、攻撃されたと大義が立つからだ。


「こっちからではマズい

 攻撃の口実になるからな」

「どうせ攻撃されるんじゃ

 さっさと倒した方が楽じゃろうに」

「そうはいかんだろう?

 向こうにどんな言い分があるにしても、こちらから攻撃しては駄目だ

 それこそ無駄に敵を作る事になる」

「人間の世界は、相変わらず面倒じゃのう」

「そうじゃ

 何でわざわざ、殺し合いに理由を求めるかのう」


ドワーフからすれば、いつも人間から、一方的に理由を付けて襲われていた。

だから人間が掲げる、大義名分という物は信用していなかった。

彼等からすれば、人間は危険な魔物や魔獣と変わらないのだ。

ギルバート達の様に、話しが出来る人間は珍しい存在なのだ。


「そうだな

 恐らくは理由を付けて、あんた等を殺すか奴隷にしようとするだろう

 しかしそれを、阻止する理由が必要なんだ」

「何でじゃ?」

「それが無いと、今後もあんた等ドワーフ達が狙われるだろう?」

「そんな事…」

「そうじゃ

 今に始まった事じゃあ無い」

「襲って来るなら、戦って生き残るだけじゃ」

「そうじゃそうじゃ!」


ドワーフ達は、いい加減に逃げるのにはうんざりしていた。

ガンドノフが郷を捨てようと思ったのも、新たな場所でやり直したかったからだ。

人間の入って来ない、奥まった場所に郷を移す。

そうすれば少なくとも、人間は来ないという考えだ。

その道中で、ギルバート達の旅の手助けをする。

ガンドノフの考えは、そうした理由だった。


「駄目だ!

 ここで人間に反抗的なドワーフが居るとなれば

 それを討伐する為に軍が派遣される」

「今も派遣されておるじゃろう?」

「いや

 これから来るのは、恐らくは確認の筈だ

 いきなり襲って来る事は無いだろう」


ギルバートは、あくまでも様子見の軍だと考えていた。

勿論、後方には本隊も控えているだろう。

ここで攻撃すれば、本隊が合流して攻め滅ぼす。

そういう筋書きが予想されている。

だからこそ、こちらから攻めるのは止めているのだ。


「じゃが、どうせ倒すのなら…」

「いや、あくまで向こうから攻め込ませる

 その上で追い払うんだ

 なるべく殺さずにね」

「どうしてそんな面倒な…」

「こちらに攻撃する意思は無い

 それを示す為じゃ」

「ガンドノフ」


「奥の支度は出来た

 これでいざという時は、この郷を捨てて外に出る」

「ああ

 出来ればそんな事が無い様にしたいな…」

「それは無理じゃろうな

 恐らくは…

 本気でワシ等を殺そうとしておる」

「だろうな…」


ギルバートも、理屈では殺しに来ていると分かっている。

しかし少しでも可能性があるのなら、何とか軍を追い返したかった。

それはこの戦いで、どちらにも被害が出ると予想しているからだ。

これ以上女神の事で、犠牲は出したくは無かった。


「見えて来ました

 旗を掲げた騎兵が見えます」

「分かった

 アーネスト」

「ああ

 オレも行った方が良いだろう

 皇女はどうする?」

「帝国の皇女が居るとなると、余計にややこしくなりそうだ

 ここは隠れていてもらおう」

「分かったわ

 気を付けてね」

「ああ」


「お兄ちゃん」

「うん

 なるべく話し合いで終わらせる」

「気を付けてよ」

「ああ

 行って来る」


ギルバートはセリアに口付けをすると、階段を登って行った。

外に出ると、既に見える距離に騎兵が散開していた。

彼等は小型の弓を構えて、馬上から郷の入り口を狙っていた。


「出て来い!

 汚らわしい土妖精共が!」

「なっ!」

「ふん

 予想通りじゃな」


人間の軍の指揮官らしい、着飾った鎧の男が声を上げる。

しかしそれは、選民思想を掲げる国の言葉だった。

彼等は最初から、ドワーフ達を人間として見ていないのだ。

道具程度としてしか見ていなかったのだ。


「大人しく出て来るのなら、ワシの鉱山の穴掘りに使ってやる

 逆らうつもりなら、害虫として駆除してやる

 三つ数える内に出て来い!」


男は訛りの強い、帝国語で何か喚いている。

ギルバートは一部は理解出来たが、喚いている言葉は今一分からなかった。

しかしニュアンスから、何となく善くない言葉だとは理解出来る。

男が宣言すると、騎兵達は入り口を囲む様に広がる。

そして弓を構えて、いつでも射殺せる様に狙わせていた。


「い~ち」

「くそ!

 ふざけやがって」

「おい!

 今出ると撃たれるぞ」

「構わんさ

 あの程度当たらん」


以前までのギルバートなら、アーネストは全力で止めただろう。

しかし今のギルバートは、ドワーフ流の防御術を身に着けていた。


「に~い」

「何の権限があって、この郷を狙っている」

「撃て!」


男はニヤリと笑うと、一斉に射る様に指示を出す。

最初っから表に出た者は、射殺そうと狙っていたのだ。

そしてある程度殺して、逆らう気力を無くしてから奴隷にする。

そのつもりで矢を射掛けさせていた。


しかしギルバートは、そんな放たれた矢を軽々と叩き落す。

ミスリルで作られたクリサリスの鎌は、軽くて丈夫だった。

それを片手で振り回すと、飛んで来る矢を全て叩き落す。

男はそれを、矢で射殺したと勘違いしていた。


「ひゃははは

 さあ、どんどん殺せ!

 出て来た奴等は、見せしめに皆殺しだ」


男は嬉々として指示を出すが、横の騎兵が慌てて具申する。


「隊長

 当たっていません」

「はあ?

 何で当たって無いんだ?

 お前等下手か?」


男は自分も構えると、一斉に矢を放った。

しかしギルバートは、再び簡単に弾き落として行く。


「な!

 何で当たらない」

「くっ

 どうやら腕利きの様ですね」

「あんな小僧が?

 ふざけるな!

 何で神の使徒たる私の矢で死なないんだ!

 死ね!」


男は再び叫び、矢を放った。

しかしお世辞にも、その矢は騎兵の物よりも威力は低かった。

ギルバートは面倒臭くなって、それを腕で払い落とす。


「な…

 私は神の使徒だぞ…

 何で当たらんのだ…」


「なあ

 あれは何て言ってるんだ?」


ギルバートは気になって、顔を赤く蒼くする男を指差す。

アーネストはギルバートの隣に立ちながら、男が言っている言葉を簡単に訳す。


「神の使徒たる私の、矢に当たらない筈がない

 何で当たって死なないんだって」

「何で当たらないといけないんだ?

 そもそも使徒って…

 あれがか?」


ギルバートが指差しているのを見て、男は金切り声を上げて腕を振り回す。


「撃て

 撃ち殺せ

 誰でも良いから皆殺しだ」

「はあ…」


騎兵達は面倒臭そうに、矢を番えて放つ。

しかしギルバートも、そんな矢に当たるつもりは無い。

軽々と鎌を振るうと、矢を叩き落して行った。


「何で殺せないんだ!」

「言ったでしょう

 あれはかなりの腕ですよ」

「それに妖術師も居ます」

「妖術師だと?

 そんな者が現実に…」

「そうですね

 しかし目の前に居ますよ」

「何も無いのに矢が弾かれています」


アーネストを狙う者も居たが、当然マジック・シールドで防がれていた。

アーネストとしても、マジック・シールドの試運転にちょうど良かったのだ。


「ふむ

 弓が主な騎兵か…」

「変わっているな」

「ああ

 この周辺の国じゃあ無いな」


言葉は帝国語に似ているが、所々訛って独特な言葉になっている。

アーネストはその言葉から、帝国の向こうにある平原の国を想定していた。

確か遊牧民の国家があり、彼等は馬上から弓を射れると聞いていた。

その特徴からしても、その関係者だと想像が付く。


「隊長

 勇者様を呼びましょう」

「あれは勇者様と同格です」

「勇者だと?

 あんな坊ちゃんなんぞ呼べるか!」

「しかしこのままでは…」

「ふざけるな

 奴が来たら殺しも出来んし、奴隷も確保出来んだろうが!」

「しかし…」

「止むを得ません」


騎兵の一人が、草に火を着けて放り投げる。

それには染料が混じっているのか、煙には赤い色が混じっていた。


「な!

 何を勝手な事を!」

「ですが危険です」

「ここは一旦下がって…

 うるせえ!」

「ぐわっ!」

ザシュッ!


男は部下の騎兵を、剣を引き抜くなり切り殺した。


「な!」

「私の言う事を聞かん奴は、裏切り者として殺す!」

「隊長…」


「何て奴だ

 部下を切り殺したぞ?」

「ああ

 自分の思い通りにならなくて、切り殺したみたいだな」

「胸糞悪いな」

「ああ

 典型的な選民思想者だな」


アーネストもその男には、腹を立てていた。

ドワーフに対する態度もだが、部下の騎兵に対する態度も最悪だった。

それに漏れ聞こえた会話から、人殺しを楽しんでいる節も見えていた。


「勇者がどうとか言っていたぞ」

「勇者?

 あれがか?」

「いや、他に居るんだろう?

 それが邪魔になるみたいだな」

「ふうん…

 それなら勇者は…」

「まだまともか分からないぞ」


隊長と呼ばれる男は、確かに勇者を毛嫌いしている様子だった。

だからと言って、その勇者がまともかは分からない。

こんな男が隊長をしているぐらいだ、その国がまともとは思えない。


「あの狼煙が勇者を呼ぶ物らしい

 警戒をしろ」

「ああ」


男は金切り声を上げて、ヒステリックに部下に当たっていた。

部下である騎兵達は、隊長を説得しようとしていた。

しかしその隊長はキレて、終いにはもう一人の騎兵も切り殺した。


「良いから殺せ!

 皆殺しだ!」

「知りませんよ」

「行け!」


隊長が喚き散らして、騎兵達は渋々前に出る。

しかし先ほどの遣り取りで、実力はある程度図れていた。

彼等の腕では、ギルバートにはとても敵わないだろう。

それも複数人で突っ込んでも、恐らくは手傷も与えられないだろう。

その上で、後方に兵士が潜んでいると想定されていた。


「隊長の命だ」

「悪いが死んでもらう」

「ギル?

 訳した方が良いか?」

「構わんよ

 何となく分かる

 来るなら命を賭けるつもりで来い!」


ギルバートは鎌を構えると、向かって来る騎兵達を睨む。

彼等も言葉は分からないが、意味は通じていた様だ。

口を引き結ぶと、槍を手にしてギルバートに向かって来た。


「うおおおお」

「わああああ」

「甘い!」

ガキン!

ザシュッ!


ギルバートは向かって来た騎兵の、槍を鎌で叩き切る。

しかし彼等も、その程度では止まれなかった。

槍を放り投げると、今度は剣を引き抜いて向かって来る。


「わああああ」

「うりゃあああ」

「槍が効かんのに、剣でどうにかなると思ったのか?」

キン!

バキン!


どうやら鉄製の剣の様だったが、こちらは真銀の鎌である。

振り回される鎌の前には、剣は簡単に叩き折られていた。


「ぐっ…」

「くそっ!」

「引け!

 殺すつもりは…」


「この役立たずが!」

「ぐぼあ」

「隊ちょがは」

「な!」


隊長と呼ばれていた男は、部下の後ろから槍を突き刺す。

しかしギルバートは、そんな槍の穂先も躱し様に切り飛ばす。

隊長はそのまま、剣を引き抜いて切り掛かった。

さらにもう一人の騎兵が、その攻撃に巻き込まれて切り殺された。


「何をしておる

 そいつを押さえておかんか!」

「そんな無茶な!」

「貴様等役立たずを、使ってやっておるのじゃぞ」

「ぐうっ…」

「くそっ!」


騎兵達は自棄になって、ギルバートとアーネストを狙って来る。


「馬鹿か?

 お前等も殺されるぞ?」

「うおおおお」

「死なば諸共!」

「うわああああ」

「ギル!

 構わんから切れ!」

「くそっ!」

ガキン!

ザシュッ!


ギルバートは止むを得ず、向かって来る騎兵を切り倒す。

その隙を突いて、後ろから体長が狙って来る。

既に形振り構わず、彼は部下ごと切り殺そうと剣を振るって来た。

ギルバートは、そんな隊長の武器を弾き飛ばした。


「くそ!

 くそ、くそ、くそ!

 ふざけるな」


隊長は逃げ出し、その場を後にしようとする。


「隊長!」

「何処に向かわれるのですか?」


騎兵はまだ、数名がギルバート達の前に残されていた。

しかし隊長は、そのまま部下を置いて逃げようとしていた。

まだまだ続きます。

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