第566話
アーネストが身に着けていた、鑑定の魔法にはまだ秘密があった
今まではスキルや、称号しか見ていなかったのだ
しかしガンドノフから、細かいステータスも見られる事を教えられる
それを見た上で、ガンドノフは騎兵達の訓練を提案する
騎兵達は向かい合って、武器を打ち合っては受け流す訓練をしていた
この数日で、彼等の防御術は格段に上がっていた
それは彼等のステータスに、防御術ランク3と表示されているぐらいだ
ガンドノフの指導もあって、今ならグレイ・ウルフの攻撃も捌けそうだった
「しかし…
まさかステータスなんて表示まであるとは…」
「うむ
ワシも身に着けた時には、驚いたものじゃ」
ガンドノフは顎髭を扱きながら、騎兵達の訓練を見ていた。
考えてみれば、彼の指導が的確なのも当然だ。
ある程度の能力が見えているので、どう対処すべきか予想出来ていたのだ。
それで個人に合わせて、防御術の指導をしていたのだ。
「逆にワシは、お前の能力に驚いておる
ステータスを見ないで、よく指導出来たもんじゃ」
「それは以前に、知り合いが指導していたのを見ていたからね
それでもガンドノフの様に、細かい指示は出来なかったよ」
「それはそうじゃろう
ステータスを見ておらんからな」
騎兵によっては、素早さや器用さにバラツキがある。
体力や耐久力では、ある程度の平均値に納まっている。
しかしその他の値では、どうしても個性が出ているのだ。
だから訓練をするにも、その個性を伸ばして教える必要があるのだ。
「こら!
もっと足を踏ん張れ」
「はい」
「そっちのお前は、力任せにするな
もっと力を抜いて、相手の動きに合わせろ」
「はい」
この指導も、騎兵達のステータスがある程度分かっているからだ。
どこを伸ばして、どこを足りない分を補わせるか、その都度様子を見ているからだ。
「武器の開発も?」
「そうじゃな
例えばミスリルの剣は、どうやって加工するのか?
その大まかな方法は、鑑定の魔法で分る
後はそれを、作る者に教えるだけじゃ」
「なるほどね…
かなり便利な能力なんだ」
「そうじゃな
しかし何事にも、欠点はある」
鑑定の魔法の問題は、足りない物は表示されない。
例えば魔道具で、火を着ける棒があったとする。
それが簡単に手に入る、素材で出来ていれば問題は無い。
その素材も見れるし、どうやって作るかも分かる。
しかしそれが、未知の素材や技法では分からないのだ。
鑑定は失敗して、分かる範囲でしか表示されない。
だから地下の兵器も、表面の装甲版しか完成していなかった。
動力や武装に関しては、素材や製法が分からなかったのだ。
「体力や素早さは分かるけど…
耐久力って?」
「持久力や耐性の指標じゃな
ほれ
あっちの方が値が高いじゃろ?」
耐久力の値を比べると、中に値の高い者が居る。
そうした者は、持久力や耐性の値が高くなっている。
それが生まれつきの物なのか、後から鍛えた物かは分からない。
しかし実際に、耐性も値に関係していた。
「なるほど…
本当に耐久力なんだ」
「そうじゃ」
「それじゃあ魔力って?」
「文字通りじゃな
値は魔法を扱える能力と、鍛えた能力から来る
お前は恐らく、小さい頃から高かった筈じゃ」
「そうなのか?」
「ああ
自分のステータスも見れる
比べてみろ」
ガンドノフに言われて、アーネストは自分のステータスを見る。
そして体力が恐ろしく低い事に、ガックリと落ち込んだ。
「こんなに低いとは…」
「あん?
お前の魔力は、最早魔物と比べても異常じゃぞ」
「いや、体力が…」
「ああ
それは仕方が無い」
コッソリガンドノフの体力を見ると、騎兵達の倍以上の値だった。
それに比べると、アーネストは桁が一つ下だった。
その代わり魔力は、確かに桁からして違っていた。
「まあ、あくまで指標じゃからな
値が高くとも、使いこなせれなければ…」
「そうだな
魔力の値がこんななのに…
使える魔法に限界があるのは、やっぱり修練不足かな?」
「そうじゃな
それもあるが、魔力を効率良く使えておらんのじゃろう
1の魔力で足りる事を、5や10でやれば…
どうしても無駄が出るし、負担が掛かる」
「そうなんだよな…」
「それを鍛える為にも
そろそろ…」
「ああ
マジック・アロー
パラライズ」
アーネストは騎兵達に向けて、麻痺の効果を乗せた魔法の矢を放つ。
騎兵達は訓練に集中しているが、魔力の流れに反応する。
そして咄嗟に魔力を集めて、身体強化を発動させる。
「うむ
上手く対処出来ておる」
「あれで良いのか?」
「ああ
先ずは慣れる事じゃ
細かい事はそれからじゃ」
「マジック・アロー
スリープ」
今度は騎兵数人と向かい合っている、ギルバートに向けて飛ばす。
こちらも身体強化で、見事に魔法の矢を弾き返す。
しかもこちらは、何の魔法か事前には伝えていない。
それを察知して、弾き返しているのはギルバートの資質が高いからだ。
あれからアーネストは、ギルバートのステータスも確認した。
やはりと言うべきか、基礎の値からして騎兵の倍以上の値だった。
しかも耐性に関しても、軒並み30%~50%以上の耐性を身に着けている。
それでもポイズン・サーヴァントの毒が、多少なりとも効くのは猛毒だからだろう。
「ギルはさすがだな」
「ああ
防御術に関しては、もうワシに教えれる事は無い
後は引き崩しやフェイントじゃが…」
「こればっかりはなあ…
あいつは馬鹿正直だから」
技術に関しては、既に十分な高みに達していた。
しかしギルバートは、未だに引き崩しには慣れていなかった。
そしてフェイントに対しても、まだまだ完全には対処出来ていない。
これはギルバートの、性格の問題だった。
相手の動きに対して、素直に反応してしまう。
こうなってくれば、後は勘で対処出来る様になるしか無い。
その為には、もっと繰り返して対処して、慣れて行くしか無かった。
「あれから2週間か…」
「そうじゃな
そろそろ移動しても…」
騎兵達に関しては、まだまだ訓練が必要だった。
しかし期間を考えれば、そろそろ動かなければマズいだろう。
あれから女神が、何の手も打って来ない事もある。
何をしているのか分からない事が、却って不気味に感じられた。
「このまま何もしない…
何て事は無いだろうな」
「そうじゃな
アモンを倒したとはいえ、向こうは油断はしておらんじゃろう
こちらが力を着ける為に、ここに籠っている事は想定しておる筈じゃ」
「だったらそろそろ…」
「ああ
何か手を打っておるじゃろう
それも嫌らしい手をな」
アモンが亡くなった戦いから、2週間以上経っているのだ。
その間に女神から、明確な妨害は行われていない。
最後の妨害は、2週間前のムルムルの襲撃だけだ。
「魔王の襲撃も…
もう乗り越えられた様じゃしな」
「ああ
アモンの時に比べれば、立ち直りも早かったな」
実際にはギルバートは、ムルムルの死に責任を感じていた。
他に遣り様が無かったのかと、悩んでもいた。
しかしそれが、他の者達にも悪影響を与えると、アモンの死で痛感していた。
だからセリアの前でしか、弱音は吐いていなかった。
翌日になり…。
正確には地下なので、時間は少しズレてはいたが、出発の準備が始められた。
訓練は引き続き行われたが、ミスリルの装備の配布が行われる。
鎧のサイズを合わせたり、剣が合うか試されたりする。
それから新しい剣や鎌の、仕上がりに合わせる様に訓練も行われる。
今までと切れ味も重さも違うので、身体に馴染ませる時間が必要なのだ。
それと並行して、食料やポーションの補充も始められた。
ポーションも在庫はあるが、この先の戦いが厳しくなると予測されている。
それに合わせて、より質の良いポーションを作っているのだ。
そして食料も、周辺の魔獣を狩って集められていた。
そうした準備が始まって、2日目の朝が来た頃だった。
外で狩りをしていた、ハイランドオーク達が慌てて帰って来た。
「大変だ
人間の軍が近付いている」
「軍?
何処の国の軍だ?」
「私達では分からない」
「そもそもこの辺りには、人間が住んで居ない筈だ」
「そう言われればそうだな…」
ここはカザンの北東に当たり、カザンから軍が来るとは思えない。
王国が軍を興すには、今の時期ではあり得ないだろう。
各領主は兵士が足りておらず、また魔物が周辺にいるからだ。
それに王国から来るにも、途中の魔物は危険過ぎる。
「帝国も今頃は、カザンか王都に居る筈だよな」
「ああ
帝都があんな事になったんだ
今頃は王都に入っている筈だ」
帝国の方も、帝都が女神によって砂に沈められた。
アルマート公爵も、王都に難民として向かった筈だ。
それ以外の貴族にしても、わざわざ危険な北に進軍する理由は無いだろう。
他に考えられる、人間の国は周辺には無かった。
「何処から来たんだ?」
「いずれにしろ、オレが出るしか無いだろう」
騎兵達が話し合っている中、ギルバートは武装して階段に向かう。
ハイランドオーク達の話では、ここから半日の距離まで近いづいているとの事だ。
そのまま真っ直ぐ、このドワーフの郷に向かっている。
先ず間違い無く、彼等の目標はこの郷だろう。
「ギル
大丈夫か?」
「ああ
こちらには敵意は無い
そう説明して引き上げてもらうさ」
「そう簡単には行かないと思うが?」
「そうか?
そもそもここは、人間の住む土地では無いんだ
何処の国の者にしても、無断で侵入するとは…」
「だから危険なんだよ
気を付けろよ」
アーネストはそう言って、自身もミスリル製の胸当てを身に着ける。
アーネストは体力が無いので、重い鎧は身に着けられない。
だから魔獣の皮を使った、厚めのローブを身に着けている。
その上で上半身には、ミスリルの板金の胸当てを身に着けている。
ミスリルは魔法金属で、鉄よりも軽くて丈夫だ。
そして魔力の伝導率が高いので、魔導士の胸当ても相性が良いのだ。
その上で腕には、手を保護する為に腕輪も身に着けている。
これに魔力を通す事で、腕を保護するのだ。
ギルバートの方は、魔獣の革鎧にミスリルの板金を加工している。
胸や肩などを板金で覆って、動きを阻害しない様に保護している。
板金だけにしているのは、ギルバートの素早さを考えてだ。
騎兵達の鎧は、ギルバートの物よりも板金を増やしていた。
「どの辺に来ている?」
「ここからはまだ見えませんね」
「方角は?」
「東との事ですから、あっちです」
見張りのハイランドオークは、仲間から聞いた方角を指差す。
まだ半日ぐらいの距離があるので、ここからは見えない。
しかし洞窟の出口か左手、東の方角から確かに、何かが近付いて来る気配が感じられる。
ここ数日の訓練で、ギルバートは前よりも気配に敏感になっていた。
「確かに…
何かが向かって来ている」
「ええ
私も多くの生き物が、こちらに向かっているのを感じます」
「どのぐらいの規模なんだ?」
「さあ?
詳細は分かりませんが、500以上だと言う報告です」
「随分と多いな
となると…やはり軍が動いているのか」
500人以上となれば、ただの寄せ集めとは考えられない。
少なくとも、何らかの軍の前線部隊が来ているのだろう。
そしてその後方には、さらに部隊が迫っている可能性は十分にある。
しかし問題は、こんな所に向かって来る理由だ。
「考えられるのは…
女神の仕業か?」
「え?
でも女神は、人間を滅ぼすって…」
「ああ
しかし他には、考えられんよな」
そもそもここは、魔物や魔獣が住んで居る場所だ。
ドワーフの郷に関しては、アモンに教わるまで知らなかったのだ。
それが何処の国か分からないが、ドワーフの郷を目指すとは思えない。
少なくとも、ドワーフ達はここ数十年、人間と交流は無かったのだから。
「それでは女神が、わざわざ私達を襲わせる為に?」
「ああ
何処の国からか分からないが、ここに向かわせた可能性が高いな」
「どうしますか?」
「そうだな
先ずは呼び掛けてみて…
それでもどうしょうも無ければ、戦うしか無いな」
「そうですか…」
「ああ
残念だが相当な人数を集めている
そう考えれば、戦いになる可能性が高いな」
ギルバートは顔を顰めると、ハイランドオークに見張りを任せて一旦下りる。
そしてアーネストとガンドノフが居る場所まで戻って来た。
「どうした?
ギル」
「どうやら女神は、人間の軍を差し向けた様だ」
「人間の?
帝国の貴族か?
それとも王国のか?」
「さあ?
まだ見えて来ないから、何とも言えんだろう
それよりも、少なくとも500人は居たらしい」
「500人?
すると本体は1000を超えるか?」
「ああ
オレもそう思う」
「そうなると、本格的な軍だな」
「ああ」
「人間の軍か…
しかも1000は超えるか」
「ああ
弩級の用意は出来るか?」
「そうじゃのう
この前の残りがあるから、5台で弾は15発じゃな」
「追加で弾を作れるか?」
「後半日も無いんじゃろう?」
「ああ
しかしここを死守しなければ…」
しかしガンドノフは、首を振って間に合わないと告げる。
「今からでは無理じゃ」
「だが…」
「なあに
どうせここは捨てるつもりじゃった」
「え?」
「お前達だけで、神殿に辿り付けると思ったのか?」
「いや、ここはあんた達ドワーフの…」
「良い機会じゃ
ワシ等も旅に同行する」
「しかし…」
「それにな
ミスリルなんぞ手入れ出来るのは、ワシ等ドワーフぐらいじゃ
そうじゃな」
ガンドノフはニヤリと笑うと、仲間のドワーフ達を振り返る。
彼等は斧やハンマーを掲げて、賛同の声を上げる。
「そうじゃぞ!」
「ワシ等以外に誰が扱える」
「それにここにも、そろそろ飽きて来たところじゃ」
「新たな鉱床を求めて、旅立ちの時じゃ」
「良いのか?」
「ああ
その代わり、ここを攻めに来た奴等には、目に物見せてやらんとな」
「あ!
そういえば兵器が…」
「あれも壊すつもりじゃ
もう、ノーム様も居らんでな」
ガンドノフは斧を構えると、仲間に号令を掛ける。
「野郎共!
準備に掛かれ!」
「おう!」
人間の軍の襲撃に備え、ドワーフの郷は俄かに活気付いた。
まだまだ続きます。
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