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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
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第564話

ガンドノフとの訓練が始まって、10日以上過ぎていた

今日が騎兵達と訓練を始めて7日目とあって、ギルバートは騎兵達の攻撃を上手く受け流す

騎兵達の攻撃に関しては、ほとんど防げる様になっていた

また、同時に5名の騎兵が攻撃しても、上手く重心をズラして防いでいた

ガンドノフは騎兵達の指導をしながら、ギルバートの方を時々見る

既に5名の騎兵が、ギルバートを囲んでいる状態だ

しかしそれでも、ギルバートはそろそろ慣れて来ていた

この調子なら、もう少しで教える事は無くなるだろう

ガンドノフは満足気に頷くと、騎兵達の方に向き直る


「ほら

 隙が出来ておるぞ」

「くうっ」

「これは…」

「ガンドノフ

 本当に良いのか?」

「ああ

 これぐらいやらないと、こ奴等は伸びんじゃろう」


アーネストは頷くと、騎兵達に向けてマジック・アローを放つ。

それは騎兵達の攻撃の死角から、攻撃を防ぐ邪魔になる様に撃ち込まれる。

それを身体強化で防ぎながら、同時に相手の攻撃も捌くのだ。

慣れていなければ、まともにマジック・アローを受けるだろう。

しかし騎兵達も、ここ数日で腕を上げていた。


「くそっ!」

「本当に厭らしい角度から来るな」

「でも、これを防げないと…」

「ああ

 魔物や魔獣も強くなる

 1対1とは限らんからな」


この訓練は、騎兵が複数体の魔物に襲われた時の対処法でもある。

魔物がいつも、少数であるとは限らない。

それも弱くて愚鈍な魔物なら、ここまで警戒する必要は無い。

この訓練は、グレイ・ウルフの様な集団で襲い掛かる、魔獣を想定した訓練なのだ。


「しかし、えげつない訓練だな」

「そうか?

 ワシはギルバートに行っていた、複数の魔法の方が酷いと思うが?」

「あれはギルだからだ

 彼等は一般の騎兵だぞ

 何と戦わせるつもりだ?」

「うむ

 最低限、一人でもグレイ・ウルフを数体倒せんとな

 この先では厳しいじゃろう」

「そんなにか?」

「ああ

 ここの魔獣や魔物は、まだまだ弱い方じゃ

 ワシ等が戦っていた頃は、もっと凶悪な魔物も襲って来た」


ガンドノフ達が、この洞窟を作った頃には魔物は多く徘徊していた。

その中にはグレイ・ウルフも、かなり多く混じっていたそうだ。

しかも聞いた話では、そのグレイ・ウルフですら雑魚の魔獣だと言うのだ。

そんな事態になれば、騎兵達だけで討伐しなければならない。


「当時の王国の兵士は、一人でグレイ・ウルフを討伐しておった」

「一人でか?」

「ああ

 勿論、1対1になる様に、人数は出ていたがな」


王国の兵士達は、今の騎兵達よりも良い装備をしていた。

当時は魔鉱石や魔法鉱石も、潤沢に揃えられていた。

また、兵士達も魔法が使えて、今の兵士よりは明らかに強かったのだ。


騎兵達に今から、魔法を教えるには無理がある。

装備もミスリル製の剣や鎧が作られているが、それでも厳しい戦いになるだろう。

そうなってくれば、後は基礎の戦闘能力を上げるしか無いのだ。

それも倒す力では無く、生き残る為の力だ。


「戦闘訓練自体は、生きていれば幾らでも出来るじゃろう

 問題は…」

「魔獣に殺されない事か?」

「ああ

 死ぬのは勿論、負傷すればそれだけ戦力は落ちるし、訓練も出来ないじゃろう

 じゃから重要なのは、無傷で生き残る事じゃ」


ガンドノフが重要視しているのは、兎に角怪我をしない事だ。

生きて負傷を免れれば、それだけ次の戦いに活かされる。

それに人数が減れば、それだけ旅が困難になるだろう。

これから兵士を増やす事など、今の状況では無理なのだ。

それなら少しでも、生きて戦える兵士を残す事が重要なのだ。


「しかし無傷って言っても…」

「言ったじゃろう?

 最低限、グレイ・ウルフを数体相手に出来るぐらい

 これが基準になるじゃろう」

「それはまた、ハードルが高いな」

「そうでも無いぞ

 今のこ奴等なら、1人で2体か3体までは押さえれるじゃろう」

「そんなにか?」

「ああ

 その為の訓練じゃからな

 尤も倒せるかは…」

「ああ

 そういう事か」


攻撃は防げる様になったが、こちらから攻撃するとなれば話は別だ。

今の騎兵の力量では、精々攻撃を防ぐまでなのだ。

ここから反撃となると、まだまだ訓練不足だった。

こればっかりは、実際に生命の遣り取りをするしか無いのだ。

こんな訓練では、実戦に使うには限界があるのだ。


「アーマード・ライノなら…

真銀(ミスリル)の剣で何とかなるじゃろう

 しかしグレイ・ウルフの様な、素早い魔獣を狩るには…」

「騎兵が馬に乗っていても難しいか?」

「そうじゃのう

 その為に他の者が、魔獣を押さえる必要がある」

「つまり攻撃と防御に別れるか」

「そういう事じゃ

 その為にも、もっと確実な防御が出来んとな」


ガンドノフは騎兵達の訓練も見ていたので、何が重要か理解していた。

これはガンドノフが、魔導王国の兵士の戦いを見ていた事も大きい。

彼等は今よりも、強い魔物と戦っていたのだ。

それでも敗れて、最後はカイザート達に殺されたのだが。


「魔導王国の兵士は強かった

 少なくとも、一人一人が騎兵数人分の力を持っておった」

「そうなのか?」

「ああ

 それでも…

 ランクD以上の魔物達には敵わなかった

 少なくとも、今のお前達では…」


ガンドノフはギルバートと、アーネストを順番に見る。


「お前達二人ぐらいじゃろうな」

「そうなのか?」

「ああ

 ギルバートは、もう少しでランクCの魔獣にも匹敵するじゃろう

 しかしそこまでじゃ

 カイザート達は、単独でもランクCの魔獣を倒せておった」

「くっ…

 そこまで差があるのか」

「ああ

 少なくとも、あのキマイラという魔獣でも、兵士だけで倒せたじゃろう」

「あれをか?」

「ああ

 今の騎兵では、例え真銀の装備でも…」

「そうだな

 攻撃は防げても、倒すまでは…」


ガンドノフの話を聞いて、アーネストは改めて魔獣の脅威を感じていた。

確かにキマイラをランクDと想定すると、ランクCにはまだまだ及ばない。

女神の神殿となれば、それ以上の魔獣が待ち構えて居るだろう。

そう考えれば、この面子では辿り着く事も出来ない。


「そこでな

 お前さんにはもっと頑張ってもらわんとな」

「ん?

 どういう事だ?」

「魔法をもっと使うんじゃ

 その方がお前の訓練にもなるじゃろう?」

「それはそうだが…」


ガンドノフアーネストに耳を貸せと合図をする。

それからこそこそと、何かを指示する。


「え?

 そんな危険な事は…」

「やるんじゃ

 その方が訓練にもなる」

「しかし負傷者が…」

「その為に、皇女も訓練をしておるじゃろう」

「ううむ」


アーネストは一頻り唸ってから、ガンドノフの指示に従う。

先ずは今まで通り、抜き打ちでマジック・アローを飛ばす。

これは簡単に、騎兵達も対処していた。

この3日ほどで、この程度の嫌がらせには慣れて来ていたのだ。


「大いなる大気の精霊よ

 汝の御業を持って…」

「うむ

 それにマジック・アローを合わせるんじゃ」

「これで出来るのか?」

「ああ

 先ずは試してみろ」


アーネストは言われた通りに、マジック・アローを騎兵達に向けて放つ。

騎兵達は互いに武器を打ち合わせていたが、今まで通りにマジック・アローに反応する。

そして咄嗟に、身体強化でその矢を弾き返す。

しかしここで、騎兵達の動きに変化が起こる。


「うむ!」

「こ、これは…」

「アーネ…」


何人かはそのまま、力を失って倒れ込む。

そして耐えた者も、その場で膝を着いて座り込んだ。


「な、にゃにを…」

「こりゃは…」


「ふむ

 まだまだじゃな」

「こんなに効果的なのか?」

「知らなんだか?

 無属性の魔法なら、効果を重複出来るんじゃ」

「しかしここまでとは…」

「そうじゃな

 こ奴等は今まで、こうした状態異常の魔法に慣れておらん

 これも訓練には必須じゃな」


アーネストが放った魔法の矢には、睡眠の魔法の効果が上乗せされていた。

それは眠りの雲(スリープ・クラウド)と違って、指定した者に睡眠の効果を与える魔法だ。

座標の指定や抵抗の有無もあって、扱い辛い魔法にはなる。

しかし魔導書には、それ以上の事は書かれていなかった。

まさかこの魔法が、武器や魔法に上乗せされるとは思ってもいなかった。


「この魔法がこんな使い方をするなんて…」

「魔導書には書かれておらんかったのか?」

「ああ

 中級の魔法の中に、応用として書かれていたが…

 それじゃあこれらの魔法も?」

「うむ

 武器や魔法に付与する物じゃな」


アーネストは魔導書を開くと、ガンドノフにそのページを見せる。

ガンドノフは頷いて、その他の麻痺や毒の呪文も同じだと呟く。


「特にここに並んでいる、毒の魔法は付与魔法じゃ」

「それじゃあ武器に刻む…」

「そうじゃな

 矢に刻んだりするのが一般的じゃが…

 魔導士は違う」

「さっきみたいに?」

「そういう事じゃ」


ガンドノフの説明は簡単だった。

魔力を込めて、呪文を唱えつつ魔法陣を刻み込む。

そうすれば魔力が残っている間は、その呪文に込められた魔法が発動する。

しかし込められた魔力が無くなれば、その効果は得られない。


「その為に開発されたのが、魔石を使った魔道具じゃ

 この魔法の説明は、魔道具が普及する前の者じゃな」

「え?

 それじゃあ…」

「そうじゃ

 今ではこの呪文は、役に立たないと思われて消え去っておる

 ここに残っておったのは偶然じゃ」


そもそもがこの魔導書は、ガンドノフがアーネストに手渡した物だ。

書物の中の半分は、森妖精(エルフ)の魔術師が記した実用的な攻撃魔法の紹介だ。

そして残りの半分は、彼が研究していた精霊魔法の応用に関する研究レポートだった。

今使っている魔法は、その中の一部でしか無い。

さすがにアーネストでも、この本の魔法はまだ半分も覚えていなかった。


「それじゃあ他の魔法も?」

「ん?

 試しに使ったが…」


ガンドノフはそう言いながら、部屋の隅に積まれた魔道具を見る。

作ってはみたものの、結果は失敗だったのだ。

それが結果として、罠の様に転がっていた魔道具である。


「中には使える物もあるが…

 それも制御が難しい

 使えるのはワシが調べておる」


ガンドノフは羊皮紙の束から、それらしいメモを探す。

そしてそれを、羊皮紙に書き写してアーネストに手渡した。


「これがリストじゃ

 しかし気を付けろ

 中々に癖の強い魔法もある」

「これなら…」

「ああ

 一部の属性の無い魔法に、掛け合わせる事が出来る」


「他には無いのか?

 例えば霧の魔法に、風の魔法を掛け合わせるとか…」

「うむ

 それも考えられておったが、そこにも書かれている通り…」

「無理だった?」

「ああ

 霧の魔法に麻痺や睡眠は乗せれる

 実際にそれで、眠りの雲は作られたからのう」

「だったら…」

「しかし風の魔法は、霧の魔法とは相性が悪かった

 お前も試したのじゃろう?」

「ああ

 少しでも素早く、標的に届けばと…」


アーネストも既に、手持ちの魔法を色々と組み合わせていた。

結果としては、身体強化と耐性の組み合わせは上手く行った。

しかし実戦では、それはあまり役に立たなかった。

そもそも後方から支援する魔術師では、麻痺や毒に襲われる事は少ないのだ。

それに攻撃をまともに食らえば、アーネストでは身体強化を使っても耐えられ無いのだ。


「ふむ

 発想は悪くは無いが…

 シールドの呪文は試したか?」

「え?

 シールド?」

「そうじゃ

 マジック・シールドの事じゃが…」

「え?」

「何じゃ?

 知らんのか?」


残念な事に、シールドの魔法は後世に伝えられていなかった。

帝国の行った焚書で、シールドの呪文も失われていたのだ。


「ここに書かれておる」

「何々?

 盾の魔法と…

 それに付与すべき耐性と強化?」


そこには魔力を盾の様に、前方に展開する方法が載っていた。

アーネストは盾と見て、兵士が使う盾をイメージしていた。

しかし実際は、魔力を前面に展開して使われる防御壁の様な物だったのだ。


「これって盾では…」

「盾と書かれておるが…

 使っていないのか?」

「ああ

 使い勝手が悪そうだし、他に試したい魔法が多かったから…」

「仕方が無いのう

 試しに使ってみろ」

「えっと…

 マジック・シールド」

ブウン!


アーネストが杖を翳して呪文を唱えると、前方に魔力の膜の様な物が出る。

しかしそれは、小さくて半透明な膜だった。


「ううむ…

 魔力とイメージに問題があるな」

「え?」

「お前はどうも、盾という言葉に引っ掛かっておるな

 もう少し魔力を込めて、魔法の膜をイメージしてみろ」

「魔法の膜?」

「ああ

 元々はシールドの呪文とは、魔術師が身を守る為の魔法じゃ

 じゃから魔力さえあれば、全体を覆う事も出来る」

「全体って…」

「それこそ前方だけでは無い

 後ろまで覆えるじゃろう」

「後ろまで…」


アーネストはブツブツと呟くと、その魔法の膜を頭にイメージする。

そうして魔力を込めると、再び魔法の膜を広げる。

今度はイメージが定まっていて、アーネストの周囲を魔法の膜が覆っていた。


「おお!

 これじゃこれ」

「こうか?

 これで…」

「ああ

 属性や込めた魔力にもよるが…

 こうじゃ!」

ギン!


魔力の壁は、ガンドノフの攻撃を防ぐ。

それもガンドノフは、結構な力を加えていた。

しかし魔法の膜は、しっかりと攻撃を防いでいた。


「おお…」

「どうじゃ?

 属性を加えれば、炎や矢なども防げるぞ」

「こんな魔法が…」


「王国の兵士達は、このシールドの呪文も使えておった」

「それは…」

「じゃから彼等は、防御の面でも強かった」

「なるほど…

 これは確かに便利だ」


アーネストはシールドの呪文を、感心しながら使っていた。

ガンドノフも、ついついそれの説明に熱が入っていた。

その近くで、騎兵達は忘れられて倒れていた。

まだまだ続きます。

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