第562話
ギルバートはドワーフの工房の隅で、ガンドノフに訓練を受けていた
ギルバートがこれまで学んでいなかった、防御の方法を教わっていたのだ
アルベルトはギルバートに、剣での戦い方は教えていた
しかし防御に関しては、教えていなかったのだ
ギルバートは魔物との戦いで、勘による回避方法は身に着けていた
これは早い段階で、アモンの戦い方を見ていた事が大きい
アモンの攻撃手段は、素早い動きで相手を翻弄する
ギルバートは無意識に、この戦い方を参考にしていたのだ
しかしこの戦い方には、人間では限界があるのだ
「どうした?
それは今までの回避と変わらんぞ?」
「ぐうっ」
「それでは咄嗟に、相手の攻撃の軌道が変わっては対処出来んぞ?」
「そんな事が…」
「無いと思うか?
グレイ・ウルフでも、跳躍から軌道を変えられるぞ?
あれでまだ、ランクEじゃからな」
「ランクEか…」
ランクEと言っても、それは群れで襲って来るからだ。
実際の単体でのランクは、準ランクE扱いで、アーマード・ライノと比べても弱い。
しかし大きな体躯と素早い動きは、熟練の騎兵でも対処が厳しかった。
実際にガンドノフの攻撃は、それに比べても遅い。
しかし巧妙なフェイントや重心の移動があるので、想像以上に躱し難い動きなのだ。
「躱そうとするな
動きをよく見て、そこに武器を合わせろ」
「こ、こうか?」
「そうじゃ
しかしそれだけでは無いぞ?」
ガンドノフはそう言いながら、低くした重心を後ろにずらす。
「ここからは、お前のこれまでの戦いの経験と、戦闘に関する勘が物を言う
例えばこうじゃ」
「う、うわっと…」
「こうして重心を後ろにずらせば、相手は力を受け流されて前のめりになる」
「なるほど…」
ガンドノフが重心を下げた事で、ギルバートは前のめりになってしまう。
こうする事で、大きな隙が生まれてしまう。
「逆に重心を前に預けて、相手を突き放す事も出来る」
「ぐうっ…
お、重い…」
「どうじゃ?
身体強化を使っておっても、お前さんの力でも押さえられんじゃろう?」
「確かに…」
「そして、こうじゃ!」
「うわっ!」
ギャリン!
ガンドノフに押されて、ギルバートは数歩後方に押される。
「これは体制を整えたり、相手に付け込まれる事を防げる
例えばキマイラじゃったか?
あれは尻尾も攻撃出来る」
「そうだな
あのままでは、他の攻撃は防げないな」
「それを防ぐ為に、相手を押し切って距離を取る
それにこうすれば、ポーションを使ったり武器を持ち替える余裕も出来る」
「なるほど…
仕切り直しも狙えるのか」
「そういう事じゃ」
距離を開けれれば、その間に何か行動を取れる。
それは大きな隙では無いが、ちょっとした行動をするにはちょうど良い。
躱し続けていては、ポーションを飲んだりする様な隙は無い。
そう考えれば、これは重要な技術と言える。
「勿論、必ず隙があるとは限らん
相手の大勢を崩す時に、隙が出来るかも見て置かんとな」
「なるほど…」
「それから、他にも対処方法はある
こっちが重要じゃな」
「え?」
「あのまま武器を合わせた状態で…
頭上や左右に武器を受け流す」
「どうやって?」
「うむ
実際にやってみよう」
ガギン!
再び武器を合わせると、二人は力を拮抗させる。
そこからガンドノフは、不意に武器を左に傾けながら力を抜く。
「うわっ」
「どうじゃ?」
「これは…」
左に力を抜かれた事で、今度は左側に大きく態勢を崩す。
しかも今回は、予めそれを教えられていた。
しかしそれでも、ギルバートは大きく態勢を崩されていた。
これが知らなかったら、そのまま前に転がっていただろう。
「魔獣は四足歩行じゃから、さすがに倒れる事は無いじゃろう
しかしこれを不意に食らえば、脇が隙だらけになる」
「なるほど」
「加えてな、力を抜いた後に押し流す事も出来る
これはタイミングが難しいが、上手く行けばさらに大きな隙が生まれる」
「こう…
武器を受け流してから押すのか?」
「そうそう
それを素早く行うんじゃ」
「難しいな…」
「これはすぐに出来んでも良い
先ずは攻撃を止めて、それからどうするかじゃ
この技は、もっと防御が上手くなってからじゃな」
「なるほど…
オレではまだ…」
「先ずは攻撃を、上手く受け止める事に集中しろ」
「ああ
分かった」
少しはガンドノフの攻撃を、受け止めれる様にはなっていた。
しかしまだまだ、ギルバートの防御術は隙だらけだ。
ガンドノフは何度も攻撃して、その度に駄目な点を注意する。
「ここで左手を…
そうじゃ無い!」
「ぐう…」
「それでは腕を痛めるぞ!
痛くは無いか?」
「あ、ああ
しかし力が…」
「ああ
そのまま受けるのでは駄目じゃ
力を吸収しろ」
「力を?
どうやって吸収するんだ?」
「それはこうやって…」
ガンドノフは腕を動かして、力の受け方を教える。
しかしこればっかりは、何度もやって身に着けるしかない。
敵の攻撃が、いつも同じ方向から一定の力で来る事は無いからだ。
「やり方はこうじゃが、いつも同じとは限らない」
「それじゃあどうやって…」
「それこそ経験と勘じゃ
何度も訓練して、力の加減を覚えるんじゃ」
「ううむ
訓練しか無いか」
「そういう事じゃ」
二人が訓練をしていると、騎兵達も集まって来た。
「殿下
こっちで見ていて良いですか?」
「それは構わないが…」
「邪魔はしません
オレ達も学びたいので」
「ガンドノフ
見ていて覚えれる物なのか?」
「それはやる気次第じゃろう」
「分かった
ただしお前達も訓練しろよ
これはお前達にも役立つと…」
「分かっています」
「オレ達も、実力不足は痛感していますから」
「そうか…」
「ふふふ
お前よりも、あいつ等の方がよく分かっておるな」
「うるせえ
もう一回やるぞ」
「ふん
へばるなよ」
ガギン!
再び武器が打ち鳴らされて、二人は武器を押し合う。
「そうじゃ
先ずは相手の攻撃を受け止める」
「ああ」
「相手の出方が分からない場合は、何度か受け止めるのも手じゃ
そうすれば相手の、攻撃の仕方も見えて来る」
「いきなり仕掛けなくても良いのか?」
「ああ
それは相手の出方が分かっておる時じゃ
そうで無ければ、何度か攻撃を受け止めるのも手段じゃな」
「そうか
それなら…」
ギャン!
ギルバートはガンドノフを押しやり、再び攻撃を誘う。
「うむ
分かって来たのう」
「ああ
こうして隙を晒せば、また切り掛かって来るだろう?」
「そうじゃ
それこそ思う壺じゃ」
ガン!
ギン!
何度か武器を合わせて、相手の隙を窺う。
「そうじゃ
それで隙を探るんじゃ」
「ああ
しかし武器の摩耗が…」
「それこそ、力を受け流して同時に強化をする
それで武器の耐久力も上がる」
「さっき言っていた、身体強化を使うってやつか?」
「ああ
今は慣れておらんから、意識して武器に魔力を流せ
慣れて来たら、無意識で武器に身体強化を行う必要がある」
「無意識…
無意識か」
「ああ
今は訓練じゃ
意識して行え」
「分かった」
ガン!
身体強化を行えば、確かに武器の感触が変わって来る。
衝撃も違って来るし、何よりも武器に加わる力も違っていた。
それで何度か打ち合う内に、自然と意識して魔力を流せる様になってきた。
後は直前で力を抜き、衝撃を吸収する事だ。
しかしこれが、なかなかギルバートには難しかった。
「どうした?
まだ力が加わっておるぞ?」
「分かってる
分かっているが…」
「力むな!
意識は魔力に向けて、腕は力を抜け」
「だって、身体強化を行うと…」
「ううむ
これがお前の戦い方の癖の弊害じゃな」
「癖?」
「ああ
お前の戦い方は、いつも全力で向かって行く
それはそれで良いのじゃが…」
「何か問題でも?」
「身体強化を行う時に、知らずに力んでおるんじゃ
それで腕に力が入っておる」
攻撃に意識が向くので、どうしても身体強化と力を加える事が一緒になってしまう。
それがギルバートの、攻撃の癖になっていた。
そして同時に、身体強化を行う時に力が加わってしまうのだ。
「ううむ
これは考えもんじゃな」
「どうすれば…」
「意識を変えるんだな」
「アーネスト?」
「ん?
何か考えがあるのか?」
「ああ
オレも似た様な経験があるからな」
アーネストは書物を閉じると、ギルバートの近くに来た。
「ガンドノフ
一旦休憩にして良いか?」
「それは構わんが…
長引くのか?」
「そうだな
難しいだろう」
「分かった」
ガンドノフは頷くと、今度は騎兵達の所へ向かった。
「よし
お前達にも教えてやるぞ」
「良いんですか?」
「ああ
あの通り、ギルバートは行き詰まっておる
その間になるが、ワシの教えれる事を教えよう」
「ありがとうございます」
「お願いします」
「うむ
先ずは武器の持ち方じゃが…」
騎兵達は、場合によっては盾を使う事もある。
しかしガンドノフ達ドワーフは、武器による防御が主流になる。
それはドワーフ達が、斧やハンマーを得物にするからだ。
だからガンドノフは、武器を使った防御術を指導する。
「お前達もこれを使え」
「あのう…」
「長柄の武器でも良いですか?」
「構わんが…
剣より難しいぞ?」
「構いません
オレ達は鎌を主に使いますから」
「分かった
それではこっちの…」
ガンドノフは長い鉄棒を引っ張り出し、それを騎兵達に渡す。
「良いか?
剣に比べると、武器を受け止めれる場所は多くなる」
「はい」
「しかし同時に、長くなった分耐久力は大きく下がる」
「え?」
「長いじゃろう?
じゃから端で受ければ…」
「ああ!
確かに弱くなりますね」
鉄棒はガンドノフの力で、簡単に曲がってしまう。
長柄の武器で受けるには、それだけ注意が必要なのだ。
「そのまま受けては駄目じゃ
それこそ力を抜いて、受け流す事に集中すべきじゃ」
「しかしそれでは…」
「そうですよ
攻撃を止めるには?」
「それはな、こことここを使うんじゃ」
ガンドノフは、長柄の武器の両手の間や、手元に近い場所での受け方を教える。
「ちょっと手元に近くて危険じゃが、その分しっかりと受け止めれる」
「なるほど
これならしっかりと受け止められますね」
「じゃが、代わりに持ち手が危険になる
慣れない内は、これで防ぐのはお勧め出来ん」
「しかし慣れれば…
殿下の手助けにもなりますよね?」
「むう…
そうじゃが…」
「手を痛めるぐらいなら、ポーションで何とかなります」
「そうじゃ無い
最悪は手を潰して…」
「それでも!
それでも我々が足手纏いにならないのなら…」
「本気か?」
「はい」
「…分かった
構えろ」
「はい」
ガンドノフは騎兵達の言葉に、応えてやる事にした。
ガンドノフが行うのは、彼等がやるより危険が少ないからだ。
ガンドノフほどの腕があれば、狙って手を避けて受け止めさせれる。
先ずは防御を慣らせる為に、ガンドノフが武器を振るって合わせる事にする。
ガギン!
「ほら!
それでは受け止められんぞ」
「ぐうっ」
「力を抜け!
力で受けるんじゃない
身体強化と手の振りで受けるんじゃ」
「はい」
ガンドノフは鉄塊を振り回し、騎兵の胸元を狙う。
足元や肩を狙うのが、本来の防御術の訓練になる。
受け難い場所で受けるのが、訓練の早道だからだ。
しかしそれでは、受け損ねて手を痛めるのが目に見えている。
だからガンドノフは、敢えて受けやすい胸元を狙っていた。
「お願いします
殿下の様に難しい攻撃を…」
「駄目じゃ
それでは腕を痛めてしまう
先ずは受けやすい攻撃から、上手く受けるコツを学べ」
「しかし殿下には…」
「あれは剣で受けるコツを知っておる
無意識に魔獣の攻撃を、剣で弾いておったからな」
「それなら…」
「しかし、防ぐ事には慣れておらん
じゃから難しい事をさせておる」
「でしたらオレ達にも…」
「はあ…」
ガンドノフは溜息を吐くと、素早く騎兵の足元に踏み込む。
そしてそこから、急所である股間に向けて振り上げる。
「っ!」
「ほらな
対処出来んじゃろう?」
「ぐうっ…」
「先ずは経験を積んで、基礎を身に着けろ」
「しかしそれでは…」
「時間は十分にあるじゃろう」
ガンドノフは後方の、アーネストに指導されているギルバートの方を見る。
ギルバートは今、座って意識を落ち着ける訓練を受けていた。
目を瞑って意識を集中させて、周りで起きる魔力の流れを感じているのだ。
どうしてそれが必要なのか、それはアーネストが知っていた。
「おい!
首が動いているぞ」
「しかし魔力が…」
「危険を感じるのは重要だが、先ずは自分を押さえて身構える事を学べ」
「いや、こんな事が何の役に…」
「良いから
お前は先ず、魔力を感知する事を身に着けろ」
アーネストが魔力を操り、ギルバートの周囲で動かす。
それを目を瞑って、動かずに感じる事に集中する。
そうする事で、魔物や魔獣の動きを感知する。
そして慌てて動こうとする事を、押さえて冷静に対処する。
この訓練は、その事に重点を置いた物だった。
「身体を動かさず、身体強化を魔力を感じる場所に使え」
「そんな事が何の…」
「良いから
先ずは集中してやれ
全然出来て無いぞ」
「むう…」
ギルバートは集中して、魔力の流れに合わせているつもりだった。
しかし実際は、無駄な場所に魔力が流れている。
それを押さえて、魔力の流れに合わせて魔力を流す。
それが出来る様になれば、意識しなくても魔力を流せる様になる。
アーネストはそれを目指して、ギルバートに訓練をさせていた。
これはアーネストが、魔法を任意の場所で発動させる為に訓練して方法だ。
これが出来る様になれば、咄嗟に魔物の攻撃に対して対処も出来る。
だからアーネストは、ギルバートにこの訓練をさせていた。
そしてこの訓練は、それから5日ほど続けられる事になる。
その日数で出来る様になったのは、ギルバートに才能があったからだろう。
まだまだ続きます。
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