第561話
ギルバートはアーネストとガンドノフと一緒に、工房の隅の開けた場所に居た
ここは工房で仕上げた武具を、試す為の広場になっている
ドワーフの郷で仕上がった武具は、ここで試しに使われる
そしてギルバートは、ここでガンドノフの攻撃を受けていた
ガンドノフは低い姿勢から、執拗に足元を狙って来る
これはガンドノフの身長が、ドワーフらしく1m20cm程度しか無い事が大きい
その低身長に加えて、ドワーフの攻撃は足元を削る事から始まる
足元を執拗に攻撃して、相手の移動速度を封じる為だ
これはドワーフが、足が短い事にも起因している
「どうしたどうした!
逃げてばっかりでは終わらんぞ」
「止せって!
何でこんな事を…」
「それはな、お前さんの攻撃方法に無駄があるからじゃ」
ガンドノフはそう言って、再び斧代わりの鉄塊を振り回す。
ギルバートは懸命に躱すが、ガンドノフの攻撃は素早く隙が無い。
何度か足元掠めて、その度にガンドノフは攻撃を止める。
そしてギルバートに、どうやって防ぐか指南する。
「何じゃ!
そのへっぷり腰は!」
「うるさい!
こんな低い攻撃なんて…」
「よく見て捌け!
何の為に武器がある?」
「え?」
「その武器があるじゃろう?」
ギルバートは己の手を見て、さっき渡された鉄棒を思い出す。
しかしそれは細くて、どう見ても攻撃を受け切れそうに見えない。
「こんな棒で防げるのか?」
「ああん?
その為の武器じゃろうが」
「だって細くて…」
ガギン!
言われてギルバートは、ガンドノフの攻撃を鉄棒で受け止める。
しかし案の定、鉄棒は簡単に曲がってしまった。
しかしそれを見て、ガンドノフは怒鳴り声を上げる。
「馬鹿もん!
そのまま受ける奴があるか!」
「え?」
「身体強化はどうした!」
「へ?」
「何で身体強化を使わん?」
「使っているけど…」
「使っておらんじゃろうが
いや、使いこなせていないと言うべきか?」
「え?」
「そのままじゃ駄目じゃろう
武具にも魔力を通せ」
「いや、これには魔力による強化は…」
「どんな物でも、魔力を身体強化で流せば多少は強化出来る
そんな事も知らんのか?」
「え?
そうなのか?」
「ああ
実際に馬とかも、身体強化で強くなるだろ」
「え?」
横で見ていたアーネストも、呆れ顔で頷く。
「そうなのか?」
「そうなのか?って…
騎兵達にもそう指導していただろう?」
「いや、馬が強くなるのは知っていたけど…
こんなただの鉄棒もか?」
「そうだ」
「何じゃ?
そんな事も知らなんだのか?
それでよく…」
「実際にギルは、魔法で強化された武具を使っていたからな
前に教えていたけど、わすれているんだろう」
「それじゃあ訓練用の武器も?」
「ああ
上手く身体強化の魔力を流せていれば、その分強化されている」
「そうなのか…」
新兵達の訓練用武器は、すぐに壊れていた。
それは彼等が、まだ身体強化を使いこなせていないからだ。
しかし慣れた騎兵達の武器は、そう簡単には壊れなかった。
それは彼等が、上手く武器にも流用していたからだ。
勿論、壊れにくいのはそれだけでは無かった。
「それとな
お前は防御が雑で出来ておらん」
「え?」
「貸してみろ」
ガンドノフは鉄棒を受け取ると、簡単にぐにゃりと曲がったのを直す。
そうして鉄塊をギルバートに渡すと、鉄棒を持って構える。
「打って来てみろ
防御という物を見せてやる」
「むう…
言ったな」
「ああ
ひよっこに防御という物を教えてやろう」
「うおおおお」
カシン!
ガンドノフは片手を出すと、掛かって来いと手招きをする。
それでギルバートは、鉄塊を思いっ切り振り下ろす。
しかしガンドノフは、それを軽々と受け止めると、振るって力をいなす。
「あれ?」
「ふん
その程度か?」
「むかっ!
食らいやがれ!」
「甘いのう?」
カシャン!
シャリン!
鉄棒と鉄塊は、思いっ切りぶつかっているとは思えない音を立てる。
そしてガンドノフは、軽々と攻撃を受け流す。
「どうしたどうした」
「何だ?
この手応えの無さは?」
「ふん
これが本物の防御術じゃ」
それから数合、ガンドノフはギルバートの攻撃を軽々と受け流す。
まるで水に打ち掛かる様に、その攻撃は軽々と流される。
そうしてガンドノフは、その場から動く事は無かった。
「はあ、はあ…」
「どうした?
アモンと打ち合えたのは本当か?
まるで手応えが無いぞ?」
「う、うるせえ…」
「ふん
大方武器の力に守られておったか
その武器を作った職人に、感謝しろ」
カシン!
遂に鉄塊は弾かれて、ギルバートの手から弾き飛ばされる。
ギルバートは肩で息をしていたが、ガンドノフはその場で息も乱してもいない。
両者の技量の差は明確だった。
「お前はな、大き過ぎる力と武器の性能で過信しておる
しかし実際は、お前自身の技量はその程度じゃ」
「な…」
「悔しがる事は無い
その若さでそこまでの力を得たんじゃ
過信するなと言うのが難しいじゃろう」
「そうだな
確かに力任せだもんな」
今までの魔物達は、確かにギルバートの力で倒せていた。
しかしこれから先は、どんな魔物が居るのか分からない。
もしかしたら、ギルバートでも太刀打ち出来ない魔物が現れる可能性もある。
実際にアーマード・ライノは、ギルバートでも苦戦していた。
「お前さんの力は確かに強い
さすがはガーディアンじゃな
力だけなら、もう少しでアランにも届くじゃろう」
「アランって?」
「カイザートの隣に並び立っていた剣士じゃ
しかし力だけでは無いぞ
あ奴は並外れた技量の剣士でもあった」
「つまり女神と戦うって事は、ギルもそれだけの技量が必要って事だ」
「技量…」
「力だけでは、いずれ勝てなくなるじゃろう
実際にワシに、お前さんの剣は届かない」
「むう…」
確かに鉄塊と鉄棒だったが、ギルバートの攻撃は簡単にいなされていた。
あれが本当の武器でも、ガンドノフは簡単に受け流せていただろう。
それだけこの老ドワーフは、戦いに慣れていた。
しかもこれでも、彼はドワーフの中では強く無いのだ。
「先ずは肩の力を抜いて、腰をもう少し…」
「こうか?」
「そうじゃあない
足先に意識を集中して…
そうじゃ、もう少し前に体重を掛けろ」
ギルバートはガンドノフに、防御に必要な体制を教わる。
さっきの事が堪えたのか、今度は真剣になって耳を傾ける。
こうした姿勢が、ギルバートの良い所でもあった。
ガンドノフに何度も駄目出しを食らいながらも、少しずつだが姿勢は直される。
「後は無意識で、その姿勢を取れる様に慣れる必要がある」
「どうやって?」
「それは何度もやるしか無かろう?」
「う…」
「ほれ!
行くぞ!」
「分かった!」
「ふん!」
「わっと!
急に来るなよ!」
「当たり前じゃ
敵がこれから、向かって行きますと言うのか?」
「くそっ!
もう一回だ!」
「ほれ!」
「うわっと!」
ガンドノフは緩急を付けて、厭らしい攻撃を執拗に繰り出す。
ギルバートは不満を溢しながらも、何とかそれに食らい付こうとする。
「まだまだじゃ
お前さんは、力だけ身に着けて戦場に出たんじゃな
可哀想に…」
「何だって?」
「そこまで教えてくれる、優秀な戦士が居なかったんじゃな?」
「そうだな
ギルは戦いに慣れる前に、父を失ったからな」
「いや
父上はオレに戦い方を…」
「お前がもっと真剣に、アルベルト様の訓練を受けていればな…」
「オレは、真剣に…」
しかし実際に、アルベルトは訓練を終えているとは考えていなかった。
あの時は急に、魔物の襲撃を受けてしまった。
だから亡くなる前に、全ての剣術を教えれていなかったのだ。
そして王都に来てからも、ギルバートは力だけで何とか戦えていた。
その為に優秀な剣士や騎士に、指南を受ける事も無かった。
その事がギルバートに、剣術の基礎を教える機会を奪っていた。
「ただ剣を振るう事が、剣士の全てでは無い
優秀な剣士は、己の剣術を捌く技量も必要じゃ
今のお前に、その技量はあるのか?」
「ぐうっ…」
「ガンドノフ
それを教える前に…」
「そうじゃのう
それが不幸じゃな…」
ガンドノフに指摘されて、ギルバートは初めて自分が未熟だと思い知らされた。
確かに力なら、ガンドノフを圧倒している。
しかし技量で言えば、ギルバートは足元にも及ばない。
それだけ剣で戦う事が、奥深いと思い知らされた。
「力だけで向かっても、その力を逸らされれば隙だらけじゃ
力を抜いてのう
こうやって剣の軌道を逸らす」
「こうか?」
「ううむ…
そうなんじゃが違うのう
こうやって…」
ガンドノフは向かって来る力を、どうやって逸らすかも教える。
それは本当に真剣で、細かく力の流し方を教えた。
ギルバートに資質がある事が、ガンドノフをより真剣にさせる。
ギルバートはこの短時間で、ドワーフ流防御術の基礎を学び始めていた。
「うむ
素質はある様じゃな」
「本当か?」
「ああ
後は実戦で活かせるかじゃ
しかし、これはまだ基礎の基礎じゃ」
「うへえ…」
「これこれ
そんな嫌そうな顔をするな
これはお前を生かす為に必要な技術じゃ」
「まるでお爺ちゃんと孫だな…」
二人の様子を見て、アーネストは思わずボソリと呟く。
「何じゃと?」
「誰が孫だ?」
「こんな小憎らしい小僧なんぞ、孫とは思えんわ」
「いや、こんなしわくちゃ爺さんなんて…」
「いや、爺さんならしわくちゃだろう?」
「あ…」
「兎に角!
さっさと続けるぞ」
「わっ!
急に始めるな」
ガンドノフは顔を赤くして、照れ隠しに鉄塊を振り回す。
「アーネスト様
ここにいらしたんですね」
「ああ
どうした?」
「今後の事を相談に…
あれは?」
「ギルに指導してるんだ」
「殿下に?」
騎兵の一人が、アーネストに指示を窺いに来た。
そこでガンドノフとギルバートを見て、何をしているのか気になった様子だった。
「殿下なら魔物を倒せるのでは?」
「今まではな」
「今までは?」
「これまでの魔物は、たかだかランクEまでの魔物だ
実際にこの前の戦闘では、ランクDのポイズン・サーヴァントやキマイラには勝てなかった」
「え?
でも、実際には…」
「それはアモンが居たからだ
それに単体だったしな」
「あ…」
今はもう、アモンは亡くなってしまっている。
それにキマイラ以上の魔物が、集団で来たら勝てないだろう。
それを思えば、今以上に力が必要だった。
それも戦う力だけでは無く、生き残る為の力らも。
「ですが…
何でドワーフと?」
「彼等は姿勢が低くて、強力な攻撃が得意だ
それを防御出来れば、魔物の攻撃に対する防御も出来る様になるだろう」
「防御ですか?
必要なんでしょうか?」
「ああ
生き残る為には、防御の技術も必要だろう
見てみろ」
「ああ…」
騎兵はアーネストに言われて、その意味を理解した。
確かにギルバートは、防御関しては未熟に見えた。
何とかガンドノフの攻撃を防いでいたが、まだまだ隙だらけなのだ。
「どうした!
右足の重心がズレてるぞ」
「くそっ!」
「今度は左手が遊んでる
それじゃあ…」
「ぐうっ」
ガギン!
「確かに…
こうして見ると隙だらけですね」
「ああ
今までは素早さで、何とか躱せていた
しかしそうそう躱せるとは限らない」
「そうですね」
グレイ・ウルフの攻撃も、ギルバートでは追い付くのがやっとだ。
アーネストの拘束魔法の支援が無ければ、これから先戦えないだろう。
「それにな
これは魔物に対する攻撃にも関わって来る」
「攻撃にですか?」
「ああ
立場を逆に考えてみろ」
「逆にですか?」
「今のギルが魔物で、ガンドノフがお前達の立場になる
そうなるとどうなる?」
「え?」
「大きな魔物への攻撃を、どうやって有効にするか
それを考えてみろ」
「ああ
あの攻撃の仕方が、我々の攻撃に使えると…」
「そういう事だ」
ガンドノフはギルバートに比べると、身体が小さい。
それは大型の魔獣と戦う時に、ガンドノフの攻撃が有効になるという事だ。
ギルバートが苦戦している攻撃が、そのまま魔物にも有効という事になる。
アーネストが言っているのは、そういう事なのだ。
「手の空いている者は、この戦いを参考にすべきだな」
「でも、女神の神殿に向かうのでは?」
「今は多くの怪我人が居る
それにこのまま向かっても…」
「それは…」
「時間が掛かっても良い
これは参考にすべき技術だ」
「分かりました
見張りの者以外に、招集を掛けます」
「ああ
連れて来て、横でお前達も訓練しろ」
「はい
ハイランドオーク達も?」
「そうだな
声を掛けてくれ」
「はい」
騎兵は返事をすると、そそくさと駆け出して行った。
確かにこの技術は、自分達にも必要だろう。
ギルバート以上に、彼等は力の無さを痛感していたのだ。
生き残る為には、今以上の力は重要になる。
少しでも力が見に着くのなら、学ぶべき事なのだ。
「時間は掛かっても良い
生き残る為に技術を身に着けねば」
アーネストはそう言って、自身も新たな魔法を見に着けるべきだと考えていた。
拘束の魔法も、今の魔法では限界があった。
グレイ・ウルフですら、短時間の拘束しか出来ない。
しかもそれに、多量の魔力を注ぎ込む事になる。
それよりは新たに、使える魔法を見に着けるべきだ。
「初級の魔法では、既に限界がある…
中級の魔法も使える様にならなければ…」
アーネストの魔力なら、単独でも中級の魔法は扱える。
それに中級の魔法の方が、少ない魔力でより効果の高い魔法を行使出来る。
しかし問題は、中級の方が呪文が長く、発想するイメージも重要になって来る。
それを維持する為に、より魔法にも集中しなければならない。
「何度も使って、イメージと呪文を覚えなければ…」
それは魔導士にとって、致命的な隙を生む事になる。
そこで攻撃されれば、無防備に攻撃される事になる。
だからより強いイメージで、素早く呪文を唱える事が必要だ。
アーネストは新たな魔法を会得する為に、その場で魔導書を開くのだった。
まだまだ続きます。
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