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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
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第560話

ドワーフの郷で、ドワーフ達はミスリルの装備を作っていた

ガンドノフは開発は得意だが、武具作りはそこまででは無い

そこで仕上がるまでの間、ギルバート達に話をしていた

それはアモンが、如何にして魔王となったかという話だ

ガンドノフは先ず、アモンから聞いた生い立ちの話をした

それは魔導王国の全盛期で、他種族が差別されている頃の話だ

アモンも獣人なので、王国から奴隷として扱われていた

そして彼は、同時に仲間である獣人からも差別されていた


「アモンがここに来た話はした

 それで、どうして使徒になったかじゃったな」

「ああ」

「それは単純な事じゃ

 カイザートが狙われている頃、腹心の部下達も狙われておった

 それはアモンも例外では無かった」

「え?

 何で?」

「ギル

 話を聞いていたのか?」


アーネストは溜息を吐くと、ガンドノフの代わりに説明する。


「アモンは仲間の獣人にも嫌われていたよな?」

「ああ

 毛が黒いからって話だよな?」

「そうなると、人間からも獣人からも疎まれていた」

「え?

 でも、カイザートの元で頑張っていたんだろう?」

「それが問題なんだ」


アーネストは首を振って、話を続ける。


「これは何処の国でも…

 いや、下手をすると領主の方が多いな

 あまり活躍する奴は、目障りなんだ」

「え?」

「そうじゃな

 カイザート達は、頑張って王国を降伏させた

 そうなって来ると、今度はカイザート達が邪魔になったんじゃ」

「何でだ?」


「カイザート達が強いからだ

 現にそれで、初代皇帝に選ばれたし…」

「だって、それは当たり前な事だろう?

 王国が潰えたのもカイザートが活躍したからで…」

「そうなると、他の貴族の活躍が霞んでしまう

 それにカイザートの進める、選民思想や奴隷制の廃止も問題だ

 貴族はそれで、甘い汁を吸っていたからな」

「そんな!

 悪い事をしているから、それを阻止しようと…」

「貴族達はそれを望んでいなかった

 むしろそれを進める、カイザートが邪魔だったのさ」

「そういう事じゃ」

「そんな…」


ギルバートが驚くのも仕方が無いが、それが事実なのだ。

急な改革は、どうしても痛みを伴う。

そして良い思いをしてきた貴族達は、それを見過ごす事は出来なかった。

それでカイザートを、殺してしまおうと考えたのだ。

それは勿論、新たに発足した皇帝の座も狙っていたからだ。


「皇帝の座を奪い、自分達の好き勝手にする

 そして選民思想や奴隷制も、同時に守る

 その為にはカイザートが邪魔だったんだ」

「そんな!

 何て身勝手な!」

「そんな奴等じゃから、選民思想や奴隷制が好ましかったんじゃ

 そしてそれだからこそ、女神は人間に絶望したのじゃろう…」

「あ…

 そういう事か…」


女神はカイザートの死後に、絶望して哀しみの内に眠りに着いた。

アモンはその様に説明していた。

確かにその経緯を考えれば、女神が失望するのは当然だろう。

そして人間に、失望して滅ぼそうとするのも…。


「だからか?

 だから女神は人間を?」

「いや、そう考えるのは早計だ

 だってムルムルは言っていただろう?

 あれは偽者だって」

「しかし、確かに女神が人間を、滅ぼそうとするだけの事はあるじゃないか!

 おれが神様でも、そんな奴等ばっかりじゃあ…」

「落ち着けって!

 それは帝国の建国時の話だ

 それに…」

「そう

 お前達はそうでは無かろう?」

「しかし、女神の気持ちを思えば、何だか納得してしまえるぞ?」

「ああ

 だからこそ魔王達も、女神の言葉を…

 偽の女神を信じていたんだろう

 滅ぼそうとして当然だってな…」


ギルバートが産まれた時も、アルフリートを生かす為に非道な行いをしていた。

そこだけを考えると、確かに人間は許されざる存在なのかも知れない。

しかしその背景には、色々な人達の想いや苦悩が隠されている。

アルベルトだって、ただアルフリートを生かす為に自分の子供を殺したんじゃあない。

国王夫妻の苦しみを知り、我が事の様に思い悩んだ。

そしてその末に、アルフリートに期待をして息子を差し出した。


しかも国王夫妻の気持ちも考えて、罪を自信が負うつもりで手に掛けた。

だからこそ、ギルバートの魂は完全には闇に堕ちていなかった。

それは彼の魂が、ガーディアンとして強かっただけでは無いのだろう。


「くそっ!

 その貴族達も最悪だな!」

「ああ

 だがしかし、報いは受けたと思うぞ

 アルサード王妃が道連れにしたからな」

「あ…

 そういえばそうか」

「あれでほとんどの、悪徳貴族は亡くなった筈だ

 まあ、しぶとく生き残った奴も居たがな」


アーネストが言っているのは、カラガン伯爵家の事だ。

彼の先祖は、中央の貴族では無かった。

その為に皇帝が暗殺された時は、帝都には居なかったのだ。


「アモンはな

 その暗殺が行われる少し前に殺された

 同じ獣人を集めて、暮らせる集落を作っている時にな」

「え?

 戦闘では無いのか?」

「ああ

 王国は滅び、再建を果たそうとしておったのじゃ

 それでアモンは…」

「獣人達が暮らせる場所を?」

「いや、正確には解放された奴隷達が、暮らせる町作りじゃな

 そこには人間も居ったそうじゃ」

「え?

 まさか…」


「ああ

 人間達にとって、獣人がトップに居るのは受け入れられない事じゃった

 じゃからどうにかして…

 そして獣人達も…」

「な!

 何でそんな!

 アモンはその獣人達の為に…」

「そうじゃ

 自分が頑張れば、獣人も認められる

 あ奴はそう思っておった」

「そうだよな

 カイザートは、そういう人だったんだよな?」

「ああ

 しかし、大多数の人間は…」

「選民思想と奴隷制か…」

「そうじゃ」


アモンを憎み、邪魔だと思った元奴隷達は、獣人たちを唆す。

そうする事で、同時に獣人達も陥れようとしたのだ。

そして結果として、獣人達がアモンを殺す事になる。

それで獣人は、危険な存在として再び奴隷となった。


「人間達は、アモンが一部の人間と結託して、彼等を奴隷にしようとしていると吹聴した

 普通ならば、そんな事を言われても、信じる者など居ないじゃろう

 しかし奴は…」

「そうか!

 獣人達からも忌子扱いされていたから…」

「ああ

 それで彼等は、報復を恐れたのじゃ

 愚かな事じゃ…」

「そうだな…

 救われないよ…」

「だがな、それが人間の本質なんだ

 オレ達みたいなのが異質だって、アモンやベヘモットも言っていただろう?」

「むう…

 オレには理解出来ない…」


ギルバートからすれば、選民思想や奴隷制の方が異常だった。

しかしそれは、アルベルトがそういう思想を拒絶していたからだ。

逆に選民思想や奴隷制が普及していたら、ギルバートの考え方も変わっていただろう。

それだけクリサリス聖教王国が、女神の理想に近い形の国だったのだ。

だからこそ、女神が滅ぼそうとする事が不思議でならない。


「人間達に唆されて、獣人達はアモンを襲った

 あの頃のアモンは、やっと他人を信じる事が出来る様になっていた

 それはカイザート達と触れ合い、そういう人間も居ると思えたからじゃろうな…」

「それが徒になったのか?」

「そうじゃ

 アモンは彼等を信用し、武器も持たずに着いて行った

 そこで何が行われたのか…

 あ奴は最期まで言わなかったがな」

「それは…」

「余程の事があったのか…」


「アモンの奴…

 余程深い絶望を味わったんじゃろな

 暫くはワシ等の、言葉を聞こうともしなかった」

「それは…」

「そうなるだろうな

 信じていた者達に殺されたんだ」

「何だって言うんだ!

 そんな奴等が居るだなんて…」


「アモンは女神様に、新たな命を吹き込まれた

 しかし絶望に染まった心は、暗く淀み切っていた

 それで魔王になって…」

「ん?」

「どうした?」

「魔王って、女神様が決めるんじゃ無いのか?」

「いや、そうじゃ無いぞ

 負の魔力に染まり、仮初めの命を吹き込まれた者

 それが魔王じゃ」

「え?

 それじゃあそうならなかったガーディアンは?」

「それは使徒になるじゃろうな」

「エルリックは…

 そうじゃ無いのか」

「エルリック?」


ギルバートはガンドノフに、使徒のエルリックの話をする。

ガンドノフは彼を知らなかったが、話を聞いて頷いた。


「多分その見解であっておるじゃろう

 ワシもフェイト・スピナーという存在は知らんが、アモンが言っていた事と合致する」

「そうか

 絶望や憎しみに囚われているから、アモンやムルムルは魔王になったのか…

 それならベヘモットも?」

「だろうな

 あいつも人間が憎いと言っていたからな」

「そのベヘモット?

 そいつの事も知らないが、恐らくそうじゃろうな」


「それで…

 何じゃったかのう?」

「え?」

「おい!」


「あんたがアモンの話を始めたんだろう」

「そうじゃったかのう?」

「はあ…」

「そうじゃ!

 戦い方の事じゃった」


ガンドノフはそう言うと、ギルバートに試作のミスリルの剣を渡す。


「お前さんの戦い方は、アモンの戦い方に似ておる」

「一撃離脱だっけ?」

「そうそう

 素早く敵の懐に…

 何じゃ、分かっておるのか?」

「その話の途中から、アモンの話になったんだろう」

「アモンが人間を信じる様になった

 そういう話の流れだっただろう?」

「そうじゃったか?」


アーネストがガンドノフの、話の流れを修正する。


「そうじゃな…

 アモンは仲間の獣人に裏切られて…

 その上、折角生き返っても、カイザートの危機にも間に合わなんだ」

「そうか!

 その直後に暗殺が…」

「そうじゃ

 女神に生き返らされたと言っても、暫くは満足に動けない

 その間に獣人達は捕まり、カイザートも殺されておった

 あ奴が駆け付けた時には、既に帝都は燃え尽きた後じゃった…」

「くそっ!

 胸糞悪い話だ!」


ギルバートは怒りに任せて、ミスリルの剣を握り締める。

そうして手近な壁に向けて、その剣を振り下ろす。

勿論当てれば、折角の剣に傷が入るだろう。

だからギルバートは、壁に当てない様に振り抜いた。


「そんな奴等、死んで当然だ!」

「そうじゃな

 ワシもそう思う」

「それでアモンは…

 人間不信に?」

「ああ

 ワシ等の所へ来たのも、女神の指示もあったが、兵器を破壊する為じゃ

 王国の痕跡を、残らず破壊したかったんじゃろう

 黒の猛獣が復活したのじゃ」


周りに対する怒りと、破壊衝動で暴れる。

それがアモンという魔王が、黒の猛獣と呼ばれる所以なのだ。

彼は人間や獣人を、怒りで殺したかったのだろう。

しかし女神は、そんなアモンにも優しく接していた。

それがアモンが、女神を崇拝する原因でもあったのだ。


「アモンは怒り狂い、あちこちで人間の街を破壊した

 しかし女神は、そんなアモンを優しく諭したそうじゃ」

「本物の女神様は、そんなに良い人…

 いや、善い女神様なのか?」

「さあな?

 ワシはアモンから聞いただけじゃ

 もしかしたら、それすら記憶を弄られた結果かも知れん」

「しかしそうなると…

 オレ達に残されるのは、絶望だけだぞ」

「せめて…

 せめて偽者であって欲しいな」

「そうじゃな

 あのムルムルじゃったか?

 魔王の言った通り、偽者であれば…」


今までで聞いた話からも、今の女神と話しに出る女神は違いが大きい。

前者は魔王も操り、記憶を消してまで人間を滅ぼすとさせている。

しかしアモン達の話に出る女神は、優しくて人間を守ろうとしていた。

そちらを本物と信じたくなるのは、仕方が無いだろう。


「しかし何にせよ…

 戦う力は身に着けねばな」

「ん?」

「それはそうだが?」


ガンドノフは先程、ギルバートが切り付けた壁に近付く。

そして軽く壁を殴ると、そこは綺麗に割れて崩れた。


「え?」

「ふむ

 太刀筋は悪くない

 後は力の使い方か」

「壁が?」

「さっきの一撃か?」

「え?

 いや、オレは当てて無いぞ」

「それだけ鋭い一撃じゃったのじゃ

 見事な切れ味じゃな」


ガンドノフはそう呟くと、近くの箱をごそごそと探る。

それから金属の棒と、斧の様な鉄の塊を取り出す。


「うむ

 これが良さそうじゃ」

「え?」

「ほれ

 これを使え」

「何を?」

「良いから身構えろ」


ガンドノフはそう言うと、金属の棒をギルバートに放る。

それから鉄の塊を握ると、大きく前に踏み込む。


「むうん!」

「ちょ!

 危ない!」

ガギン!


「ふむ

 そうは言っても、これぐらいは受けれるな」

「何を言って…」

「これからお前に、ドワーフ流の戦術を授ける」

「はあ?」


ガンドノフはそう言うと、立て続けに鉄塊を振り回す。


「ちょ!

 危ないって」

「良いから受けろ」


ガンドノフはそう言いながら、姿勢を低くして鉄塊を足元に叩き付ける。

砕けた足元の岩が、弾け飛んでギルバートに向かって来る。

ギルバートはそれを、必死に鉄棒で弾き飛ばす。


「くっ!

 何なんだよ!」

「それ!

 足元がお留守じゃ」

「わっと!」

ブン!


必死に躱すが、背の低いガンドノフが、姿勢を低くして振るっている。

それを躱すのは、なかなかに難しい。


「躱しているばかりでは駄目じゃぞ

 受けて隙を作らねばな」

「簡単そうに言うなよ」

「簡単じゃ無いから、鍛錬になるんじゃろうが」

「そうは言っても」


ギルバートは懸命になって、ガンドノフの攻撃を防ごうとする。

しかし重心が高いので、まともに受ければふらついてしまう。

そこに再び、砕けた石礫が飛び散る。


「うわっ!」

「それそれ!

 いつも受けやすい攻撃とは限らんぞ」

「ふうむ

 今までに無い攻撃への対処か」

「感心してないで…

 わっぷ」

ドゴン!


ギルバートは、それから暫くガンドノフの攻撃を受ける。

これはガンドノフなりの、ギルバートを思っての訓練だった。

慣れない攻撃に対する、防御方法を教える。

それがガンドノフが思った、ギルバートを鍛える方法だった。

まだまだ続きます。

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