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聖王伝  作者: 竜人
第三章 新たなる領主
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第56話

魔物がダーナの街の周りに現れる様になってから、2年の月日が経とうとしていた

ギルバートは成長しもうすぐ11歳の誕生日を迎えようとしていた

それでも、落ち着きが無いのは相変わらずで、今日も朝から魔物討伐に出掛けていた

時は巡り、2年の月日が過ぎた

ギルバートの11歳の誕生日を控え、領主邸宅は誕生パーティーの準備が進められていた

そのパーティーの主は、朝から魔物討伐に出掛けており、代わりにアーネストが来ていた


アーネストは派手に飾られたパーティー会場を見て、溜息を吐いていた。


「はあ

 これを見たら、ギルはまた荒れますよ」

「何を言う

 領主の息子の誕生パーティーだぞ

 盛大にやらねば」


「そう言って、毎年派手にしていって、去年はもう子供じゃないって出て行きましたよね」

「う…」

「やり過ぎなんですよ」

「そうか?」


アーネストは部屋の隅に移動し、領主にヒソヒソと小声で話す。


「やはり、息子と思いたいから、派手にするんですか?」

「アーネスト!」

「しーっ

 流石にやり過ぎですよ」

「うう

 しかしな…」


「今年は例の事を話すんですよね?」

「あ…

 う、うむ」

「話すんですよね!」

「アーネスト

 顔が怖いぞ」


「流石にもう、誤魔化せませんよ

 帝国では13歳で成人です」

「な!」

「あれから調べました

 すぐに分かりましたよ」


アーネストは真剣な顔でアルベルトに詰め寄る。


「ボクはギルの親友です

 友の為なら、貴方でも許しませんよ」

「しかし、ワシにも立場と言う物が…」

「しっかりと話してもらいますよ

 今なら使徒達の気持ちが分かる気がします

 いつまで夢を持ち続けようとしているんです」


「だが…

 ハルとの約束も…」

「アルベルト様!」


アーネストはカッとなり、思わず領主の胸倉を掴む。

その様を見て、使用人達が騒めく。


「待て

 分かった

 分かったから」

「すいません

 オレも軽率でした」

「ここでは何だ

 ワシの部屋へ行こう」


使用人達がヒソヒソ話しているので、居た堪れなくなって二人は移動する。


執務室に入ると、アルベルトは執事を呼び、お茶を用意させた。

それから、お茶を出したら、良いと言うまで部屋には入るなと厳命した。


「さて

 これで安心だ」

「ええ」


「それで

 お前はどこまで知っている」


アルベルトは試す様に尋ねる。


「そうですねえ

 先ずは、ギルが実は王太子である事ですかね」

「むう

 やはり気付いておったか」


「その点は、ベヘモットに感謝しています

 彼の一言が決定打でしたから」

「ああ

 あ奴からすれば、ワシ等が黙っているのが許せなんだのだろう」


「それと、何らかの密約が交わされている様ですね」

「うむ

 それの内容には気付てはおらんのか?」

「ええ

 本当の子供がどうなったのか?

 どうして王太子を領主の息子と偽ったのか?

 それは流石に分かりませんでした」

「しかし、入れ替わりは見抜いたワケだな」

「はい」


「そうか…」


「どうして罪なんです?

 たかだか入れ替えただけにしては、大袈裟では無いですか」

「うーむ」


アルベルトは悩んでいた。

ギルバートには、いずれ話さなければならない。

しかし、アーネストに勘違いされては、肝心の理由が変に伝わりそうだ。

アルベルトは思い切って話そうと決めた。


「よいか

 この事は、ワシとハル、ハルバート王しか知らない事じゃ」

「え?

 ジェニファー様は知らないんですか?

 って言うか気付いていないんですか?」

「そうだ

 あいつには息子だと渡しているし

 何よりも、あの子はワシの息子でもある」

「はあ?

 何言ってんですか?」


アーネストは理解出来ないといいた様子で、アルベルトを見る。

やはり、中途な情報では、無用な誤解を生みそうだ。


「これは…絶対他言無用だぞ」

「はい」


それから、アルベルトはようやく重い口を開き始めた。

そして、13年前に何があったのか、それを語り始めた。

話しがギルバートが死んだ事に差し掛かった時、アーネストは衝撃で倒れそうになった。


「な、何て事を…」

「ああ

 今ならそう思える

 しかし、あの時はそれしか手段を選べなかった」


「そんな…

 おお、女神様

 我らをお救いください」

「けっ

 その指令を出したのも女神様だし

 我々に選択を迫ったのも女神様の使徒だ」

「え?」


「以前来たフェイト・スピナーを覚えているか?」

「はい

 エルリックって言ってましたよね」

「ああ

 奴がその悍ましい道を示した張本人だ」


「あれ?

 でも、神託を下したのも女神様ですよね?」

「そうだ」

「それなのに、女神様の忠実な使徒であるフェイト・スピナーが裏切ったんですか?」


「そこは少し違うかな」

「はい?」

「奴は女神様の行動に不信感を抱き、誤魔化す為に入れ替えを提案したんだ」

「うーん

 そうすると、使徒の中に女神様の行動に不信を抱く者が居るわけですね」

「ああ」


「アルベルト様

 思ったんですが、ベヘモットの行動もおかしくなかったですか?」

「ん?

 と言うと?」


「あの時の魔物ですが、確かに強かったです

 しかし、彼は倒す方法を示していましたよね」

「そうか?」

「そうなんです」


アーネストは3冊の書物を出し、その内の1冊を示す。


「こちらの2冊がエルリックが用意した物で、確かに有効な書物でした

 これらは今でも役立っていて、今の魔物討伐に大いに貢献しています」

「ああ

 ワシも随分助けられている

 その本が在ったから、このダーナの街は生き残っている」

「しかし、もう一方のこの本

 一見すると、初歩の魔法使いの為の教本で、中身も今一としか言えません」

「そうなのか?」

「ええ」


「しかし、あの戦いに於いては、この魔法書に載っていた魔法が大いに役立ちました

 骸骨の魔物の弱点の魔法は、この本から見つけましたから」

「そうか…」


「それに

 わざとギリギリ負ける程度の魔物しか用意して無かったのでは?

 そんな気がするんです」

「それじゃあ何か?

 あいつはお前達に難しい課題を出したが、最期は負ける気満々だったと言うのか?」

「ええ」

「馬鹿らしい」


アルベルトはそう言いながらも、今考えれば、ベヘモットの態度が不自然だった様な気がしてきた。

変な事で挑発してみせたり、魔物に勝った事を褒めたり。

そう考えると、腑に落ちる点が多い事に気付く。


「まさか…」

「まあ、今は会えないので、確認のしようがありませんがね」

「ううむ」


「兎も角、貴方達の行いは、確かに天罰を受けて然る所行ですね

 オレでも聞いてて気分が悪くなりましたよ」

「ああ

 今は後悔してる」


「それで、肝心の理由を教えていただけますか

 そこまでしたのは、どう云う理由が在ったからです」


アーネストは、更に核心を突く質問をした。

アルベルトは拳を握り締め、全てを語った。


「そんな…事が」

「ああ

 だから、この事は今は言えない」


「使徒はどこまで知っているんです?」

「分からん

 ベヘモットにはバレたと思ったが…

 あれが味方なのなら、恐らくは女神様にはバレていない」

「そう言う意味では、バレた相手が…

 と言うか、ここを攻めに来た相手が彼で良かったです」

「ワシ等の罪を攻めておったが、あれもどこまでが本当なんだか

 今では分からんよ」

「それでも

 あれから女神の使徒が現れない以上は、まだバレていないと思います」


「ワシから話せるのは、以上だ

 ギルバートには息子では無い事だけ伝える」

「それで…

 どうするんです?」

「ハルバートと約束しておってな

 あの子の誕生日が過ぎたら、王都へ送る事になっておる」


「それで…良いんですか?」

「ああ」

「ジェニファー様や娘さんには?

 どう説明するんです?」

「明日のパーティーが終わった後、全てを話すつもりだ

 勿論、話せる範囲でだが」


「本気ですか?」

「ああ

 だから、お前には黙っていて欲しい

 そして、これからも友として接して欲しい」

「…分かりました」

「頼んだぞ」


「一つ、条件をください」

「何だ?」

「ギルが王都に向かう時、オレも一緒に旅立ちます」

「よかろう

 と言うよりも、是非とも一緒に行ってやって欲しい

 それがあの子の支えになるだろう」

「はい

 それでは同行させてもらいます」


こうして、二人の秘密の会談は終わり、アルベルトは執事を呼んだ。


「すまない

 こいつと一杯やるから、用意してくれ」

「旦那様

 まだ夕刻には早いです

 それに彼は11ですよ」


執事は不満そうに言うが、結局折れて、あまり強くない葡萄酒を用意した。

生ハムとチーズを肴に、二人は軽く飲んだ。

飲まなくては、先ほどの話で沈んだ気分が晴れなかったからだ。


ギルバートが帰った時には、アーネストは酔い潰れて帰らされ、アルベルトは妻に叱られていた。


「まったく

 明日はギルバートの誕生日パーティーだと言うのに、今からこんな調子でどうするんです」

「ああ、すまない

 ちょっとな、飲まないといけない時もあるんだ」

「もう

 知りませんよ」


「お父様、臭いですわ」

「みっともないです」


二人の娘も呆れて、アルベルトを白い目で見ていた。


「はあ

 父上、大丈夫ですか?」

「おう

 我が息子よ

 どうだ、お前も飲まないか?」

「ああ…

 遠慮しときます

 それより、本当に大丈夫なんです?

 ハンナ、ハリスを呼んでくれ」

「はい、坊ちゃま」


ギルバートは執事に応援を求め、何とか寝室に運んだ。


「一体…

 父上はどうしたんだ?

 ハリスは何か知らないか?」

「いえ…

 しかし、昼間はアーネスト様と何やら揉めていらっしゃいました

 その後は仲直りされたのか、二人で酒を飲み始めて…」

「それで、これか?」


「しかし変だな

 二人が喧嘩するのもだけど、普段飲まない二人が潰れるまで飲むとは…」

「そういえば…そうですね

 きっと明日のパーティーの事で揉めて、それで勢いで飲み過ぎたのでは?」

「ああ

 うん、なるほど

 そうかも知れないね」


二人はアルベルトが寝たのを確認し、部屋を出た。


「ハリス、ありがとう」

「いえ

 これも仕事ですから」

「はは

 アーネストも潰れたのか」

「ええ」

「明日は大丈夫なのかな?」

「大丈夫でなくても、あそこのメイドは優秀ですから」

「ははは

 そりゃ大変だ」


ギルバートは友の冥福?を祈りながら、夕食を食べる為に食堂へ向かった。

いよいよ明日は、11歳の誕生日。

今年はどんな誕生日パーティーになるのか、ギルバートは楽しみにしていた。

第3章の始まりです

いよいよ冒険の旅に出るワケですが、先ずは近場からです

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