表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
558/800

第558話

ドワーフの郷に、長く絶えて久しい唄声が響く

それは腹の底から発せられて、魂を揺さぶる唄だった

彼等は唄いながら、次々と鉱石を放り込む

そうして溶けた端から、ハンマーで叩いて成形を始めた

ドワーフの工房に、炉と精霊を歌う唄が響く

彼等は精霊に感謝し、作り上げる物に喜びを込める

そうした唄が鳴り響くのも、100年振りの事だろう

彼等の唄声は、朗々と洞窟の外まで響いていた


「これは…」

「恐らくドワーフの唄だ

 アモン様から聞いた事がある」

「ドワーフの?

 それじゃあ亡くなった精霊を悼んで…」


「いや!

 これは喜びの唄だ」

「そうだ

 鉄と金床を叩く、彼等が物造りをする唄だ」

「え?

 でも、彼等は…」

「ううむ

 この唄が実際に聴ける日が来ようとは…」

「この唄はな、魔法鉱石を叩く唄声だ」

「魔法鉱石?」

「魔鉱石じゃあ無いのか?」

「ああ」

「失われたと聞いていたが…」


ドワーフの唄声を聞き、外で見張っていた騎兵達も驚いていた。

ハイランドオーク達の説明が無ければ、心配して地下に向かっただろう。

しかし地下の奥は、今では近付けないほどの熱気に包まれていた。

ドワーフ達が平気なのは、彼等が炎の精霊の加護を受けているからだろう

そうで無ければ、熱気にやられてすぐに脱水症状になっていただろう。


地下に集まる騎兵達も、その唄声と熱気に驚いていた。

彼等が工房に向かうのは見えたが、急にそこから熱気が漏れ出したのだ。

しかも激しい唄声と、焼かれる様な熱気が漏れている。

その唄声から喜びを感じていなければ、集団自殺と勘違いしていただろう。


「物凄い熱気だ…」

「ああ

 ここに居ても汗でびっしょりだ」

「怪我人を移動させよう」

「そうだな…」


ドワーフの郷では、まだ寝た切りの負傷者が居た。

彼等の傷は塞がっていたが、まだ動けるほどでは無かった。

それで騎兵達は、負傷者を抱えて移動する。

さすがにこの熱気では、彼等が体調を崩すからだ。


「おい!

 移動するぞ」

「すまない…」

「良いって事よ」

「そうだぜ

 その代わりオレ達が怪我したら、今度はお前達が運んでくれよ」

「ああ

 任せろ…」


騎兵達が運んでいると、負傷者達も熱気の源を気にする。


「しかし…

 この熱気はなんなんだ?」

「それにさっきから、腹に響く歌声が聴こえるが…」

「ああ

 ドワーフ達が唄ってるんだ」

「ドワーフ達が?」


「何だか分かんないけど、陽気な唄声で唄ってるんだ」

「それもどうやら、何か打ってるみたいでな」

「へえ…」


耳を澄ませれば、確かに金属音が聴こえる。

それも規則正しく、唄声に合わせる様に。


「何だか…」

「楽しそうだな」

「ああ

 あんな事があった後なのに」

「あんな事?」


負傷者達は、騎兵達から事の顛末を聞く。

それはアモンが死んだ戦いから、さっきまでの出来事だった。


「殿下が…」

「いや、それはもう大丈夫そうなんだ」

「しかしそれでは…」

「ああ

 深く傷付いた様子だったな」

「お前等が着いて居ながら!」

「仕方が無いだろう?

 あれほどの犠牲が出たんだ

 しかも魔王まで…」

「そうだな

 魔王様も亡くなられた」

「おい

 気落ちしている場合じゃ無いぞ」


負傷者は騎兵だけでは無く、ハイランドオークも混ざっている。

ハイランドオーク達は、アモンの死ですっかり落ち込んでいた。

そして騎兵達も、ギルバートを心配して不安になっていた。


「大丈夫だって」

「いい加減な…」

「殿下は…

 立ち直られた」

「え?」

「愛の力って、凄えな」

「はあ?」

「イーセリア様が立ち直らせたんだよ」

「え?」

「どうやって?」

「そりゃあ…

 あれよ」

「うむ

 まさにあれだな」


騎兵達は顔を赤くして、答え難そうにする。


「あれって何だよ?」

「何があったんだ?」

「お前等だけ知ってるなんてズルいぞ」

「ううむ

 しかしな…」

「あれはあれだし」

「何なんだよ?」

「その…

 ナニだ」

「そう

 二人でしてたんだ」

「はあ?」

「そ、それは…」


今度は負傷者達の方が、気まずそうに顔を赤らめる。


「それじゃあ…」

「ああ

 うっかり開けてしまって…」

「おい!」

「眼福だった」

「お前等!

 ズルいぞ!」

「とは言ってもな、魔法で見えなくしてあったからな」

「ああ

 でも却って、妄想がな…」

「ぐぎぎぎ…」

「くそっ!

 オレ達も見たかった!」

「いえ、私達は…」

「そのう…

 種族も違うんで…」


騎兵達が馬鹿な会話をしながら、熱気の来ない天幕まで負傷者達を運ぶ。

それで運び終わるところに、奥からギルバート達が出て来た。

四人共汗だくで、特に皇女とセリアは服が汗で張り着いている。

それでピッタリと、身体のラインが強調されていた。

先ほどの話の後で、そんな姿を見たので、兵士も負傷者も顔を赤くしていた。


「はあ、はあ

 ひいっ…」

「大丈夫か?

 アーネスト」

「もう

 魔力がもたないんなら、早く言ってよ」

「うみゅう…

 汗でベタベタ」

「ん?

 どうした?」


セリアは袖を絞って、汗を出そうとしていた。

それで胸の形が、より強調されていた。


「あ…」

「い、いえ

 決して見ようとした訳では…」

「ん?」

「ああ!

 こいつ等!」


皇女は声を上げると、慌てて胸元を押さえる。

それでギルバートも、彼等が赤い顔をしていた理由に気が付いた。


「わあ!

 お前等!

 見るんじゃない!」

「ふみゅう?」

「え?

 いや、見ようとは…」

「良いから向こうを向け!」


ギルバートセリアの手を引くと、慌てて天幕に向かった。

皇女は少し考えて、アーネストの方を向いた。


「ねえ

 乾かせる魔法は無いの?」

「い、いや

 そんな便利な物は…」

「何で視線を逸らすかな?」

「いや

 それはマズいだろ」

「そう?

 奥さんが勘違いしちゃうかな?」

「早く着替えて!」

「ふふん♪」


「良いな…」

「アーネスト様だけ…」

「役得だ!」

「馬鹿野郎!

 フィオーナに殺されるんだぞ」

「そう?

 それじゃあ…」

「良いから、さっさと着替えて来いよ」

「もう

 つまらないんだから」


皇女は顔を赤くするアーネストを、一頻り揶揄った。

それで満足したのか、皇女も着替える為に天幕に向かった。


「はあ…」

「良いなあ」

「馬鹿

 フィオーナに誤解されたら、オレの命が危ないんだぞ」

「でも、間近で見れたんでしょう?」

「服の上からだ

 それに結婚したら、毎晩だって見れるだろ」

「いや、あんな美人のは…」

「そうですよ」

「今、目の前に在るのは…」

「男のそんな姿を見てもねえ…」

「折角気分が上がっていたのに」

「お前等…

 負傷者の仲間入りしたいか?」

「ちょ!」

「冗談ですって」


騎兵達は慌てて、負傷者達を天幕の中に避難させる。

アーネストも怒っていたが、今は魔力切れである。

そのまま怒って、雷の魔法でも使っても良かった。

しかし魔力が無い以上は、今は何も出来なかった。

肩を竦めると、アーネストも着替える為に天幕に向かった。


「えいえいほー!」

「えいえいやー!」


ドワーフの唄声は響き、夜を徹して金属を打ち付ける。

彼等が唄声を止めたのは、それから8時間が過ぎた頃だった。

ほとんどのドワーフは、酒樽みたいな体型をしていた。

それがこの短時間で、すっかり絞った様に痩せていた。


「おわっ!

 どうしたんだ?」

「ははは…

 久しぶり過ぎて…

 張り切り過ぎた…」


ガンドノフはそう言って、焚火の側に座り込む。

仲間のドワーフ達も、細く痩せてふらふらだった。


「大丈夫か?」

「ああ

 2、3日もすれば、元に戻るさ」

「それなら良いが…」


細くなったドワーフ達は、工房に入らなかったドワーフ達から食事を受け取る。

そうしてエールを飲みながら、美味そうにパンや干し肉を齧る。

その様子を見て、ギルバートはふと疑問に思った。


「あれ?

 そのエールは?」

「ああ

 ワシ等が造っておる物じゃ」

「え?

 どうやってエールなんか…」

「麦は外に畑を作っておる

 そして酒蔵は…」


工房の反対側に、大きな倉庫が作られている。

その中の奥に、エールを醸造する酒蔵も造られている。

ドワーフ達にとって酒は、大事な水の様な物だ。

酒が無ければ生きられない、とまで言われているぐらいだ。

だからこの郷にも、当然の様に大きな酒蔵と倉庫が作られていた。


「はあ…

 そんな物まであるのか」

「言っておくが、酒はやらんぞ」

「いや、俺はそこまで執着してないから」

「そうか…

 それなら良いが…」


「しかしアーネストにしても、ドワーフにしても

 どうしてそう、酒が好きかね?」

「何じゃ、そんな事も分からんのか?」

「ああ

 何であんな苦くて頭のくらくらする物を…」

「確かに人間は、酒を飲んだら頭がくらくらしたり、酔って変な行動をするな」

「ああ」

「しかしドワーフにとって、酒は水と同じなんじゃ」

「はあ?」

「人間が喉が渇く様に、ワシ等は酒を飲まんと乾くんじゃ」

「何だって!

 そんな事が…」

「じゃからワシ等は、ちょくちょく酒を飲まんとならん」

「そうか…

 それは大変だな」


ギルバートはガンドノフの言葉に、うんうんと頷く。

しかし横合いから、他のドワーフが注意を促す。


「騙されたらあかんぞ

 そいつが吞兵衛なだけじゃ」

「そうじゃそうじゃ

 ワシは飲まんでも平気じゃぞ」

「何を言う

 酒はドワーフの命の水じゃぞ」

「あ…」


結局ガンドノフも、お酒が好きなだけだ。

なんやかんやと理由を作っては、お酒を飲みたがる。

酒があまり好きでないギルバートとしては、それは許容出来ない事だった。


「はあ…

 何で酒飲みは、みんな同じ様な言い訳をするかな…」


ギルバートは呆れながら、自分も食事を摂る事にする。

ギルバート達は、普通にパンと野菜のスープを食べて、干し肉を齧っていた。

食事が終わる頃には、ガンドノフ達はある程度ふっくらとしていた。


「え?

 さっきまでひょろひょろだったのに?」

「がはははは

 エールと食事があれば、ワシ等は回復するんじゃ」

「だからと言って…

 ええ?」


よく見ると、エールを飲んでる者は元に戻りつつあった。

しかしエールを飲まなかった者達は、そこまで回復していない。


「どう言う事だ?」

「これがドワーフの不思議と言われるやつか…」

「え?

 どういう事だ?」

「いや

 魔導王国の記録にもあるんだが…

 ドワーフは酒と食事があれば、回復が早いって…」

「そうなのか?」

「しかしあれだけ消耗してたのが…

 出鱈目だな」

「ああ

 痩せ細っていたんだぞ?」

「がはははは」


アーネストは不思議だと言っていたが、これは異常だった。

ガンドノフ達は、すっかり元に近い太さに戻っていた。

一部のドワーフは、酒を飲まない為か太ってはいなかった。

しかしそれでも、先ほどまでに比べれば太くなっていた。


「ええ?

 何で?」

「だから不思議なんだよ」


ガンドノフ達は一息吐くと、工房の方へ戻って行った。

それから暫くは、武器を研いだり鎧を加工する槌の音が響いていた。

ドワーフ達は次々と、出来上がった剣を磨き上げる。

それから柄に皮を巻いて、鞘も同時に作って行く。


「早いな…」

「取り敢えずは50本

 纏めて打ち上げた」

「え?

 あの時間で?」

「ああ

 そして鎧の方もな、50着分の板金を加工した」

「はあ?

 剣が50本でも凄いのに、鎧までか?」

「んあ?

 このぐらいは普通じゃろう」

「いや、異常だろ?

 早過ぎるぞ?」

「ギル

 ドワーフにとっては、それでも遅い方らしいぞ

 何せ真銀を使っているからな」

「ああ

 魔鉱石なら、その倍は作れるぞ」

「無茶苦茶だ…」


ドワーフ達の作成スピードに、ギルバートは只々呆れるだけだった。

そう考えれば、彼等が急激に痩せたのも頷ける。

それだけ激しい仕事を、短時間で熟していたからだ。


「はあ…

 凄く早いのは分かったよ」

「いや、早いだけじゃあ無いぞ

 真銀じゃし、高炉を使ってサラマンダーも2体も召喚出来た

 これが無ければ、ここまでの成果は出んかったわい」

「サラマンダー?

 そう言えば、セリアも何か言っていたな」

「ああ

 サラマンダーは精霊の子供の様なものだ

 あれの火力があるから、ミスリルを手早く作れる」

「それだけじゃあ無いぞ

 火力が高いという事は、それだけ純度の高い真銀が打てる」

「純度が高い方が良いのか?」

「当たり前じゃ

 硬度も上がるし、より軽く仕上げれる

 これだけ条件が良い炉の状態は、何十年に一度じゃろう」

「へえ…

 セリアが居たからかな?」

「そうじゃな…」


イフリーテがノームの事を知り、ドワーフを助けようと思っていた。

そういう事情もあっただろう。

しかしそれよりも、精霊女王のセリアが居た事が一番の理由だろう。


「女王様が居られた事

 それが一番の理由じゃろうな」

「それもだけど、ガンドノフ達がノームを守っていたのもあるんじゃないか?

 オレはそう思うぞ」

「そうだな

 オレもギルの考えには賛成だ

 あんた等は苦しい目にも遭ったし、辛い思いもして来た

 その分の見返りがあっても良いと思う」

「ありがとう

 そう言ってもらえるだけで、ワシ等は生きて来て良かったと思える」


ガンドノフはそう言うと、最初に出来上がった剣を受け取る。

それを受け取ってから、出来栄えを真剣に確認する。

暫く確認してから、ガンドノフは満足そうに頷く。


「これをどうぞ」

「これが…」

真銀(ミスリル)の剣か」


それは一見すると、鉄よりも輝く美しい剣だった。

しかし磨かれた刀身以外は、鈍く白みを帯びた銀色だった。

これがミスリルが、白銀とも呼ばれる理由だ。

磨けば銀の様に輝き、そのままでも白く輝く。

そして魔力の伝達率も高く、頑丈さも鋼を超えると言われている。


「美しいな…」

「ああ

 その上魔力の伝達率も高いから…」

「そうじゃ

 この後はこれに、魔法陣と魔導文字(ルーン)を刻み込む

 そうする事で完成じゃ

 もう少し待ってくれよ」

「ああ

 頼んだよ」


ギルバートは剣を鞘に納めると、ガンドノフに返した。

ガンドノフは剣を受け取ると、それを魔道具製造のドワーフに渡す。

それから自身も槌を手にすると、鎧の加工現場に向かった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ