表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
557/800

第557話

ドワーフの郷は、喜びの声で溢れ返っていた

長年王国の兵器に囚われていた、精霊が解放されたのだ

ドワーフ達は喜びの声を上げて、精霊の元へと走る

彼等にとってノームは、火の精霊と共に大切な存在だったからだ

ギルバート達が後を追うと、そこはもう騒ぎになっていた

騎兵とハイランドオーク達が、魔鉱石の武器でケーブルの破壊を行っていた

近くにはセリアが立ち、どこを壊すか指示を出していた

しかしケーブルは、繭状に太く絡み合っていた


「何て太いんだ」

「そう簡単には壊れんぞ」

「くそっ!

 急ぐんだ!」


ケーブルは地下の物に比べると、倍ほどの太さになっている。

それが複雑に絡んで、まるで巨大な繭の様になっている。

大きさ3mほどの硬い繭が、精霊を包んで解放を拒んでいた。


「どけ!

 オレが叩き切ってやる」

「殿下?」

「どうしてここに?」

「良いからどけ!

 うおおおお」

「お兄ちゃん

 そこから右を切って!」

「分かった

 せりゃあああ」

ズギャン!

ゴドン!


ギルバートは騎兵から鎌を取り上げると、大きく踏み込んで切り付ける。

セリアが指定したのは、繭の外側を縦に切るという指示だった。

鈍い音を立てて、繭は切り裂かれる。

そして金属の塊が、そのまま大きな音を立てて落ちた。


「精霊様!」

「ノーム様!」


ドワーフ達が駆け寄り、穴の中から精霊を引っ張り出す。

しかし精霊は、力を失って身体が透けていた。


「おお!」

「なんとお労しいや…」

「運び出すぞ

 せえの!」


ドワーフ達に担がれて、精霊はセリアの前に連れて来られる。


「ごめんね、ノーム」

「いえ…

 ありが…す」

「ノーム」

「セリア

 何とかならないのか?」


ギルバートが声を掛けるが、セリアは首を横に振る。


「もう…

 この地には精霊力が不足してるの」

「それじゃあ…」

「うん」


「でも、妖精郷では確か…」

「そうね

 でも、あのノームは妖精郷でのノームなの

 ここのノームは…もう…」

「どういう事なんだ?」


ギルバートは意味が分からず、どうして良いか困っていた。


「ギル

 ノームはノームなんだが、ここのノームと向こうのノームは違うんだ」

「そうなのか?」

「ああ

 正確には同じ存在なんだが…

 別々に存在する片方が、力を失って消滅しようとしている」

「ん?

 どういう意味か…」

「ああ

 分からなくても良い

 ただ、彼はもう力が…」

「他の精霊は?

 力を分けてあげられ無いのか?」

「うん

 精霊力が違うから

 分けてあげられ無いの」

「それじゃあ同じノームを…」

「ううん

 ここには彼しか居られ無いの」

「ん?

 良く分からないが…

 無理って事か?」

「うん」


セリアは哀しそうに、ノームを抱き締める。


「お…

 じょ…召し…れま…」

「良いの

 お前が頑張ったからね

 せめて…

 逝く時までは…」

「は…は…

 …しゅ…す…」


ノームはそう言うと、ガラスが砕ける様に砕け散った。

その身体は光の粒子になり、周囲に漂いながら消えて行く。


「ノーム…

 ひぐうっ」

「セリア…」

「うわあああん

 ギル…

 うわああ…」


セリアはギルバートの胸にしがみ付き、声を上げて泣いた。

ギルバートはそんなセリアを抱き締めると、そっと背中を撫でてやる。

いつの間にか皇女も、涙を流しながらアーネストの袖をぎゅっと掴んでいた。

声を上げて泣くのは我慢していたが、大粒の涙が溢れている。

アーネストはその姿を見て、そっとハンカチを手渡した。


「うう…」

「ノーム様」

「うわああ…」

「ぢぐじょお…」


ドワーフ達も泣いていた。

彼等にとっては、ノームは守護者であると同時に、大切な守るべき存在だった。

それを失った事で、彼等は声を上げて泣いていた。

その姿を見て、ガンドノフは拳を握り締めていた。


「ガンドノフ

 何処に行くんだ?」

「あれを…

 あの忌まわしい兵器を壊す」

「しかし

 壊す方法が分からないんだろう?」

「ああ

 それでも…

 ワシの拳で殴ってでも…」

「止せ!

 お前の手が使えなくなったら、誰が槌を振うんだ」

「そんな事…

 兄弟たちが居る」

「いや

 お前には、お前にしか出来ない事がある筈だ

 違うか?」

「ワシに…

 ワシに何をしろと?」


目を真っ赤にしたガンドノフに、アーネストは静かに首を振る。


「お前が…

 あんたが作った鋼板があるだろ?

 あれで防具が出来る筈だ」

「な!」

「それはあんたにしか出来ない

 違うか?」

「ぐう…」


ドワーフは物造りの達人だ。

そしてそれが誇りであり、何よりも物を作る事に幸せを感じる。

アーネストの言葉は、ガンドノフの心を激しく揺さぶった。


「しかし…

 ワシは兵器を作った者の一人

 言わばこの原因の当事者の一人ですぞ

 その為に精霊様も…」

「ううん

 ノームは気にしていなかったよ」

「女王様…」


「ノームはね、苦しむガンドノフのお爺ちゃんの事も気にしていたよ

 自分のせいで、物作りも辞めてしまったって…」

「それは!

 ワシのせいで精霊様が…」

「ううん

 悪いのはその人間達でしょう?

 それにお兄ちゃん達は良い人間

 お爺ちゃんに悪い事はしないでしょう?」

「それは…

 ですが!」

「だから、お願い

 ノームの為にも、みんなを守る武具を作って」

「ぐうっ…」


セリアの後押しもあって、ガンドノフは決意をする。

それは自信が学んで来た技術で、頑丈な武器や鎧を作る事だ。

それは魔導王国が潰えた事で、失われていた魔法金属の精製をする事だ。

ガンドノフは声を上げると、家族達に指示を出した。


「お前達!

 鉱山の奥を解放するぞ!」

「ええ?」

「だってあそこは…」


ガンドノフの言葉に、居合わせたドワーフ達は驚く。


真銀(ミスリル)は枯れたって…」

「もう何も出ないんじゃあ…」

「いいや

 実はな、まだまだたっぷり眠っておる」

「え?」

「だって…」

「王国の奴等を騙す為にな、ギリアムが嘘を吐いたんじゃ」


当時の採掘責任者であるギリアムという男が、嘘の報告をしたのだ。

彼は人間であったが、当時のドワーフ達の環境を問題視していた。

そこで一芝居打って、鉱山の鉱石が枯れた事にしたのだ。

それでドワーフ達は、ここから解放される筈だった。

古代兵器が見付かるまでは。


「え?

 ギリアムって人間の?」

「あいつも鉱山の責任者じゃあ…」


「そのギリアムってのは?」

「ああ

 当時ここの責任者だった、王国の人間じゃ

 ワシ等の親族の扱いを見て、王国に嘘の報告をしておった」

「そんな人間が居たのか?

 しかしそんな事をすれば…」

「ああ

 彼は鉱山閉鎖の責任を取って、王都へ連行された

 その後どうなったかは…」

「そんな事があったのか」


「ああ

 しかしな、魔導兵器が見付かって、結局ワシ等はここに閉じ込められた

 兵器を解析して、同じ物を作る様に命じられてな」

「それじゃあ…

 そのギリアムって人は…」

「ああ

 残念ながら、あいつのした事は無駄になってしまった

 しかしワシは…」


ガンドノフは首を振り、アーネストを見詰める。


「あいつへの恩義は忘れた事は無い

 しかし同時に、王国の兵士達の非道もな

 じゃからワシ等は…」

「いや

 それでも信じてくれただろう?」

「それは黒の猛獣が…」

「それでもだ

 結局はあんた等は、オレ達を信じてくれた

 それで十分だろう?」

「すまない…」


「良いから

 今はそれよりも…」

「ああ

 炉を再稼働する

 真銀を扱える様に、炉の温度を上げておけ!」

「おう!」

「お前達は奥に、壁の向こうの鉱床を掘り出せ」

「おう!

 任せろ!」


ドワーフの集団は二手に別れ、片方は炉の方へ向かう。

炉はドワーフの郷の一角で、工房になっている場所にあった。

彼等は炉の前に集まると、炉に向かって次々とハンマーを振り下ろす。


ドガン!

ガギン!

ゴシャッ!


「え?

 何をしてるんだ?」

「ああ!

 折角の炉を…」

「良いんじゃ

 あのままでは真銀は溶かせれん

 真銀を溶かすには、炉を解放せねばな」

「え?」


ドワーフ達が炉を叩くと、石で固められた炉が砕けて行く。

そしてその中から、鈍色(にびいろ)の魔鉱石製の炉が姿を現す。

周りを覆っていた土や金属を押し退けると、彼等は石で塞がれていた窯を開く。


「え?」

「驚いたか?

 これが本物のドワーフの高炉じゃ」

「あれ?

 それじゃあ今までの炉は?」

「王国に命じられてな

 魔鉱石を加工する為に出力を落としておったんじゃ」


ガンドノフはそう言うと、集まった家族に向けて号令を掛ける。

それは太く響く声で、彼等の魂を激しく揺さぶった。


「良いか、お前達

 今からワシ等の力を見せるぞ!」

「おう!」

「石炭を()べろ!」

「おう!」

(ふいご)を回せ」

「おう!」

「ワシ等の唄を響かせろ!」

「おう!」

「えいえいほー!」

「えいえいやー!」


ドワーフ達は、陽気な唄を唄いながら、次々と石炭を炉に放り込む。

すると今まで鈍色だった炉の窯が、赤く輝き始めた。


「これは…」

「これが本物の、ドワーフの高炉…」

「がははは

 後は鉱石を待つだけじゃ」


ガンドノフが高らかに嗤い、周りのドワーフ達も笑顔で応える。


「な…

 何て暑苦しい…」

「しかしこの熱気が無ければ、真銀(ミスリル)は作れない」

「なあ

 そのミスリルって何だ?」

「え?」

「殿下…

 まさか魔導王国の物語を知りませんの?」

「えっと…」


「古代の英雄王は、輝く銀の剣で魔物を切り払った

 その銀こそが、真銀と呼ばれるミスリルだ」

「魔法金属とも呼ばれて、魔力の伝達も素晴らしいのよね」

「ああ

 初代皇帝カイザートも、ミスリル製の剣を持っていた事になっている

 まあ、今では存在しないんだが」

「その剣を造った鉱石が…」

「ああ

 この洞窟の奥にあるらしい」


ガンドノフの話では、まだまだ大量にあるらしい。

それがどれほどの量か分からないが、良い武器や防具の素材になるだろう。

それこそ今まで使っていた、魔鉱石を超える武具が仕上がる筈だ。


「ガンドノフ!

 持って来たぞ!」

「先ずは三杯

 掛け付け一杯じゃ!」

「おうさ!

 ぶち込め!」


「え?

 もう掘って来たのか?」

「ドワーフは薄暗い所でも見える

 そしてもう一つ、鉱石を見抜く目も持っている」

「え?

 何だそれ?」

「地面や壁に近い場所なら、埋もれている鉱石も見えるらしい」

「そんな便利な能力が?」

「ああ

 だから鉱山奴隷にされていたんだ」


「さあ!

 唄え、ワシ等の唄を、声高らかに!」

「えいえいほー!」

「えいえいやー!」


ドワーフ達は窯の周りで、並んで声を揃えて唄う。

それに合わせて魔力が高まり、炉の周囲で熱気が高まる。


「おい!

 さらに温度が上がってるぞ?」

「ああ

 凄い熱気だ

 ウオーター・サーバー」

「これは…

 堪らないわ」

「ふみゅう…」


あまりの熱気に、ギルバート達は汗を滴らせる。

アーネストが魔法を使って、薄い水の膜を作った。

それは中をひんやりと冷やすが、外は灼熱の砂漠の様な熱気に包まれていた。

皇女とセリアも、堪らずその中に避難する。


「大丈夫なのか?」

「そうだな

 しかし平気そうだぞ?」

「嘘だろ?

 あの熱気の中で?」

「えいえいやー!」

「えいえいほー!」


ドワーフ達は唄い、ハンマーを頭上に振り上げる。

先に入れた鉱石は、溶けて窯から取り出される。

しかしガンドノフは、それを景気よく宙に放った。


「え?

 危ない」

「何考えてんだ?」

「大丈夫

 イフリーテが受け止めるよ」


セリアの声に合わせて、何も無い空中が突如すっぱりと切り開かれる。

そこから赤黒い手が伸びて、飛んで来たミスリルの塊を受け止める。

もう一方の手も出て来ると、そのまま器用にミスリルを捏ね始めた。


「おお!」

「精霊様じゃ

 精霊様が応えてくださった」

「唄えや唄え

 えいえいほー!」

「えいえいやー!」


「あれは?」

「イフリーテだな

 妖精郷で…

 お前は見れて無いのか」

「あれがイフリーテ?

 確か炎の精霊だったよな?」

「ああ」

「おお…

 この目で見れるとは…」


皇女は感動したのか、両手を合わせてその光景に見惚れていた。

二本の腕はミスリルを捏ねると、赤く燃え盛る蜥蜴を作り出す。

それは炉に向けて放られて、窯の中に入って行った。


「おお!

 サラマンダーを2体も!」

「これは吉兆じゃ」

「者共!

 炉を回せ!」

「えいえいやー!」

「えいえいほー!」


歌声はさらに高らかに上がり、ドワーフ達は炉の周りを回って唄う。


「さあ!

 ここからが本番じゃ!」

「おうよ!

 鉱石を入れろ!」

「鞴を回せ!」


次々と鉱石が運ばれて、炉の中に入れられる。

それを火蜥蜴(サラマンダー)が温めて、飴の様に溶かして行く。


「見てみろ

 サラマンダーが鉱石を溶かしている」

「あのサラマンダーって何だ?」

「はあ…

 火蜥蜴って言われているが、精霊の一種だな」

「ドワーフの高炉では、火蜥蜴で鉱石を燃やすそうよ

 そうしないと、立派な武具は出来ないそうね

 しかしこんな光景…」

「ああ

 物語の中だけと思っていた」

「何でだ?」


「帝国や魔導王国のせいで、ドワーフ達が居なくなったからな」

「申し訳ないわ…」

「あ!

 いや、皇女を責めている訳では…」

「いいえ

 帝国のやってきた事は事実よ

 二度と同じ過ちは繰り返させないわ」

「ふうん…

 しかしドワーフも、少し前まで居たんだろう?

 ダーナの城壁も造っていたし」

「あのなあ…」


ギルバートの言葉に、アーネストは頭を抱える。


「え?

 王国ではまだ、ドワーフが居るの?」

「数年前まではな

 しかし彼等も、船で他国に渡った」

「そう…」

「それにな、彼等は石工であって鍛冶屋では無い」

「そうなのか?」

「はあ…

 ミスリルを扱えるドワーフも、既に絶えた事になっているんだ」

「え?

 それじゃあ…」

「ああ

 彼等はもう、失われたとされている、ミスリルを扱える鍛冶職人なんだ」

「へえ…」


ギルバートは感心すると同時に、もう少し近くで見たそうにする。

その様子を見て、アーネストは警告をする。


「うずうずしてる様だが、ここから出るなよ」

「え?」

「熱気に焼かれて、あっという間に脱水症状になるぞ」

「何それ?」

「砂漠で水が無くて、苦しい思いをしただろう?」

「ああ

 飲み水が少なかった時だな?」

「それが過ぎると、今度は全身が発熱して苦しくなるんだ

 最悪そのまま、意識を失って死んでしまう」

「え?」

「そうよ!

 砂漠では…

 私達が住んで居た帝都でも、年に何十人か亡くなっていたわ」

「そんな事が…」

「ああ

 だからここから、出ようなんて思うなよ」

「え?

 でも…トイレは?」

「あん?」


ギルバートの間抜けな質問に、アーネストはキレて睨んでいた。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ