第554話
ギルバート達は、ドワーフの郷の地下に潜っていた
そこには魔導王国の作った、危険な兵器が封印されていた
それを壊す為に、アーネスト達が先に潜っていた
しかし爆発が起こり、ギルバートがその後を追って下りて来た
ギルバート達は、死霊を倒しながら奥に向かっていた
この下に下りれば、いよいよ魔導兵器が置かれたフロアーになる
しかしその前に、死霊のレイスが多く集まっていた
これまで倒した数を考えても、それは明らかに多かった
ギルバート達は苦戦しながら、さらに奥へと向かっていた
「何だってこんなに…」
「おい!
ガンドノフ
その兵器って死霊を生み出すのか?」
「違う!
そんな物では無い筈じゃ」
「それじゃあ何で…」
アーネストが声を荒らげて魔物を睨む。
倒しても倒しても、奥から追加のレイスが現れて来る。
いくら兵士とドワーフが死んだと言っても、この数は異常だった。
ここで亡くなった者以外に、死霊が呼び寄せられているとしか考えられない。
「くそっ
まだ増えてるぞ」
「そのレイスと言うのは、自然には増えないのか?」
「ああ
レイスに殺された者が、負の魔力でレイスになる事はある
しかし単独で、死霊が増える様な事は無い」
「それじゃあどうして…」
ギルバートは死霊を切り棄てながら、正面の闇を凝視する。
しかし確かに、そこから魔物は増えて来ている。
増え続ける死霊に押されて、ドワーフ達も負傷していた。
このまま進んでいては、いずれ死者も出るだろう。
しかし進まなければ、この先には危険な兵器があるのだ。
「何か魔物が増える様な…」
「そうだな
例えば死霊魔術で召還したとか…」
「その通りだ」
不意に奥の闇の中から、男の声が響て来た。
今までの死霊は、絶叫や呻き声しか発していなかった。
しかしその声は、確かにみなに聞こえるぐらいハッキリとしていた。
ギルバートは警戒して、死霊に切り付けながら詰問する。
「何者だ!」
「ふふふふ
私は女神様の使徒、魔王ムルムルである」
「な!」
「ムルムルだと?」
「死んだんじゃ無いのか?」
ギルバートが驚いていると、闇の中から男が姿を現す。
その顔は端正で、それでいて目は死んだ様に濁っている。
顔付きはギルバートに似ていて、髪は白く輝くプラチナブロンドだった。
彼は薄鼠色のローブを纏い、黒い鴉の様な翼を背中に生やしていた。
「ムルムル!
確かにムルムルだ…」
「ほう…
私の名を知っているのか?」
「知っているも何も…
覚えていないのか?」
「無駄だ、ギル
こいつは操られている」
よく見てみると、その瞳は紅く輝いている。
アモンが操られていた時と同じで、女神に操られているのだ。
「くそっ
それじゃあ記憶も…」
「伯父様
私が分からないのですか?」
「無駄だろう
記憶も失っているだろうし、操られているんだ」
「ふむ
私を知っているだけでなく、伯父だと?
そんな者は居ない筈だがな」
「そんな
私が分かりませんの?」
「知らんな」
ムルムルは女神に記憶も弄られて、ギルバート達の前に現れていた。
それは当然、ギルバート達を倒す為なのだろう。
ムルムルは死霊を呼び出して、この地下で待ち構えて居たのだ。
しかしここで、アーネストが疑問をぶつける。
「おかしい
何でここに居るんだ?」
「どういう事じゃ?」
「だって女神は、ここを攻めるのにアモンを使ったんだろう?」
「そうじゃが?」
「それなら何故、奴はここに居るんだ?」
「え?」
「そういえば…」
ここに侵入が難しくて、アモンは正面からドワーフの郷に攻め込んでいた。
最初からここに入れるのなら、そもそもがアモンが攻める必要は無かったのだ。
「ふん
何を話しているのか分からんが…
ここは破壊させてもらう」
「それは歓迎だが…
壊すのは兵器だけにしてもらえないかな?」
「それは無理だな
女神様からは、ここに居る者は全て殺せと命じられている」
「そんな…
伯父様…」
「今はそんな事を言っている場合じゃ無い」
「そうだ
ムルムルを止めるぞ」
「止めると言うても…
こ奴が死霊を呼んでおるのじゃろう?」
「ああ
だからこそだ」
ギルバートは剣を構えると、近寄る死霊を切り倒す。
それからムルムルの方を睨み、声を荒らげる。
「ムルムル!
何があったか分からんが、はいそうですかと殺されないぞ」
「あくまで抵抗する気か?
それならば死よりも辛い苦しみを…
その身に刻むが良い!」
ムルムルが手を翳すと、黒い靄がギルバート達に向けて伸びる。
その靄を通して、レイスはギルバート達に向かって来る。
「させるか!
せりゃあああ」
ズバッ!
ザシュッ!
ウオオオ…
オアアア…
ギルバートが剣でレイスを切り倒し、アーネストが魔法で光を翳す。
「ピュリフィケーション」
「む!
神聖魔法か?
小癪な!」
「アーネスト
皇女とドワーフを守ってくれ」
「分かった」
「殿下は?
大丈夫なの?」
「ああ
雑魚は任せろ!」
ギルバートは懸命に剣を振るい、死霊を切り倒す。
ドワーフ達の周りには、アーネストが魔法で光の膜を張り巡らせる。
それに触れた死霊は、そのまま光に焼かれて消滅した。
「聖なる守護陣」
「くっ
神聖魔法の加護か」
「よそ見している暇は無いぞ」
「ぬうっ
貴様が一番厄介だな」
ムルムルからすれば、死霊を消し去り、ムルムルに手傷を負わせるギルバートが一番厄介だった。
それでギルバートに向けて、死霊を集中させる。
「はああああ」
ズバッ!
シュバッ!
ウオアアア…
アアア…
しかしギルバートも、そのまま死霊に囲まれる様なヘマはしない。
死霊を切り付けては、隙を見て死霊の居ない場所に移動する。
そしてそこから、再び死霊を切り倒しながらムルムルに迫る。
ムルムルも魔物を呼ぶが、ギルバートはそれ以上のペースで魔物を倒していた。
「ぐぬう…
私の死霊が…」
「出すなら出しただけ、オレが倒すだけだ」
「ギル
無理はするな」
「そうよ
いくら魔力があっても、その数では…」
「大丈夫だ
この程度…うおおおお」
ズバッ!
ドシュッ!
アアアア…
ウオオオ…
ギルバートは少しずつ、魔物を切り倒しながら進む。
そしてもう少しで、ムルムルに届くという距離まで近付いた。
「ムルムル!」
「ぬうっ!
馬鹿な!
人間が死霊を圧するなど…」
「はははは
オレはな、人間では無い」
「はあ?
何処をどう見ても…」
「お前にも覚えがあるだろ?
アルスサード伯父上」
「む?
何故その名前を?」
「忘れた様だから…もう一度伝えてやる
私はアルベルトに育てられた、クリサリス聖教王国が王子アルフリートだ
そして父は…国王の名はハルバートだ!」
「ハルバート…」
「そしてあそこに居るのは、お前の姪っ子のマリアーナ皇女だ」
「マリアーナ?
馬鹿な!
マリアーナは帝都と共に!」
「そう女神に言われたか?」
「ぐうっ…」
ギルバートの言葉に、明らかに魔王は動揺する。
それで魔法を構築する魔力が乱れて、死霊の発生が少なくなる。
「馬鹿な!
信じぬぞ!
貴様らの国が、帝都を破壊したと…」
「帝都を破壊?
そう吹き込まれたのか?」
「吹き込まれておらん!
事実帝都は消失して…」
「おかしいと思わなかったのか?
帝都は破壊されていたのか?」
「はあ?
残骸も残さず…」
「それだ!
本当に人間の仕業なら、痕跡は残るだろ?」
「いや
アモンの奴が裏切った
ここの兵器を使えば…」
「何?
その兵器はそこまで危険な物なのか?」
「はあ?
何を言って…
え?」
アーネストも舌戦に加わり、ムルムルの認識の祖語に切り込んで行く。
そこでムルムルも、自身の言葉の歪みに気付く。
そもそもムルムルが来るまで、ここは地下に封じられていた。
兵器でも使わなければ、帝都が痕跡も残さず消え去る事は無いのだろう。
事実ムルムルも、女神にそう吹き込まれていたから。
「ムルムル
帝都を砂の底に沈めたのは、女神の仕業だ」
「馬鹿な!
何故女神様がそんな事を…」
「人間を滅ぼす為
お前もその為に動いているのでは無いのか?」
「いや、確かにそう命じられたが…
人間が魔導兵器を掘り起こして、破壊を続けていると…」
「その魔導兵器は、まだその奥に封じられたままだが?」
「そもそも、オレ達はそれを破壊しに来たんだ
それなのに使っているって、おかしく無いか?」
「それは…そうだが…」
ムルムルは頭を抱えて、フラフラと後退る。
そして魔法も効力を失い、死霊もその姿を消して行く。
気が付けば靄も消えて、周囲の闇も薄らいでいた。
「う…」
「ムルムル
女神はお前を操っている」
「そうだぞ
オレと話した時、お前は女神に疑問を持っていたな
それが再び操られるなんて…」
「伯父様
気をしっかりと持って」
ギルバート達の呼び掛けに、ムルムルの様子が豹変する。
「ぐ…
が?」
「え?」
「ムルムル?」
「げひゃ?」
「伯父様?」
不意に表情が歪み、次の瞬間には口元を半開きにする。
目元は焦点が合わさらず、口元からは涎が垂れていた。
「げひゃひゃひゃ」
「ムルムル?」
「どうしたんだ?」
「駄目だ!
警戒しろ!」
アーネストの叫びに、ギルバートは咄嗟に剣を構える。
そして光の欠片に魔力を流すと、正面に向けて集中する。
ゆらり…ムルムルの姿が不意に揺らめく。
「げひゃああああ」
「くうっ!」
ギャリン!
ムルムルは翼を広げると、猛烈なスピードで突っ込んで来る。
鋭く爪を振り上げて、そのまま引っ掻く様に振り下ろす。
しかしアモンの様な鉤爪は無く、素手での攻撃だ。
その上剣には、ムルムルの弱点である神聖魔法の力が宿っている。
振り下ろされた手は、光に焼かれてボロボロになっていた。
「げひゃあ
ぎゃひゃあああ」
「ムルムル!
くそっ!」
ガギン!
ゴギャン!
鈍い音がして、立て続けに爪が振るわれる。
しかし光の欠片の前では、その攻撃は自殺行為だった。
両腕はみるみる焼け落ちて、砕けた骨が周囲に飛び散る。
「伯父様…」
「アーネスト!
どうにかならないのか?」
「分からない!
どうやら女神が、何か細工をしていた様だが…
どうすれば良いのか…」
「攻撃して良いのか?」
「駄目だ
それでは消滅させてしまう」
「アーネスト
ギルバート
伯父様を…伯父様を助けて!」
しかし助けようにも、その方法が思い浮かばない。
アーネストや皇女の魔法では、ムルムルの身体を焼き尽くすだろう。
可能性としては、焼き尽くされた後の再生も在り得る。
以前にギルバートが、浄化をした時にそんな事が起こっていた。
しかし女神が細工をした今、そうなるとは思えない。
「くそっ」
「げひゃひゃひゃ」
ムルムルは攻撃を躱すと、距離を取ってから魔力を放出する。
その負の魔力で、肘まで削れていた腕が再生する。
しかし再生する際に、ムルムルの身体が一瞬だが透けていた。
魔力を使っている分、身体を構成する魔力を消耗しているのだろう。
このまま魔力を使い続ければ、いずれ魔力切れを起こすだろう。
そうなった時に、ムルムルの身体はどうなってしまうのか?
「アーネスト
このままではムルムルが…」
「ああ
しかし…分かった事がある」
「え?」
「ぎゃひゃあああ」
ガギン!
再びムルムルは、腕を振り上げて向かって来る。
「駄目だ!
止めろ!
このままでは…」
「いや、良いんだ
そのまま攻撃させろ」
「え?」
「奴が魔力を使う際に、身体の中に魔石が見えた」
「魔石って…
魔物だから当然…」
「だろうな
しかしアルスサード殿なら、魔石は有していなかっただろう?」
「え?
ぐうっ」
「ぎゃっはあああ」
ゴガン!
「魔石が在るのは、ムルムルが魔王だからだろう
魔王になる為に、女神に埋め込まれた」
「だから何だ?
こっちは受けてるだけで精一杯だぞ」
「だからその魔石を…」
アーネストは皇女に振り返り、頷いてみせる。
皇女も意味が分かったのか、首を振りながら頷いた。
「わかったわ
でも…」
「だからギルが受ける必要がある」
「そうね…
でも、本当に大丈夫なの?」
「分からん
分からんから賭けだ」
「何だか分からないが
どうしたら良いんだ?」
「そのまま受け続けろ」
「任せたわよ」
「え?」
「ぎゃひっ
ぎゃはあああ…」
ガンガン!
ムルムルは狂った様に、ギルバートを執拗に攻める。
いや、それは女神によって、狂わされているのかも知れない。
ムルムルは本能で、執拗にギルバートに襲い掛かっていたのだ。
そしてそれが、ムルムルに死角を与えていた。
「はあああ…」
シュドッ!
皇女はギルバートの背後から、魔力を纏わせた細剣を繰り出す。
それは先程、ムルムルの身体が透けた時に見えた、心臓の横を狙っていた。
鋭く素早い突きが、ムルムルの胸に深く突き刺さる。
細剣は光耀きながら、心臓を掠めて貫かれる。
ガリッ!
パキン!
「ぎゃあ…
ぐはっ」
ムルムルの身体が震えて、ビクビクと痙攣する。
「え?
あ、おい!」
「大丈夫な筈
魔石を砕いたわ」
「お見事
これでムルムルも…」
「ぐっ…
がはっ」
「おい!」
「伯父様!」
ギルバートが慌てて支え、その横に皇女も跪く。
「ぐっ…
ギル…バート?」
「おい!
ムルムル!」
「伯父様
待ってて、今回復を…
ヒール・ライト」
皇女が魔法を発動して、ギルバートがゆっくりと細剣を引き抜く。
魔法が効いたのか、剣が抜けた痕は少し出血したが、すぐに傷は塞がった。
しかしムルムルは、そのまま吐血して苦しむ。
「げほっ
がはっ…」
「おい!
効いて無いのか?」
「そんな!」
「無理だよ…
私は死霊なんだ…」
「そんな!」
皇女の魔法は、確かに傷口を塞いでいた。
しかしそれは癒していたのでは無く、神聖魔法で焼いて塞いでいたのだ。
今のムルムルは、負の魔力で造られた身体をしている。
神聖魔法では破壊する事は出来ても、癒す事は出来ないのだ。
「くそっ!
どうにか出来ないのか?」
「ああ
無理だろうね…」
「そんな…」
「だからこそ、私を刺客にしたんだろう」
「くそっ!
女神め!」
「そう言うなよ
本物の女神様なら、こんな事はしないさ」
「っ!
それじゃあ、あの女神は…」
「ああ
偽物だ!」
ムルムルは苦しそうな表情で堪えて、身体を起こそうとする。
「無茶は…」
「良いから
よく聞くんだ」
ムルムルはそう言って、ギルバート達に話し始めた。
自分が女神の神殿に向かって、そこで何が起こったのかを…。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。




